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器用貧乏とフルメタルゴーレム3

 


 ハルトは、再び鉄球を構える。

 出来ればもう一度『ガトリングスロー』を使いたいところなのだが、ただいまクーリングタイム中なので使えない。

 ならばと、両手に鉄球を持つ。鉄球がクリームイエローに光る。

 投擲AS『デュアルスロー』。

 右、左と連続で投げられた鉄球が、メジャーリーガーの剛速球もかくやという速度でゴーレムに迫る。

 当然ゴーレムは避けられない。体に鉄球がめり込み、衝撃波を撒き散らす中、ハルトがゴーレムに接近する。


「おお!!」


 ハンマーがエバー・グリーンに光る。

 戦槌AS『ヘビースマッシュ』。

 大上段に構えたハンマーが、右拳を叩き壊した。

『ヘビースマッシュ』は強力だが、技後硬直が長い技だ。誰も援護してくれない状態で使えば、反撃されるリスクが高い。現にゴーレムの左拳がハルトに迫る。


 だが、そんなものスキルの組み合わせでどうとでもなる。

『縮地』で一気に距離を取る。その時『ヘビースマッシュ』の技後硬直はキャンセルされる。『縮地』による技後硬直は発生するが、『ヘビースマッシュ』の長い技後硬直に比べたら短いので、隙が軽減できる。 


「グ、グ」


 硬いだけで動きの遅いゴーレムは、技後硬直が終わるまで何も出来なかった。


「ハハッ!」


 ハルトがヒットアンドアウェイで、ゴーレムを少しずつ砕いていく。

 ゴーレムはハルトの速度についていけない。VITに特化して、AGIを犠牲にした弊害がここで浮き彫りになった。


「最強ってのはな、一芸に秀でた特化型じゃなくて、何でも出来る万能型だってことを教えてやる!!」


 ハルトが気勢をあげ、激しいラッシュで攻める。

 殴る、蹴る。殴る、蹴る。……言葉にすると、いじめかDVに見えるのはなぜだろう。


「やった!」


 ハルトが圧倒的暴力もとい、圧倒的攻撃力でゴーレムの両足を再起不能にすると、クリスが歓声をあげた。

 しかし、その声に反応したかのように、ゴーレムがクリスをターゲットする。

 ゴーレムの胸の宝玉が輝き始める。クリスは竦んでしまい逃げられない。


「くっそ!」


 ハルトは慌ててクリスに駆ける。

 宝玉から熱線が発射されるのと、ハルトがクリスのもとに辿り着いたのは同時だった。

 ハルトはクリスを咄嗟に突き飛ばした。お蔭でクリスは射線から外れることができた。だが、ハルトは間に合わない。


「ぐ、ぐぅ」


 熱線がハルトの左半身を焼く。


「どうしてですか!」


 熱線が収まった後、クリスがハルトに詰め寄る。ハルトは倒れ込んでいる


「私は傷を負っても治るんです! なのに、何で庇ったりしたんですか!」

「いくら治るといっても痛いものは痛いだろうが」


 傷ついた体に鞭打って、ハルトが立ち上がる。必死に平気そうな顔をしているが痛いものは痛い。


「そうですよ、痛いですよ! でも治るからいいだろうって、誰も気にしてくれなかった! あなたもそうなんでしょう!?」


 クリスが叫ぶ。責めているような口調だが、ハルトには違うと否定して欲しくて必死になっているように感じた。

 ハルトはクリスの叫びには答えず、ゴーレムに視線を戻す。空気の読めないゴーレムが再び宝玉を輝かせ始めたからだ。


「逃げてください!」


 クリスが悲鳴のような叫びをあげて、ハルトの前に出る。盾になるつもりのようだ。


「そうする。まあ、お前も一緒にだけどな」


 ハルトはクリスを小脇に抱えると、大きく跳躍して熱線を躱した。クリスが目を見開く中、悠々と着地を決める。その時には既に傷は治っていた。


「え? なんで?」


 クリスは呆然としている。当然だろう、大けがしたばかりなのに機敏に動いているのだから。


「傷が治るのが自分だけだとでも思ったか?」

「うそ……」


 まるで能力を過信した敵にいうセリフのようだ。敵ならばそんなばかなとでも言いそうだが、クリスは言葉もないといった様子だ。


「ギ、ゴ」


 ゴーレムが三度宝玉を輝かせる。


「ったく。今いいとこなんだからちょっと待ってよ」


 発射された熱線を再び跳躍で躱す。もちろんクリスは抱えたままだ。

 しかし、ゴーレムも学習しているようで、空中にいるハルトを狙い撃ちにする。


「甘い、甘すぎる」


 ハルトはニタリと笑うと、空中でもう一度跳躍した。足元には〟断壁〝が、いつの間にか出現していた。


「うおおおぉぉーー!!」


 ハルトは最高到達点に達すると、ハンマーを掲げる。ハンマーをモスグリーンに輝かせながら前転しながら、猛烈な勢いで落下を始めた。もちろんクリスを抱えたまま。


「いっ、やぁーーーーー!!」


 ちなみにサマーソルト系のASは前転すればするほど威力が高まる。普通は何回転もするほど滞空時間を稼げないし、回転数が増えると標的に当てづらくなるので一回転なのだが、今回は滞空時間はバッチリだし、標的は動けないゴーレムだ。しかも熱線を無理に連発した反動か動きが鈍い。当て放題だ。

 ただ、クリスは視界がぐるぐるして悲鳴をあげている。


「こいつでトドメだ!!」


 戦槌AS『サマーソルトスマッシュ』。頭部を完全に破壊されたゴーレムは細かい粒子になって消えた。


「勝った?」


 地面に下ろされたクリスは、まるで信じられないという顔をしている。


「なんだ、俺が負けるとでも思ってたのか?」


 ハルトは嬉しそうにニヤニヤしている。すげえドヤ顔だ。うぜえ。


「だって、熱線が当たると思ったから…。なんで避けられたの?」

「刻印魔法で空中に障壁を張ったんだ。それを足場にした」

「そんなの聞いたことない…」


 ハルトはクリスが驚いてるのを見てご機嫌だ。

 クリスは若干不服そうだ。むーっと剥れている。


「私のステータスが解放されたら、ご主人様のこと教えて下さると言いましたよね?」

「言ったっけ?」

「言いました」


 問い詰められてハルトはとぼけたが無駄だった。


「楽しみにしてますからね」


 そう言うと、クリスの体が淡い光に包まれた。まるで光の繭のようだ。


「まったく」


 口調とは裏腹に、しょうがねえなーといった顔をしたハルトはふっと力を抜いた。だが、完全に警戒が緩んだ瞬間、声が響いた。


「ところがぎっちょん!」


 トスっ

 軽い音がして、ハルトの胸から剣が飛び出た。


「がぁっ!?」


 ハルトが驚愕する。いつの間にか後ろに何者かが立っていたからだ。


「ご主人様!」


 クリスも光の繭の中で驚愕している。


「くっ!」


 ハルトは前に飛び出し、体から剣を抜く。傷口からはおびただしい量の血が噴き出る。凄まじく痛い。

 後ろを振り向くと、青い肌をした悪魔が立っていた。前に死闘を演じたアゲインストより体は細いが、同じくらいのプレッシャーを感じる。


「お前何者だ?」


 ハルトが胸を抑えながら、悪魔を睨み付けた。

 悪魔は恭しく答える。慇懃無礼さが滲み出ている。


「私の名はブルタール。上級悪魔です」


 ハルトの顔が苦みきる。ここでの不意打ちは想定外だった。それに、なぜか傷が塞がらない。


「不意打ちとは汚い真似してくれるじゃないか」

「悪魔は卑怯でなんぼですよ。……ああ、アゲインストは例外ですよ。あいつが異端なだけです」


 ブルタールは飄々としているが、暗にハルトとアゲインストが戦ったことを知っていると言っている。食えない奴だ。


「アゲインストが殺されたので、もしやと思い網を張っておいて正解でした」

「ちっ!」


 どうやら、ハルトは罠に嵌められたらしい。

 だが、どうやって。このダンジョンにはベル(・・)の封印は無いはずなのに。


「その剣になんか仕掛けでもあんのか?」

「おや、気づきましたか」


 ブルタールの持つ剣は細く尖っている。いわゆるエストックと呼ばれる武器だ。エストックは刺突剣とも呼ばれ、突きに特化した剣だ。切っ先が尖っているだけで刃はないので斬撃は繰り出せないが。


「このエストックには傷の回復を妨げる効果がありまして。回復魔法だろうと、あなたの体質だろうと一定時間は効きませんよ。まあ、それでもあなたは殺せませんが」


 ブルタールが黒く禍々しいエストックを振りながら講釈垂れている。ニタニタ笑っていて鬱陶しい。


「殺せないとわかっていながらご苦労なことだな」

「殺せないといっても、それはエストックではということですよ。あなたを殺す方法にちゃんと準備してあります」


 次の瞬間、ハルトの足元に黒い魔法陣が現れた。



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