器用貧乏のお礼参り1
アンケートにお答えて頂いた方々、ありがとうございました。参考になりました。
なるべく多く出したいと思うので気長にお待ちください。
アンケートの方は4月9日までとさせていただきます。
思う存分話し合ったハルトたちは宿に戻ってきた。
「あの、本当に私が貰っていいんですか?」
今までよりも砕けた感じで、モームがハルトに話し掛ける。
ハルトが秘密を全て打ち明けても、モームの気持ちは変わらなかった。それどころかハルトのために泣いてくれた。自分のことを思って泣いてくれるモームに、ハルトはつい頬を弛めてしまうのだった。
「ああ。ゴブリンの塔はモームが一人で攻略したんだ。当然報酬はモームのものだ」
モームとハルトが言っているのはダンジョン攻略の報酬だ。ボスのドロップアイテムはもとより、ボス部屋の宝箱に入っていた物も全てモームのものだとハルトは言っているのだ。
ドロップアイテムは素材にクリスタルが少々。宝箱にはそこそこの性能の装備品が幾つかとお金が入っていた。お金は百万Gほど。
普通、奴隷が稼いだものは全て主の懐に入る。これはこの世界の常識だ。これがヒューマンの奴隷であれば、主によってはいくらか奴隷の懐にも入って、いつか自分を買い戻せる。なんてこともあるが、亜人や獣人にはそんな幸運は無い。
だが、ハルトはそんなセコイ奴らとは違う。ダンジョン攻略の報酬以外にも、モームが今まで倒した魔物のドロップアイテムや発見した宝箱の中身は全てモームのものとしている。ただ単に端金と思っているのかもしれないが。
「でも、私一人だけの力で倒したわけじゃ。ハルトさんに回復魔法を掛けてもらいましたし」
話し合った結果、モームのハルトの呼び方はハルトさんになった。ハルトとしては呼び捨てでも構わなかったのだが、モームがさん付けがいいと言ったのでそのようになった。
「頑張ったご褒美だとでも思っとけ」
ハルトはモームを奴隷から解放しようと思っていたのだが、色々と面倒事が集まるトラブルホイホイになるということで、クリス同様モームも身分的にはハルトの奴隷のままだ。トラブルはえっちぃのだけで十分である。
「そんなことよりも、今晩のことの方が大事だ」
今晩、イウザの屋敷を襲撃するのだ。最初はイウザにどんな復讐をしてやろうかと悩んでいたハルトだったが、偵察を重ねる内にぶっ殺すにした。
どうやらイウザは単なる七光りのバカではなく、裏で悪事を犯しまくっている黒光りの悪党であるらしい。かなりの人間が迷惑を被っているようで、殺すと俺たちが怪しまれるかなと思い自粛していたハルトはイウザを殺したい人間がたくさんいるとわかると、喜々として抹殺の計画を立て始めたのだ。
「ハルトさん、そのことなんですけど私も連れていって下さい」
モームのお願いにハルトは表情を苦くする。今さら自分の手が汚れるのは何とも思わないハルトだったが、まだ綺麗なままのモームを汚すのは躊躇いを覚えた。ハルトは身内には甘いのだ。
「人を殺すんだぞ」
「わかってます」
人を殺すと強調しても、モームは一歩も引かない。
「ハルトさんについて行くと決めたのに、自分だけ手を汚さないでハルトさんに押し付けようなんて思いません」
「これは俺の我が儘、私怨だぞ?」
「違いますよ。彼らが生きる価値の無い外道だということは、奴隷だった私はよくわかっています。あんな奴らは魔物や盗賊と変わりませんよ」
モームの決然とした瞳がハルトを見つめる。ハルトはこの瞳に弱い。
「……わかった」
ハルトは、ため息を吐きながらモームの同行を認めた。
「当然、私も行く」
提案ではなく決定事項のように言うクリスに、ハルトはノーとは言えなかった。本当に二人はハルトの奴隷なのだろうか。主に自分の意見を押し通しまくっている。まあ、対外的な意味合いで奴隷なだけで、二人は真の意味では奴隷ではないが。
「好きにしろ」
夜。
町が寝静まった頃合いで、ハルトたちはイウザの屋敷に向かった。
三人は黒ずくめの格好をしており、日本人が見れば忍者のようだと言ったかもしれない。
何度も偵察を行っていたハルトは、危なげなく塀の目の前までやって来た。
「行くぞ」
ハルトは躊躇い無く塀を飛び越えた。
クリスとモームも続く。クリスは問題無かったが、モームはステータスの関係上ギリギリだった。
取り敢えず無事に侵入を果たしたハルトたちは辺りを窺うが、屋敷の人間は誰一人として気がついている様子は無い。
「よし」
ハルトはストレージから変装用の仮面を取り出して付けた。仮面はオペラ座の怪人のアレに似ているかもしれない。ああ、クリ〇ティーヌ!
見た目はヘンテコな仮面だが、効果は絶大だ。この仮面はクリスのステータスが封印されていたダンジョンのボス部屋の宝箱の中身で、回収する暇が無かったハルトたちにベルが届けてくれたのだ。
正式名称はファントムマスク。効果は完璧な幻影を生み出し、装備者の容姿を自在に変えられるというもの。声から体臭、魔力、性別までありとあらゆるものを変えられるのだ。
黒ずくめに仮面と、日本ではハロウィンでもなければ通報されかねない格好をしていたハルトは、一瞬姿がぶれると、次の瞬間には金髪碧眼のイケメンにクラスチェンジしていた。歯がキラーンと光りそうな容姿だ。服装も地味目な普通の服に変わっている。
完璧に変装したハルトにクリスは半眼で
「変装するなら黒ずくめいる?」
「……気分的な問題だ!」
「なんで、その容姿にしたの?」
「適当。これから、このマスクを使う時は毎回別の顔にしようと思ってさ」
どうやら黒ずくめに意味は無かったようだ。そもそも、屋敷にいる連中にはハルトとクリスの隠蔽スキルを見破れる者などいないので、どんな格好でも関係ない。顔を変える意味はもっと無い。
「き、緊張してきましたぁ~」
緊張で微妙に顔が引き攣っているモームは、以前クリスが使っていた隠蔽効果のあるマントを装備している。別に緊張しなくても、よっぽど索敵スキルが高い者以外には見つからない。
「まずは下準備だ」
ハルトはストレージから何本か短剣を取り出すと、建物を取り囲むように地面に刺していく。
「何をやっているんですか?」
「建物から出られないように細工をしてるんだ。よし、これで完成だ」
短剣がぐるっと建物を囲むと、不可視の球状の壁が建物を覆った。
「これで、誰も建物から出られない。俺以外」
「私たちもですか?」
「ああ、気をつけろよ。それじゃあ、中に入るぞ」
ハルトは地面の土を使って合鍵を作り出すと、音もなく建物に侵入した。




