勇者達のダンジョン攻略5
大河達は手近なコボルトリーダーに狙いを定める。と同時に詠唱を開始する。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に両腕に力を “豪刻〟」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に両足に力を “尢閃〟」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に肉体を堅牢なる冑と成せ “天冑〟」
全員生体魔法で身体能力を強化してから戦いを始めた。そのまま突っ込んで行って苦戦している勇者達とはえらい違いだ。何事も準備と確認は大事である。
生体魔法には肉体を強化する魔法が多い、というよりそれしかない。大河達が唱えた生体魔法はメジャーなもので近接で戦う者は好んでよく使う。
“豪刻〟“尢閃〟は攻撃力が“天冑〟は防御力が強化される。正確には“豪刻〟は腕が“尢閃〟は足が“天冑〟は体全体が強化されるのだが。他にも自然治癒力を上げたりだとか、アドレナリンを大量に分泌させたりする魔法もある。これらの魔法は強敵と戦うときは必須であり、使わないで戦うのはアホのすることであるとされている。
「おお!!」
大河がコボルトの大群に押し入っていく。大河の防御力は勇者を凌駕しており、コボルトの攻撃は当たるに任せて強引にコボルトの陣形を崩す。
メイスで殴る、叩く、潰す、盾で殴る、叩く、潰す。あれ? メイスと盾の用途が同じなのだが……。
「うおお!!」
大河が陣形を崩しきったところに待ってましたとばかりに達也が剣を担いで突撃した。
達也は大剣を両手で握って跳躍すると空中で前転した勢いを乗せて大剣を叩きつけた。
両手剣AS『サマーソルトセイバー』、現在達也が使える技で最も威力のあるものだ。ただ隙が大きいのでおいそれとは使えないのが欠点である。
達也の怪力の称号も相まって『サマーソルトセイバー』は凄まじい威力を発揮した。直撃を喰らったコボルトは消し飛び、周りにいたコボルトも衝撃で吹き飛ばされた。コボルト達の顔が引き攣る。
達也の一撃にびびったコボルト達に大河のパーティが猛然と襲い掛かる。
大河がメイスで殴り飛ばし、達也が大剣で粉砕し、唯が槍で薙ぎ払い、深雪が弓で射貫き、菜奈が散発的な攻撃を防ぐ。コボルトはどんどん数を減らしていった。
「おいお前らしっかりしやがれ! こんなんでびびってんじゃねえぞ!」
達也に怒鳴られて、固まっていた生徒達が動き出した。パーティごとに連携してコボルトを倒していく。
「アォォオオオン!!」
それに業を煮やしたコボルトリーダーが大河達に飛び掛かる。
コボルトリーダーは手に持った棍棒で大河を滅多打ちにしようとするが、大河はカイトシールドで的確に防いでいる。
攻撃が通らないことに激昂したコボルトリーダーが大振りの攻撃を連発する隙に横合いから唯が飛び出した。
唯はコボルトリーダーに走りながら、そのまま空中を駆け上がった。足元の空中には波紋が広がっている。
これは彼女の保有するアビリティ『跳舞』によるものだ。『跳舞』は空中に足場を作り、足場の反発力は地面よりも遥かに高い。欠点はMPを消費すること。
「はぁぁっ!!」
唯は空中から急降下してコボルトリーダーの背中に槍を突き刺す。
「ギャゥゥン!!」
コボルトリーダーが怯んだ隙に大河がお返しとばかりに滅多打ちにする。しかし、コボルトリーダーも負けじと打ち返し棍棒が大河の頭をかすった。
「うおっ!?」
幸い大河はヘルムを被っているので怪我は無かったが胆が冷える。コボルトリーダーは大河達でも油断出来ない魔物なのだ。
とはいっても大河は全身金属防具で固めたいわゆるフルプレートアーマーなので物理防御に関しては隙が無い。
普通フルプレートアーマーを装備すると素早さが下がる。当然だ。金属は重いのだ。しかし、大河の他の生徒達と遜色が無い。それは大河のアビリティ『防具重量軽減』によるものだ。
『防具重量軽減』は防具に限りどんなに重くても一定以上の重さより重く感じないというものである。大河が感じないだけで防具の重さ自体は変わらない。そのためどんな防具でもいつも通り動けるのだ。
大河と唯で代わる代わる攻撃を仕掛けていくが、なかなか決定打を与えられない。達也達は他のコボルトを寄せ付けないようにするので手一杯だ。
「不味い、アタッカーが足りない……」
「はい……。私だけでは攻撃力不足ですし……」
大河が達也が来るまでどうやって凌ごうかと思案していると、空気が裂かれる音が響いた。
パァン!!
それは黒い鞭だった。鞭はコボルトリーダーの頬を打ち抜いた。
鞭を辿るとそこには使い手の遥子先生が立っていた。
「邪魔よ!!」
鞭が唸り、コボルトリーダーを打ち据える。パン、パン、パンと小気味良い音が響き、コボルトリーダーは手も足も出ない。
遥子先生の称号は鞭術師といって鞭の扱いに長けた称号で、アビリティは『戦時高揚』というものを保有していて、効果は戦闘時に攻撃力が上がるというものだ。
「死ね! 犬畜生が!!」
『戦時高揚』の副作用なのか戦闘時は口が悪くなる。装備も黒のレザーアーマーなのでなんかもう……。
「…………」
「…………」
大河と唯は無言だ。いつもは優しい遥子先生が口汚く罵っているのを見るとなんとも悲しい気持ちになるようだ。
「オーホッホッホ!!」
なんか高笑いしている人がいるが大河と唯は気にしない、気にしてないったらない。
「達也!!」
大河が達也にアイコンタクトに送った。
「ああ!!」
バチコン!!
達也がウインクで返す。キモチワルイ。
「うおお!!」
本日二度目の『サマーソルトセイバー』。
空中で一回転した達也の大剣が山吹色に光る。
「サマーソールト!!」
鈍く光る大剣がコボルトリーダーの頭を粉砕し、上半身の半分ほどまで刃を埋めた。かけ声がバカっぽい。
「うおっしゃあああ!!」
刃は抜くとコボルトリーダーは粒子になって消えた。
まわりのコボルトもあらかた倒されて粒子に返っている。
「よし、こっちは片付いたな。そろそろ南や荒井達の援護に…………」
大河達が勇者達の援護に行こうとした瞬間、コボルトの咆哮が駆け巡った。
「ワォォォオオオオオンンン!!」
「なんだ!?」
あたりを見渡せば壁の穴から追加のコボルトが飛び出して来た。今度は数も増えており、コボルトリーダーも複数いる。
「これ不味くないですか?……」
唯が大河に耳打ちしてくるが顔が若干青くなっている。
なにしろ百体以上はいそうな勢いだ。コボルトリーダーも三体だ。さっきの比ではない。
「大河、アレを使う。時間を稼いでくれ」
達也は迫り来るコボルトを気にせずに言う。
こういうときにバカは頼もしい。
「任せろ」
大河は生徒達の方を向くと声を張り上げた。
「全員で陣形を組むぞ!! 大技の魔法を使える奴は後方で準備を始めろ! 他の奴は時間を稼ぐぞ!」
「「「おお!!」」」
生徒達から叫び声が返ってくる。本来なら勇者が全体の指揮を取る筈だったのに…………。勇者は好き勝手にどんぱちやっている。酷い体たらくだ。
大河と他のパーティの前衛が前に出て構える。彼等がどれだけ敵を防ぐことが出来るかで作戦の成否が決まるのでとても重要だ。
次に支援魔法を使える者が前衛に魔法を掛けていく。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に彼の者に力を “攻援〟」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に彼の者に速さを “速援〟」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に彼の堅さを “防援〟」
STRとAGIとVITが強化された生徒達がコボルトの大群とぶつかる。
大技の魔法が使えない中衛タイプの生徒達が魔法等で援護する。
敵の数はなかなか減らないが生徒達はなんとか持ちこたえていた。
「うおー!」
大河が叫ぶ。だが、ただの叫び声ではない。派生スキルである挑発のAS『ヘイトシャウト』。
派生スキルとはあるスキルの熟練度を一定まで上げると得られるスキルであり、スキルModから選択したり、いきなり手に入ったりと色々なパターンがある。
挑発スキルは金属防具か盾のスキルの熟練度を150まで上げるとスキルModから選択出来るようになる。ちなみに『ヘイトシャウト』は敵の注意を自分に引き付ける効果がある
大河がコボルトを大量に相手取って獅子奮迅な活躍をしている中、いつもはうるさいはずの達也が黙り込んでいる。
なぜなら、達也は後衛にいるからだ。
達也は称号による圧倒的パワーで敵を粉砕する前衛攻撃特化型だと思われているが、これは間違いである。
すー、はー、すー、はー。
達也が深呼吸を繰り返していると、体からマナの輝きも漏れだしてきた。
達也が保有するアビリティは『マナ・ジェネレータ』。魔力を大量に生み出し、圧縮して魔法の威力を増幅させる。魔力炉のような効果をもつ。
その威力は『リミットブレイク』状態の勇者を抜けばクラス一である。ただし撃つまで時間がかかるが。
「達也まだか!?」
大河がコボルトに群がられながら怒鳴る。
「もうちょいだ!!」
更に一分ほど大河が粘っていると達也が吠えた。
「おっしゃ! いけるぞ!!」
大河が盾でコボルトを殴りながら合図を出す。
「10カウントで一斉攻撃!!」
大河の合図で前衛が一斉に後退する。それと同時に中衛が魔法を放ちコボルトを牽制する。
「3、2、1、発射!!」
後衛の魔法が同時に発動した。
巨大な火球が、凍てつく氷礫が、鋭い風がコボルトを打ちのめす。
そして、そこに巨大な雷の渦が唸りをあげて迫った。
達也が『マナ・ジェネレータ』で強化しまくった“雷渦〟だ。
“雷渦〟はコボルトを勿論コボルトリーダーも呑み込み、消し飛ばした。達也は前衛攻撃特化型ではなく汎用攻撃特化型である。前衛だろうが後衛だろうが攻撃力特化の脳筋なのだ。
魔法の絨毯爆撃の後にはコボルトの残骸しか残らず、残骸もすぐに粒子になって消えてしまった。
「ふう。今度こそ一段落だ」
大河がやっと一息つくと他の生徒達もへたりこんだ。
しかし、ダンジョンは無情だった。
ドカァァァン!!
遠くから物凄い音が聞こえた。
大河が慌てて勇者達の方を見ると、守が地に叩きつけられたところだった。




