表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/67

器用貧乏と野営

 


 盗賊を一網打尽にしたハルト達は、その後は特に襲われることなく森の入り口までやって来れた。盗賊達の血の臭いに魔物が集まっているからだろうか。


 森の入り口で馬車を止めると、ハルトとクリスは馬車を降りた。

 案の定、森の中は馬車で入れない程鬱蒼としている。

 ハルトは馬車を置いていくことにした。まあ、置いていってもいいように安い馬車にしたので問題は無い。

 馬をそこら辺にある木に繋ぎ、逃げられないようにする。このままではその内魔物に襲われるだろうから、帰ってくるまで生きてればいいなと軽い気持ちでである。

 馬車にははなっから荷物など無いので放置。


「すぐ見つかるといいけど」


 ハルトは一人ごちて森に入る。後ろにはクリスが続いている。

 ベルからは森の中にあるというざっくりとした説明しかされていなかったので、見つけるのにどれだけの時間がかかるかと思っていたが、森に入ってしばらくするとクリスがそわそわし始めた。


「どうかしたか? トイレか?」

「ち、違います。なんか向こうに何かあるような気が……」


 ハルトの堂々としたセクハラに顔を赤らめながらもクリスは右の方を指差している。

 気のせいかも知れないと言ってはいるが、クリスがいなければ見つからないというくらいなら、そういうこともあるだろうとハルトはクリスの指差す方向に進む。どっちにしろ右も左もわからないのだから。



 そのまま捜索を始めて半日が経過した。適度に休憩を入れていたが、流石にハルトも飽き…………疲れてきた。

 しかし、クリスが言うには着実に近づいていて、凄く近くに何かを感じるようなので頑張って歩いている。

 そもそもレベル49の奴が半日森を歩くだけで疲れる訳がないのだが。


「やれやれ、なかなか見つかんないな」

「も、もうすぐだと思います」

「別に怒ってないからそんなビクつかなくてもい…………ん?」


 ビクビクしているクリスをなだめながら歩いていると、なにかを通り抜ける感覚があった。

 まるで透明な膜を通り抜けたような感じだった。


「なんだ?」

「ご主人様、前を!」


 ハルトが前を見ると、いつのまにか遺跡のようなものが出現していた。


「さっきまではなかったのに。……まさか結界みたいなので隠されてたのか?」


 どうやらダンジョンは結界に隠されていたようで、ベルがクリスがいないと姿が見えないと言っていたのはそのためだろう。おそらく、クリスがいないと結界を抜けられないとかそういうのに違いない。


「ここで私の封印が解ける……」

「張り切っているとこ悪いんだけど、もう遅いから今日は入らないぞ」

「えっ」


 クリスが遺跡を見ながら決意を新にしているが、今の時間は黄昏時である。もうすぐ夜なのでハルトとしては、今日はダンジョンには入らず野営する予定だったりする。


 結界中は魔物も近寄って来ないようなので、ハルトは安心して食事の準備を始める。ちなみにハルトは飲食店でのアルバイト経験があるので料理は出来るのだ。さらに料理スキルも器用貧乏なので、普通に店を出せるレベルの腕前を持っている。


 本日の夕食はシチュー。町で具材を切ってからストレージに収納したので、取り出して後は煮込むだけ。料理スキルを全力で無駄遣いしている。


 煮込んでる間、クリスを観察していると随分と落ち着きがない。元がどれだけ強かったのかは知らないが、それが戻ると思えば仕方がないかもしれない。


「落ち着け、ベタだけど別にダンジョンは逃げないから」

「あ、はい……」


 煮込むことしばし。完成したシチューとストレージに収納していたパンを食べる。

 普段ならご主人様にご飯を作らせるなんてとんでもないと、クリスが自分で作りそうなものだが今日は何も言わない。それどころかハルトから差し出されたシチューを普通に受け取って食べている。だいぶ重症なようだ。


「美味いか?」

「はい。とても美味しいです。…………………………ん? あれ?…………あっ! 申し訳ございません! ご主人様にお料理をお任せてしまって」

「いや別に。具材入れて煮込んだだけだし、気にすんなよ」


 クリスはアワアワしていたが、ハルトは気にせず食事を進めた。


「ご主人様はお料理もお上手なんですね」

「まあな」

「まさか料理スキルも高いなんてことないですよね?」


 クリスは気を紛らすための会話だったのだが、ハルトが返答に詰まった。


「…………そんなことはないさ」


 あれ、もしや? と思っているとなんとも嘘臭い返答が返ってきた。


「もしかして今嘘つきました?」

「…………ついてないよ」


 間が怪しすぎる。

 ハルトが嘘が下手なのか、はたまたクリスに気を許しているからなのか。

 クリスは耳をピクピクさせて微笑むと、さっきよりもリラックスした様子でシチューを食べ始めた。どうやら上手い具合に体の力が抜けたようだ。



 食後は特にすることが無いので、早々に就寝となった。

 交代で仮眠を取りながら、見張りをする。いくら謎の結界の中とはいえ魔物が出ないとは限らないので警戒は必要だ。


 最初の見張りはハルト。一人で見張ると駄々をこねたクリスは言いくるめて寝かせた。 

 日が完全に落ちて真っ暗な中、焚き火の炎だけが辺りを照らす。


 クリスは寝袋の中でばんやりと今日一日の出来事を振り返っていた。


(結局、ご主人様はどんな人なんだろう?)


 盗賊を殺した時は、その残酷な殺し方で冷酷な人に見えた。でも、さっきは私を気遣って優しくしてくれた。まったく心の無い鬼畜外道には思えない。


 ご主人様はただ冷たいだけの人ではない。暖かいところもある。私にしか見せてないけど。そう、まるで私だけには優しいような。

 その考えに至った瞬間、心臓が跳ねて、体温が上がり、顔が赤くなった。

 クリスは何でもない、何でもないと自分に言い聞かせながら眠りについた。


 見張りで起こされた時に顔が近くて驚いたとか、見張りの間中ハルトの寝顔が気になって仕方なかったとかクリスは色々あったが、魔物が出ることは無かった。










 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~











 朝になって簡単な食事を摂ると、ハルトとクリスは遂にダンジョンに突入した。


 ハルトの装備は店売りのインナーに店売りのぴったりめなズボン、どちらも店で一番高かった物だ。ズボンの上には膝当てと脛当て。インナーの上にはブレストプレートと肩当て、肘当て、腕当て。これらは闇市で購入したフルプレートアーマーから部分部分を使っている。

 闇市でのフルプレートアーマーの部品には部品ごとにSTRのボーナスがあるので、かなりSTRが強化されている。さらに器用貧乏の効果でAGIとVITも同じだけ強化さらている。チートである。


 武器は左側の腰にエリートゴブリンソードを装備し、太股のベルトには投擲用の武器を複数装備。腰の後ろ側には守護の短剣を装備している。そして、手にはハンマーが握られている。このハンマーは闇市で購入した、とても重たいハンマーである。冒険者でもSTR特化型の者でなければとても扱えない。ハルトはSTRも器用貧乏なので問題は無いが。


「よっしゃ、行くぞ!」


 ハルトが意気揚々と通路を歩く。床は大理石のような材質で、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 クリスはキョロキョロ辺りを見回している。彼女の心境からすれば致し方ないだろう。


 しばらくハルトとクリスが通路を歩いていると、前方から何かが近づいてくる。周囲にはガチャン、ガチャンと音が鳴り響いている。


「来たか」


 ハルトがハンマーを両手で握って構える。


 音が止まった。ハルトとクリスの前に現れたのはゴーレムだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ