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第九話 召喚魔法

「私たち、この村で住むことにしたわ!」


 そう言い放ったのは、真っ白なローブに身を包んだ白髪の少女……、フェイ・ランクウェート。

 彼女は腕を組み、胸を張って仁王立ちをしている。


「……随分といきなりだな、フェイ姉」

「そうだよ。相談してくれれば良かったのに」


 父さんと母さんは、ご立腹だ。


「ご、ごめんなさい……」


 先ほどの威勢はどこへやら。

 へなへなとへたり込むフェイさん。


「ごめんな、二人とも。相談できなかったのは、仕事が立て込んでいたせいなんだ」


 フェイさんの頭を撫でながら話しているのは、筋肉の鎧を身体にまとったドリス・カルバさん。

 ……なんかこの二人、いい雰囲気なんですけど。


「だが、公国の使者を通じて、二人には連絡が入っているはずだ」

「あ、ああ。

 確かに、この村に越してくる者がいると連絡を受け、受諾した記憶がある。

 ……その者の名は、聞かされていなかったが」

「私もユーク君から聞いたよ。まさかそれって、フェイたちのことだったの?」


 父さんが怪訝そうな顔をする。


「そうよ。最近セツナが、物音にとても敏感になっちゃってね。

 それをラクル王子に相談したら、この村を紹介されたの。

 静かだし、ラクルの都からもそんなに遠くないから、引っ越すことにしたってわけ」


 いつの間にか立ち直っていたフェイさんが言う。


「私は魔法で飛べるから仕事には影響しないし、問題ないかなって思って。

 セツナのため、ってのもあるけど、実は私もこういうところに憧れてたんだよね」

「……」

「でも、こんなことになってごめんね。

 王子の協力を得ていたから、情報を漏らすわけにはいかなかったのよ」

「……そうか、それなら仕方がないか。引っ越しはもう済んでいるんだよな?」

「そうね。昨日終わって、使者を向かわせたわ。報告は入っているでしょう?」

「ああ。確かに」


 父さんの顔がほころんだ。

 聞くところによると、既に引っ越しは完了しているらしい。


「そうだったんだ。……ドリスも一緒なの?」


 俺も気になっていたことを、母さんが聞いていた。

 母さん、ナイスだ。


「ああ……。ドリスは用心棒兼家政夫として雇ったの。

 セツナがね、ドリスにしか懐かなくて……。

 仕方がないから軍隊から引き抜いたわ。

 それに、これ以上の用心棒もいないしね」


 ぐ、軍隊から、引き抜く?

 一体何者なんだこの人。


 あ、勇者パーティの一人でしたね……。


「あー。確かに、ドリスは家事もこなせるからね」


 母さんが苦笑する。

 ドリスさんも笑っていた。


「セツナちゃんが良いなら、ということで引き受けたんだ。

 それに、俺がいるとあいつらは強くなれない」


 あいつらとは、軍隊を指しているのだろうか。

 だとしたら確かに、こんな屈強な戦士が在籍していれば、頼ってしまうだろうな。

 しかもそれが勇者パーティの一人となれば、なおさらだ。


「……セツナでいい。……何度も言ってる」

「ああ、ごめん。気を付けるよ、セツナ」


 今まで沈黙を貫いていたセツナが、口を開いた。


 懐いているってそういうことか。

 しかしこの場合は、気を許している、と言った方が正しいだろう。


 ドリスさんの返事を確認したセツナは、再び黙り込んでしまった。


「そういうわけで、今日は挨拶もかねて、二人に会いに来たってわけ。

 ……セツナと同年代のお子さんもいるし、仲良くしてくれたら助かるわ」


 もちろん俺はそのつもりだ。

 あれだけの観察眼を持ち、そして、魔法に興味を持ってくれた同年代の子だ。

 だが、セツナはどうなのだろうか。


「私たちの家はここから遠くないから、たまには遊びに来てね。エル君も、セツナをよろしくね?」


 おっと、これは親公認で遊べるということか?

 まあ、セツナが良ければの話だが……。

 肝心の本人は、無表情を貫いている。


「それじゃあ、そろそろ帰ろうかしら。……これからよろしくね、領主様」

「ああ。フェイ姉、ドリス、セツナちゃん、ようこそクラリス村へ」


 ……ん?

 領主様?

 えーと、確かこの村の名前はクラリス村で、父さんの名前がユークラリス……。

 で、父さんは勇者だから……。


 あ、そうか。

 この村、父さんの村だったんだ。

 勇者ってすげー。


「……エル。……またね」


 一人で感心していると、セツナに声をかけられた。

 またね……ということは、セツナは俺に、興味を持ってくれたらしい。


「うん。また遊ぼうね、セツナちゃん」

「……セツナでいい」


 ジト目で睨まれた。



 ◇◆◇



 セツナたちが帰った後、俺たちはダイニングで話をしていた。

 昼食は済ませてある。

 母さんお手製のサンドイッチだった。


「……まったく、まさか引っ越してくるとはな」

「そうだね。でも、エルに同い年の友達ができるんだよ?」


 それに関しては本当に嬉しい。

 なにせ、五歳にもなってまだ、あまりこの村のことを知らないのだ。恥ずかしいことに。

 せいぜいユーミさんとの魔法鍛錬で村の外れに行くか、剣術の鍛錬で庭に出るか、でしか外に出ない。


 しかし、同年代の友人が出来れば話は別だ。

 遊ぶことはもちろん、村の散策が出来るのだ。

 ……結局は、遊ぶことに変わりないけどな。

 だから、嬉しいのだ。


「エル、ごめんね? 頼んだのに、遊ぶ時間がなくなっちゃって……」

「いいんですよ、母さま。気にしないでください」


 母さんに謝られたが、大丈夫だ。

 一応、遊びっぽいことはしたからね。

 オリジナル魔法も喜んでもらえたし、個人的には満足しているのだ。


 それにしても、鏡の花リフレクションフラワーか。

 この名前、結構気に入っている。


 それにしても、これからやることがないな。


「外で少し遊んできます」


 時間もあるので、魔法の鍛錬を積むことにした。

 ユーミさんの授業がないのは残念だが、仕方がない。

 お客さんがこんなに早く帰るとは思わなかったしな。


「早く帰ってくるのよ?」

「はーい!」



 準備を済ませ、玄関に出る。

 できればユーミさんを連れていきたかったが、仕方がない。

 彼女は別の仕事で忙しいだろう。


「エル様、お出かけですか?」


 噂をすればなんとやら。

 ユーミさんだ。


「ちょっと遊びに」

「……魔法の鍛錬ですね。少々お待ちください、私も参ります」


 一瞬で言葉を濁していることがばれた。

 女の勘、恐るべし……。


 いや、ユーミさんが来るなら結果オーライか?


  ---


 場所は変わって、村の外れ。

 俺とユーミさんが鍛錬で使っているこの場所には、無数の傷がついた大きな岩がたたずんでいる。

 傷はすべて、俺とユーミさんが魔法で付けたものだ。

 結構長い間この場所を使っているせいか、地面は踏み固められ、岩はボロボロ。

 雑草すら生えない土地へと変貌してしまった。

 ……二年間ほぼ毎日使っていれば、こうなるのも当たり前だろう。


「先生、今日はどんなことをやるんですか?」


 いつものように、俺はユーミさんに問いかける。

 鍛錬中は、ユーミさんのことは先生と呼んでいる。

 この二年間、ずっとだ。


「そうですね。……召喚魔法を、やってみましょうか」


 召喚、魔法?

 確か、魔法教本に載っていた気がする。


 えーと、なんだっけ。

 思い出せ、思い出せ……。


『使った者の魔力量に応じた魔獣が出る。ただし容姿はランダム』


 これだ。


「どんな魔獣が出るんでしょうか。ワクワクします」

「……大変申し上げにくいのですが、成功する確率は、高くはありません。それに、チャンスは一度きりです」


 ……魔法の時と同じだ。

 成功するか、しないか、らしい。


 いや、自分を信じないでどうする。

 自信を持て、自信を。


 ……思えば、初めて魔法を使ったときもこんな感じだったな。

 懐かしい。


「それでも、やります」

「……承知しました。エル様、全身の魔力を放出して、魔法の詠唱をしてください」

「わ、分かりました」


 詠唱は、教本には載っていない。

 自分で考え、それを唱えるのだ。


 スー、ハー。スー、ハー。

 深呼吸をして、息を整える。


 ……そして、全身の魔力を放出しながら、言った。




「『闇夜に灯る淡い光にて、我が魔力を欲する者現れり』」



 ――刹那、とてつもない力で魔力を吸い取られる。



 ……だが、俺は魔力の放出を止めなかった。


 気絶することは分かっていた。

 それでも、止めるわけにはいかなかった。


 強烈な目眩で揺れる視界に、巨大な獣のシルエットが現れる。


「我の契約者は貴様か、人間」



 成功、したのか?

 召喚に……。




「フェンリル……?」




 先生(ユーミさん)の声を最後に、俺は力尽きた。

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