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第九話

 一旦そうだと思い始めると、気になって中々寝付けなかった。

 ひかりから最後に聞いた、ひかりに纏わる事情。

 二年前、ひかりから電話を貰った翌日。気になって、早々に帰宅した後、着信履歴からひかりの携帯へ電話を掛けたのだ。

 その時ひかりは、どこかの屋上から、飛び降りる寸前だと言っていた。

 ひかりが引っ越しをしたのは、家が火事になって両親が亡くなり、親戚の家に引き取られることになったからだった。

 そして、転校先で同級生や上級生からの虐めに遭い、今から死ぬつもりだと言ったのだ。

 俺は必死になって止めようとしたのだが、聞き入れてはくれなかった。

 最後、ひかりはしきりに謝っていた。

 「一つ上の従兄が格好良くて、浮かれていたから、罰が当たったんだ」

 併せてそんな事を言っていた。

 そして。

 「さよなら」

 そう言い残して、ひかりは飛び降りた、らしい。

 直後、電話が切れたのだ。何度掛けなおしても、「電源が入っていないか電波の届かない~」のメッセージに切り替わる。

 恐らく、飛び降りて、衝撃で携帯が壊れたのだろう。

 俺は、その後ひかりがどうなったのか、未だに確認することが出来ずにいたのだ。

 こんな俺が、今更幼馴染面してひかりのことを調べるのはおこがましい話かもしれない。

 だけど、もう確認せずにはいられない。

 そして、綾香さんの事もある。綾香さんまでそんな目に遭うことになったら。その時、俺は自分で何を仕出かすか、判らなかった。


 ***


 「……ちょっと、一樹さん。大丈夫?」

 あまり眠れておらず、多分酷い顔をしていたのだろう。

 朝食を食べている時、綾乃さんから心配そうに声を掛けられてしまった。

 「いえ……ちょっと寝付けなかっただけですので、大丈夫です」

 空元気だったが、学校に行って確認しなければ。

 俺がそう言うと、綾乃さんもそれ以上は何も言わなかった。



 「ちょっ、カズやん。何かあったん?」

 登校してすぐ、麻友莉にまで、突っ込まれた。

 鏡で見たけど、そこまで酷い顔にはなっていなかったと思うのだが。

 「ちょい夜更かしして、寝不足なだけだよ」

 俺はあくびでその場を誤魔化した。



 たしか村崎は二組と言っていたので、昼休みに教室の前で待ち伏せして、出て来たところを捕まえた。

 「昨日はありがとな。もう少しだけ、話を聞かせてくれないか?」

 「……あれ以上の事は、僕からは答えられないよ?」

 「ああ、それでも構わない」

 無関係な人間に聞かれたくなかったので、今日もアニ研の部室を使わせて貰うことにした。

 「それで?」

 「……確認したいことが一つあってな。答えられないなら、答えなくてもいい」

 心拍が上がる。

 「その前に……村崎は、王子と同居して虐められた女子の名前、知っているか?」

 「あ、ああ。同じクラスだったからな。だけど……」

 言い淀む村崎。言いたくない、或いはそれも緘口令の対象なのか。

 「ひょっとして、三上ひかり、か?」

 「なっ!?」

 村崎は判り易く驚愕した。

 やはり、ひかりだったのか。

 「俺とひかりは、幼馴染なんだ」

 俺の言葉に、村崎は悲しそうな、申し訳なさそうな目をした。

 「……ありがとな。別に、昔のことを暴いてどうこうしようって話じゃないんだ。時間を取らせて悪かったな」



 その後、村崎以外にも綾香さんと同じ中学のやつを見つけ、裏を取った。

 虐められていたのは、三上ひかりで間違いない。

 顔まで確認出来た訳じゃないから、同姓同名だったら笑い話にもならないが、ひかりがどこから引っ越して来たかまで覚えてくれていたので、間違いないだろう。

 ただ、村崎同様、顛末については話してくれなかった。



 それから暫くは、何事も起きなかった。

 綾香さんは、部活動はやっていなかったが、放課後はよく図書室を利用していた。

 綾香さんを見守るために、俺も図書室を利用する様になった。

 直接綾香さんに接触することはしなかったが、俺の接近に綾香さんもいい顔はしなかった。……単に、萌が一緒だったからかもしれないが。

 それでも、学校施設の利用についてとやかく言ってくることは無かった。


 ***


 十月に入ってすぐ、事件が起きた。

 王子の取り巻きの女子が、綾香さんに絡み始めたのだ。

 幸いと言うべきか、相手は面と向かって綾香さんに何か文句を言っているだけで、どこかへ連れ出そうとかしなかったので、俺は遠目に見ているだけで済ませた。



 そういう場面を何度か見た後。

 俺は自宅で綾香さんに直接話を聞こうとした。どうにかしようと考えていないのか、気になったのだ。

 だけど綾香さんは、とぼけてはぐらかそうとする。

 焦れた俺は、「噂を聞いた」と、王子のことを匂わせたのだが、

 「一樹君には関係の無い事です。私たちのことに首を突っ込まないで」

 そう、突っぱねられてしまった。

 やはり、綾香さんは王子と何かあったのだろうか。

 あの男に、好意を抱いているのだろうか。

 あの男は、ひかりの事を──

 俺の内に、黒い感情が渦巻く。

 いっそ、ひかりの事を話してしまおうか、などと考えてしまう。

 だけど、それをしたところでどうにもならない。綾香さんは元々知っているのだから。その上で、あの男の側にいるのだ。

 ひかりの話をしても、驚くだけか、俺に対して謝意を抱くくらいだろう。それでは無意味だ。綾香さん自身の境遇を改善しようと言う話にはならない。

 むしろ、ひかりに負い目を感じているのかもしれない。だから、自分も同じような境遇を受け入れているのか。

 だけどそれを指摘したところで、彼女は認めないか、認めた上で何もしない様な気がする。

 「積極的に、俺の方から何かしようとは思わない。だけど、何かされているのを見かけたら──俺には見過ごせない。俺たちの秘密が露見することになっても、あなたを守るよ」

 「……どうして?」

 俺が頑なに関わろうとしていることに疑問を感じたのか、問われる。

 「……理由は、ある。けど、言わない。それこそ、綾香さんには関係の無い話だ」

 仮に、ひかりが無関係だったとしても、俺は介入しようと思っただろう。その場合は、俺の怒りの大半は、綾香さんに絡んで来た取り巻き連中に向けられた筈だ。

 だけど、ひかりの事あったから、俺の怒りは王子に向けられていた。

 王子の方にも、色々事情はあるのかもしれない。だけど、そんな物、結果の前には糞くらえだ。


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