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僕は君のザオリク  作者: 大栄 カケル
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華金の今夜、僕は大江の強引な誘いで合コンに行くことになった。

正直、めんどくさい。早く帰ってラノベの続きを読みたい。

そもそも今の僕は3次元にそんなに興味なんてない。僕が愛するのは獣耳―ただ、それだけだ。あれこそが可愛さの集大成と言える。

それに比べ人間のあの耳の形は一体、何だ。遠目で見たらキクラゲとほぼ同じだ。もし作り出した神がいるならセンスを疑わざるをえない。


でも大江曰く、「今日来る子はみんな可愛い子」って言っていた。

それを聞いてほんの少しの期待をしつつ今日は渋々出席することにした。


場所は新橋駅から少し歩いた所にあるお洒落な居酒屋だ。20時開催の予定だったけど、女性陣が少し道に迷った様で10分程遅れると大江に電話があった。


「それじゃあ、来る前に何か作戦考えとこうか!」

大江が嬉しそうに言ったのに対して、林が即答で

「んじゃ、俺は親が地主設定で頼むわ」としたり顔で言った。

それに続いて僕らも様々な設定をつけようとしたが、結局林が「嘘は良くない」と言って設定はなしになった。


そんな話をしていたら「ごめ~ん」と言いながら女性達が近寄ってきた。

僕は驚きのあまり暫し硬直した。

驚いた事に皆、レベルが高い、高すぎる。


普通、女幹事という生き物は自分を一番可愛くみせる為、相対的に誘うのはブスだけという『幹事MAX』の法則がある。だがそれはたった今、破られる音が聞こえた。


男女で対面に座り、ドリンクを注文した。

幹事同士が和やかな雰囲気で会話をしている中

一人、緊張のピークを迎えていた。


そして乾杯をした後に大江の仕切りで僕から自己紹介をしていく事になった。


「えーっと、須山尚樹です。よろしくお願いします」

少しハニカミながらも、無難な自己紹介となった。1年前まで彼女はいたけど、合コンは初参加という事もあり、特に気の利いた挨拶も思い浮かばず、これが精一杯だった。


僕の後に続いて二人も自己紹介をした。


「林 浩宇リム・ハオユーです。皆からはリンって呼ばれてます。歳は僕ら3人とも27歳で小学校の時からの友達で、仕事は不動産関係で趣味はゴルフと映画鑑賞です。」


「男幹事の大江雄馬です。僕の趣味はプロテインを飲むことと筋トレです。今日は一緒に筋トレするトレーニングパートナーを探しにきましたー!一緒にジムに通いましょう。よろしくお願いします!」

周囲から、何をしにきてるんだとツッコミが入り、自己紹介という硬かった雰囲気が和らぐのを感じた。


続いては女性陣の挨拶が始まった。

一字一句、聞き逃さないように僕は全神経を聴覚に集中した。

あれ程、3次元に興味がないと言った僕は今はいない。

どうせ、僕なんかを相手にしてくれない高嶺の花かもしれないが、今は目前の天使達に少しでも良い印象を与えたい。


それだけだ。


「んじゃ私からいくね」そう女幹事が軽く手をあげていった。


「そこの筋肉バカとは高校の時の同級生で女幹事の松山千帆です。化粧品会社で働いていてます。今日は可愛い後輩を連れてきたので可愛がってあげてね!」

暗めの茶色い髪にゆるっとパーマが入ってる。それをポニーテールにしている綺麗な女性だ。



「前田彩花です。24歳で、私も読書と音楽と映画鑑賞が趣味です。宜しくお願いします」

黒髪のセミロングで少しぽっちゃりした女性でほんわかした雰囲気のある人だ。それになんていうか、胸がでかい。大江と林が好きそうだ。


「古垣玲夢です。れむって呼んで下さい。よく身長小さいので小学生と間違えられますが、23歳です。宜しくお願いします。」

確かに彼女の言う通り、服装次第では後ろ姿で小学生に見られても無理はなさそうだ。でも華奢でショートカットの髪がとても似合っている。


自己紹介が終わった後はそれぞれの仕事の話や趣味の話など談笑をした。

なんというか相手の生活事情を聞いて、品定めをしあってる様な気分で僕は唯々、質問に答える事しかできなかった。



聞いてる様子だと千帆と彩花は林に興味がある様だった。

玲夢に関しては正面に座っている静かな僕に気を遣って、色々と質問してくれている。

年下なのに気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちだ。本当は玲夢も林と喋りたいだろうに。


実際、この中で見たら林は圧倒的にイケメンだ。

あいつは男の僕から見てもドキッとしてしまうくらいである。


結局、男は顔なのか。

女は子孫を残しやすくする為に強い男や美形に惹かれると聞いた事がある。

そう考えると大江の半袖のポロシャツは鍛え上げた二の腕で『強さ』をアピールしているのだろうか。

まだ夜は少し肌寒いのに、あいつも努力しているんだな。


それに比べ僕は今までモテる努力なんて考えた事もなかった。

今まで付き合った女の子はクラスメイトや職場の人で僕の中身を評価してくれた。


だが今回の合コンで正直、中身で勝負するにしたって、今のところちゃんとアピールできていない。

初めての合コンで上手くいく筈がないよな。


よし、今回は楽しむ事にしよう。

僕は一人、そう決心していた。


その後、話は住んでいる所の話になった

僕が港区にある実家住みというと今までにない好反応が返ってきた。

「本当にそこに住んでるんですか!?」彩花が食いつくように質問してきた。


それに対して大江が思い出した様に補足した。

「そうそう!須山ん家って何度か行った事あるけど、結構な豪邸でさ、親父さんが須山自動車の社長なんだよね」


「須山自動車の社長の息子なの!?」驚きの声があがった。


確かに僕の親父は世界的にも有名な須山自動車の社長だ。よくCMとかもやっている。マンションも20棟以上持っている。


現在、僕は父の会社で働く前に他の自動車会社で働いて勉強してこいと言われ、現在はその修行のまっただ中という訳だ。


予想はしていたが、その後は僕に対しての質問攻めだった。

家の大きさの事や、父の仕事や家族構成やらを根掘り葉堀聞かれ、今度お家に行ってみたいとも言われた。

僕があたふたと答える様子に大江と林は笑いを堪えるのに必死の様子だ。あいつらは後で殴ろう。


最初、可愛い女の子達が僕に興味を持って、話しを聞いてくれるのはとても気持ちがいい。

でも段々とそれは違うんだと気がついた。


彼女たちの目には僕がお金としてしか見えていないのだ。

正確には、僕の背景にいる父のお金に興味があるということだ。


さっきまで僕は勘違いをしていた。

どうやら女は顔や体より、お金が好きな生き物みたいだ。


段々、沸々と怒りとも悲しみとも言えない感情が込み上げてくる。


僕は一体、なんでこんな感情になっているんだろう。

彼女達が僕をお金としてしか見ていないからなのか。

いや、違う。お金持ちなのは父なのに、それで僕の評価が上がった事が悔しかったのかもしれない。


こうなる事がわかっていて、今まで合コンは避けていたんだった。


そして2時間の時間が経った事もあり、宴も終わり、連絡先交換タイムが始まった。

女性陣3人から連絡先を聞かれた。逆に林は千帆と彩花と玲夢それぞれの連絡先を聞いて終わった。



千帆と彩花は2次会に行きたい様子だったが大江と林が財布からさっとお金を出して「ごめん、明日予定あるからこれで解散で!」と言って素早く会計を済ましていた。


店を出てからは千帆と彩花に挟まれて、色々と話をしたが正直何一つ覚えていない。

ただ駅が近くに来た頃に二人から「須山くん、どっかでもう少し飲まない?」と誘われたが、心底疲れていたので断った。


帰りの電車が僕と玲夢は途中まで同じだった。


電車に揺られながら小さな玲夢が僕を見上げながら

「今日はとても楽しかったです。そのー…迷惑じゃなかったら、もう少し須山さんとお話がしたいです」



くそ、コイツもか。

最初こそ可愛くて気の使えるいい子だと思っていたが、結局、僕がお金持ちだとわかった途端、千帆と彩花に負けないくらい話しかけて来た。みんな僕のことをATMかお金製造器にでも見ているんだ、そうに違いない。


僕はそんな人が嫌いだ。

そんな人に付き纏わられるのはごめんだ。


だったらハッキリ言うしかない


「ごめん、どうやら僕は君みたいにお金目当ての人が大嫌いなんだ。お金持ちなのは僕じゃなくて親父だ。そんなにお金が欲しいならくれてやるよ。いくらが欲しいんだ?言ってみなよ。…渡したら、もう話しかけてこないで欲しいね。」


なるべく冷たく、突き放すように言ってやった。


「…私そんなつもりじゃ」

「だったら何?お金以外に僕のどこがいいんだよ!今日の飲み会だって僕の父のことを知ってから、みんな別人の様に変わっただろ。女なんて結局そんなモンなんだよ」


そこから僕たちは車内で終始無言だった。流石に酔っていたとは言え言い過ぎたな。



謝った方がいいのかな、いや、悪いのは向こうだからいいか。


もう合コンなんて今日限りにしておこう。


電車が速度を落とし、僕の降りる駅に着こうとしている時

玲夢がうつむきながら震える声で言った。


「私、須山さんは優しい人って知ってるんです。だから私の先輩達のせいで須山さんの心を傷つけてしまってごめんなさい。千帆さんも彩花さんも普段はとってもいい人なんです。それにー…」


僕はそれを無言で聞いていた。何が知っているだ。いい加減な事を言いやがって。


ドアがゆっくり開いた。僕はそのまま何も言わず立ち去ろうとした。


「須山さんは覚えいないみたいですけど。私達、前に会っているんですよ」


そう言われハッと振り返った。

こちらを見ている玲夢がどういう訳か泣いていた。


「前に会ってるっていつのこと?」


「それは――あっ!続きはLINEします。おやすみなさい」

そう言って走り去る電車の車内から、涙を拭った手を振る玲夢を僕は魂が抜けた様に見ていた。



前に会ったとは何の事だろう。


彼女の事を考えても僕のなかに思い当たる節はなかった。


僕は家についてから、謝罪と前に会ったことについて尋ねたが、2時間経っても返事は返って来なかった。



なんともモヤモヤする。

もしかしてこれは仕返しなのか。

そうか、仕返しか。

僕が酷いことを言ってしまった仕返しをしてるに違いない。


だったら、あんな嘘は気にしないで寝よう。

いつもだったら、もう寝ている時間だ。


僕はその日、鉛が暗い海に沈む様に一気に眠りの世界に落ちていった。






この時の僕はこれから起こる事について何一つ、予測なんてしていなかった。



まさか翌朝のニュースで彼女の死を知ることになるなんて。

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