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第二話 魔法という概念

 目に飛び込んできた風景は、見渡しても家が二、三軒ほどしかないド田舎だった。窓から見える景色はとても狭いものだったのだと、このとき初めて認識した。

 そして、空気がおいしい。一年ぶりの外だからだろうか。


「エル、びっくりした? これが外の景色なの。そしてこの青い空は、世界中に繋がっているのよ」


 母さんが、語り掛けてくる。

 俺は、日本と変わらない空に感動していた。


「そ、ら。き、れい」


 うふふ、と笑顔を見せる母さん。

 ああ、いい笑顔だ。見てるこっちも嬉しくなる。


「ノア、エルがどうかしたのか?」


 父さんだ。


「ユーク君。エルがね、外に出たいって言ったの!」

「本当か!? ……聞き間違い、じゃないよな」


 どうやら父さんは、俺が喋ったということを信じられないらしい。


「パ、パ」


 父さんは驚いていた。

 そして、笑いながら俺の頭を撫でた。


「もう喋れるなんてすごいな、エル。流石俺たちの息子だ」


 照れくさくなった。当たり前のことを褒められることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。

 前世でもこんな経験をしたのだろうか?

 していたらいいな、と思う。


「エル。喋れるようになった記念に、いいものを見せてあげる」


 不意に言われたその言葉。

 いいもの、ってなんだ?

 そんなことを考えていると、かごの中に乗せられた。

 ……危険なことでもしようとしているのだろうか。


「いくよ」


 目を合わせ、手をつなぐ父さんと母さん。

 そしてその手を、天に掲げ――。


「「女神よ、汝あるところに命の恵みを与えたまえ。噴霧(ミスト)」」


 あたりに霧が立ち込め、虹が現れる。

 ……なんだ今のは。

 詠唱、したよな。


 魔法。

 その一言が脳裏をよぎる。


「どう? びっくりした?」


 無邪気に笑う母さん。


「これでも私たち、昔は有名な二人組(パーティ)だったのよ」


 にわかには信じられなかった。

 まさかこの目で、魔法を拝むことになるなんて。


「あら、もっと見たいの?」


 ……顔に出ていたかな。

 しかし、見せてくれるに越したことはない。

 思いっきり目をキラキラさせてみた。


「ふふ、じゃあもう一つ。ユーク君、いいよね?」

「もちろん」


 期待に胸を膨らませる。


「「女神よ、汝あるところに希望の光を照らしたまえ。日照(プロミネンス)」」


 俺の身体がじんわりと、優しい暖かさに包まれる。


「これが、魔法(まほう)の力よ。エル」


 魔法。それを目の当たりにした俺は、衝撃を受けた。


 ……。

 これを――。

 これを極めたら、強くなれそうな気がする。

 そうしたら、また――。

 守れるかもしれない。

 自分を、そして大切な人を。


 知らないはずのその感情が、記憶が、どこからともなく湧き上がってくる。


 本能が、叫ぶ。


『強くなれ』と――。



◇◆◇



 一か月ほど経った。

 魔法、というものを目の当たりにしてから、俺は家の中を漁りまくった。

 魔法とはなにか。その仕組みとはなにか。どんな種類があるのか。俺は魔法を扱うことができるのか――。

 知りたかった。魔法を、知らなければならないと思った。


 結果、たどり着いた結論が、「本を読むこと」だった。本には先人の知恵、知識、思考がすべて詰まっているはずだから。

 幸い、この家には書物が山ほどある。魔法についての書物も何冊かあるだろう。

 俺は書斎に籠り、本を読み漁ろうとした。

 だが、最初のうちは単なるいたずらだと思われていたのか、


「おいおいエル。ここは遊ぶところじゃないぞ」


と父さんに追い出されてしまっていた。

 しかし、何度も足を運ぶ内に「遊ぶつもりはない」ことを理解してくれたのか、追い出されることはなくなった。

 恐らく、本も読んでいいものだと思われる。

 ……だが、いざ本を読もうと開くと、何を書いてあるのか分からなかった。


 文字を覚えるのが先か……。

 先が思いやられるな。


 そんなことを考えながら、本をめくっていた。



◇◆◇



 更に二か月が経った。

 文字を覚えるため、寝る前は母さんに、絵の多い本を読んでもらっていた。

 毎日少しずつだが、文字と文法を理解できるようになっていった。

 それと同時期に、二足歩行ができるようになった。移動が楽になるのは、嬉しい誤算だ。


 最初に本を読んでもらったとき、母さんはとても不思議そうな顔をしていた。

 ……まあ、「本を読んでほしい」なんていう一歳児はいないだろうからな。何故だか申し訳なく思う。


 本題に戻ろう。

 ここ二か月の努力で、ある程度の文字は読むことが出来るようになっていた。

 さあ、ここからが本番だ。

 書斎の魔法書を読み漁る時が来たのだ。

 しかし、百冊程ある書物の中から見つけた魔法に関連しそうな本は、たったの三冊だけだった。


・魔法教本 入門編

 魔法の基礎理論や発動するための詠唱文が記載されている教本。


・ダンジョンを生き抜く

 実践レベルの魔法を解説した教本。


・世界旅ガイド

 各地の特徴や観光地、生息するモンスターをまとめた本。


 どれも非常に参考になった。

 特に魔法教本は、その名の通り魔法の基本がわかりやすく解説されていた。



1、魔法は大きく分けて四種類。


・攻撃魔法:攻撃する。

・防御魔法:防御する。

・生活魔法:生活を助ける。

・召喚魔法:魔獣を呼び出す。


 まんまだ。分かりやすい。


 生活魔法は両親がよく使っていた。

 例えば、水を出すことも生活魔法の一種だ。

 しかもその水が飲めるというのだから、恐ろしい。

 生活魔法、便利である。

 上手くやれば攻撃魔法に使えそうだな……。と考えたが、攻撃魔法の威力を極限まで下げたものが生活魔法らしい。教本に書いてあった。


 そのほかに召喚魔法、という単語が気になった。

 それは、使った者の魔力量に応じた魔獣が出る、というのものだ。魔獣の容姿は完全ランダムらしい。

 魔力量は次に解説する。



2、魔法発動には魔力が必要である。


……と書いてある癖に、魔力を有していても使えない人には使えないらしい。適性がないのだろうか。召喚魔法の立場がないな。

 教本によると、すべての人間は魔力を有しているが、その量は人によって違うという。

 しかも、魔法発動に魔力量は関係ない。


 その事実に、若干の不安を覚えた。


 努力で伸ばすことのできる魔力量は微々たるものらしいが、増えるならそれに越したことはない。

 魔力量が多いと体力も増えると書いてあったので、たとえ適性がなくてもメリットはある。……だろう。



3、魔法発動の条件


・詠唱

・魔法陣

・魔法石


 どれも魔力を込めれば魔法を放てるらしいが、ワンクッションおかないといけないのがなぁ……。

 魔法石は、魔力を込めれば魔法を放てる優れものだ。しかし上二つは、詠唱や魔法陣を少しでも間違えれば発動できないのだという。

 なら魔法石を使えばいい、となるかもしれない。だが、魔法石は大変貴重で、貴族以上でないと手の出せない破格の値段で取引されているらしいのだ。

 恐るべし、魔法石。



 とまあこんな感じだ。

 早速試してみたいところだが、『魔法発動に魔力量は関係無い』というのが引っかかる。

 ……。

 ええい。物は試しだ。


 とりあえず、魔法を使ってみよう。

 両親不在の今がチャンスだ。

 ……まだ文字は書けないので、詠唱から始めてみることにした。

 えーと。最初は両親が見せてくれた魔法にしようかな。


 本を庭に持ち出し、噴霧(ミスト)のページを開く。生活魔法のカテゴリだった。

 そして、少しだけ流暢に喋れるようになった声で――。


「……。女神よ、汝あるところに命の恵みを与えたまえ。噴霧(ミスト)


 本を濡らさないように注意して、詠唱した。

 ドクン。ドクン。

 心臓の鼓動が早くなり――。


 視界が曇った。

 成功だ。

 どうやら俺には魔法適性があったようだ。


 直後、軽く運動したような疲労感に襲われる。

 これが『魔力を使う』という感覚なのだろうか。

 次は心の中で霧吹きをイメージしてみる。

 詠唱はしない。

 水を勢いよく押し出す感じで……。


「ふっ!」


 ピュッ。

 飛び出したのは霧ではなく、水だった。

 まるで水鉄砲のような威力だったが、詠唱の仕組みを理解するには十分だった。


『詠唱や魔法陣は、魔法を発動する上で「引き金」の役割をしているのか? となれば、その引き金を頭の中でイメージすれば……』


 日本語で声に出して確認する。

 そうだ。さっきは「水を押し出す」イメージが強かったからああなったのだ。

 そうであれば、詠唱する必要がなくなる。


『もう一回』


 今度は水鉄砲をイメージして……。

 水を、押し出す!


「ふっ」


 ピュッ。

 成功した。


『やっぱり……』


 水を、押し出す!

 ピュッ。


 水を、押し出す!

 ピュッ。


 水を、押し出す!

 ピュッ。


 水を、押し出す!

 ……。

 あれ、出ない。

 魔力切れか?

 うーん、分からん。

 確かに疲労感はあるが……。


 試しにもう一度水を出そうとしたら、気絶してしまった。

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