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器用貧乏のお礼参り4

前話に仮面が外れるシーンを追加

 


「な、なんだと……?」

「自分たちは俺を殺す算段を立てていたのに、その逆は無いとでも思っていたのか?」


 イウザの顔がサァーと青ざめた。


「ジャ、ジャロ! なんとかしろ! こいつの本領は体術なんだろう!? なら武器を使えるお前が有利だろうが!」


 イウザが怒鳴り散らすが、ジャロは動かない。いや、正確には動けない。勝てるイメージが微塵も湧かないのだ。仕方ないだろう。


「あのぅー」


 今度こそはとモームが口を挟む。


「な、なんだ?」


 ハルトにはびびっているのに、モームには居丈高に答えるイウザ。小さい奴だ。


「どうして、ハルトさんが体術使いだと思っているんですか?」

「?」


 意味が分からずにイウザは、咄嗟に返事が出来ない。


「は、ははは。あれだけの体術の腕だ。体術使いに決まっているだろう」


 一瞬、間が空いて答えたイウザ。その脳裏にはとある仮説が浮かび上がっていた。あまりにも突拍子のない仮説に内心否定しながらも、なぜか完全には否定し切れずに声がひきつった。


(まさか、まさか、まさか!?)


 仮説を肯定するような状況証拠に、イウザの顔色は際限なく悪くなっていく。


「それほどの体術の腕を持ちながら、体術使いではないと言うのか!?」


 イウザの否定して欲しいと願いの籠った叫び声を聞いて、ハルトの顔が邪悪に歪む。


「いつから、俺が体術使いだと錯覚していた?」


 心底楽しそうに答えたハルトを見て、イウザの心は折れた。


「そ、そんな馬鹿な……」

「ふ、ふざけんなァ!」


 うな垂れるイウザを他所に、ジャロは血走った眼でハルトに跳びかかった。


「大人しくしてろ」


 しかし、ハルトが鬱陶しそうに剣を振るうと、ジャロは両手両足から血を吹き出しながら床に崩れ落ちた。


「が、があぁぁっ」


 ジャロは痛みにもがくが、ハルトは見向きもしない。なぜなら、ジャロはハルトの欲しい情報を持っていないから。


「ああなりたくなかったら、素直に答えた方がいいぞ」


 ハルトは冷え切った瞳でイウザを見下ろすと、見せつけるように剣を振って血糊を振るい落とした。


「あ…、う、あ…」


 イウザには、もう抵抗する力は残っていなかった。



 抵抗を諦めたイウザは、ハルトの質問に粛々と答えた。

 イウザの話から推察することで、やっと真実が見えてくる。

 ハルトたちが召喚されたのは戦争に勝つため。魔王討伐など真っ赤な嘘だった。

 しかし、イウザ自身は無能な為か大した情報は持ってはいなかった。だが、大まかな背景はわかった。


「さて……」


 ハルトは脳細胞をフル回転させて、今後の目標を考える。効率や手間や難易度などは全て無視して、ハルトのやりたいことを。


「ふざけんなよ、この劣等種がぁ……」


 ハルトの思考に割って入ったのは、ジャロの怨嗟の声。


「俺たちはぁ……、俺はぁ、帝国市民だぞ!……」

「それが?」

「俺は優れているんだ……。そこの耳長や牛よりも優れているんだぁ」


 今にも失血多量で死にそうな様相でうわ言を繰り返すジャロを見つめながら、ハルトは嘆息する。


(これが帝国の自国至上主義の差別意識か)


「よし、決めた」


 思考を断ち切ったハルトは、ジャロに止めを差した。


「ぐ、ああぁぁーー……」


 ジャロは、壮絶な断末魔を上げて息絶えた。


「お前は、王国の刺客なのか?」


 憔悴したイウザが、ハルトに問い掛けた。


「違うさ。俺に手を出さなきゃ、お前がここで死ぬことも無かった」

「くそ……」


 イウザは、とんでもない疫病神に手を出してしまったことを悔いるが、もう遅い。


「いや、それも違うか」

「?」

「お前たちが俺たちを、俺を召喚しなければだな」

「ま、まさか! お前は異世界人!?」


 イウザがハルトの正体に気がつくが、もう全てが手遅れだ。


「お前の死が帝国と王国の死の序章だ」

「や、やめろぉぉぉーー」



 ハルトたち以外動く者がいなくなった屋敷で


「これから俺は、帝国と王国を潰す。ついてこれない奴は、奴隷から解放してやるがどうする?」


 ハルトは、静かにクリスとモームに決断を迫った。

 今までハルトのあまりの迫力に呑まれていた二人だったが、即断だった。


「当然、一緒に行く。寧ろ置いていかれてもついて行く」

「一緒に行きます。寧ろ置いて行かないでくださーい」


 クリスは胸を張って、モームは半ベソだったが、力強い瞳をしていて決意は固そうだ。


「じゃあ、遠慮しないぞ」


 そっけない返事をしつつもどこか嬉しそうなハルトを見て、クリスとモームも微笑んだ。



 その後、ハルトたちは屋敷中から金目の物を掻き集めた。


「しかし、いったいいくらになるんだか」

「え、いったいいくらあるんですか? 何百万? 何千万? いったい私が何ダース買えるの? あは、あははは……」


 ハルトはあまりの金銀財宝の量に呆れているが、初めてこれほどのお金を見たモームは思考が別世界に旅立ってしまった。

 未来の猫型ロボット程ではないが、十分異次元レベルでストレージに収納できるハルトには問題無い。余裕で持ち逃げ出来る。

 今回の戦利品で大きな物は金銀財宝の他にもう一つ。奴隷魔法の秘伝書だ。これは普通では手に入らない為貴重だろう。


「さてと。後は屋敷を燃やして証拠隠滅だ。モームは帰って来たか?」


 屋敷に火をかけようと玄関から出て火種を用意していたハルトは、気配を感じて振り返った。


「誰だ!?」


 大金に目を回していたモームを苦笑いしながら眺めていたハルトは、突如真後ろに気配を感じて振り返った。

 ハルトの視線の先に居たのは、赤い長髪に褐色の肌を持つグラマラスな美女だった。


「おや、私のハイディングに気がつくなんて中々の索敵スキルだねえ」

「誰だ、お前は?」

「わざわざ言うと思うかい?」


 ハルトは内心舌打ちした。ハルトは今変装していない。先程ブチ切れた時に外れた仮面は再装着していないのだ。


「いや、言い直そう。誰だ、お前たちは?」


 ハルトは素早く、一見誰もいないように見える建物の物陰にナイフを投擲した。

 すると、何かが剥がれるように空間が歪み、金髪の紳士が姿を現した。


「お前はアフェク!」


 姿を現したのは酒場で会ったアフェクだった。



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