願い事
誕生祭の日は街ぐるみで盛り上がる。昼は出店がでて、一週間は華やかな雰囲気に包まれる。観光客も増える。
夜は聖者に扮した街の若者を先頭に街の子供たちが、松明で街を照らしながら教会まで練り歩き、3日間誕生を祝うらしい。
本格的に参加したことはないので正確ではないが、概ねこんな感じだろう。
ちょっとしたハロウィンのようだ
二人とも人混みは苦手だし、メインはどちらかというと夜なので、夕方待ち合わせることにした。
二人で松明を照らしながら賑やかに練り歩く一団を横目に、のんびりと教会まで歩く。
しかし、二人並んで歩くと流石に身長差がある。ぱっと見る分だと大人と子供に見えるだろう…
そう言えばサーシャは、おまじないのことを知っていた。誕生祭自体はそこそこ有名なので、知っていても不思議はないが、おまじないの言い伝えはなんで知っているのだろう…?
ふと思いだし、聞いてみることにした。
「昔、来たことあるのよ。このお祭り」
「へえ…?」
しかし、そう言えば孤児だといっていたような…?
「昔、孤児院のみんなとシスターとね」
幼い頃捨てられていた彼女を拾ったのは孤児院のシスターだったらしい。
孤児院自体は首都の外れにあったのだが、ふさぎこみがちな孤児たちも多く、なんとか楽しませたい、とシスターがこの誕生祭に皆を連れてきたようだ。
おまじないの言い伝えはその時シスターに聞いたらしい。サーシャは仲の良い友達2~3人と教会に忍び込んで願い事をしたらしい--
おまじないの言い伝え自体は良くあるもので、
誕生祭の聖者の生誕日の夜に、教会の後方部分の12体の聖人像、その後ろから3体目の聖人像をさわりながら願い事をすると叶う、というもの--
「その時の教会の祭壇脇の絵が(宗教画だと思う)とても綺麗で」
「ステンドグラス越しに入る月明かりのせいもあったのだろうけど…その時思ったの」
「綺麗な絵を描きたい、画家になりたいって」
「効き目、あるんだな」
「そうかもね…」
教会へと続く坂道を登りながらサーシャの顔を見る。
辺りはすっかり人気がなくなっていた。
「それで?今日は何をお願いするんだい?」
そもそも誕生祭に行く、という時点で考えていたのだろう。
何か願い事があるらしい。
教会の脇の小さなドアから中に入る。月明かりで厳かな雰囲気だ。そして、静寂が支配していた。
中には時間も遅いせいもあるだろう、自分たち二人だけだった
お目当ての聖人像へ近づく。よく見るとその一体だけ、少しぴかぴかしているように見える。
昔はたくさんの人達がお願い事をしたことが偲ばれる
彼女は目を閉じて像に触っている。
願い事か…
自分は、願い事など考えてなかったが、サーシャの真剣な横顔をみて、ふと、願うことにした。
(彼女が、サーシャが良い絵を描けますように--)