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第一話 

 『運命的な再会が待ってるわ』



 電車に揺られ、うつらうつらとしている最中、高校の先輩に言われた言葉を思い出していた。

 先輩のタロット占いはよく当たると評判らしいが、本人が気まぐれで滅多にやらない。俺の引っ越し祝い(?)に占ってくれたのだが、その時に言われた言葉だった。



 今は夏休み――と言っていいのかよく判らない状況――も半ばを過ぎていた。

 俺は一人、電車にて移動中。新幹線から在来線に乗り換え、発車を待っている間に眠りかけたらしい。

 目的地は、曾祖父の家。今日から、曾祖父の家に住むことになっている。

 父親の転勤が決定し、まだ高校生の俺は、半端な時期に転校することになるのを嫌って、夏休みを利用して編入試験を受け、二学期から新しい高校に通うことになっていた。


 元々、小学校卒業まではこっちの県で、山奥にある祖母の家で暮らしていた。

 父親の転勤により、中学校から別の県で暮らしていたのだが、俺が高校に入学した後しばらくして、父親に転勤の打診があったのだ。

 そして現在、祖母は俺たちと暮らしていた家を引き払っており、曾祖父──祖母の父親と一緒に暮らしていたため、俺もそちらでお世話になることになった。

 曾祖父の家は県の中心部にあり、祖母の他に、曾祖父の後妻──曾祖母は俺が生まれるよりずっと前に亡くなっており、再婚していた──と、その間に生まれた娘──祖母から見たら妹、俺から見たら大叔母にあたる──が一緒に暮らしているらしい。


 編入試験を受けたときは、予定が立て込んでいたため曾祖父の家には寄れず、行くのは今日が初めてだ。……いや、乳幼児期には何度か行ったことがあるらしいのだが、全く覚えていない。

 曾祖父は時々祖母の家まで遊びに来ていたので、何度も会っていて面識はある。ただ、後妻と大叔母は連れて来たことは無かったので、会うのは今度が初めてだ。今は同居しているくらいだから、別段祖母と仲が悪かった訳でも無さそうなのに、なんでだろう?

 曾祖父のことはひいじいちゃんと呼ぶのは長いので、じいちゃんと呼んでいた。祖母のことはばあちゃんと呼んでいたので、知らない人が聞いたら祖父と勘違いされそうだ。


 俺を取り巻く状況はそんな感じだったため、運命的な再会と言わて思いつくのは、小学校の頃の同級生くらいしかいない。特に、祖母の家の近所に住んでいた同級生の二人は、幼馴染と言ってもいい間柄だ。

 だが、片方は小学校卒業と同時に、俺同様に親の転勤で引っ越しており、もう一人は……二年前に電話で話したのを最後に音信不通、今は生きているかどうかすら判らない。

 後は何も思い付かなかった。


 最寄り駅に辿り着くと、携帯電話で地図を確認しながら曾祖父の家を目指した。

 この携帯電話は、引っ越すにあたって親に買って貰った物だ。それまでガラケーすら持っておらず、まだ使い方がいまいち判っていない。とりあえず地図だけは見れるようになってはいたが。

 地図に従い、歩く。

 途中、ちょっとした公園に出くわす。中を通り抜けることにした。

 芝の上を歩く。ぐるりと囲うように植樹されており、付近に大きな建物が無いためか、ここだけ別世界の様に感じた。

 そのまま反対側まで歩いていくと、出口の手前で、目の前に何か黒い塊が落下した。

 芝の上にポテッと落ちたそれは、真っ黒な子猫だった。

 うまく着地できたにも関わらず、驚いたような感じで暫く固まっていたが、やがて何事もなかった様に近くの茂みへトコトコと歩いて行った。

 ……黒猫に横切られると不吉、なんて聞いたことはあったが、縦方向だとどうなんだろう? 逆に、幸運だという話もあった気がする。

 などと益体も無いことを考えながら、子猫が落ちてきた頭上に目を向け──息を呑んだ。

 目が合ってしまった。

 木の上に、俺と同年代と思しき少女がいたのだ。

 少女は、俺を見て固まっていた。

 俺も、固まったまま動けずにいた。見惚れてしまっていたのだ。

 ──綺麗だ。

 素直にそう思った。

 妙な状況での出会いが、よけいに印象深くしているのかもしれない。張り出した木の枝の上で猫科の獣の様に這うその構図も、さっきの黒猫よりも真っ黒な長い髪が微風に揺られる様子も、絵画的で素敵だと思った。そして何より、その容姿が美しい。

 少女――と呼ぶには大人びた風貌だが、それでも俺と同じくらいの年齢に見えるから、敢えて少女と呼ぼう──はやがて、照れたように身じろぎした。変なところを見られて恥ずかしかったのだろう。降りようと後ろに下がり、右手で隣の枝を掴んだところで──その枝が折れてしまった。

 「きゃぁ!?」

 少女はバランスを崩し、左手で乗っていた枝にしがみ付く。だが、枝を中心にくるりと体が下を向き、勢いを止められずそのまま落下してしまう。

 俺は慌てて両手を差し出し、受け止め──きれずに少女を抱えたまま前に倒れ込んだ。両腕を少女の下敷きにされ、顔を少女のお腹に埋めるように突っ伏してしまった。

 「ご、ごめん。大丈夫?」

 芝が長く伸びていたためか衝撃は少なかったのだが、俺は腕を敷かれているため動けず、そのままの体勢で少女に声を掛けた。

 「……ええ」

 少女は返事とともに、俺の前方へごろりと転がった。

 「ありがとう。助かったわ」

 一応、瞬間的にでも俺が受け止め勢いを殺したことを理解しているらしく、変な格好で接触してしまったことは不問にしてくれるみたいだ。

 「それでは、失礼」

 少女はちょっとだけ早足で、反対方向へ歩いて行った。恥ずかしかったのだろう。……変な男に絡まれたと思って逃げて行った訳じゃない、と信じたい。


 地図を確認しつつ、周辺の建築物を確認しながら歩く。暫くここで暮らすことになるのだ、家の周辺は把握しておいた方がいい。

 やがて、曾祖父の家に辿り着いた。

 結構広い家で、庭の周りは塀で囲われていた。門扉を抜けて、玄関まで歩く。

 玄関も広く、横開きの扉だ。開けっ放しになっていたので中を覗き込んだ。

 そこで、ちょうど廊下を通り掛かった祖母の目に留まった。

 「おや、一樹ちゃん。いらっしゃい」

 「ばあちゃん、久しぶり」

 祖母と挨拶していると、奥から女性が現れた。

 「あなたが一樹さんね。私は綾乃、よろしくね」

 綾乃さんの年齢は、おそらく母より少し上くらいか。この人が大叔母なのだろう。

 「はい、よろしくおねがいします、綾乃さん」

 『おばさん』呼びは地雷かもしれないので、名前で呼ぶことにした。


 クーラーの効いたリビングに案内され、冷えた麦茶を出してくれた。

 真夏の日中に歩いて来て喉が渇いていたため、有難くいただいた。暑いところから涼しい部屋に入ったことも相まって、汗が吹き出した。

 麦茶のお代わりを頂いていると。

 「ただいま~」

 廊下の方から別の女性の声。すぐ傍に祖母と大叔母がいるのだから、残りの一人は曾祖父の後妻、義曾祖母の筈なのだが、声は二人よりも若く感じた。

 リビングの扉が開く。

 「……えっ?」

 思わず声が漏れた。

 そこに現れたのは、公園で木から落ちた、あの少女だった。

 相手も、ソファに座る俺の姿を見て、目を丸くしていた。

 「おかえりなさい、綾香。一樹さん、紹介するわね。あの子は娘の綾香。クラスは違うみたいだけど、一樹さんと同じ高校に通う一年生よ」

 綾乃さんが、少女を紹介してくれた。

 ……ちょっと待って。

 突然のことに、頭が真っ白になる。

 暫く、お互いに目を見合わせ、固まっていた。

 ……大叔母に娘がいるとは聞いていない。この家の住人は、曾祖父、義曾祖母、大叔母、祖母の四人である。

 と、言うことは、だ。

 この美少女が、大叔母、だと……!?


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