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勇者達のダンジョン攻略6

勇者編終了です

 



 守たちは始めこそ勇者二人が先走ったため連携が出来ずに苦戦していたが、拓真達がコボルトを一掃し、守達と合流すると一気に盛り返した。


 二大勇者のステータスでのゴリ押しで倒せる筈だった。しかし時間が経つにつれてコボルトキングがなぜか強くなっていった。


「なんだ!?」


 守が困惑する。生体魔法を掛けてからは互角に切り結んでいたのに段々と押され始めていた。


「こいつ少しずつ強くなってるわ!」


 守達がもしやと思っていることを凜が言った。


「どうしてだ? もしかして時間が経てば経つほど強くなるのか!?」


 動揺して太刀筋を乱した守はコボルトキングの攻撃を捌ききれず浅く切られた。左腕から鮮血が散る。


 コボルトキングの剣を巨大な肉切り包丁で、大きさは大剣と見紛う大きさである。まともに喰らえば痛いではすまない。


「守!!」


 凜と錬也と猛男が守を守るように前に出る。三人で猛攻を加えるが、全然コボルトキングの攻撃を抑えられない。


「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に傷を癒せ “回癒〟」


 レイラの回復魔法によって左腕の傷が塞がっていく。しかし、流れ出た血液までは回復出来ないので体力は落ちている。


「どうしてあんなに強くなったんだ?」


 治療中の守が必死に頭を回転させるが答えは出てこない。


「くっそ! 援軍はまだか? アレクさん達は?」


 守が後ろを振り返った。

 この時、大河達は後衛の魔法発動までの時間を稼ぐために前衛が時間稼ぎしている真っ最中だった。アレク達は既に扉の外である。


「な!? なんだあの数は!?」


 守は度肝抜かれた。あれでは援軍に来れる訳がない。むしろ逆に援軍に行かなければ不味いと感じた。しかし、自分達も手一杯で行けない。守の背中に冷たい汗が流れた。


(どうすればいい? アレクさん達はどうなったんだ? 扉が閉まっているのと関係があるのか? どうすればいい? どうすればいいんだ?)


 あまりの自体に守は思考停止寸前に陥った。


「守くん! しっかり!」

「あ、ああ」


 レイラの声でどうにか再起動した。


「こうなったら一刻も早くボスを倒して、みんなの援護に行かないと。それしかないよ! ね?」

「そうだな。行ってくる!!」


 レイラの言葉で迷いを吹っ切った守はコボルトキングに走りよった。


「みんな下がれ!」


 守はアビリティ『M.V.S』を発動させる。剣に魔力を流し、魔法剣にする。それにより、剣の性能が一段階上がる。


「うおお!!」


 剣の性能が上がったことで僅かに守が押し始める。

 その姿を見て凜達が続こうとしたとき、大河達の後衛が魔法を発動した。

 そして、コボルト達が一掃された瞬間、コボルトキングの戦闘力が跳ね上がった。私はまだ変身を二回残してるんですよとか言いそうな雰囲気である。言わないけど。


「うあっ!?」


 守がコボルトキングの剣を受けきれずよろけたところにAS『バーチカルスラッシュ』が叩き込まれた。直撃こそ剣を盾がわりに防いだがダメージは甚大だ。


「あぐっ!!」


 守は地面に叩きつけられ呻いた。


 なぜコボルトキングが急に強くなったのか。それは保有する特殊なアビリティが原因である。そもそもこのコボルトキングの正式名はコボルトキングアベンジャー。コボルトキングの亜種だ。

 コボルトキングアベンジャーのアビリティは『アベンジャー』。効果は仲間が死ぬほど自分の能力が強化されるというもの。

 そのため戦闘開始より少しずつ少しずつ能力が強化されていて、先程大河達が大量にまとめて倒してしまったため一気に能力が強化されたのだ。


「ぐふっ」


 守は立ち上がろうとするが喀血する。


「守ー!!」


 凜達がよってたかってコボルトキングに攻撃するがまとめて吹き飛ばされた。


「くそが!!」


 拓真はどうにか踏み留まるが他のパーティメンバーはノビている。


「なんだってんだ急に!?」


 まさか味方が敵を倒したからとは夢にも思っていない。


「守くん、大丈夫!?」


 レイラが駆け寄り守の治療を始める。だがしばらくは動けないだろう。まさに万事休す。

 拓真が破れかぶれで『リミットブレイク』を使おうかと考えたとき、コボルトキングに雷の槍が突き刺さった。


 援軍が到着したのだ。


「はああ!!」


 大河が盾ごとコボルトキングにぶつかっていく。そのまま無理には攻めずに防御重視で戦っていく。

 その間に達也達パーティメンバーが追いつく。


「援軍はお前らだけか!?」


 拓真が後ろを確認すると他の生徒達は再び現れたコボルトと戦っている。数が少ないのと遥子先生を筆頭に動きが良い者が数人いるため危なげはない。しかし、援軍を出せるほど余力は無いようだ。


 更なる援軍を諦めた拓真は『M.V.S』を発動させて大河に加勢する。そこに魔法を放ったため遅れた達也も加わる。


 しかし三人ではお話にならない。紙一重の攻防が続く。

 大河が攻撃を防ぐ、防ぐ、防ぐ。盾だけでは足りず、メイスも使って防ぐ。それでも防ぎきれないと判断した大河は腹をくくる。


「おお!」


 大河の体がコボルトキングの剣を防ぐ。全くの無傷だ。

 その秘密はPS『金剛』にある。このスキルはPSでは防御力に補正が入り、ASとして使うと一瞬だけ防御力を超強化するというものだ。ただし一呼吸の間しか効果が持続しないのでタイミングがシビアである。他にも類似のスキルに『剛力』と『縮地』があり、『剛力』は一瞬の腕力を、『縮地』は一瞬の速力を超強化する。


 似た感じのPSの『腕力』、『速力』、『耐力』はステータスに補正が掛かるだけでASとしての効果は無い。この三つは努力しだいで誰でも習得することが可能で、冒険者や騎士など戦闘に携わる者は大概身につける。

 しかし、『剛力』、『縮地』、『金剛』は習得するのに才能が大きく関わってくる。一つ習得すれば優秀。二つ習得すれば超一流。三つ習得すれば英雄である。

 生徒達は戦闘向きの能力の者ならば最初から一つ習得している。さらにこれから修練しだいで増えると目されている。まさにチート。普通は一つ習得するだけでも壮絶な努力が必要なのに。


「ギャウ?」


 コボルトキングがあまりの堅さに一瞬気をとられる。

 なぜこんな強力なスキルを今まで使わなかったのか。それはリスクが大きいからだ。

『金剛』は発動中は身動きが取れなくなる。いくら防御力が上がっていても急所を狙われれば一溜まりもない。

『剛力』は発動後、防御力がしばらく低下する。『縮地』は発動後、一瞬硬直する。

 このように強力な効果に見合ったリスクがあるためおいそれとは使えない。


「お前らだけでやってんじゃねえ!!」


 錬也と猛男と凜も加わるが上手く噛み合わない。


「くそ!! なんでだ!?」


 錬也がコボルトキングの攻撃を避けるために後方に跳躍する。


 なぜここまで苦戦をするのか。それは圧倒的にタンクが足りていないからである。

 タンク。すなわち攻撃を防ぐ壁役。ゲームでは戦士とかパラディンとか言われているが、現実は痛いだけの地味な役だ。

 生徒達は華々しいアタッカーやら魔法職やらを重視するので防御力は高くない。そのため威力の高い攻撃は避けるしかない。だから戦線が安定しないのだ。

 攻撃を防ぐ役がいないから安定して攻撃が出来ず、後衛の魔法も威力を発揮しきれない。これが苦戦の原因だ。


 生徒達で純粋なタンクは大河くらいなものである。他の生徒達は盾すらろくに持っていない。

 軽戦士の生徒は軽い盾くらいは持っているが、大河ほど強固な盾は誰も持っていない。

 まあ、だから大河の負担が増えるのだが。


「大河!!」


 達也が大河の後ろで構える。


 大河が攻撃をひたすら防ぎ、達也がその隙に攻撃する。ただあまり攻撃しすぎれば手痛いしっぺ返しをもらうので注意が必要だ。

 普通はそれだけでは十分なダメージは与えられないのだが、達也は称号『怪力』があるので一撃の攻撃力ならば勇者を越える。そのため単発で十分なのだ。


 達也が攻撃すればすかさず大河がフォローに入り、二人で攻撃と防御の役割を分ける。それぞれがステータスをグラフで表すと尖った歪な形をしているので二人ならなんとか渡り合える。


「おおおおお!!」


 達也が『剛力』を発動させて斬る。結構なダメージをコボルトキングに与えることが出来たが、達也の防御力が一分間低下した。


 コボルトキングが激昂して攻撃しようとすると真上から追撃がなされた。

 唯だ。アビリティを使い、上空より急襲したのだ。


 ぎぬろ! とコボルトキングが唯を睨み付ける。どうやら頭にきたらしい。射殺さんばかりに睨み付けている。


 そんなコボルトキングの右目にトスっと矢が突き刺さった。


「グオオオオオ!?」


 コボルトキングが激痛に悶える。射手は深雪だ。

 深雪はアビリティで気配を殺してずっと隙を伺っていたのだ。


 深雪の保有するアビリティは『ミスディレクション』。味方の存在感を盾に自分の気配は消すアビリティであり、一人でもそこそこ効果はあるが多人数での戦闘ほど効果が強くなるアビリティである。

 どこぞのシックスマンよろしく影のように気配を消して狙撃するのが深雪のスタイルだ。


 コボルトキングの表情が憤怒に染まる。

 深雪が更に矢を射るが盾で叩き落とされた。


「グオオオオオァ!!」


 深雪をぶった斬ろうとコボルトキングが突進しようとした。その瞬間コボルトキングの頭には深雪を殺すことしかなかった。


「オメエ、俺のこと忘れたな?」


 達也の大剣がアプリコットに光る。

 剣系AS『ハードスタブ』がコボルトキングの土手っ腹に決まる。

 ちなみに片手剣のハードスタブとは片手か両手かの違いだけである。


 達也のことが頭からすっぽり抜け落ちていたコボルトキングは慌てて達也に斬り掛かろうとするが、達也はさっさと剣を腹から抜いて下がる。


「狙い通りね」


 深雪は満足そうに微笑むと、呆けている勇者二人の方に向かって歩く。


 一連の流れは全て作戦通りだった。

 始めに大河と達也が前衛で粘り、注意を引き付ける。次に深雪の気配を消したところで狙撃。さらに急所を射ったことで存在感が強烈に強まった深雪を囮に達也が不意打ち。コボルトキングに大きなダメージを与えられた。

 それに今後の戦いにも有利に働く。今もコボルトキングは深雪を気にしているため大河と達也に集中しきれていない。

 ただし全てが思惑通りというわけではないが。


「いつまで呆けているの?」


 勇者二人は戦いに参加せず立ち尽くしていた。正確には大河達の連携に入っていけなかったのだが。凜達も手をこまねいている。


「俺達が混じっても邪魔なだけだ……」


 守の顔は苦りきっている。まるで認めたくない現実に直面したような顔だ。


「腑抜けてるんじゃないわよ!」


 普段は物静かな深雪が怒鳴った。あまりの迫力に守はビクッとなった。


「私達だけじゃ勝てない。あなた達の力が必要なの!」

「だけど実際蒼井達だけで勝てそうだろう?」


 しかし、守は意気消沈している。


「そんなことない。今の状態は長くは続かない。蒼井くんと中猪くんの体力は限界。SPも残り少ないはず。いずれ戦えなくなる」


 そう、大河と達也は割りと限界ギリギリなのだ。連戦で体力とSPを消費しまくっているのでガス欠気味である。


「あなたと荒井くんが切り札なの」


 守は一瞬顔を伏せたがすぐに上げた。


「わかった」


 自分の弱さに嘆いている暇はない。守は気持ちを切り替える。

 拓真も切り替えたようだ。


「合図をしたらリミットブレイクを」


 守と拓真は頷く。



 大河と達也はいよいよ限界が近づいていた。

 コボルトキングの見えない右目を使って上手く立ち回っていたが、いかんせんSPが尽きる。ASが使えなければどうしようもない。だが作戦は順調に進んでいる。あと少しだ。


 大河がコボルトキングの攻撃を避ける。しかし、膝からカクンと力が抜けた。

 コボルトキングは逃さず剣を振りかぶる。大河は盾を掲げつつわざと(・・・)ASを発動させずに受けた。

 大河は自分から飛び、衝撃を受け流した。だが傍目には派手に吹っ飛び隙だらけに見えた。コボルトキングもチャンスとみて追撃する。


 しかし、これこそが狙い。深雪はすかさず合図を出す。


「今よ!!」

「「リミットブレイク!!」」


 守と拓真から魔力が噴き出す。今や二人の能力は通常の三倍まで上昇した。二人を赤いオーラが包み込む。通常の三倍だから赤なのだろうか。ブレードアンテナもあればいいのに。


 二人が飛び出す。左右を駆け抜け、両脇腹をかっ捌く。コボルトキングは大河達に意識を取られていたので面白いように決まった。


(このまま押しきる!!)


 ダメージが溜まって動きが鈍くなったコボルトキングを滅多切りにする。

 コボルトキングの切り札であるアビリティも主力である勇者や大河達がコボルトキングに掛かりきりなので、取り巻きのコボルトがたいして倒されておらずあまり効果が無い。


「おおおおお!!」

「オラァァァ!!」


 守の剣が喉笛を切り裂き、拓真の剣が心臓を突き刺す。

 コボルトキングは一瞬の硬直の後、細かな粒子になって消えた。


「お、終わった……」


 レイラがへたりこんだ。守や拓真も膝に手をついて息を荒げている。


「まだだ」


 だが大河は武器を構えた。


「取り巻きがまだいる。倒しきらないと」


 そう遥子先生達はまだコボルト達と戦っていたのだ。考えてみれば当たり前だ。ゲームと違って現実はボスを倒せば終わりじゃない。すでにそこにいるコボルトは放っておいても消えはしないのだ。


 その後、大した手間も掛からず取り巻きは殲滅された。大半の生徒達は勝ったことに喜んでいたが、一部の生徒は素直に喜んではいられなかった。


 大河達は他の生徒達のあまりの浅慮さに。

 守や拓真達は自分達の連携の拙さに。特に守と拓真は勇者なのに戦局を打開出来なかったことを悔やんだ。またなのだ。前のダンジョンでも結局肝心なところで役に立たなかった。


 再び開いた扉を潜り、アレク達と合流しながら生徒達は各々別々の思惑を抱いていた。


 だが、まだこの時誰も気がついていなかった。

 裏で糸引くおぞましい悪意が迫っているということに。


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