器用貧乏のスキル
勇者が二人という衝撃のステータス報告会が終わり、ハルト達のために晩餐会が開かれた。
出てくる料理はどれも大変美味であったが、ハルト達をなによりも驚かしたのは地球ではありえない色彩や食感である。虹色のソースやゼリーのような食感の肉などにハルト達は大興奮だった。ハルトは「この世界には美食四天王がいるのでは!?」と思ったとか思わなかったとか。
その後は、各自与えられた部屋に移動したが、大半の生徒はベッドに入ってすぐに泥のように眠ってしまった。
ハルトもいろいろ調べようと考えていたが、早々に夢の国に旅立っていった。
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翌日、ハルト達は朝食後に昨日使った、座学に使う部屋に集まっていた。生徒達の間では勉学に使う部屋とあって〝教室〟と呼ばれていた。
訓練が始まるまでにまだ時間があるので、みんなおしゃべりをしているが内容は自分達のステータスについてだ。能力値がどうの、称号がどうのと言っているが、ほとんどの生徒がハルトをチラチラ見て、嘲りの視線を向けている。
ハルトは心の中でため息を漏らす。
「ハルト、気にするなよ」
「そうだよ、気にしちゃだめだよ」
大河とレイラがハルトに向けられる視線に辟易しながら声をかける。
「気にしてないよ。称号はアレだけど、戦い方しだいでどうにかなるかもしれないし」
「はぁ~、何言ってんの? どうにかなるわけねーだろ」
ハルトが二人に気にしてないと伝えようとすると、侮蔑のたっぷり乗った言葉とニヤニヤしたいやらしい顔がプレゼントされた。
送り主は小林 涼と言って、前から度々ハルトに絡んでいたが、こっちに来てから露骨に絡むようになった。正確には、ハルトのステータスを見てからだが。
「称号はカスだし、ステータスが高いわけでもないし、特別なアビリティがあるわけでもないのにどうするんだよ? ギャハハハ!」
「日向くんは別にステータスは低くないよ、むしろこの世界の人と比べたら高いよ」
レイラは言い返してくれるが、小林は明らかに不機嫌になった。
理由は小林がレイラに好意を抱いているからだ。なので、ハルトを庇うのが面白くないのだ。地球で度々ハルトに絡んでいたのは、レイラのまわりにいるのは学内カーストの高い者ばかりなのに、そうではないハルトがいるのが気に入らなかったのだ。
しかし、度々ハルトに絡んでいたのでレイラの小林へのイメージは良くない。それが、さらに小林を苛つかせる。
「宮野さん、確かにこの世界の奴と比べたら高いかもしれないけど、この世界の奴等じゃ敵わないから俺達が呼ばれたんだろ。日向は初期ステータスは俺達の中でも真ん中くらいだけど、あの称号は能力値の伸びも悪いらしいじゃん。この世界の奴等より多少強いくらいでどこまでやれるのやら。プハハハ!」
「そんなこ」
「待たせたな、これより訓練を始める」
レイラがさらに言い返そうとしたところで、アレクが〝教室〟に入ってきた。
なので、ハルトは目線でレイラに大丈夫だと伝えた。
「さて、本日の訓練はスキルの説明と装備品の支給だ」
アレクが訓練を始めたので、レイラも渋々引き下がったようだ。
ハルトはホッとしつつも、内心は穏やかでは無かった。
小林にめにものみせてやると息巻いていると、アレクの話が始まった。
「スキルだが、大きく分けて二種類ある。PSとASだ。まずは、PSから説明しよう」
「パッシブ?」
ゲームをある程度する者は理解したようだが、それ以外の生徒は首をかしげている。
「PSは簡単に言えば、常時効果のあるスキルのことだ。いくつか系統があって武器系統、防具系統、魔法系統、耐性系統、身体技能系統、生産系統だな。例えば、片手剣のスキルならば片手剣を装備すれば能力値や装備に補正が付くとかな」
首をかしげていた生徒達もなるほどと頷く中、ハルトはにやけるのを必死に我慢していた。
(スキルかー、俺は全部習得できるのか、何取ろうかなー。うへへ)
ハルトが内心でうへうへ言っていたが。スキルは大好物なのだ。
「次にASは能動的なスキルだ。例えば、武器等で強力な攻撃するとかだな。大まかに言えばSPを消費するは大体そうだ」
生徒達はみんな困った顔をしていた。武器で強力な攻撃とかSPを消費とか言われてもピンとこないのだ。
「ふむ、実際に見せた方が早そうだな」
そう言うと、アレクは何もない空中から剣を取り出した。
そのまま上段に構える、すると刀身が輝く、そして一閃。
ゴウッ!!
空気が渦巻いた。ただの斬撃では、これほどの威力は出ない。
「今のがASだ。強力だが弱点もある。SPを消費するからSPが無くなれば使えない。使うまでに溜めが必要な技があったり、技後硬直がある技があったりな。あとは武器が光るからすぐばれるとかな」
「先程の技は何と言うのですか?」
守が興味津々といった感じで聞いている。
「あれは、片手剣AS『バーチカルスラッシュ』だ。といっても、あの技は片手剣で一番最初に覚える技だがな」
「一番最初の技なのに、あんなにすごいんですか!?」
「スキルの熟練度や能力値が上がれば威力も上がる。それに、初級の技は溜めや技後硬直がほとんど無くて使いやすいんだ」
「なるほど、そういうことですか」
みんな口々にすごい、すごいと言っているがハルトは絶句している。
なぜなら、ハルトの頭の中では空に浮かぶ鋼鉄の城が頭から離れないからだ。
(ソードスキルだ!! アイン○ラッドはゲームの中じゃなくて異世界にあったんだ!!)
「日向くん? どうしたの?」
レイラが呼び掛けるが気づいていない。
ハルトの脳内はソードでアートでオンラインなので、黒の剣士が華麗にスターバースト○トリームを決めていた。
「日向くんってば!!」
「十六連撃が」
「んん? 十六連撃?」
レイラの言葉で、ハルトはやっと現実に復帰する。
「あ、いや、なんでもない」
「ほんとに?」
「どうせ、黒の剣士がーとか考えてたんだろ」
大河がニヤニヤしながらおちょくってくる。
「な、何でわかったんだよ!?」
「何年一緒にいると思ってんだ」
二人が幼馴染みの絆(?)を確かめあっている間に話は進む。
「さっき剣を出したのはアイテムボックスですか?」
「む、良く知っているな。私達はストレージと呼んでいる。三つのアイコンの右のやつがストレージだ」
「ストレージには入る限界はあるんですか?」
「むろんある。ストレージの容量はSTRで決まる。STRが高いほど沢山入る。または、所持容量拡張スキルの熟練度を上げるか、マジックアイテムで容量を増やすかだ」
ストレージウィンドウでは装備品の設定もでき、アイテムに関係することは大体ストレージウィンドウでするみたいだ。ちなみに容量は数ではなく重さだ。
「では、最後の真ん中のアイコンはスキルリストだ。ひとつずつ説明するからスキルリストを出してくれ」
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異世界で初めてのまともな訓練は、特に大きな問題無く終了した。
今は休憩時間なので、ハルト達はお昼ご飯を食べている。みんなが異世界の料理に舌鼓を打つ中、ハルトは先程の訓練の内容について考えを巡らせている。その眼差しは真剣で、昨日の晩餐の時に「グルメ時代来たー!!」と騒いでいた人と同一人物には見えない。
午後の訓練では、装備品が支給されるからだ。装備品はある程度は生徒達の要望を聞いて貰えるので武器は自分で選べる。
生徒達は最初から取得しているスキルが自分に才能のあるスキルなのでいいが、器用貧乏なハルトは特別な取得条件のあるスキル以外は取得しているので非常に困る。数が多いのだ。
ハルトは眉間に皺を寄せながらスキルウィンドウを開いた。
ピコン!
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スキル
武器系統
片手剣0・両手剣0・短剣0・細剣0・刀0・槍0・片手斧0・両手斧0・戦槌0・戦棍0・鞭0・鎌0・爪0・杖0・投擲0・弓0・盾0
防具系統
金属防具0・革防具0・布防具0
魔法系統
火魔法0・水魔法0・風魔法0・土魔法0・雷魔法0・光魔法0・闇魔法0・回復魔法0・支援魔法0・生体魔法0・結界魔法0・振動魔法0・刻印魔法0
耐性系統
火耐性0・水耐性0・風耐性0・土耐性0・雷耐性0・光耐性0・闇耐性0・状態異常耐性0・打撃耐性0・斬撃耐性0
身体技能系統
体術0・剛力0・縮地0・金剛0・筋力0・速力0・耐力0・鑑定0・索敵0・隠蔽0・採取0・所持容量拡張0・武器防御0・魔力消費量軽減0・魔力総量増加0・魂力消費量軽減0・魂力総量増加0
生産系統
鍛冶0・調合0・料理0・木工0・裁縫0・釣り0
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多すぎである。これだけ数があっても器用貧乏で熟練度の伸びが悪いので数を絞って育てなければならず、各系統で二種類ずつくらいが妥当ではないかとハルトは考えている。生産系統は上げないけど。
(これがゲームなら嬉しい悲鳴だけど、自分の命が掛かっていると思うと胃が痛いな)
ハルトが召喚二日目にしてストレスで胃痛を起こしているなか、休憩時間は過ぎていった。