器用貧乏のパワーレベリング1
編集様から表紙の画像を頂いたのですが、画像の乗せ方がわからなかったので少しばかりお待ちを。後日活動報告に乗せます。
興味のある方はレッドライジングブックス様のサイトの方でも見れますので見てみてください。
「レベルを上げよう」
夜中に宿に戻ってきたハルトは、次の日の朝にいきなりそう宣言した。
ハルトを待っている内に寝てしまったクリスとモームは目をショボショボさせている。
「モームのレベル上げ?」
「そうだ」
欠伸を噛み殺しながら問うクリスに、当然とばかりにハルトが答えた。
なんたってハルトとクリスは高レベルなので、ちょっとやそっとではレベルは上がらない。今急いで上げる必要も無いので、必然的に対象はモームになる。
「あ、あの私弱いですよ」
昨日よりも断然血色の良くなったモームが遠慮がちに声を出した。
「今はな」
モームの訴えをサクッと無視したハルトは、朝食食べたら出発だと言って部屋から出て行ってしまう。
「そ、そんな……」
「大丈夫。ハルにはきっと何か考えがあるんだと思う。……たぶん」
励ましになっていない励ましを掛けたクリスは、モームを連れて部屋を出た。
朝食を食べたハルトたちは、武器屋に寄った後に町の外に出た。
武器屋の店主の話によると、町から然程離れていない所に小さめのダンジョンが、いくつかあるらしい。目的地はそこだ。
「さて、着いたぞ」
ハルトが最初に選んだのは、ゴブリンの塔と言うダンジョンだ。ここはその名の通り、敵がゴブリンオンリーのダンジョンである。
「ひゃ、ひゃい!」
初めての戦いにモームは青い顔して震えている。
見かねたハルトが
「安心しろ。モームは止めを刺すだけだ」
とフォローするが、震えは収まらない。
ハルトはアイコンタクトでクリスにフォローを頼むと、ダンジョンに足を踏み入れた。
ダンジョンは石造りのようで通路は広い。ゴブリンの塔はかなり昔に既に攻略されているダンジョンなので、マッピングされた地図を見ながらハルトは移動する。ちなみに地図は武器屋で売っていた。話によると冒険者ギルドや道具屋でも売っているらしい。
そういえば完全に攻略されたダンジョンに入るのは初めてだな、と考えているハルトの前にゴブリンが現れた。
何の変哲もない、ただのノーマルなゴブリンだ。今のハルトならば鼻歌交じりに倒せる相手だ。
「ゴブ!」
ゴブリンは粗末な棍棒を構えて、ハルトに突っ込んで行く。
対するハルトは、先程武器屋で購入した木刀を構えた。木刀を選んだ理由は、ゴブリンを誤って殺さないようにするためだ。
今回の目的はモームのレベル上げ。勿論パーティーを組んでいるので、ハルトやクリスが魔物を倒してもモームに経験値は入る。ただ、止めを刺した者に若干多くの経験値が入るので、止めはモームに刺させたいのだ。
「ふっ!」
ハルトがゴブリンの振り下ろした棍棒を見切って避け、お返しとばかりにゴブリンの右腕に木刀を叩き付ける。骨を砕く感触がした。ゴブリンは喚きながら、棍棒を取り落とした。
「はっ!」
チャンス!とハルトが木刀を閃かせると、打撃音が三つしてゴブリンが地に沈んだ。
「よし、モーム止めを刺せ」
「は、はい」
モームがガクガク、ブルブルしながら後ろから歩いて来る。恐怖ゆえか耳と尻尾が力なく垂れている。
「安心しろ。手足は砕いてある」
「ゴ、ギ」
手足を砕かれたゴブリンはなおもハルトたちを睨んでいる。
モームが武器を構えた。モームの武器は斧だ。樵が使うような斧で、全てが金属製なわけではなく柄は木製だ。防具は革防具で全身を隙間なく覆っている。
これらは、どれも安物で大した性能は無い。これは別にハルトが予算を渋ったとか、モームを苛めているとかではなく、もっと簡単な理由だ。モームが装備出来ないのだ。
ハルトも最初は金属製の斧とか、金属防具とかを装備させようとしたのだが、ステータスが貧弱過ぎて装備出来なかった。全金属製の斧は持ち上がらず、金属防具はつければまともに動けない。そのため、現在の装備になったわけだ。
「え、えい!」
モームが、うつ伏せに倒れたゴブリンに斧を振り下ろす。凄まじくへっぴり腰だが、幸い三発目でゴブリンは細かい粒子になって消えた。
「はあ、はあ、はあ」
初めての戦闘にモームは息を切らしている。
「さあ、どんどん行くぞ」
ハルトは、次の獲物を求めて歩き出した。
三時間かけて一層を歩き回り、モームのレベルは5まで上がった。普通はこんなに早くはレベルは上がらないのだが、ハルトが索敵スキルで魔物の位置を把握して効率的に進み、尚且つ魔物はハルトに秒殺されて、即効モームに止めを刺されるので短時間でレベルが上がった。
ちなみに、このゴブリンの塔は全十層で円柱形をしており、上に行くほど敵が強くなる。ハルトたちがいる一層は、冒険者に成りたての初心者が探索するところだ。ボスを倒してダンジョンを攻略するには中級クラスの冒険者パーティーが必要だ。
そして、現在は休憩中。レストルームで昼食中だ。
ハルトとクリスは元気いっぱいでご飯を食べているが、モームは疲れ果ててご飯にも手をつけずにへたり込んでいる。鳶色のボブカットの髪は汗で額に張り付いており、耳と尻尾も元気が無い。
「大丈夫? キツくてもご飯は食べた方がいいよ」
「……はい」
クリスに言われて、モームはもそもそと食べ始めた。
「これを飲め」
食べ終えたモームにハルトが疲労回復の効果があるポーションを飲ませる。
「二層に上がるぞ」
二層に上がったハルトたちは、またどんどんとゴブリンを倒していく。最終的に三層まで上がってモームのレベルを9まで上げると、ダンジョンを出て宿に戻った。
疲労困憊のモームはお風呂に入った後、部屋で寝落ちした。モームをベッドに運んだハルトとクリスは向かい合って座っている。
昨日から碌な説明無く振り回されているクリスがジト目で
「そろそろ説明あるよね?」
「と、当然だろ」
ちょっと冷や汗搔いたハルトである。
「まず、モームの能力だけど、ステータスにも載ってない素質は」
「ちょっと。ステータスに載ってない資質ってなに?」
のっけから頭痛そうなクリスに、魔眼が強化されたことを説明する。
「潜在能力鑑定に仮定成長鑑定ね。随分と人材育成に役立つ能力じゃない」
その通りだとハルトも思っている。
「で、モームの資質だけど、ガチガチの前衛防御型。VIT特化のタンクだ」
そう、モームはタンクの才能がある。あらゆる攻撃を防ぎ、仲間を守る盾になる才能が。
「武器だと斧と盾、防具だと金属防具、しかもフルプレート」
「確かにタンク向き」
「さらに鍛え方次第では、防御系の称号やアビリティも習得出来る。ただ、魔法は生体魔法と結界魔法以外はダメだな」
「完全なる物理特化ね」
クリスはモームの才能を知って驚いている。この世界では、ステータスに表示されない才能は無いのと同じだ。ハルトの方法はかなり画期的なのだ。
「なるほど、だから急にレベル上げを」
「そうだ。あと六日である程度形にする」
「わかった。……六日?」
聞き流しそうになったが、六日と期限が区切られていたことにクリスが怪訝な顔をする。
「どうして、六日?」
「六日後の夜にイウザの屋敷を襲撃して、町を出るからだ」
「………」
クリスが先程よりも頭痛そうに、こめかみをぐりぐりする。
「どうして、いきなりそんなことに。……あ、昨日の夜!」
「その通り。昨日偵察して来たんだ」
「そういうことはちゃんと言っておいて!」
大事なことを相談されなかったクリスは剥れて、頬を膨らませている。
「い、いやー。あはは……」
ハルトは笑って誤魔化そうとするが、クリスはむぅーー!としている。
結局、クリスの機嫌を直すのに寝る寸前までかかって、ダンジョンよりもクリスの機嫌を直す方が疲れたハルトであった。




