器用貧乏の終わりと始まり
なんとこの作品が書籍化します。
レッドライジングブックス様より出版されます。
(なんだ……?)
ハルトは白い光に包まれたと思ったら見知らぬ教会のような場所にいた。建物の中にはよくわからない像が複数ある。天使の像だろうか。
(どこだ、ここは……)
ハルトは動こうとするが、体の感覚が無い。それと、なぜか視界に映る物の現実感が希薄だ。まるで朧げな夢のように。
急に視界が動いた。ハルトは動こうと意識していない。勝手に動いたのだ。
視界の先には子供を抱えた親。子供の顔色は悪く、青白い。
また、視界が動いた、今度は視点が高くなった。それによって子供を抱えた親と相対している者が見えるようになった。その者は青磁色の髪を持ち、修道服を身に着けている。そして耳が長い。エルフだ。
(クリスか……?)
見た目の特徴はクリスと一致している。だが、ハルトはクリスだと断定出来なかった。修道服を着たエルフの表情は自信に満ち溢れていたからだ。今のクリスの自信無さげな表情とはまったく違う。
ハルトは声を出そうとしたが、声は出なかった。どうやら体の自由は無いようだ。そもそも体があるのか怪しい。誰もハルトに気がついた様子が無いからだ。いっそ幽霊とか魂とかの方がしっくりくる。
「クリス様、どうか子供をお助け下さい……」
親が子供を捧げる。クリスは子供に手をかざした。というかクリスで合っていたようだ。
クリスがかざした掌から柔らかい光が生まれ、子供を包み込む。
その姿はまるで聖女のようだった。
再び、視界が変わった。今度は平原のようだ。
辺りには大勢の人がいる。皆鎧を着こみ、武器を持っている。その中にクリスもいた。今度は修道服ではなく甲冑を着こんでいる。まるで騎士だ。
「クリス様、間もなく来ます」
甲冑を来た男がクリスに報告している。何が来るというのだろうか。
「戦闘準備」
クリスの一言で皆が慌しく動き出す。
しばらくすると蠢く大量の何かが視界に入る。魔物だ。夥しい数の魔物が近づいて来ている。
(魔物の大量発生? それとも魔王との戦争か?)
ハルトの前で人間と魔物が戦っている。魔物が切り裂かれ、人間が貪り食われている。
その中をクリスが一人、無双している。群がる魔物を切り裂き、穿ち、焼き尽くす。クリスの活躍に皆が奮起する。勝敗は人間側が優勢に見えた。
その後も視界は次々と変わっていった。見えるのは日常の一コマから魔物との一大決戦まで様々だった。その全てにクリスが出てくる。
(これはクリスの記憶か……?)
ハルトが見てきたのはクリスの記憶だった。決定的だったのはハルトがクリスと出会ってからの記憶も見たからだ。視界に自分が出てきてハルトは驚いた。
ただ、クリスの記憶は見ていて楽しいものではなかった。記憶の大半は戦っているか、奴隷として嬲られているかのどちらかだったからだ。
なぜこんなものを見ているのか。いや、見せられているのか。答えはわからない。
不意にハルトは意識が覚醒するのを感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハルトは気がつくと、またあの白い空間にいた。先程までと違い、体は動くようだ。辺りを見渡せば少し離れたところにクリスもいる。
クリスは呆然と蹲っていた。
ハルトがクリスに声をかけようとして、さっきまで見ていたものを思いだし躊躇していると目の前に光が集まってきて人の形になった。ここにいる者など一人しかいない。
「お久しぶりです。なんとか勝てたようでなによりです」
ベルだ。どうやらまたベルがハルトを呼び出したらしい。
「またか……」
再三の呼び出しにハルトは少々げんなりしている。全然久しくない。
嫌そうなハルトにベルはむっとした顔をする。
「またかとか言わないで欲しいです。こっちは良かれと思ってやっているのに」
「で、今度は何で呼んだんだ?」
問い掛けるとベルはチラッとクリスを見た。すぐに視線は戻したが何だというのだろうか。クリスはまだボーっとしている。ベルにも気がついていない様子だ。
「クリス!」
「……は、はい!」
ハルトが名前を呼ぶことでやっと正気に戻った。慌ててハルトの元に走ってくる。
「えっと、こちらの方は?」
「例の女神だ」
女神だとわかるとクリスは一礼してハルトの後ろに控えた。
「では先程の続きですけど、私があなたを呼んだのは確認したいことがあったからです」
「確認したいこと?」
ハルトは不思議そうな顔をしている。そういえば今日はベルの話し方が丁寧だ。クリスもいるからだろうか。
「そんなの夢の中で聞けばいいじゃないか。わざわざダンジョンで呼ばなくても」
「今呼んだのにはきちんと意味があります。あなたの返答次第では夢では駄目なので」
ベルは真剣な顔をしている。どうやら冗談の類ではないようだ。
「で、確認したいことって?」
「まずはですね。あなたはこれから何をするのですか? この前みたいに大雑把なものではなくて具体的なことを教えて下さい」
「具体的に……?」
ハルトは答えに詰まってしまった。ぶっちゃけノープランだからだ。町に行けば見つかるかと思ったが、特にやりたいことは見つからなかった。王国の奴らに復讐はしてやりたいが、その方法も決まっていない。一人ではどうにもならないだろう。
「やりたいことか……」
チラリとクリスを見る。勢いで彼女を奴隷にしたが、これからどうするか。前とは違いステータスが戻った。彼女は一人でも生きていけるだろう。
「それにその娘はどうするのですか?」
まるで心を読んだかのようにベルがハルトに問う。
ハルトは短くない間黙考するとクリスとベルを見つめた。
「俺はもっと力をつけたい。今日の戦いでよくわかった。俺はまだ弱い。でも、もっと強くなれる」
ベルが視線で続きを促す。
「クリスお前はどうしたい? ステータスは戻った。もう一人でも大丈夫だろう。このまま奴隷でいいのか?」
クリスは迷いなく答えた。
「はい。私はご主人様と共にいたいです」
普通ならこれで可愛いエルフ奴隷ゲットだぜ! となるのだが、ハルトは少し違った。
ちなみにどこの普通かというと、とある小説サイトの普通である。
「俺はな、この世界で一人なんだ。帰る場所は無いし、頼れる者もいない。だから欲しいものがある」
クリスは黙ってハルトを見つめている。
「俺は信頼できる仲間が、パートナーが欲しい。だから奴隷じゃなくて対等な立場にならないか?」
クリスは目を見開いた。
「っ! えっ、いや、でも」
驚いてはいるが満更でもなさそうだ。
「その、私なんかでいいんですか?」
「ああ。俺の仲間になって、俺の隣にいてくれないか?」
「は、はい!」
クリスはハルトの誘いに満面の笑みで答えた。ハルトも赤くなっている。というかまるでプロポーズみたいだ。ハルトはそれに気づいたから赤くなっているのだろう。
「で、結局どうするのですか?」
とうとうベルが割って入った。放置されてちょっと不機嫌そうだ。
「あ、ああ。とりあえずどこかで鍛練をするかな」
ハルトはどもりながら答えた。だいぶ動揺しているらしい。
「ならちょうどいいです。私も鍛練を推奨しようと思っていたので」
「またどうして?」
「今なら使えるとっておきの場所があるんです」
どうやらベルに策があるらしい。
「通常と時間の流れが違う場所で鍛練しませんか?」
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ザザーン
ハルトは海辺に立っている。海の先には何もない。ここにあるのはハルトのいる島だけだ。
「気に入りましたか?」
振り向くと、ベルとクリスが歩いてくるところだった。
「ここはなんだ?」
「ここは隔絶された空間です」
訝し気なハルトにベルが得意げに説明する。仕草がとても俗っぽい。
「ここは私の管理する空間の一つです。本来は私以外誰も入れないのですが、あなたたちは特別です」
ベルが言うには、ハルトたちがあのダンジョンにいたから連れてこられたらしい。
「特別ねえ」
ハルトはいまいち納得していないようだが、実際いつものあの白い空間とはだいぶ違う。ハルトとクリスは実体を持っている。
白い空間には魂しか呼べないようだが、この島だと肉体もいけるらしい。
「特別ですよ。いつもは短い時間しか呼び出せませんが、ここなら長時間行けます」
「どれくらいだ?」
「現実時間で二か月。こちらの島で二年です」
どうやらこの空間はリアル精○と時の部屋のようだ。
「デメリットは?」
ハルトがこんな旨い話があるわけないと警戒する。当然だ、旨い話には裏がある。
「こちらの島で過ごした分だけ年をとることですね。二年なのでそこまで酷くありませんが、軽い浦島太郎状態になります」
「なんでそのネタを知っている」
ハルトのツッコミはニコニコ笑ってスルーされた。
「ですが、あなたたちならば問題ありません。不老不死ですから」
「確かにその通りだが」
そうハルトたちは時間だけは有り余っているのだ、無限に。
「なので制限時間いっぱいここで鍛練をして下さい。まあ、ここに魔物はいませんけど」
「え? 魔物いないの?」
クリスがさらりと重要なことを言った。魔物がいないと戦えないじゃん。
「あなたの場合はスキルを上げるのも重要なので、あの娘と模擬戦をすれば大丈夫ですよ」
「クリスと?」
「はい。あの娘かなり強いですね。魔物と戦うよりよっぽどためになりますよ」
ハルトがクリスを見ると、クリスはむんっと腕まくりしてアピールしている。やる気満々だ。
「クリスはそれでいいのか?」
「はい。私もリハビリしないといけないので」
どうやらクリスも久方ぶりに戻った力にまだ感覚が追いつかないようだ。
「そういえば、今回のダンジョンの攻略ボーナスを取ってなかったな」
ピコン!
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ダンジョン攻略ボーナス
スキル 解除魔法
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「今回は選択肢が無いのか。あからさまだな」
ハルトはベルをジロリと見た。
ベルは居心地悪そうにしている。
「な、なんですか」
「このボーナス、お前が絡んでるだろ」
「え、えっと」
ベルはオロオロした後、あっけなく折れた。
「はい。私に関係あるダンジョンについてはある程度ボーナスを決められます」
「なんでこれにしたんだ?」
「だって、あの娘を奴隷から解放するのに必要ですし、ブルタールに掛けられた呪いにも使えるからです。というか、どうして気づいたんですか?」
「やっぱり予想通りの効果か。あと、あからさまだったから鎌かけただけだ」
そう言うと、ハルトはボーナスを取得した。鎌かけられたベルはむくれている。
「では、私は一旦戻ります」
戻ると言っているが、表情は戻りたくないと言っている。
「ああ、いつでもまた来い」
「はい!」
最後に花のような笑みを浮かべてベルは帰っていった。チョロイな。
「まずは何をしますか?」
クリスが話しかけてきた。今までは空気を読んで黙っていたようだ。
「そうだな。とりあえず、お話ししようか」
「はい?」
ハルトたちは拠点にするといいと教えてもらった洞窟にやって来た。
「お話しですか?」
洞窟の中に木箱を出すと、ハルトとベルは腰を掛けた。ハルトのストレージの中には野営道具や食料など物資がたくさん収納されているので洞窟でも生活出来るだろう。
「ああ、いろいろ話しておくことがあるだろう。お互いに」
ハルトは自分に起きたことを全て話した。異世界から召喚されたこと、クラスメイトに裏切られたこと、一度死んで人間を辞めたこと、全て話した。
クリスも記憶にある限りで話してくれた。ただ、記憶はだいぶ穴あきで肝心なところを覚えていなかった。不自然な程に。
ハルトがクリスの記憶を見たことを話すと、どうやらクリスもハルトの記憶を見たようだ。もしかしたらベルの仕業かもしれない。何を考えているのだろうか。
話が一段落したところでハルトが
「なあクリス。ご主人様って呼び方辞めないか? もっと普通に呼んで欲しいんだが」
「でも奴隷にとっては普通の呼び方ですよ」
「いや奴隷辞めるって言っただろ」
「そのことなんですけど、やっぱり奴隷のままでいいです」
「どうして?」
「奴隷でないエルフがそこらを歩いていたらトラブルの元です。それにご主人様なら奴隷のままでも酷いことしませんよね」
クリスは目をキラキラさせてハルトを見つめた。これはズルい。ノーとは言い辛い。
結局ハルトは折れた。
「わかった。立場は奴隷のままでいい。その代わり、呼び方と敬語は直してもらう。これは譲れない。むしろ命令だ」
「わかったわ。命令ならしょうがないわね。呼び方は何がいい?」
命令されているがクリスは嬉しそうだ。ニッコニコしている。
「好きに呼んでいいぞ」
「じゃあ、ハルでいい?」
「いいぞ」
どうやら呼び方はハルに決まったようだ。ハルトもニッコニコしている。リア充か。
「ねえ、ハル。私からもお願いがあるんだけどいい?」
「おう、何だ?」
「私はただのクリスなの。苗字や家名が無いんだ。だからハルトにつけて欲しい」
ハルトにイベントが発生した。異世界モノによくあるイベント。ヒロインに名前をつける。どうやらハルトはテンプレの神に見放されてはいないようだ。
うーむと悩むことしばし、ハルトの頭がポクポク、チーン! と閃いた。
「セラドン。髪の色が綺麗な青磁色だからセラドン」
「セラドン」
「すまん。こんな安直なのでいいか?」
「ええ! クリス・セラドン。すごく気に入った!」
ハルトは安直かもとビクビクしていたが、クリスは気に入ったらしい。
オホンと咳払いをしたハルトは真面目な顔でクリスを見て
「これから何があるかわからないけど、俺たちは不老不死だ。本当の意味でずっと一緒だ」
「ええ。絶対に離れないから」
「ああ、俺たちの冒険はまだまだこれからだぜ!」
連載打ち切りの漫画のような言葉と共にハルトとクリスの本当の意味の物語が始まった。
これにて一章が終了です。
二章は一章が戦闘が多かったので戦闘成分少なめにしようかなと思います。
えー、二章の予告は奴隷が出る、ハルトの仲間が増えるです。
これからもよろしくお願いします。




