器用貧乏の装備品
午後、ハルト達は装備品を受けとるために宝物庫を訪れていた。
兵士達が慌ただしく動いているわ、国の重鎮らしき人達がいるわで、宝物庫を開けることがどれほど重大かがよくわかる。
ハルト達は期待と不安を胸に抱きつつ、宝物庫が開くのを今か今かと待ち焦がれた。
「日向くん。宝物庫の中ってどうなってるんだろうね?」
「うーん。ありきたりに金銀財宝が山のようにあるとかかな?」
「いやいや、意外と武器庫みないな感じで聖剣とかあるじゃないか?」
ハルトとレイラと大河は暇なので仲良くおしゃべりに興じていた。周りの男子からは嫉妬の視線の集中砲火を浴びたが、ハルトは気にしないことにした。
「日向くんと蒼井くんは武器を何にするか決めたのかしら?」
凜が唯と守を連れて、ハルトの所に来た。お陰で視線の弾幕が厚くなった。左舷、弾幕薄いぞ!!
ハルトは気にしてない。ないったらない。
「いや、決めてない」
「俺は戦棍かな」
「あれ? 日向くんは決めてないんですか?」
「うん。俺は称号のお陰でどの武器でもいいから迷っちゃって。みんなは何にするの?」
「私は刀よ」
「私は杖だよ」
「私は槍です」
「俺は片手剣だ」
「みんな決まってていいなー。俺はどうしようかな」
「いろいろ試してみてからでいいんじゃないかしら」
「そうだな」
話している間に宝物庫を開ける準備が整ったようだ。
アレクが生徒達に声をかける。
「待たせたな!! これより、宝物庫を開ける!!」
宝物庫の様子は一言で表すなら、明暗が別れていた。
明はきらびやかな宝石や綺麗なだけではなく、確かな力を感じる装備品。
暗は一見地味だが、歴史的価値のある物や暗く淀んだ雰囲気を醸しつつも、力強さが窺える装備品。
その迫力に生徒達は、息を呑んでいた。
誰かが呑み込んだ生唾の音が、やけに大きく聞こえた。
「それでは、入るぞ」
アレクの声で、みんなハッとして慌ててアレクに続いた。目線があちこちに向かうのは仕方ないだろう。
「早速だが装備品を配る。まずは守。お前には王国二大聖剣の片割れ、クラウ・ソラスを授ける」
「はい!!」
「クラウ・ソラスは光属性の聖剣で、お前とは相性抜群だ。頑張ってくれ」
「任せて下さい!!」
守は宝物庫の中で、一番神々しい剣を渡されていた。防具には光属性の鎧を渡されていたので、見た目は完璧に光の勇者様だ。普段から無駄にキラキラしているので、もはや目に悪いレベルである。女子にとっては違うらしいが。
「次は拓真。お前には王国二大聖剣の片割れ、レーヴァテインを授ける」
「おう!!」
「レーヴァテインは火属性の聖剣だ、お前の能力を活かせるだろう」
「任せろ!!」
レーヴァテインはクラウ・ソラスと対をなすように置かれていた。刀身に描かれた炎の模様が、まるで燃え上がっているように錯覚させる。
「他の生徒達は自由に宝物庫の中を探してくれてかまわない。こちらからもある程度はアドバイスをするが、自分の命を預ける武器だからな、お前達の意見もなるべく取り入れたいからな」
生徒達は各々の武器を探しに散らばっていった。多くの生徒がきらびやかな装備品に目を向けるなか、ハルトは実用最低限の装飾されていない地味な装備品に目を向けていた。
(こういう一見地味な装備品の中には、たまに高性能なやつがあったりするんだよな。さて、どれかな?)
ちなみにハルト達は、まだ鑑定スキルの熟練度が低いので特別なメガネを貸し出されていた。鑑定能力のあるメガネなので装備品の性能もばっちり解る。
(まずは魔法を補正するような効果をもつやつはと、…………おっ! あったあった、天言の腕輪? なになに、魔法の発動速度上昇と威力の上昇か、ビンゴだな)
ハルトは、ホクホク顔で装備品を漁り続けた。
「よし、全員装備品を揃えたな? 宝物庫は開けるのに面倒な手続きがあるから、次はいつ開けられるかわからないからな、今のうちだぞ、大丈夫か?」
「「「大丈夫です」」」
「では、これより訓練場にて軽く装備品を試すぞ」
訓練場はとても広い、ハルト達がいるのは第一訓練場なので訓練場の中で一番広いのだが、その広さは東京ドーム五つ分と破格である。本来は大規模演習で使うのだが、滅多にないので勇者の訓練に使用されることになったのだ。
ハルト達は、騎士達に指導されながら生まれて初めて純粋に相手を殺すための道具を振るい始めた。
一時間が経ち休憩になったが、ハルトは自分の体の変化に驚いていた。
思っていた程、疲れていないのだ。部活をやっていないので体力が人並みしかないハルトが一時間も武器を振れば、ヘロヘロになって動けなくなるはずだ。しかし、疲れているし、息もあがっているが、まだ動けるのだ。
異世界の神秘だか、ご都合主義だかに感謝しつつ、右手にある相棒に目を向ける。
黒い、やや大振りの剣。武器の種類はバスタードソードと言って、片手でも両手でも振れる汎用性の高い剣だ。ただし、クセが強い。
ハルトは、この剣を相棒にした時のことを思い出した。
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「ハルト、お前はメインに使う武器は決まったのか?」
ハルトが、天言の腕輪を使用する旨を騎士達に伝えに行った時、アレクに声を掛けられた。
「いえ、まだ決まっていません」
「どういうスタイルで戦うかは決まっているか?」
「はい、近接戦をしつつ、魔法で援護する形にしようかと」
「なるほど、そのための天言の腕輪か。そして、近接戦の得物は決まっていないと。ふむ」
アレクは少し考える仕草をした後、ある提案をハルトにした。
「決まっていないなら、ひとつ薦めたい武器がある」
そう言って持って来たのは、漆黒の剣。片手剣にしては大きく、両手剣にしては小さい中途半端な大きさの剣だ。
「この剣の種類はバスタードソードと言ってな。片手でも両手でも振れる剣だ。そのお陰で状況を選ばんが、クセが強く扱いづらい」
ハルトは首を捻る。なぜ、素人の自分にそんな玄人向けの武器を薦めるのかと。
「バスタードソードは片手剣と両手剣のASを両方共発動できる。たが、扱いきれなければ並み以下の剣になる」
アレクが挑戦的な笑みを浮かべる。
「お前と似ていると思わないか? 器用貧乏は役立たずと、バスタードソードは出来損ないとも言われている。でも、俺はそうは思わない。もし、お前がこの剣を自在に操れるようになれば、馬鹿にしてきた奴等に一泡吹かせることができるかもしれない。さあ、どうする?」
ハルトはきっちり十秒間悩んで、大きく息を吐いた。
そして、挑戦的な笑みを返した。即ち、やってやんよと。
「やります、やってみせます!!」
「よし、なら持って行け。この剣の名はノワール・ディバイダーだ。頑張れよ」
「はい!!」
その後、ハルトはサブの武器に短剣を選び、防具は騎士団の物を使うことになった。宝物庫にあったレアな防具は数が少なく、ステータスが上位の者に優先的に与えられたからだ。騎士団の防具と言っても、王国トップクラスの鍛冶師が作った物なので防御力は高いのだが。
ちなみにノワール・ディバイダーも結構レアだったりするのだが、バスタードソードは人気が無かったので問題無かった。
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回想から意識を戻したハルトは、ため息を吐いた。
相棒を見ながら、これからの日々を想像して拳を強く握った。