異界の少女ルトナ
「君は一体、何者なんだ……?」
梅市の自然公園にて、ノヴェルは白犬の少女に問う。
数秒黙ったあと、閉じた方を開き、彼女は答えた。
「私は、この世界の住人ではありません。そして、かの種族……悪鬼は、私達の世界で知られている存在です。」
「なんだって……!?」
白犬の少女の回答に驚愕する一方、ノヴェルは予想通りだったか、表情は変わらなかった。
「申し遅れましたわ。私の名前はルトナ……この世界とはまた別の世界にいましたが、おそらく今回の異変でこちらの世界に来てしまったのかもしれません……」
「異変の詳細は知らないのか?」
ルトナはポチの問いに首を横に振って応えた。
「わかりません……一体私達の世界に何があったのか……いえ、心当たりがひとつあります。」
「それは?」
「私達の世界にいた、漆黒の伯爵です。」
「漆黒の伯爵……ねぇ。」
ノヴェルが呟くと、彼女は頷く。
それは、彼女が産まれるよりも前に起きた大異変だったという。
彼女の世界を漆黒の伯爵が征服しようとした。しかし、世界各国から集められた騎士達によって、漆黒の伯爵は封印され、世界は平和になったという。
「よくあるお伽話みたいだな。」
「はい。この出来事もずっと昔に起きたようです。私も幼い頃、よくお伽話として聞かされていました。」
「そんだけ昔に封印されていたのに、突然封印が解かれたのか……それも、俺たちの世界に侵入してきたと。」
ポチとルトナのやり取りを聞いていたノヴェルは、小さく息を吐いた。
「その話が本当ならば、おおよそ、誰かが封印を解いたのだろう……厄介なことをしてくれたね……」
「……………………誰の仕業かは、わかりません。ですが、私は彼を再び封じ込めなければならないと思います。だから……」
「ここまで聞いた俺たちの力を貸してほしい、と……そういうことか?」
ポチの問いにルトナは頷く。
「あなた方も困っているでしょう。ならば共に戦った方が得策ではなくて?」
「確かに、そうかもしれないが……」
疑心的なノヴェルは、左手を口に当て考え込む。
「わかった。手伝おう。」
そう答えたのは、ポチだった。
彼に対し、ノヴェルは驚いた顔で確認する。
「大丈夫なのか……?」
「もしかしたら、ご主人に会えるかもしれない。それに、会えなくても元凶を倒せば帰ってきてくれるかもしれないだろ?」
「それは、そうだな……闇雲に探すより、君の飼い主を探すのには合理的かもしれない。」
しかし、けれどとノヴェルは続ける。
「なんていうか……胡散臭さが残ってな……」
「あら、せっかく助けて差し上げたのに、そのような申しつけを?」
「別に君に助けられなくとも、このくらいなんとかなったさ。」
どことなくつんけんとした声色で話す二人。
なんだか気まずいと、ポチは感じる。
話の空気を入れ替えようと、ポチが喋り出す。
「まぁ旅は道連れ、みたいな感じでさ!とりあえず目的の場所まで一緒に行こうぜ、な!」
笑顔で二人に呼びかけるポチを、ノヴェルはじっと見つめ、そして息を吐いて頷いた。
「わかった。君がそこまで言うなら従うさ。まぁ短い間だろうけど、よろしく。」
「えぇ、よろしくお願いしますわ。」
ノヴェルはルトナに手を差し伸べる。彼女も笑みを浮かべ、ノヴェルと握手を交わした。
ひとまずは大丈夫かと、ポチは安堵の息を吐く。