器用貧乏とフルメタルゴーレム1
ゴーレムは子どもが岩を適当にくっ付けたような不恰好なような姿だった。身長はハルトと変わらない、180㎝くらいだろうか。腕が長く、足が短い。とてもバランスが悪い。
「情報通りだな」
ハルトはニヤリと笑うとハンマーを振りかぶった。
実はベルからある程度情報を貰っていたのだ。
ダンジョンの構造は全三層。魔物はゴーレムのみ。なのでハルトはゴーレムに有効な打撃武器であるハンマーを装備している。
ゴーレムがガチャン、ガチャン派手な音を立ててハルトに近づいてくるが、あまりの遅さに欠伸が出る。
「おら!」
ゴシャ!!
ハンマーを脳天に喰らって頭が潰れた。
ゴーレムは頭を破壊するまで止まらない。魔物といっても無機物なので痛みも感じないため意外と厄介な相手なのだ。
ギッ、ギギ……
ゴーレムは動きを止めて粒子になって消えた。ドロップアイテムは鉱物だった。
「ま、こんなもんか」
ハルトの余裕そうな言葉にクリスは狐に摘ままれたような顔をしている。どんな魔物が出るのかと戦々恐々していたら、ハルトが一発で倒してしまったからだ。
だがそれは早計である。ゴーレム、正式名ストーンゴーレムは冒険者ランクではCランクはないとソロで倒すのは厳しい。ハルトは鼻歌混じりに倒せるが、一般的な冒険者では苦戦する。
その後もハルトはゴーレムを文字通り粉砕しながら、ダンジョン内を闊歩する。一層をお散歩感覚で突破すると、二層では大量のゴーレムに集られた。
しかも二層のゴーレムは硬度が上がっているようで、流石にハルトでも一撃では倒せず、なかなか前に進めないでいた。
だがハルトがちょっとやる気を出せば万事解決。
体の各部を軋ませながら迫るゴーレムの攻撃を受け流し、隙を見て反撃。しかし、ゴーレムは一撃では破壊できず数も多い。一層ではこれで勝てたのだが、時間がかかりそうだったので戦い方を変えた。
攻撃を真正面から受けとめ、弾く。
武器防御AS『ウェポンパリィ』
ハンマーがブラウンに光り、ゴーレムの拳を弾き飛ばす。
ゴーレムの体勢が崩れた隙に戦槌AS『シングルスマッシュ』を発動させる。ハンマーがグリーンに輝く。
「スマッーシュ!!」
某ヒーローのようなかけ声とともにハンマーが振るわれ、ゴーレムは木っ端微塵になった。
弾く、粉砕。弾く、粉砕。弾く、粉砕。ゴーレムの数がみるみる減っていく。
そして、最後の一体を粉砕すると辺りに静寂が戻った。
ちなみにクリスはハルトの後ろでプルプルしているだけだった。ステータスオール1の彼女になにか求めるのも酷な話ではあるが。
いよいよ二層も突破し、三層に上がる。
三層は真っ直ぐの通路と通路の奥の大きな扉しかない。扉からはボス部屋っぽい匂いがぷんぷんしている。
「おお、いかにもボス居ますよ!って感じだなあ」
ハルトはやっぱりのほほんとしている。観光客じゃないんだから。
隣のクリスなんか青い顔してお腹に手を当てている。緊張し過ぎてお腹痛いんだろう。
「なんでそんなに楽しそうなんですかぁ……。もしかしてバトルジャンキーなんですかぁ?」
クリスが嫌そうな顔して聞いてくるので、ハルトはニッコリ微笑む。あまりの胡散臭さにクリスが後ずさった。
ハルトは微笑みながらクリスに近づくとお腹を指でツンツンし始めた。緊張のあまりお腹が下り龍なので、効果は抜群だ。あっという間にお腹のヒットポイントがレッドゾーンに突入する。
「や、やめてぇ。お腹つつかないでぇ」
クリスは半泣きで堪えている。ハルトは菩薩のような微笑みでツンツンを続行する。鬼畜である。
「ら、らめぇ……。で、でちゃうぅ……」
クリスの尊厳がいよいよやばくなったところで、ハルトのツンツンが止まった。ギリギリセーフ。
しばらく蹲ってひっひっふーとやっていると持ち直したようで、恨みがましい目でハルトを見ている。
「酷いです……」
ハルトはまったく気にしてません!っといった表情でサクッと無視すると、ストレージからポーションのような物を取り出した。
「緊張は解けたか? 気分が良くなるおクスリだ、飲んどけ」
台詞だけだとヤバイ薬にしか見えないが、どうやら普通の店売りのポーションのようだ。
「うー……」
確かに緊張は解けたのだが、いまいち納得のいかないクリスは唸りながらポーションを受け取り、飲み干す。たちまちお腹の調子が良くなった。
これ、日本で売ったらかなり売れるのではないだろうか。どんな栄養ドリンクよりも栄養ありそうだし、肩凝りや腰痛にも効きそうである。サラリーマンから人気が出そうだ。
「よし、行くぞー」
ハルトはクリスの顔色が良くなったのを確認すると、扉の前に立った。
どうやら、クリスを心配してリラックスさせようとしたようだ。バトルジャンキーと言われてイラッときた訳ではないと思う。たぶん、おそらく、きっと。
「はい!」
クリスの返事を聞きつつ、ハルトは生体魔法を発動させる。“豪刻〟“尢閃〟“天冑〟によって身体能力が強化される。
肩をぐるぐる回して気合いを入れると、一気に扉を押し開いた。
「ほー」
ハルトが辺りを見回して関心している。扉の中は像やら祭壇やらあって、とても神聖で尊厳な雰囲気だからだ。パンデオンというのがしっくりくるかもしれない。ただ、ハルトの残念な感性だと、なんか重要な場所っぽい!っというのが限界だったりする。
「さてと、なにが出るかな?」
ハルトが警戒していると、突然地面が揺れ始めた。
「何だ? 地震? んな訳ないか」
「ご主人様! 上です!」
クリスの声でハルトが上を見ると、天井の一部がスライドして開いていた。
そして、そこからゴーレムがゆっくりと降りてくる。どうやら天井から吊り下げられた足場が少しずつ降りているようだ。
足場が完全に床に着くと揺れは収まり、ゴーレムが動き始めた。
「なるほど、コイツがボスか」
索敵スキルで確認すると、ゴーレムの正式名はフルメタルゴーレムと言うようで、名前の通りにとても硬そうだ。大きさも高さは五メートル程あり、威圧感も半端無い。
実際クリスはハルトの後ろで震えている。
「クリス、離れてろ」
震える足でなんとか離れるクリスを横目で確認しながら、ハルトはハンマーを両手で握り締める。
ハルトは軽く息を吐くと、ゴーレムに向かって走る。瞬く間に距離を詰め、ハンマーを振るう。
戦槌AS『シングルスマッシュ』、グリーンに輝くハンマーをゴーレムの右脛にぶち噛ます。
ガキィン!!
「硬え!」
ハルトのASをまともにもらったのに、ゴーレムの足には掠り傷しかない。体が硬すぎるのだ。
ゴーレムが踏み潰そうとしたので、ハルトは慌てて飛び下がる。
「なら、これはどうだ?」
距離を開けたハルトはゴーレムに手をかざす。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に迸る稲妻の渦で敵を焼け “雷渦〟!」
雷の渦がゴーレムを呑み込むが、ゴーレムはへっちゃらのようで何事も無かったかのように動いている。
「機械系のゴーレムなら雷浴びせれば、何かしら反応があるかと思ったけど、何も反応無いからロボットぽいタイプじゃないのか」
ハルトは何やら独りごちだ。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に燃え盛る炎の弾丸で敵を燃やせ “炎弾〟!」
一瞬だけ魔法が当たったところが赤くなったが、すぐに元に戻ってしまった。どうやら魔法にも強いようだ。
「こりゃ、面倒くさいな」
攻撃をものともせずゴーレムが接近してきた。
そして、次はこっちの番だと言わんばかりに腕を振り上げた。




