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器用貧乏とフルメタルゴーレム2

 


 ゴーレムの拳がハルトに迫る。ただし、スピードは速くない。むしろ、遅いくらいだ。

 ハルトは掻い潜って避けると、そのまますれ違い様に脛を叩く。


「うへぇ、硬え……」


 顔をしかめると、走って距離を取る。


 ギギ、ギ……


 ゴーレムは振り返ると、拳を握り、腕を真っ直ぐ前に伸ばした。


「?」


 ハルトが訝しんでいると、ゴーレムの肘から先が切り離されて飛んできた。


「なあ!?」


 完全に虚を突かれたハルトは避けることが出来ず、まともに喰らってしまった。

 トラックと正面衝突したくらいの衝撃に襲われたハルトは堪らず吹き飛ぶ。


「ぐはっ!!」


 床を転がり、肺の中の空気が飛び出る。

 切り離された腕はゴーレムの元に飛び、何事も無かったようにくっ付いた。


「ロケットパンチだと……」


 ハルトがフラフラと立ち上がる。とっさにハンマーを盾代わりにして、ダメージを軽減したのにこのザマだ。


 ゴーレムが再び拳をハルトに向けて、ロケットパンチを放った。

 ハルトは内心どこのスーパーロボットだ! と罵りながら回避行動を取る。

 なんとか躱すと戻っていく腕を観察する。さっきはよく見えなかったのだ。


 ゴーレムの腕は切断面から炎が吹き出しており、それを推進力にして飛んでいるようだ。まんまロケットパンチである。


 ゴーレムに思考があるかどうかは知らないが、ハルトがロケットパンチを躱すのを見て、攻撃方法を変えてきた。


「グ、ゴ」


 謎言語と共にヒュウーと音が聞こえる。目を凝らせば、ゴーレムの人間でいう口の辺りにあるスリットに空気が吸い込まれていくのが見える。

 数秒後、吸い込みが終了した。ハルトは嫌な予感がした。だって、普通は吸った後にすることといえば……。


 次の瞬間、ゴーレムのスリットから何かが飛び出した。

 ハルトは直感に従って、転がるように避ける。

 数秒前までハルトがいた地面がズパッと切れた。どうやら鎌鼬かまいたちのようだ。


 何とか避けたハルトだが、安心するには早かった。何故ならゴーレムが次々に鎌鼬を繰り出したかりだ。

 そう、息は吸ったら吐くのが鉄則だ。ただ、吐き出されるのが鎌鼬とは随分と危険な深呼吸である。


「うわぁっ!」


 無様にゴロゴロ転がって避ける。見映えなんて気にする余裕は無い。

 なんとか全て躱して、起き上がる。


 ゴーレムは一旦動きが止まった。目がチカチカ点滅しているところを見ると、何かを考えているのかもしれない。どことなく演算中のロボットっぽい。


 ハルトが再び距離を詰める。

 反応したゴーレムがロケットパンチを飛ばすが、躱して跳躍する。

 ハンマーがモスグリーンに染まる。戦槌AS『サマーソルトスマッシュ』、空中で一回転して威力の乗った一撃がゴーレムの右肩を叩く。


 ガッキィッン!!


 やはり、硬い。まるでアルファベットのつく超合金のようだ。あまりの硬さにハルトのハンマーが欠けそうな勢いだ。てか剣だったら刃こぼれ確実である。


 ハルトは着地するやいなや戦槌AS『デュアルスマッシュ』を脛に叩き込むが、小揺るぎもしない。


 ゴーレムは腕が戻ると、空気を吸い込み鎌鼬を吐き出す。

 ハルトは堪らず、飛び退く。避けきれない分は、『縮地』を使って大きく距離を取って躱す。


「厄介だな」


 ハルトとゴーレムは互いに決定打を与えられなくて、戦闘は膠着している。ハルトの攻撃はダメージが与えられず、ゴーレムの攻撃は当たらない。にっちもさっちもいかないのだ。


 さて、どうしたものかとハルトが思案していると、ゴーレムの目がまたチカチカし出した。

 今度はなんぞやと身構えると、ゴーレムの胸の中心にある紅い宝玉が光り始めた。

 実は胸の宝玉はさっきから怪しいなと思ってはいた。ゴーレムのコアか何かではないかと考えていて、そろそろ攻撃しようかなと思っていたのだ。


 キュィィン!!


 ヤバめな音と共に、何かがチャージされていく。


「やばっ!」


 ハルトが呟いたと同時に、ゴーレムの宝玉から熱線が照射された。


「くっ!」


 ハルトは咄嗟に体を右に倒して、地面を踏み切る。

 熱線はハルトの左側ギリギリを通り抜けた。直撃はしてないのに凄まじい熱が襲い、汗が吹き出る。髪の毛はチリチリになってしまった。

 外れた熱線は地面に当たり、爆発を起こす。


「ご主人様!!」


 クリスが心配そうな声をあげるが、ハルトは爆発で砂煙が舞い視界が悪くなったので、隠蔽スキルを発動させた。

 そのまま、ゴーレムの後ろに回り込む。近づきすぎて気取られないように、ちゃんと距離を取る。

 ゴーレムはハルトを見失ったようだ。


「お前の大体の能力は解った。単なる硬さ自慢だな」


 ハルトはストレージから、次々武装を取り出した。

 取り出されたのは、連結された大量のナイフだった。鞘に入ったままのナイフはまるで重機関銃の弾帯のように連なっている。

 弾帯とは横一列に並べた銃弾を金属のベルトで繋げたもので、リンクベルトとも呼ばれている。マガジンよりも大量の銃弾を装填出来るのが利点だ。


「このダンジョンのボスがゴーレムだってことはベルから聞いてた。ここまでの硬さは予想外だったが、ゴーレムであることに変わりはない」


 そう、ハルトはベルからダンジョンの簡単な話を聞いていた。そして準備をする時間はいくらでもあったのだ、ハルトが何も準備していないはずがない。


「グ、ガ」


 ゴーレムがハルトに気づいたようで、向き直る。


「こっからは俺の番だ!」


 ニィィイとハルトの口角が吊り上がった。


 ゴーレムが拳をハルトに向けようとするが、それよりも速くハルトの手が閃く。

 すると、ハルトの正面に魔方陣が浮かび上がった。魔方陣からは即座に炎の弾丸が生み出され、高速で発射された。


 ドンッ!!


 炎の弾丸が当たったゴーレムが一瞬硬直する。しかし、ほんの一瞬のためすぐに動き始めようとする。そこにまた炎の弾丸が着弾した。

 ゴーレムは炎の弾丸が当たる度に僅かに硬直する。硬直が解ける度に炎の弾丸が当たるので、ほとんど動けていない。


 普通はここまで連続で魔法を放つことは出来ない。だが、ハルトの刻印魔法がそれを覆す。

 弾帯状に連結されたナイフには“炎弾〟が刻印されており、まるで機関銃から発射される弾丸の如きスピードで放たれる。


 ドドドドッ!!


 ハルトはナイフに刻印した分を撃ち尽くしたが、次はナイフの鞘に刻印した分を放ち始めた。先程撃ち尽くしたのと同数の“炎弾〟が、もう一度発射される。


 しかし、いくら弾数が多かろうと“炎弾〟では大したダメージは与えられない。現にゴーレムの体は熱で赤くはなっているが、外傷は無い。


 ハルトはそんなの想定通りと、鞘の分の刻印魔法も全弾撃ち尽くしてただのナイフに戻ったナイフを投げ捨てる。

 どうせ刻印するなら、もっと強い魔法を刻印しろよと思うかもしれないが、そうもいかない事情がある。


 刻印魔法の一種である武装刻印には幾つかの制限がある。

 まず、予め武装に刻印を施しておく必要があり、どんな魔法でも刻印は可能だが、その魔法一つで自分の総魔力量を超える魔法は刻印出来ない。これは空中刻印と同じだ。

 次に、武器の性能によって刻印出来る魔法のキャパシティが決まっている。簡単に言えば、ひのきの棒にメラ○ーマは刻印出来ないのだ。


 つまり、店売りの安物ナイフには“炎弾〟のような低級の魔法しか刻印出来ない。ハルトの財力なら強力な武器も大量に買えるが、かなり目立つし、そもそもボルタに強力な武器は数える程しかなかった。


 だが、ハルトにかかれば安物ナイフも有効に活用出来る。要は使い方だ。


 ハルトは次のナイフの弾帯を構える。

 そして、またもや刻印魔法を発動させる。しかし、今度飛び出したのは“炎弾〟ではなく、青く透明な水の弾丸、“水弾〟だった。


 “水弾〟は文字通りただの水の塊であり、ぶっちゃけ大した威力は無い。だが、ハルトの戦略の肝といっても過言ではない。


 “水弾〟がゴーレムに当たると、ジュゥゥと水分が蒸発する音がした。ゴーレムの体が熱すぎて、“水弾〟が蒸発したのだ。


「よし」


 次々に“水弾〟が当たり、蒸発していくのを見て、ハルトは笑っている。狙い通りだからだ。

 全弾撃ち尽くす頃には、辺りに水蒸気が満ちていた。


 ハルトがどうなったかと目を凝らしていると、水蒸気を突き破って拳が飛んできた。

 しゃがんで避けると、ロケットパンチは戻っていった。

 水蒸気が晴れると、そこには無傷のゴーレムがいた。むしろ、熱で赤かった体も元の色に戻っている。


 しかし、ハルトは気にせずに次の弾帯を構えている。

 今度は“炎弾〟だった。撃ち尽くすと次は“水弾〟を。どんどん交互に繰り返していく。


 ピキッ


 幾度か繰り返していく内に、ゴーレムの体に変化が訪れた。体に亀裂が出来始めたのだ。


「どうして……?」


 クリスが目を見開く。

 普通に考えれば、何発当てようが低級の魔法では、あのゴーレムに有効なダメージは与えられない。そのはずだった。


「簡単な話さ。あいつの体が何で出来てるかは知らないけど、ゴーレムなんだから石とか金属だろう。なら急激な温度変化で劣化する」


 この世界はゲームではない。ヒットポイントなんて存在しないし、ターン制で攻撃する訳でもない。この世界は現実だ。

 ゲームだったらダメージが小さい攻撃でも、いつかは倒せるだろう。ヒットポイントを削りきればいいのだから。

 でも、現実ではそうもいかない。効かない攻撃は効かないし、ヒットポイントは無いから、ダメージが小さいとまず倒せない。


 これだけ聞くと、現実はなんてクソゲーなんだと思うが、現実ならではの利点もある。それは、現実の法則が適応するということ。


 魔物の種類にもよるが、お腹は空くし、睡眠も取る。体調の悪い日もある。

 そして、ゴーレムのような無機物の魔物は摩耗もすれば、劣化もする。


 つまり、ゴーレムの体は急激な温度変化に体が耐えられず、体がひび割れたということだ。

 ハルトはそれを狙って炎と水を打ち出しまくったのだ。そのため、攻撃力は激低だけど、キンキンに冷えた“水弾〟を使った訳だ。まさに、現実ならではといったところだろう。


「さて、ボロボロになったけど、元のような防御力は維持出来るのかな?」


 ゲームならば、いくらヒットポイントが削られようと防御力は変わらない。しかし、現実はゴーレムはダメージを受ければ体が損傷して防御力が下がる。


「グ、グ」


 ゴーレムが拳をハルトに向けようとするが、心なしか動きが鈍いように感じる。


 発射されたロケットパンチを躱すと、ハルトは後ろに大きく跳躍した。

 そして、次の武器を構える。野球ボールより一回りくらい小さい鉄球のようだ。


「くらえっ!!」


 鉄球がレモンイエローに輝き、次の瞬間高速で撃ち出された。それも、連続で十発。

 投擲AS『ガトリングスロー』。

 鉄球はゴーレムの体に吸い込まれるように、全弾直撃した。あまりの威力に鉄球がめり込んでいる。


「かーらーの」


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!


 衝撃音が轟く。

 音の発生源はゴーレムらしく、体からパラパラと破片が溢れている。


「やっぱり防御力は下がってるな」


 衝撃音の正体は鉄球に刻印された魔法“衝放〟だ。“衝放〟は振動魔法で、簡単に言えば衝撃波を無差別に放つ魔法である。

 しかし、刻印魔法は少量とはいえ魔力を刻印に流さなければならないので手元に刻印がなければ使用出来ない。なので本来はゴーレムの体にめり込んでいる鉄球の刻印は使用出来ない筈だった。

 だが、ハルトの刻印魔法は熟練度の習熟が進み、とあるスキルModを習得して、その問題は解決した。

 〔遅延発動〕、効果は魔力を流してから発動までの時間をある程度任意に設定出来るようになること。

 これによって、鉄球を投げる際に魔力を流し、発動のタイミングを数十秒後にしておけば、先程のようなことが可能になるのだ。


「さあ、終わりにしようか」


 ハルトが一歩踏み出すと、ゴーレムが後ずさった。

 ゴーレムには感情など無いはずなのに、それはまるで怯えているかのように見えた。



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