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器用貧乏と再びの悪魔

ステータスは暫定です

 


「なんだこれはっ!?」


 ハルトが魔法陣から抜け出そうとするが、体の自由が利かず動けない。

 魔法陣からは強い光が漏れている。すごく危険そうだ。


「この魔法はあなたの不死性を封じ込めるためのものですよ」

「なんだと!?」


 ハルトが力の限りを振り絞ろうとしたとき、一際強く魔法陣が輝いた。ハルトの背筋に悪寒が走る。


「ああああぁぁぁーー!!」


 ハルトの体を黒い靄が包む。何かが体に染み込んでくる感覚がする。

 靄が霧散した後、体に大きな変化は無かった。見た目は。


「これであなたを殺せます」


 ブルタールがエストックを突き込んでくる。

 ハルトは反射的にハンマーで防御するが、傷が痛み、押し負けた。


「この野郎!」


 無理矢理エストックを弾いて距離を取る。


「リベレイション カースフォルム!!」


 ハルトが呪いの力を解放した。本来なら右目が赤く輝き、力が爆発的に高まるはずだが、何も起きない。


「効いているようですね。まあ、貴重な触媒を使用したので効いてくれなければ困りますが」


 ブルタールが連続で突き技を放ってきた。

 ハルトは珍しく動揺してしまい防ぎ切れず、血飛沫が舞う。

 ここぞとばかりにブルタールが攻め立てる。間断無き連続突きから、エストックを引き絞る。

 エストックが血に濡れたように赤く染まる。

 細剣AS『コンティニュネーションスラスト』。八連撃にも及ぶ高速の連続突きがハルトを穿つ。

 ちなみにエストックは細剣カテゴリーの武器なので、スキル的には細剣スキルに分類される。ただし斬撃は使えないので、斬撃のあるASは使えない。その代わり、突き技限定なら細剣よりも威力が出る。


「ぐはっ!」


 ハルトは咄嗟にハンマーを(かざ)すが、防ぎ切れず血反吐を吐く。

 やはり傷は癒えない。

 倒れ込んだハルトは、追撃を避けようとするが激痛のあまり動けない。エストックがハルトに迫る。


(やられる!)


 ハルトが死を覚悟した瞬間、エストックが横合いから跳ね上げられた。


「なにっ!?」


 ブルタールが驚愕している。


「この人はやらせない」


 ハルトの視界に映ったのは、煌く白磁の肌と青磁色の髪。クリスだ。クリスがエストックを切り上げたようだ。


「お前、どうして…」

「申し訳ございません。ステータスの解放に時間が掛かってしまいました」

「そうじゃなくて、何で助けた」

「奴隷が主を助けるのは当たり前ですよ」


 そこまで言って、クリスは薄く微笑む。


「もしくは、先程助けて頂いた恩を返したということで」


 まるで、別人のように言動から卑屈さが消えていた。こっちが本来のクリスなのだろう。

 ハルトは口をポカンと開けている。相当びっくりしたようだ。


 クリスは、そんなハルトの様子を見て嬉しそうにした。


「今度はクリムゾンワイバーンから助けて頂いた恩を返します。あいつを倒してきますので、それまで死なないで下さい。あとこれお借りします」


 そして、ハルトの腰からゴブリンエリートソードを抜き放った。


「待て、お前一人じゃ」


 ハルトは止めようとするが、出血が激しく体に力が入らない。

 クリスはハルトにもう一度微笑むと、ブルタールに向けて駆け出した。


「いやはや、あなたが立ち向かってくるとは予想外です」


 ブルタールはエストックを構えて、切っ先をゆらゆら揺らしてタイミングを計っている。しかし、まるでクリスを知っているかのような口ぶりだ。


「だまれ」


 クリスは(まなじり)を吊り上げて、剣を握り締める。


「お前のことは詳しく覚えてはいないけど、敵だということは覚えている。だからここで倒す」


 両手に片手剣を持ったクリスはブルタールに切り掛かる。ブルタールのエストックと打ち合い火花を散らす。

 だが、クリスの武器はゴブリンエリートソードと普及品の片手剣だ。ゴブリンエリートソードはまだしも普及品の片手剣は二、三合打ち合っただけでもう刃こぼれしている。


「なるほど、まだ完全に記憶が戻ったわけではないのですね」


 ブルタールが容赦ない突きを見舞うが、クリスは的確に捌いていく。とてもスライムにいいようにされていたエルフと同一エルフには見えない。凛々しすぎ。


「はぁっ!」


 クリスがゴブリンエリートソードを上段に構えると、剣がコバルト・ブルーに輝く。

 片手剣AS「カルテットスラッシュ」。怒濤の四連撃だ。

 四つの斬撃の内、三つは防がれたが一発は当たった。ブルタールの腕から血が流れる。

 てゆうかクリスめっちゃ強い。普通にブルタールと渡り合っている。


「おやおや、全盛期程の力は無いようですね」


 しかも、まだ全盛期の方が強いらしい。クリスさんマジパネェっす。


「おいおい、どんだけ強いんだよ」


 ハルトも驚き過ぎて、もはや半笑いだ。

 試しにとステータスを確認してみる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クリス ?歳 エルフ 女 LV60

 STR:2000

 AGI:2200

 VIT:1800

 MP:4000

 SP:3000

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ステータスがすんごいことになってる。てかいきなりLV60て…。

 ツッコミたいところはいろいろあるが、今はそれどころではない。


「インフレし過ぎだろ」


 ハルトは内心なんじゃそりゃ、と思うが頼もしいかぎりなのでスルーした。だが、別の問題が浮上してきた。ハルトの体力がヤバい。

 現在のハルトは体のあちこちに穴が開いた状態だ。しかも、碌な治療もせずに放置されている。普段なら勝手に治るが、今は一向に傷は塞がらず血が流れ続けている。これが地球にいる頃ならとっくに死んでいる。まあ、現在進行形で死に向かってはいるが。


「寒い…」


 血を流しすぎてガタガタ震えるハルトはどうにかしようとするが、何も思いつかない。不死の体質は封じられたし、回復魔法はエストックの特性で意味を成さない。万事休す。後はがんばれ俺の血小板! と自分の体を応援するくらいだ。


 クリスはブルタールと激闘を繰り広げているが、いかんせん武器がショボすぎて苦戦している。むしろあの貧弱な武器でよくやっているというべきか。


「やべぇ。血が足りねぇ…」


 遂にハルトの意識が朦朧としだした。戦闘の音がどこか遠くに感じられる。

 あ、これガチでヤバい。なんか前にも経験したことある。と思った瞬間、勝手にストレージからグラムが出てきた。


「なんだ?」


 グラムは持ち手もいないのに空中に浮いている。グラムにそんな機能はついていない。

 ハルトが訝しんでいるとグラムから声が聞こえた。


「ふふふ。随分といいようにされているようだな」


 聞こえてきたのは、とても印象に残っているが、できれば一生聞きたくなかった声だ。


「お前アゲインストか!?」

「そうだ」

「お前死んだんじゃなかったのか?」


 声の主はアゲインストだった。だが、ハルトの言う通りアゲインストはハルトが倒したはずだった。


「我が死んだのは(まこと)だ」

「じゃあ、なんでグラムからお前の声が聞こえるだよ」

「我が死ぬ直前に話していたことは覚えているか?」


 アゲインストはハルトと死ぬ前に少し話をしていた。

 話の内容は他の悪魔について。悪魔の現在の目的は人間社会にダメージを与えること。簡単に言えば魔王の配下である。ただ、今は他の場所が忙しいらしく、王国周辺には干渉してないらしい。だが、自分が死んだのでそう遠くない内になにかしら行動を起こすだろう。そうなると十中八九巻き込まれるので気を付けろと。


「いくらなんでも早すぎるだろ。あと俺の質問に答えろ」

「いやなに、お前の今後が面白そうだったのでな。グラムに魂を憑依させた」

「おい! その剣呪われてんじゃねーか」


 出血多量で死にかけてた割に元気なハルトである。普通に話してるし。


「呪いとは失礼な。悪魔の加護と言ってくれ」

「不吉すぎるわ! てか、なんで今出てきた? 俺死にかけてるんだが」

「意外と元気そうだがな。まあいい、簡単な話だ。ちょっと手助けしてやろうと思ってな」

「胡散臭せえ」


 どうやら、アゲインストはハルトを助けるつもりのようだ。どんな心変わりだろうか。


「元々我は魔王とかどうでもよくてな。ただ、強い人間と戦えればよかったのだ。だから死んだ後まで魔王に尽くす義理はない。それに、我はあいつが、ブルタールが嫌いでな。我を殺したお前があいつに殺されるのは我慢ならん」


 ハルトは悩んだ。アゲインストに背後霊よろしくずっと見られているのは気味が悪いが、このままでは死にそうだ。それは嫌だ。どうしよう。


「それによいのか? このままだとあの娘も危ないぞ」

「なにっ!?」


 ハルトがクリスの方を見ると、クリスが追い詰められていた。普及品の片手剣が折れて、全身傷だらけになっている。このままだと殺されてしまいそうだ。


「わかった。助けてくれ」


 結局ハルトは助けてもらうことにした。もうにっちもさっちもいかないし、最悪グラムを捨てればいいかなと考えたからだ。


「うむ。それと一つ言っておくが、もうグラムは捨てられんからな。捨てても勝手にストレージに戻る。そういう加護だ」

「いやだからそれ加護じゃなくて呪いだっつうーの!」


 残念ながらハルトの考えは読まれていたようだ。


「で、どうすればいい?」

「お前が動けなければ始まらんからな。まずは傷を癒す」

「できるのか?」

「ああ。ブルタールの奴がお前に施したのは呪いの一種だ。我の加護で呪いを解呪することは可能だ。ただし、完璧に解呪できるのはエストックの方だけだ。不死封じの方は一時的にしか解呪できん」


 どうやら、不死封じの呪いは強力らしく一朝一夕では解呪できないようだ。

 だが、一時的にせよ解除できればなんとかなる。かもしれない。


「じゃあそれで頼む」


 ハルトのまわりに徐々に黒い光が集まってくる。光は加速度的に量と黒さが増していく。傍から見れば呪われてるようにしか見えない。大丈夫なんだろうか。

 黒い光はハルトの体を包み、黒い光の柱になった。


「さあ、行ってこい」


 黒い光の柱にひびが入り、砕けた。その瞬間、辺りに衝撃波が撒き散らされる。


「何ですか!?」

「ご主人様!?」


 衝撃波でブルタールとクリスが、異変に気付いた。二人が振り向くと、ハルトの体から黒い光が霧散するところだった。


「ふう」


 ハルトから凄まじいオーラが発散され始めた。


「リベレイション カースフォルム!!」


 ハルトの右目が赤く染まり、右目から垂直に刀傷が浮かび上がる。体からは魔力が吹き荒れている。


「あー、死ぬかと思った。おい、クソ悪魔、今度はこっちの番な」


 ハルトの口角が吊り上がり、犬歯が剥き出しになった。


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