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第六話

 ざわめく廊下。

 元々注目を集めていたのに、今では他の教室から身を乗り出してこっちを見ているやつまでいる始末。

 さすがに悪目立ちが過ぎると思ったのだろう、麻友莉は萌の手を引っ張って、教室に引きずり込んだ。俺と千夏も後を追う。

 「……森君、どういうことなん?」

 俺と萌の関係のことだろう。

 萌はまだアワアワしていて、何も答えられそうにない。

 「ああ。萌が引っ越して転校するまで、中学ではずっと同じクラスだったんだ。引っ越し先は聞いてなかったから、まさかここで再会するとは思わなかったよ」

 「……何このヒロイン力インフレは。ウチなんてヒロイン力5のゴミじゃん」

 麻友莉は唖然としたかと思うと、俯いてブツブツ何か言い出した。

 「ただのクラスメイトってだけじゃない感じだけど?」

 千夏に突っ込まれるが、

 「そこはノーコメントで」

 そう返すのが精一杯だった。これ以上具体的に思い出したら、間違いなく赤面してしまう。

 千夏のおもちゃにされる気はなかったし、萌にまで被害が及ぶだろう。……まぁ、萌の方はもう手遅れかもしれないが。

 教室では、そんな俺たちを見て、男子どもが何やら囁き合っている。

 「何あれ、ラノベ主人公?」

 「ギャルゲじゃね?」

 「いや、エロゲかもしれない」

 って、おい……。


 自分の席に戻ると、前の席の男子が振り向いた。

 「お前、何者だよいったい」

 呆れた調子でそう言われるも、上手い返しが思いつかない。

 まだやっかみ半分、という感じで済んでいるが、これで綾香さんとの同居がバレたら、どうなることやら。

 「そう言われても、な。ただ世間が狭かったとしか言いようがない」

 狙ってここに来た訳でもなし。

 これ以上目立たないようにとばかりに、俺は机に突っ伏して顔を隠した。



 放課後、麻友莉に拉致られた。

 昼間の説明では納得してくれないらしい。

 麻友莉に腕を引かれて行く姿を、大勢に見られた。逃げないからと言っても離してくれない。

 見送る男子どもの顔つきから、どんどんヘイトが溜まっていってるのが判る。

 目立たぬよう、大人しくしているつもりだったのに。どうしてこうなった?



 学校の近くだからと徒歩で連れて行かれた先は、バス通りから少し脇道に入ったところにあるカラオケボックスだった。

 ……公にはしないから、秘密を全部吐け、と言わんばかりだな。

 個室に入る。

 先客は無し。

 「もうすぐ、チナとメグも来るから」

 まぁそうだろうな。

 先に、入店時に注文したソフトドリンクを店員が、持ってきた。

 この店は、平日昼間は歌い放題、ソフトドリンク飲み放題らしい。

 麻友莉は飲み物に口を付けるだけで、カラオケ機器には目もくれない。

 ……歌なんか歌わずに、白状しろってことですね、判ります。

 やがて。

 千夏に引きずられて、萌がやって来た。

 萌は部屋に入って俺を見つけて、一瞬頬を染めるも、これから何を聴かれるのか直ぐに思い当たって青くなった。

 千夏も入って来て、後ろ手でドアを閉めた。

 「さあ。尋問のお時間です」

 やっぱりな。

 「まあ、待て。せめて飲み物が来てからにしろよ」

 まだ千夏と萌の分が来ていない。

 「それもそうね。メグ、座ろ」

 萌は奥の席に追いやられた。逃がさないという意思表示だろう。

 暫くして、店員がソフトドリンクを持って来た。

 その店員が出て行ったところで、千夏はテーブルを叩いた。

 「さあ、白状しなさい。ネタは上がってるだ!」

 「こらこら、落ち着け」

 諫めようとするも、

 「……別に、かっきーから答えて貰ってもいいんだけど?」

 「うっ……」

 そう返されると言葉に詰まる。

 「……で。どうなん?」

 麻友莉が低い声で、問う。なんか、妙に迫力があるな。

 「あ、あのね……」

 おずおずと、萌が口を開く。

 「去年の夏休みにね……その、一度だけ…………」

 萌は顔を真っ赤にして、途中で言い澱んでしまう。

 おい、そこで言葉を止めちゃ駄目だ!

 千夏と麻友莉の顔を見ると、案の定、何か誤解している様子。

 ……この話、あの場でしなくてよかった。あらぬ誤解が学年中に広まるところだ。もしそうなっていたらと思うと、身震いしてしまう。

 「ちょっと、かっきー!?」

 千夏がテーブルから乗り出し、反対側にいる俺の胸倉を掴んだ。

 ここで俺まで慌てたら、火に油だ。

 「……一度だけ、萌とデートをしたことがある。それが、どうか、したか?」

 「へっ?」

 千夏は一瞬呆けた後、見る間に真っ赤になった。

 「何を想像したんだい?」

 ここぞとばかりに反撃してみる。

 千夏は俺から手を離すと、アワアワしながら後退して勢いよく椅子に腰を落とした。……下着見えたぞ。

 慌てて麻友莉に目を移す。

 麻友莉も変な想像をしたらしく、目を泳がせていたのだが、何か思いついたらしくニヤリと笑った。

 「……そのデート、どこまで進んだの?」

 その言葉に、萌は過剰に反応して、俯いてしまった。

 ……そこで反応しちゃ駄目じゃん。

 萌の反応を見て、千夏が落ち着きを取り戻す。

 誤魔化されてくれないか。

 「……その日、近所で祭りがあってな。突然、萌から誘われたんだ。それで、一緒に祭りを見物して。夜に花火大会があって、そこまで一緒にいたんだが……そこで、引っ越すことになったって言われてな。もう会えないと思ったら、自然にキスしてた。それだけだよ」

 本当は、萌の方から、もう会えないだろうからと秘めた想いを告白されたのだが。

 まだ再会したばかりでテンパってる萌が不憫で、俺からした事にしたのだ。デートの誘いだけは、正直に萌からだったと話す。そこに俺が付け込んだ感じにした方が、それっぽいかなと思ったのだ。

 千夏と麻友莉はポカンとしていた。俺が、キスしたと簡単に打ち明けたのが意外だったのだろう。

 萌を見ると、ちょっと困った様な、申し訳なさそうな顔をしていた。



 夕食時。綾香さんがポツリと呟いた。

 「一樹君。あなた、昼休みに何やったの?」

 思わず口に入れかけた唐揚げを茶碗の上に落してしまった。

 「どういう事?」

 綾乃さんが訝し気な目を娘に向ける。

 「うちのクラスの女子が、突然一樹君の名前を叫んでいたのよ」

 「何かあったのかい?」

 祖母が心配そうに聞いてくる。

 「……いや、千夏の友達が綾香さんのクラスにいるんだけど。昼休みに紹介して貰ったら、実は向こうの中学でずっと一緒のクラスだった人でさ。まさかこっちで再会するとは思わなかったらしく、すごく驚いて、思わず大声を出してしまったみたいなんだよ」

 ちょっと説明臭いが、綾香さんにも納得して貰いたいので仕方ない。

 「ふーん……すごい偶然ね」

 「全くだ。世の中、こんなに世間が狭いとは思わなかったよ」

 「そうだねぇ。でも、人とのご縁なんて、そんなものだと思うよ。良縁なら、大事にしないとね」

 なんとなく、祖母も色恋沙汰と決めつけている気がする。

 まあ今回は、全然違うとも言えないので反論出来ないけど。


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