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器用貧乏の魔眼

 



「あー、いいお湯だったー」


 風呂から上がったハルトは部屋でくつろいでいる。なんせ修行中は洞窟暮らしだったのだ、寝床は固いし、風呂なんてないから濡らした布で拭くだけという生活だった。現代っ子のハルトには多大なストレスである。


「さて、これから何をしようか」


 ハルトは現在、目標を見失っている。最終的にはエスタ・エンパイアの奴らに復讐してやりたいのだが、流石に個人でするのは無理なのでこれは保留中だ。


「そうだな。とりあえず、あのウザイ・デーブとかいう奴に仕返しするか」

「ウザイ・デーブじゃなくてイウザ・ブーデ」


 クリスとモームもお風呂から戻ってきたようだ。


「どっちでもいいよ」

「というより、まだやるつもり?」

「やられたら十倍返しだって言うだろ?」

「言わない」


 クリスは呆れているが、ハルトは気にしない。取り巻きはボコボコにしたが、イウザ本人には何もしていないので腹の虫が収まらないのだ。


「モームもまだ足りないと思うよなー?」

「えっ、いや、その」


 答えにくいとわかっていながら、意地悪く聞いたハルトだが、クリスの背に隠れていたモームを見た瞬間、衝撃を受けた。


「お、お前、モームか?」

「はい、そうですけど」


 モームは不思議そうな顔をしているが、ハルトが驚くのも無理ないだろう。なにしろモームが超絶美少女だったのだから。

 さっきまでは薄汚れたボロ雑巾のようだったのに、風呂に入って汚れを落とすと見違えていた。

 汚れが固まってカピカピだった灰色の髪は、汚れが落ちると綺麗な鳶色に。肌も少々血色が悪いが白く綺麗な肌だ。


「最初は小汚いと思っていたが美少女じゃないか」

「あ、ありがとうございます」

「あ」


 照れているモームを見ていて、ハルトが何かに気づいた。


「なあクリス。モームって牛の獣人だよな」

「そう。牛人族。もしくはモデル・カウ」


 獣人は種族ごとに違う動物の特徴を肉体に持っている。また、呼び方もいくつかあって、例えば猫の獣人なら猫人族、もしくはモデル・キャットと呼ばれる。


「そうだよな、牛だよな」


 確認したハルトは悲痛そうな顔で


「なら、どうして胸がペッタンコなんだ!」


 アホなことを叫んだ。


「はあ?」


 クリスのハルトを見る目が冷たい。極寒だ。

 だが、ハルトは止まらない。


「だって牛だろ? なら、普通巨乳だろう!」

「あのね、牛人族は」

「いい! わかってるさ。個人差があることくらい。でもな、俺にだってイメージはあるんだ」


 うう、巨乳と未練たらしく呟いている。確かに日本のサブカルチャーでは牛の獣人は巨乳で描かれているが、それを理由にモームに文句言うのは失礼千万だろう。例えハルトが巨乳派だとしても。


「胸が無くてごめんなさい」


 モームは貧乳だ。いや絶壁だ。しかし、これは牛人族の体質によるものなのだが、ハルトはそんなことまったく知らない。


「まあ体型のことを言っても仕方ないか。それよりモームは奴隷のままでいいのか? 別に解放してやってもいいけど」


 ハルトの言葉にモームは泣きそうな顔になった。


「な、何でもします。だから捨てないでください!」

「お、おお?」


 目に涙を浮かべたモームはハルトに縋り付いた。


「モームは日常的に暴力を受けていたの。私たちのテーブルに飛んできたのもそのせい。さらに食事も碌に与えられていない」


 よくわかっていないハルトに奴隷経験が豊富なクリスが解説をする。


「そんな境遇で、ご飯をくれてお風呂にも入れてくれる主人に出会えたら離れたくないでしょ」

「なるほど」

「それに帝国で奴隷じゃない獣人、亜人が外を歩いていたら攫われる」

「なんだそりゃ」

「帝国は人間至上主義なの。獣人や亜人は替えの利く資源くらいにしか思ってない」


 どうやらスレイブ帝国はテンプレな異世界国家らしい。

 ハルトといえど、そんなところにモームを放つのは可哀そうに思えた。


「一度拾ったものを捨てるのはよくないからな」


 不器用な言葉と共にハルトはモームに笑いかける。


「モームが自分の意志で離れたいと思うまでは守ってやるよ」

「あ、ありがとうございます」


 モームは真っ赤になって俯いてしまった。


「さて、仲間になった記念にモームのステータスを調べるか」


 ハルトは空気を換えるように話題を変えた。


「ステータスですか?」

「俺たちは冒険者だからあちこちの町に移動する。一緒に行動する以上は最低限自分で身を守れるようになってほしいからな」


 奴隷の主人は奴隷のステータスを確認することが出来る。


 ピコン!


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 モーム 17歳 牛人族 女 LV1

 STR:7

 AGI:3

 VIT:7

 MP:10

 SP:20


 称号

 なし


 魔法適正

 なし


 アビリティ

 なし

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 弱い。いや、一般的なLV1のステータスはこんなものだ。ハルトたち転移者がおかしいのだ。

 種族特性ゆえかSTRとVITは平均よりも高いが、AGIとMPとSPは平均以下だ。

 獣人は肉体能力が高く、一部の種族を除いて魔法が苦手なのが特徴だ。その中でも牛人族はSTRとVITが上がりやすい。


「うーむ」


 しかし、いくら人間よりも肉体能力が高いといっても称号やアビリティが無いのは才能が無い証だ。この世界は地球よりも残酷に才能の有無がわかってしまう。


「ごめんなさい。私弱いですよね」


 モームも自分が弱いのはわかっているのだろう。落ち込んでいる。


「ん?」


 モームを慰めようとした時、ハルトの目が疼いた。


(なんだ?)


 勝手に魔眼が発動した。半ば存在を忘れていたアビリティであるが、能力は魔力の可視化と詳細な鑑定能力である。

 なぜいきなり発動したかはわからないが、とりあえず魔眼でモームを見たハルトは驚いた。

 ハルトの視界にアイコンが表示されたのだ。


(能力が増えた!)


 表示された内容は


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 魔眼が強化されました

 追加された能力は潜在能力鑑定と仮定成長鑑定

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なにやらよくわからない能力が増えた。

 ハルトはなぜ急に魔眼が強化されたのか考えたが、思い当たるのは隔絶世界でクリスと模擬戦した時にクリスの魔法を避けるために魔眼を多用したことくらいだ。

 実際のところは魔眼を一定回数使用したため強化されたのだ。ハルトの推理は半ば当たっている。


(とりあえず潜在能力鑑定から調べてみるか)


 わからなければ試してみるのが一番と早速モームに使うことにした。生贄の仔羊ならに仔牛だ。


(潜在能力鑑定!)


 一瞬、ハルトの目が輝く。


「これは!」


 ハルトの目に写ったのは、モームのステータスに表示されていない潜在能力。

 モームはスキルを習得していないが、だからといって適性のあるスキルが無いわけではない。あくまで、まだ習得していないだけなのだ。しかし、普通はそんなことはわからないので、ステータスに表示されないものは才能が無いと思われてしまう。そもそも、膨大にあるスキルを一つずつ試していくのは現実的ではないという問題もある。だから一般の人は最初から習得しているスキルだけが自分の才能だと勘違いしてしまうのだ。


(次は仮定成長鑑定!)


 再びハルトの目が一瞬輝く。

 ハルトの目に写ったのはいくつかの道筋だ。

 それは現在のモームがどのようなことをすれば、どのように成長するかという一種の未来予想図のようなものだ。当然道筋は複数あり、結果も大きく変わってくる。

 しかし、あくまで未来は未知数で、ちょっとしたことで変わってしまうため仮定なのだ。


「ふ、はは、ははは!」


 突然黙り込んだ挙句、いきなり笑い出したハルトにクリスは不審がり、モームは怯えている。

 だが、ハルトは気にしていない。なぜなら、新しく手に入れた能力とモームの可能性にゴキゲンだからだ。

 興奮したハルトの高笑いが収まったのはしばらく経ってからだった。



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