器用貧乏のステータス
遥子先生の必死の説得も虚しく、魔王の討伐に参加することが決定した。みんな、どこかテンションがおかしかったが、異世界なんて言われても現実感が無い。だから、リーダーシップのある守についていくのだろう。
魔王には魔族という種族が仕えているいる。つまり、種族が丸ごと敵という事だ。種族対種族なのだから、すなわち戦争だ。殺し合いだ。しかし、生徒達はそこらへんは理解していないのだろう。伊達に70年戦争をしていない国で育ってはいない。戦争は遠い世界の話なのだ。自分が当事者になるなんて、夢にも思っていない。だから想像できない。いや、想像したくないのかもしれない。
その後、ハルト達は王様に謁見するために玉座の間に移動した。
玉座の間には、騎士や文官らしき人が大勢いた。部屋は細部に至るまで豪華絢爛に作られていた。甲冑を着た騎士、マジかっこいい。
ハルト達が玉座の前に集まると、王様が威厳に満ちた声で話始めた。
「勇者達よ、ワシがこの国、エスタ・エンパイアの王であるシャルル・エスタじゃ。此度はこちらの都合で召喚してしまい、申し訳なく思っておる。だが、魔王の討伐に協力してくれると聞き、たいへん感謝しておる」
ちなみにこの国のはエスタ・エンパイアと言う国名らしく、建国300年とちょっとの歴史ある国だそうだ。
宰相さんが説明してくれているが、あまり頭に入ってこない様子のハルト達。
「私が王女のシェリル・エスタです。よろしくお願いいたしますね、勇者の方々」
王女様の自己紹介は、大脳に直で入ってくる男子達であった。憐れ宰相のおっさん。
「勇者殿達には、まず強くなってもらわなければならん。腕の立つ騎士を教官につけるので詳しくはその者に聞いてくれ。国をあげて援助するので、頑張ってほしい」
言うだけ言って、シャルル国王は玉座の間から出ていってしまった。なんでも勇者召喚の事後処理で忙しいらしい。
(一方的に言って帰るのかよ。協力するのが当然って態度だったな。一国の王として軽々しく頭を下げるなんてことはできないだろうが、もう少し誠意ってもんががあってもいいだろうが)
国王の態度に嫌な予感がするハルトだが、みんなのアイドル守は気にせずに堂々と宣言する。
「任せてください。魔王は必ず倒してみせます!!」
気分は世界を救う勇者だろうか。まあ、勇者として召喚されたのだが。無駄にキラキラしている。気のせいか王女様の顔が赤いようだ。どうやら異世界でも守の魅力は健在らしい。イケメンのモテ男はくたばったほうがいいだろう。
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その後、ハルト達は騎士達に連れられて大部屋に移動した。なんでも、今後勇者達の訓練の座学で使う部屋だとか。
部屋の中には、ダンディーなおっさんがいた。なかなかの渋めなナイスミドルだ。
「俺が君達の指導を任された騎士団長のアレク・ロドリゲスだ。よろしくな。気軽にアレクと呼んでくれ」
アレクの話を聞いて、生徒達はホッとしていた。馴れない異世界で自分達に訓練を施す相手に、どんな人物なのか不安があったのだ。
しかし、アレクは「一緒に戦場に立つのだから堅苦しいのは無しにしよう」と言うくらい豪快な性格なので緊張がほぐれたようだ。
「では、早速訓練を始めようか。まあ、初日だから今日はステータスの確認だけだがな」
ステータスと言われて、反応する者が数人。多少ゲームやアニメをかじっている者なら、やはり興味があるのだろう。
(うおおー!! ステータスとか異世界転移や転生のラノベみたいじゃねーか!!)
テンションが上がるオタクなハルト。
「視界の隅にアイコンが3つあるだろう。その左のやつに意識を集中してみてくれ。ステータスを確認することができる。だが、これでは自分しか見ることができない。そこで、こいつを使うんだ、この水晶を使えば他人にもステータスを見せることができる。取り敢えず自分のステータスを確認してみてくれ」
なんでアイコンって言葉を知っているだろ? と思いつつステータスを確認するハルト。
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日向 悠斗 17歳 ヒューマン 男 LV1
STR:20
AGI:20
VIT:20
MP:100
SP:100
称号
器用貧乏
魔法適性
火・水・風・土・雷・光・闇・回復・支援・生体・結界・振動・刻印
アビリティ
異世界言語理解
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(すげー、本当にステータスが見れる。表現するなら空中に浮かぶステータスウィンドウって感じか。ゲームみたいだな、VR技術が発展したらこんな風になるのかなー? バースト・リンク!! って叫びてー)
ハルトは若干手遅れな感じだが、他の生徒もみんなして虚空を見つめているのは、端から見るとちょっとアレだった。
「よし、全員見れたか? 説明を始めるぞ。まず、レベルだが上限は今のところ確認されていない。だが100を超えた者は数えるほどだ。レベルの上がり方だが、1~9は普通に上げることができるが10に上がるには経験値を得るだけでは足りず、何かしらの壁を越える必要がある」
アレクの話によると、レベルを上げるには戦って経験値を稼がなければならないらしく、この世界には魔物がいるのでそれと戦うそうだ。壁を越えるというのは肉体的か精神的に大きく成長することを指し、レベル20に上がるにも同じでレベル10ごとにあり、レベル10ごとにステータスが跳ね上がるという話だ。
この国の兵士だと、1~9が訓練兵で10に達すると晴れて一人前となり新兵となる。
「次に能力値だがSTRが筋力、AGIが敏捷、VITが耐久を意味する。一般人のレベル1の平均は5だ。MPはマナポイント、SPはスピリットポイントでMPは魔法をSPはスキルを使うときに消費する。一般人のレベル1の平均は25だ」
(MPは魔力でSPが魂力かな? つか俺のステータス平均の4倍じゃん!! まさか、俺TUEEEEか!?)
テンションが更に上がるハルト。
「魔法適性は言葉の通りに魔法の適性だ。適性の無い属性の魔法は使えん。属性の種類は火、水、風、土、雷、光、闇、回復、支援、生体、結界、振動の12種類だ。いくつか例外はあるがな」
(あれ? 俺適性が全部あるじゃん!! ん? 刻印って何だ? ま、いいか、例外ってやつだろ)
テンションが更に上がるハルト。ハルトはスーパーハイテンションになった!!
「称号はそいつの能力の表れだ。潜在能力だったり、成した功績だったりな。例えば剣の修練を積めば、剣士の称号を得ることもできる。称号の効果は種類によって変わるが大体はステータスやスキルに補正が付く」
え、器用貧乏とか嫌な予感しかしないとテンションが下がるハルト。ちなみに異世界から召喚された者には必ず何か称号が与えられるらしい。
「アビリティは個人、または武器や防具の特殊能力で取得条件が解明されていないものも多いからな、あったらラッキーくらいに思っておけ。異世界から召喚された者は全員に異世界言語理解のアビリティが備わっているから話したり、読み書きには苦労しない」
異世界言語理解しかなくて落ち込むハルト。
でも、まわりは止まってくれない。
「では、お待ちかねのステータスの確認といこうか。順番に水晶に触れてくれ」
「じゃあ、俺からいきます」
早速、守が水晶に触れる。すると水晶からプロジェクターみたいに光が出て、ステータスが表示された。
ピコン!
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南 守 17歳 ヒューマン 男 LV1
STR:110
AGI:120
VIT:100
MP:500
SP:500
称号
勇者・剣聖・光帝
魔法適性
水・風・光・回復・生体・結界・振動
アビリティ
異世界言語理解・M.V.S
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チート オブ チート 凄まじいまでにチートだ。能力値が平均の20倍以上で、称号は勇者である。
(なんだよあの能力値は!! 称号もアビリティもカッコい……いやいや、強そうだし!! 俺が勝ってるの魔法適性の数だけじゃねーか)
「称号が勇者か。しかも、LV1でこのステータスか……将来が楽しみな化け物っぷりだな」
「そんなことないですよ、アハハハ。ところで勇者の称号とはどんな効果があるんですか?」
「ああ、ステータスの勇者の文字を触れるか、イメージすれば効果が解る」
「わかりました」
ピコン!
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勇者
身体能力強化・全属性耐性・魔法の威力上昇・MP増加・SP増加
剣聖
剣系スキルの能力補正・剣系スキルの熟練度の成長補正
光帝
光属性の大幅強化
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まさに光の勇者様だった。もう一人で魔王倒せるじゃないかと思えるくらいだ。
その後もどんどん水晶に触れていくが、ハルトのステータスは真ん中くらいだった。生産系の称号を持っている奴は軒並み下だし、戦闘系の称号を持っている奴は大体上だった。
みんなは、さっきから表示されるステータスに釘付けだ。まあ、当然といえば当然だが。そして、ついにハルトの番になった。
ピコン!
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日向 悠斗 17歳 ヒューマン 男 LV1
STR:20
AGI:20
VIT:20
MP:100
SP:100
称号
器用貧乏
魔法適性
火・水・風・土・雷・光・闇・回復・支援・生体・結界・振動・刻印
アビリティ
異世界言語理解
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「おお! 魔法適性が全部あるぞ、すげーなハルト」
大河が誉めて、我がことのように喜んでいた。いい奴である。ちなみに大河の称号は鉄壁で、文字通り防御特化だった。
「ん!? この称号はまさか……」
なぜだかアレクが苦虫を噛み潰したような顔をしている。みんなも何事かと注目している。ハルトは嫌な予感がし過ぎて、冷や汗が止まらない。
「こ、この称号は何か不味いんですか?」
「不味い訳ではないが、ちょっとな……」
ハルトはアレクがすごく言いづらそうにしているので、ええい、ままよと称号の効果を確認してみる。
ピコン!
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器用貧乏
全ての魔法、スキルに適性あり。ただし熟練度の成長が遅い
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「……」
ハルトが絶句していると、アレクが口を開いた。
「器用貧乏の称号持ちは全ての魔法、スキルに適性があるがどれも熟練度の上がりが遅く、一流にはなれない。言葉の意味の通りに中途半端になる」
(なんだと!? 全然俺TUEEEEじゃないじゃん!! そもそも俺は生き残れるのか? いや、待てまだだ、まだ終わらんよ!!)
某グラサン大尉の台詞を言いつつ、一縷の望みに賭けるハルト。
「じ、じゃあ魔法適性にある刻印って何ですか?」
「刻印魔法は一昔前の魔法でな、廃れてしまって今では使える者も少ない。詳しくはわかってはいないが魔方陣を直接描くことで、適性の無い属性の魔法も使えるのが特徴だ。武器に魔方陣を描いて、魔法を刻むことができるが一回しか使えないから付与魔法の方が効果的だな。しかも、描くのに時間が掛かるし、熟練度も上がりづらい」
(ふざけんなよ!! 俺は魔法適性が全部あるんだから意味ないだろうが!! カッコいい名前なのに役に立たねー!!)
ちなみに、付与魔法は特別な修行をした者が得る隠しスキルらしい。
「まあ、なんだ、努力すればなんとかなるかもしれん。諦めずに頑張れ」
「……はい」
ハルトが落ち込んでいると、ニヤニヤ笑っている奴等がいた。ハルトだけが明らかにハズレの能力だからだろう。他の生徒達はチートな能力だからな。大河達一部の生徒は心配そうな顔をしていた。
だが、チートの神に祝福された者はもう一人いた。
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荒谷 拓真 17歳 ヒューマン 男 LV1
STR:120
AGI:110
VIT:100
MP:500
SP:500
称号
勇者・剣聖・炎帝
魔法適性
火・雷・闇・回復・生体・結界・振動
アビリティ
異世界言語理解・M.V.S
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「ハハハ、勇者が二人とは頼もしい限りだな」
(勇者が二人とか、勘弁してくれー!!)
ハルトはこの世の不条理を呪うのだった。