器用貧乏のお礼参り3
週末なにしてましたか? 忙しかったですか? 私は忙しかったです。誰か救ってくれると嬉しいです……。
一週間遅れてしまいました。申し訳ありません。ゴールデンウィークが思っていたほどゴールデンではなかったんです。
更新速度が上がるのは私の社畜化が進むまでお待ちください(笑)
五階はフロア丸々イウザが使用している。そのため、イウザの私室以外に人の気配は無い。
もう人がいないので堂々と廊下を歩いたハルトたちは、イウザの私室の前に立つと扉に耳を押し当てて聞き耳を立て始めた。
「あ、あの、どうしてこんな盗み聞きなんてしてるんですか? すぐに入ればいいじゃないですか」
モームの中に聞こえないように声を抑えた問いにハルトは、チッチッチッと指を振りながら答えた。まあ、実際は音を立てないようにパントマイムでやったので間抜けな絵面なのだが。
「タイミングを計らないと絶好のタイミングで登場出来ないだろう?」
「はぁ。そうですか」
ちなみに五感の鋭い獣人のモームは、扉に耳を着けなくても中の音を拾える。こそこそと扉に耳を着けるハルトは、何というか小物臭に溢れていた。
「どれどれ」
ウキウキしながらハルトは耳を澄ました。
「最近お父上様が忙しいようで」
「ああ、何やらエスタ・エンパイアの奴らと揉めているようだ。お陰でこちらは自由に出来るがな」
(お、聞こえる、聞こえる)
多少声がくぐもっているが問題無く聞き取れる。
「どうやら近いうちに戦争になるようでな。軍備拡張を推し進めるそうだ」
何やらきな臭くなってきたなと、当初の目的を忘れて聞き入るハルト。
(エスタ・エンパイアとスレイブ帝国が仲悪いのは聞いていたが、戦争になるほど悪いのか)
父親がかなり高い地位にいるイウザは、ハルトに盗み聞きされているとは露とも知らずに重要な情報をペラペラと喋りまくる。
「どれほどの規模で戦争するのでしょうか? 小競り合いは頻繁に起きていますが」
「お互い相手を完全に潰すつもりの全面戦争だそうだ」
「な、なんと! しかし、エスタ・エンパイアは兵力では我々には劣っているはずです。なぜ全面戦争など……」
ここまで話を聞いたハルトは、非常に嫌な予感がした。今まで小競り合い程度だったのに、このタイミングでの全面戦争。兵力で劣るエスタ・エンパイアに起きた最近の大きな出来事など一つしかない。
「エスタ・エンパイアの奴ら、どうやら異世界から勇者を召喚したらしい」
そう、ハルトたちだ。
「異世界から召喚された者たちは強力な戦力になる。奴らは強力な駒を手に入れたから勝負に出る気になったのだ」
「しかし、都合良く異世界人たちが戦争に協力してくれますか?」
「何も知らぬ異世界人なんぞ言い包めるのは簡単だ。今頃は良いように誘導されているだろうよ。ハハハ!」
ハルトの顔から表情が抜け落ちた。瞬間、モームは寒気がして後ずさりした。いや、隣にいたクリスまでもが表情を青くして後ずさった。
(……なんだと……)
空間が軋む。ハルトから発せられるプレッシャーに空間が軋んだ。クリスとモームはまるで物理的な力があるかのような壮絶なプレッシャーに押し潰せれそうになる。あまりのプレッシャーに変装用の仮面が吹き飛び、ハルトの姿が元に戻った。
(……俺はそんなことの為に召喚されたのか……)
人殺しをさせる為に召喚したエスタ・エンパイアが憎いか? 否
魔王を倒す為に召喚したと騙したエスタ・エンパイアが憎いか? 否
召喚される原因となった戦争の相手のスレイブ帝国が憎いか? 否
(……ふざけるな……)
この世界が、理不尽で満ち溢れたウエイストが憎い! なにが夢見たファンタジー世界だ! やっていることは地球と変わらない。いや、魔法なんてものがある分なおのこと性質が悪い!
(……なんで俺がそんなくだらないことで死ななきゃいけないんだ……)
ハルトは再確認した。この世界が憎い。
クリスと出会い、一緒に過ごす内に忘れていた身を焦がすような憎悪を思い出した。
強くなって、この世界をまわって、気に入らないことを力ずくでなんとかする。ハルトが一度死んだ後に決意したことだ。
(はっ、バカか俺は。気に入らないものなんて、初めからわかってたじゃないか)
ハルトの顔が憤怒に歪む。
「俺は、この世界が気に入らない!」
叫ぶと同時に、ハルトは拳を握り締めて扉に叩き付けた。
扉が粉砕、いや、爆砕する。
冷静に考えれば、大人しくイウザの話に聞き耳立てている方が利口だ。まだまだ重要な情報が聞き出せるかもしれないからだ。しかし、ハルトからはそんな論理的な思考は吹き飛んでいた。
「「っ!?」」
だが、ある意味では当初の予定通りに絶好のタイミングで登場出来たと言えるだろう。イウザとジャロは度肝を抜かれたのだから。
「お、お前は!」
粉塵が晴れてハルトの姿が見えるようになると、イウザとジャロは再び度肝を抜かれた。なんたって近いうちに襲撃しようと思っていた相手から逆に襲撃されたのだからそりゃ驚くだろう。
ちなみにクリスとモームも度肝を抜かれた。数秒前まで隠密行動していたのに、いきなり派手に扉をブチ破れば驚かないわけがない。
「その話、詳しく聞かせて貰おうか」
ハルトが温度の感じない瞳でイウザに告げる。
「なぜ、お前がここにいる!?」
だが、気が動転したイウザは、ハルトの視線の冷たさに気づかない。
「ええい、見張り共は何をしていた!? 侵入者だ! 出合え、出合え!」
イウザが、いくら呼び掛けても一向に誰も現れない。当然だ。他の人間は全てハルトたちが殺し尽くしたのだから。
「どうして、誰も来ない!? 何のために雇っていると思っているんだ!」
イウザは喚き散らすが、それで事態が好転する訳がない。
騒ぐイウザを庇うようにジャロが前に出た。
「どうやってここまで来たのか、なぜ誰も部下が来ないのかは知らないが、上手く睡眠薬か何かを盛って眠らせて来たのだろう」
ジャロが常識的に考えて、的外れなことを言っている。全員殺してきたなどとは夢にも思っていないようだ。
「御託はいい。さっさと掛かってこい」
「き、貴様ぁ」
ハルトが興味無さげに無表情で挑発すると、ジャロは瞬間湯沸かし器のように頭が沸騰した。
「イウザ様、部屋が荒れてしまいますが、よろしいですか?」
「この際仕方あるまい。まったく、護衛の奴らは減給だ!」
腰に提げていた大振りの片手剣を抜いたジャロが、数歩前に出る。
「理を超えし力よ、我が内なる魔力を糧に両腕に力を 〝豪刻〟」
「理を超えし力よ、我が内なる魔力を糧に両足に力を 〝尢閃〟」
「理を超えし力よ、我が内なる魔力を糧に肉体を堅牢なる冑と成せ 〝天冑〟」
ジャロは、定石通りに生体魔法で身体能力を強化した。生体魔法が使えるならば、必ず戦闘前に使うのが一定以上の実力を持つ者の間では常識なのだが、意外と実践している者は多くない。この事が、ジャロが一定以上の実力の持ち主だと証明している。
「今度は油断しないぜ。お前が体術スキルの達人だということはわかっている。こっちも得意の得物でいかせてもらう」
ジャロの言葉にモームは不思議そうな顔をしているが、誰も気にしなかった。
(なぜ、あいつは生体魔法を使わない? 体術スキルの使い手が使えない訳がない。なら、俺を舐めているのか。好都合だ)
刹那の間に考えを巡らせたジャロは、構えすら取らないハルトを睨みつけた。
「おらぁ!」
ジャロが鋭い踏み込みと共に剣を振り下ろす。ハルトはそれを無造作に右手の掌で掴み取った。ハルトの手は無傷だ。薄皮一枚切れていない。
「はっ?」
常識はずれな光景にフリーズするジャロ。
「ふんっ」
その隙にハルトが軽~く前蹴りをした。
「んべぅっ!?」
吹き飛んだジャロはもんどりうって倒れ込んだ。
ハルトはジャロなど気にも留めずに、吹き飛んだ時にジャロが手を放した為ハルトの手の中に残った片手剣を眺めている。
「まあまあかな」
性能的には中の上といったところか。店売りの中では。
「くそ、ふざけやがって!」
ジャロはなんとか立ち上がって、予備の剣をストレージから取り出した。
「なんなんだ今のは!?」
だが、思考は混乱の極地にあり、まともな判断は下されない。
「『金剛』を使ったのか? いや、それだけじゃ……。体術スキルの防御系のスキルを使ったのか。同時に使用して効果を高めたのか!」
なにやらジャロが勝手に納得しているが、ハルトが使ったのは『金剛』のみである。なぜ、ジャロがそんな勘違いをしたのか。それはハルトとジャロのレベル差が隔絶しているからだ。ジャロのレベルは29。一般人にしては高い方だ。対してハルトのレベルは60。レベル差があり過ぎる。
そもそも、レベルは10レベル毎に能力値が跳ね上がる。9と10の間には数字以上に差が生まれるのだ。
それなのにハルトとジャロの間には31レベルもの差があるのだ。そりゃジャロの常識の埒外の事も起きる。ちなみにハルトは別に『金剛』を使わなくてもちょっと手を切る程度で済んだものと思われる。
「だが、今はクーリングタイムで同じスキルは使えまい。いくらお前が防御力特化だとしてもスキル無しでは無傷では済まないだろう!」
「あれ?」
またもや、モームが不思議そうな顔をしているが、やはり誰も気にしない。
「おおおお!」
再びジャロが剣を振り下ろす。しかし、今度は剣が青白く光っている。
片手剣AS『デュアルスラッシュ』
縦、横の高速の二連撃がハルトに迫る。
(それだけじゃねえ!)
ジャロの顔が獰猛に歪んだ。
ジャロはASと同時に『剛力』を発動させている為、剣撃の威力は大幅に上がっている。
だが、しかし。
カキン、カキン。
そんな軽い音と共にジャロの剣撃は呆気なく防がれた。
「なっ!?」
唖然とするジャロ。
「ば、馬鹿な……。貴様は体術使いのはず、なぜ片手剣でそうまで簡単に防げる……」
あまりの衝撃にヨロヨロと後ずさっていく。
「お、おいジャロ! いくら体術使いだとはいえ、武器を持ったお前が一方的にやられてどうする!」
「あ、あのー」
ジャロが歯が立たなくて焦り出すイウザ。そこにモームが遠慮がちに言葉を挟んだ。
「だ、誰だお前は!?」
「ええ!?」
やっとモームの存在にイウザは気がついたが、モームだとは気づいていないようだ。
「モームです!」
モームが胸張って答えるが、イウザは怪訝そうな顔をしている。
「モームだと? 嘘をつくな! あいつはもっとガリガリでブスな筈だ!」
「えー……」
目の前で吐かれた暴言にモームは茫然した。いやいや、本人目の前にいるんですけどと。
だが、イウザが気づかないのも仕方がないかもしれない。今のモームは少し前の薄汚れたガリガリの体とは違い、ばいんばいんのたゆんたゆんの我が儘ボディーに進化しているのだ。最早別人レベルである。
「一応言っとくと本当だぞ」
あまりにもモームが可哀想だったので、ハルトが然り気無くフォローした。
「ぬぅあんだとぅ!? こんなにエロい体になるとわかっていたら手放さなかったものを!」
相変わらずクズい発言である。まあ、そもそもイウザのところにいたままではモームは美人にジョブチェンジ出来なかっただろうがな。
「ええい、中古でも構わん! 私に売ってくれ!」
「中古じゃありません!」
イウザの最低の一言にモームが反論する。乙女としては譲れないのだろう。
だが、ハルトは瞳を一層冷たくしただけだった。
「お前、この状況がわからないのか?」
イウザはハッとしたように辺りを見渡し、自分が襲撃されているのを思い出した。この状況で忘れられるとかどんだけ下半身に忠実なんだよ。
「ふ、ふふ。わ、私の負けだな。いくら欲しい?」
引き攣った笑い声を上げたイウザはお金で済まそうとした。しかし、それは無意味だ。
「寝惚けてんのか? 俺はお前を殺しに来たんだよ」
冷え切ったハルトの瞳を見たイウザは、凍り付いたように固まった。




