器用貧乏のパワーレベリング2
どうやっても活動報告に画像が載せられなかったので、後書きの方に載せておきます。興味がある方は見てみて下さい。
レベリング二日目。
ハルトたちは、本日も早朝からダンジョンに挑んでいる。
最短ルートで三層までやって来たハルトたちの目的は、昨日と同じくモームのレベル上げ。だが、今日は昨日のようにハルトが敵を半殺しにしてまわるのでは駄目なのだ。
現在のモームのレベルは9。10に上がる為には、壁を越えなくてはならない。もちろん物理的な壁では無い。技術的、もしくは精神的な壁を自力で乗り越えた時にレベル10になれるのだ。
よって、ハルトが本日、モームに課した課題は
「い、いやあーー!」
魔物を単独で倒すことだ。
昨日はハルトが半殺しにしたゴブリンに止めを刺すだけだった。そのため、まともな戦闘はしていない。ならば、一人で戦闘してゴブリンを倒せば壁を超えるだろうというのが、ハルトの考えだ。これは何も根拠が無いわけでは無く、ハルト自身も初めての実戦でレベル10になった経験がある。
「逃げてないでちゃんと戦えー」
「む、無理ですーー!」
ハルトの気の無い言葉にモームは涙目で返した。
そんなモームを見つめながらもハルトは動こうとはしない。モームのステータスは十分ゴブリンを倒せるからだ。
「ひ~~~」
壁際に追い詰められたモームは、ゴブリンと向かい合った。
モームは昨日の装備に加えて、小型のラウンドシールドを装備している。斧が両手斧なので盾は持ち手に腕を通して固定している。
「グギャ!」
ゴブリンが錆びた片手剣で、モームに斬りかかる。
「ひん!」
モームはへっぴり腰ながらも盾で受け止めて、肩口から体当たりしてゴブリンを突き飛ばした。
(うぇ~ん。何でこんなことに~)
半泣きになったモームは、やたらめったら斧を振り回す。最早狙いもへったくれもない。
だが、偶然にも振り回した斧が、ゴブリンの右肩に当たった。半ばまで断ち切られたようで、ゴブリンは剣を放ってのたうち回る。
「ひーん!」
情けない掛け声と共に振り下ろされた斧が、ゴブリンの頭蓋を砕き、ゴブリンは細かい粒子になって消滅した。
「お、レベルが上がったな」
「おめでとう、モーム」
「あ、ありがとうございます」
クリスはモームを褒めているが、ハルトはまだまだという顔をしている。
「よし、この調子でどんどん倒そう」
「えっ」
「ほら、丁度良い。ゴブリンの方から来てくれたぞ」
モームが振り向くと、通路の角から新手のゴブリンが現れた。
「あの、手伝って頂けたりとかわ……?」
恐る恐る聞いたモームに、ハルトは満面の笑みで
「一人で倒せ」
「ひ~ん!」
モームは泣きながら斧を構えた。
結局、その日は五層まで進んだハルトたちは、夕方になると宿に戻った。
モームは何度か死にそうな目に遭ったが、その度にハルトから回復魔法を掛けて貰って何とか戦い抜いた。
「ひ~ん。グスグス」
宿に戻ったモームは泣いていた。ダンジョンの中でも泣いていたが、今はクリスに抱きついてガチ泣きしている。
「痛かったです。痛いの嫌いです~。いやです~」
タンクの才能はあるが、痛いのが苦手なモームはタンクに向いていないのだろう。まあ、別に痛いのが得意な奴がタンク向きという訳でもない。痛いのが好きなタンクとか、どこぞの変態クルセイダーだけだ。
「泣くな、泣くな。今日の夕飯は高い店に連れてってやるから」
「……本当ですか?」
高い店に反応したモームは、ガチ泣きを半泣きにした。
「ああ、本当だ。それに今日の戦闘で両手斧と盾のスキルを習得しただろ。明日からはもっと楽になるぞ」
「……明日もやるんですか?」
「当たり前だろ」
「ひ~ん! モー、いやぁーー!」
モームは、またガチ泣きを始めた。
五日後早朝。
本日がモームのパワーレベリング最終日である。一週間にも渡るハルトのパワーレベリングとは名ばかりのブラックなレベル上げに耐えたモームは、一端の戦士になって………いなかった。
「モー、いやですーー!」
今日も半泣きになって、クリスに抱きついている。
しかし、嫌だ嫌だといっても毎回ハルトに強引に連れていかれるので、レベルは順調に上がった。現在のレベルは18。そろそろ、一人前と呼ばれてもいいころである。
「諦めなさい。結局毎回連れていかれるし」
クリスがモームに行って聞かせるが、モームはいやいやと首を振る。
「諦めたらそこで試合終了です~。あのダンジョンもうボス部屋しか残ってないじゃないですか! 諦めたら試合どころか人生終了ですよ!」
そう、本日の予定はモーム単独によるボスの撃破。ハルトは回復魔法による支援しかしない。
そりゃ、泣き喚いてでも行きたくないだろう。
「なあ、モーム」
「な、なんですか? 今日という今日は絶対にいやですよ!」
モームは絶対に今日こそは! と決意を秘めた顔をしているが、ハルトが考えていたのは全然違うことだった。
「お前、胸が大きくなってないか?」
「へ?」
悲しいくらい違うことだった。
だが、ハルトが気になるのも仕方が無い。なぜなら、モームの胸は一週間前に比べると明らかに大きくなっていた。
ハルトも最初は見間違いかと思っていたが、日に日に大きくなる胸に遂にツッコミを我慢出来なくなったのだ。
「だってこの前まで、絶壁だったじゃないか! まな板だったじゃないか! なんでいきなり大きくなったんだ!?」
「えっと……」
狼狽えるモーム。その動きと連動して、胸がぷるんと動く。
確かにモームは、連日ハルトによって栄養価の高い高級な食べ物を与えられている。肌は血色が良くてぴちぴちで鳶色の髪は艶やかだ。痩せていた体も肉がついてふっくらしてきている。見事に浮浪児から美少女にクラスチェンジしている。ここまでは良い。ここまでは現実的に可能だ。だが、胸は、おっぱいは無理だ。ありえないはずだ。良い物食べて胸が大きくなるなら、世界から貧乳の女子はいなくなるだろう。
「やっぱり知らなかったの?」
呆れ顔のクリスが説明を始めた。
「牛人族の女性は栄養状態によって胸の大きさが変わるの。だから、碌に食べてなかったモームはペッタンコだったけど、ハルがせっせと美味しいご飯食べさせたから栄養状態が改善されて胸が大きくなったわけ」
「な、なんだってぇ!?」
お約束のリアクションをしたハルトは、ジッとモームの胸を凝視する。日本でやればセクハラである。まあ、こっちでも普通にセクハラだが。
「ふむ。まさに生命の神秘だな」
真面目くさったことを言っているが、胸から目を離していないから台無しだ。
「よし、疑問も解けたことだしダンジョン行くか」
「ええ!? いやですー!」
モームが死ぬ、死んじゃうと駄々をこねるが、ハルトは気にせず襟首を掴んで引きずっていく。
「ちゃんと死ぬ前に回復してやるから平気だ」
「いやですー! 痛いのいやですー!」
「奴隷なんだから、ご主人様の言うこと聞け」
「こういう時だけご主人様権限使うなんてずるいですよ! 悪魔ですか!」
「悪魔はもっと恐ろしいから安心しろ」
モームが最後の希望!とばかりにクリスの方をみるが、ふいっと目を逸らされてしまった。
「ひ~~ん」
ハルトに連れていかれるモームの様子は出荷される牛のようだった。




