第五話 人種
今日は魔法の鍛錬ではなく、ユーミさんの部屋で授業を受けていた。
家庭教師スタイルのマンツーマンレッスンだ。
教本は「世界旅ガイド」。
「坊ちゃまの住むこのお屋敷は、ラクル公国のクラリス村というところにあります。ラクル公国は、技術力が高いことで有名な国なのですよ」
技術力が高い、か。ほかの国を見てみないと分からないな。
しかし、クラリスという名前、どこかで聞いたことがある。
……思い出した、父さんの名前だ。
何か関係でもあるのだろうか?
「どうなされましたか、坊ちゃま」
「あ、いえ。なんでもないです」
「はい。では続けますね」
つい考え込んでしまった。
気を取り直して、授業に集中しよう。
「それでは、読んでみましょうか」
……記録をまとめると、こうだ。
この世界には四つの国がある。
一、ラクル公国。技術力が高く、活気にあふれている。飯が旨い。
二、ハウナリス王国。ウナリ、という山に囲まれている。飯が旨い。
三、マーライズ連合国。三つの島があり、それぞれに特色がある。飯が旨い。
四、ラウル王国。緑豊か。街を歩くと屋台などの出店が並んでいる。飯が旨い。
飯が旨いしか言ってねえ!
……いや、地味に重要な情報だ。
もしも旅に出たときは、飯の旨さに助けられるだろうな。
「随分と大雑把な情報ですが、十分でしょう」
「え、もういいんですか」
「詳しい話はまた次の機会に」
◇◆◇
翌日。
「坊ちゃま、お話をしましょう。といっても、昨日の続きですが」
……今日の授業は。
「今日は私の知識、そして経験をお話しさせていただきます」
………………。
…………。
……。
「この世界には複数の人種が存在しています」
「そうなのですか?」
「はい。人族のほかに鉱人種、虫人種、鳥人種、竜人族、そして精霊人種が存在します。どの種族も、意思と心を持っていますよ」
意外といるもんなんだな。
人間を除いたら、ドワーフとエルフしか聞いたことがない。
「そんなに……」
「はい。中でも虫人種、鳥人種、竜人族は、類似した生物と共存しています。虫人種は虫、鳥人種は鳥、竜人族はドラゴン、といった感じですね」
どうやら彼らは、人間と似たような文明を持っているらしい。
しかし、そうなると疑問が一つ浮かび上がってくる。
「心を持っているということは、ほかの人種と争いになったりもするのですよね。資源や土地の確保、みたいな理由で」
「……ええ。大昔に、『悪夢の騒乱』と呼ばれる六種族すべての戦争がありました。しかし、それがきっかけで、彼らはそれぞれの縄張りにたどり着いた、という言い伝えがあります」
なるほど。
結局はあるべき場所に戻った、ということか。
「ちなみにその三種族は、人間とは全く違った性質を持っています。それに、人間を毛嫌いしていますね」
例の戦争が影響しているのだろうか。
心を持っている、か。
そして驚くことにユーミさんは、三種族が縄張りとしている場所を知っていた。
虫人種は、ラウル大森林。
鳥人種は、ティポルプ島。
竜人族は、マグライド火山島。
らしい。
全て聞いたことのない地名だ。
しかし、覚えておいて損はないだろう。
「反対に鉱人種と精霊人種は、そういった共存関係や、人間への嫌悪感は持っていないとされています」
「それは、持っている可能性もあるということですか?」
「そういうことになりますね。それにその二種族は、先の争いの後、人間の前に姿を現した記録がないのです」
人間、完璧に嫌われている件。
一体何をしたんだ……。
「恐らく、魔法による結界を張っているのでしょう。鉱人種と精霊人種は、魔法に長けていますから」
「……会ったことが、あるのですか?」
「とんでもございません」
やんわりと否定されてしまった。