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器用貧乏とアフェク

 


「隠蔽効果のあるマジックアイテムを使ってたんだがなぁ」


 アフェクは隠蔽が破られたが、さして慌てる様子もなく物陰から出て来た。


「見極める為に、こっそりと見ているつもりだったんだが」

「……」


 確かにアフェクは積極的にハルトにイウザの情報をリークするなど、最初から怪しかった。しかし、ハルトの直感はアフェクから悪意は感じなかった。現に今も悪意は感じられない。ハルトはクラスメイトに裏切られた後から他人の悪意に敏感になったのだが、ハルトの嫌な奴センサーにアフェクは反応していない。


「ヴィレッタ」

「わかってるよ。行くよ、坊や!」


 赤髪の美女ことヴィレッタが、剣を抜いてハルトに切り掛かった。

 咄嗟にジャロの剣で受け止めたハルトは、ヴィレッタの剣を見て、目を細めた。


「バスタードソードか」

「ご名答だよ」


 ギリギリと鍔迫り合いするハルトとヴィレッタ。体格はヴィレッタの方が一回り程背が高い。女性としてはかなりの高身長だろう。


「嘘……」


 モームがその光景を見て、衝撃を受けた。

 それもそうだろう。レベル60のハルトと鍔迫り合いをしているのだから。

 ハルトのステータスはレベル相応に高い。一般的には強者の部類に入るジャロを圧倒したことからもそれが窺える。


 ハルトの能力値は、突出したものがないバランス型だ。いや、称号の効果もあってハルトよりもバランス型の者はいないだろう。ただ、能力値自体はレベルの平均能力値から大きく離れてはいない。

 ハルトの成長率は、クラスメイトと比べると低い。もし、同レベルなら能力値では分が悪い。これは称号が覚醒しても改善していない。スキルModで能力値を上昇させてトントンといったところだ。だが、それにも限界はある。


 つまり、ハルトは自分と近いレベルの者と戦うと苦戦するかもしれないのだ。クラスメイトたちはウエイスト基準では英雄クラスの成長率だ。そして、ハルトに近いレベル。レベル50だの60だのの者たちは、皆英雄クラスでないと、そうそうそのレベルには到達出来ない。

 以上の事からヴィレッタのレベルは60前後。いくらハルトがまだ本気を出していないとはいえ、簡単に勝てる相手では無い。


「アタシと鍔迫り合いが出来るなんて、やるじゃないかさ!」

「ちっ、何なんだお前は!」


 埒が明かないと見て、二人が同時に距離を取る。

 睨み付けるハルトに、ヴィレッタは妖艶に微笑みかけた。


「アタシはヴィレッタ・アーダー。S級冒険者さ」


 ハルトの顔が引き攣った。

 S級冒険者。ファンタジーではお馴染みの常識外の力を持つバランスブレイカー。ハルトの見立てでは、成長したクラスメイトたちと張り合える掛け値なしの英雄だ。


「そんな大層なお方が、俺なんかになんのご用です、か!」


 今度はハルトから斬り掛かり、数合切り結ぶが、決着は着かない。


「アンタに興味があるのさ」


 訝しむハルトを他所に、事態は進む。


「アタシばかりに気を取られてていいのかい?」


 新たな人影が塀を飛び越えて、モームの元に向かう。モームは気づくのが遅れて、体勢が整っていない。


「きゃあ!」


 白刃がモームに迫る。

 だが、ハルトは気にも留めない。


「いいんだよ。だって、あいつがいる」


 キィン!


 モームに迫った白刃は、横から割って入ったクリスが弾いた。


「くっ」


 不意打ちを防がれた新たな刺客は、大きく後ろに跳躍して距離を取った。臀部に尻尾があることから、何らかの獣人であることがわかる。


「へえ、アンタの奴隷もやるさね」

「そりゃどうも」

「じゃあ、これならどうするのさ!」


 不敵に笑ったヴィレッタの姿がぶれる。今までは力を抑えていたのだ。ヴィレッタは一直線にモームに向かう。


「ちっ」


 すぐさま狙いに気づいたハルトの姿もぶれる。力を抑えていたのは、ハルトも同じだ。だが、先に動き出した分ヴィレッタの方が速い。ハルトは顔を顰めると、スキルを使った。

 AS『縮地』

 間一髪、モームの前に移動したハルト。ただ、既にヴィレッタは剣を振り被っている。『縮地』の反動で一瞬硬直したハルトは、その一撃を避けられない。かといって、ジャロの剣では明らかにレアっぽいヴィレッタの剣の本気の一撃を受け止めきれるとは思えない。


(仕方ない)


 ハルトは、左腕で剣を受け止めた。同時に『金剛』を発動する。

 ガガッ!

 凄まじい衝撃がハルトを襲い、左腕に剣が食い込んだ。ジャロがスキルまで使って、傷一つ負わせられなかったのに、ただの斬撃一つでハルトに傷を負わせたのは流石だろう。だが、なぜスキルを使わなかったのか。


「ハ、ハルトさん!」


 モームが自分を庇って怪我をしたハルトを見て、悲痛そうな声を上げる。


「大丈夫だ。大したことない」


 涙目のモームに優しく語りかけたハルトは、追撃して来ないヴィレッタを嘆息しながら睨み付ける。


「気は済んだか?」

「ああ。合格さ」


 ヴィレッタは意味深な笑みを浮かべると、踵を返してアフェクの隣に移動した。

 クリスと睨み合っていた獣人も同様だ。


「合格ねえ」


 ハルトの目が細まった。


「アタシたちは」

「人間如きが調子に乗るなよ」


 ヴィレッタの言葉を遮ったハルトの右目が一瞬赤く染まると、左腕の傷が治った。


「ん? 傷が……」


 ヴィレッタは気づいたようだが、もう遅い。


「どっちが上だか教えてやるよ!」


 ハルトが、左腕を突き出す。


「まずい! アフェク下がりなァ!」


 培った長年の経験からか、危険を感じたヴィレッタは眦を吊り上げて飛び出した。

 それと同時に、虚空に複数の魔法陣が展開される。


(無詠唱!?)


 瞠目するヴィレッタを他所に、魔法が発動した。ヴィレッタは勘違いしているが、無詠唱の魔法では無く、刻印魔法である。

 複数の火魔法〝炎球〟が、ヴィレッタたちを襲う。


「舐められたものじゃないかさァ!」


 〝炎球〟とヴィレッタがぶつかり、辺りに炎と衝撃が撒き散らされる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 爆炎が晴れると、そこには傷つきながらも立っているヴィレッタがいた。


(ASで相殺したのか)


 それには、ハルトも素直に驚いた。

 ヴィレッタは咄嗟に剣撃で、〝炎球〟の威力を軽減したらしい。だが、その上でこの威力かとヴィレッタは戦慄した。


(冗談じゃないねえ。アタシと互角の近接戦闘能力を持ちつつ、魔術師と遜色無い魔法攻撃力を持つなんて)


 ヴィレッタがこの程度のダメージで済んだのは、彼女が高い火耐性を持っているからだ。もし、ハルトが他の属性の魔法を使っていたら、ただでは済まなかっただろう。

 これこそが、ハルトの真骨頂だ。あらゆるスキルを使いこなす汎用性と、無数のスキルを用いたコンボこそがハルトの強みである。


「これは、アタシも本気を出すしかないさね」

「奇遇だな。俺も丁度そう思っていたところだ」

「いや、それは困る」


 二人が本気で戦いを始めようとしたところで、アフェクが水を差した。それはもう文字通りの意味で。

 ザバァーと上空から大量の水が降り注ぎ、二人をずぶ濡れにした。


「「……」」


 二人は、無言で立ち尽くす。

 辺りはシーンと静まり返った。


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