プチトマト
「と、まあ長くなったけど、そんなわけで明日からちょっと墓参りに行ってくる」
「あんたも結構大変な過去があったのね…」
グヤーシュを食べながらサーシャは言った。
「そのグヤーシュも色んな国をまわってたころに美味しかったから、母に作ってもらってたんだ。」
「…美味しい」
彼女は壁に掛かってあるヴァイオリンを見ながらつぶやいた。
「手入れだけはきちんとしてるよ。たまにリハビリがてら弾くし。でもとても人には聴かせられない」
「ちょっと聴いてみたかったかな…あんたのヴァイオリン…」
なんだかしんみりしてきたので
「まあまあ!野菜も食えよ!野菜も!」
といってプチトマトの野菜サラダをむける。
「わ、わたし、トマトはちょっと…」
「だめだ!サーシャは野菜不足みたいだからな」
野菜食べないと大きくならないぞ、と言うと
「な、なんですって!ふ、ふん、じゃあ少しだけ…」
そういってサーシャは一番青いプチトマトをひょいと口に放り込んだ。
「お、美味しくない…」
そりゃそうだろう。そんなに青いプチトマトは…
なんでよりによって 一番青いのに手を伸ばしたのだろう…
帰り際、サーシャが、
「そういえばあんたのお父さんの名前は?」
「ベルッティ、だけど」
「!ゆ、有名人じゃない!わたし、知ってるかも…」
「?そうか?やっぱり父さんすごいんだな」
「この辺で良いわよっ!ありがと」
ばいばい、と左手をぶんぶんと振る彼女を見て(…可愛い)から自分も家路に戻る
自分は昔はヴァイオリンが好きだった。
賞も二つ三つ取ったこともあった。
この先、ヴァイオリンを弾きながら、という生活を漠然と夢見たことも…あった
しかし、現実とはままならない。
仕方ないし、自分の人生だ。これでよい、とも思う
でも、だからこそ、好きな事に一生懸命生きている、頑張っている彼女のことを応援したくなるのだろう。
正直、恋愛感情がないわけでもなかったが、ほっておけない、応援したい、という気持ちは本物だと思った--