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勇者達のダンジョン攻略3

山の中から投稿中

 



 中層でも生徒達の無双は続く。群がる敵を千切っては投げ、千切っては投げ、立ち塞がるそばから撃退していく。


 しかし、やはりそこには連携の二文字は存在しない。異世界チートの圧倒的ステータスや各種能力をもって蹴散らしているだけである。


 生徒達は近くに現れた魔物を一人で倒す、それが散発的にグループ内で起こっている。グループで複数の敵を相手取ってるため生徒達は連携が出来ていると勘違いしている。実際は一対一が複数箇所で起こっているだけなのに。


 その光景を見て、大河達は唖然とした。自分達は低層で弱い武器でえっちらおっちら試行錯誤しながら連携の鍛練をしていたのに他の奴等はなんも考えずにただ暴れているだけだったのだ。

 教官達も頭を抱えている。


「おいおい、これ大丈夫なのか?」


 大河の頬は引き攣っている。


「確かに連携もクソもないな」


 脳筋の達也ですら呆れている。


 このままではまずいと他のパーティに声をかけるも連携は出来ていると言って聞く耳を持たない。その中には守も含まれている。やはり守はバカなんだろうか。


 そんな言い争いをしながらも攻略はサクサクと進んでいく。中層も半ばまで攻略が終わると守達のグループは野営の準備を始めた。

 ダンジョンの中は時間がわかりにくいが、現在は夕方であるためダンジョンの部屋の一つでご飯を用意している。まあ、ご飯といっても簡単な保存食なのだが。ストレージなら劣化しないのだから普通のご飯を食べればいいじゃないと思うかもしれないが、食料品は以外と容量を圧迫するのでたくさんは入れられないのだ。


 それでも朝から攻略し通しで疲れていた生徒達はモリモリと食べる。

 現在、守達がいるのは十五層。アンダードッグは全部で三十層なのでちょうど半分である。明日の野営までには最上階に辿り着く予定だ。


 食事をしていると剣崎が立ち上がり、大河達の方にやって来た。


「おい、なんでお前らは弱い武器で戦ってんだ。そんなんだから来るのに時間がかかったんだろうが。舐めてんのか?」


 どうやら剣崎はご立腹のようだ。大河達が弱い武器で戦っているのが気に入らないらしい。


「あぁん? 文句あんのか?」


 そして、そんな喧嘩腰でこられれば達也がキレるのは自明の理。


「あるに決まってんだろ、馬鹿かお前」


 既に一触即発の事態だ。


「俺達が弱い武器を使うことに何か問題があるのか?」


 すかさず大河が割って入る。苦労人である。


「問題しかねえよ。そんなんだから倒すのに時間がかかるんだろうが、むしろメリットなんかねえよ」

「メリットならあるさ。俺達の武器は強い。コボルトなんか一撃だ。でもそれじゃ訓練にならない」


 大河は剣崎に反論しながらまわりを見回す。まるで全員に言っているかのように。


「俺達は無双するために来た訳じゃない」


 何人か大河から目を逸らした。自覚があったのだろう。


「だが俺達はそもそも武器に慣れちゃいねえ。だったら主力の武器を少しでも多く使って慣れるべきじゃねえか?」


 しかし、剣崎は意外にもまともな反論をしてきた。ちゃんと考えていたらしい。


「それは一理ある。俺にはどっちが良いかはわからない」

「ふん。……もう武器については文句は言わねえ」


 大河が笑いながら答えると、剣崎は簡単に引き下がった。納得したようだ。


 エキサイトしたら止めに入ろうとしていた凜はホッとしている。この子も苦労人っぽい。


 その後、交代で睡眠をとったが特に問題は起きなかった。ほとんどの生徒が眠れなかったことくらいだろうか。魔物が蔓延るダンジョンでぐーすか寝れるのもどうかとは思うが。







 次の日の朝、生徒達は目をしょぼしょぼさせながら朝食を食べている。完全に寝不足である。


 女子達の一部は朝の準備に忙しい。華の女子高生的には仕方のないことかもしれないが、ダンジョンの中だということを考えればシュールだ。

 レイラや凜などの一部の生徒はまったく気にしていない。そもそも準備が必要がないほど綺麗ということもある。


 朝食を食べ終えた生徒達は攻略を再開する。


 生徒達の中に予備の武器を使う者が増えた。どうやら大河の言葉に感化されたらしい。


 攻略は順調に進み、守のグループは中層にある中ボスのいる扉の前に到着した。まだ拓真達のグループは到着していない。


「まだ拓真達は到着していないようだ。拓真達が来るまで小休止とする。ただここはレストルームじゃない、警戒は怠るなよ!」


 アレクの言葉で生徒達はパーティごとにまとまって休憩を始めた。


 レストルームという言葉があったが、ルームとはダンジョンにある部屋のような空洞のことで、中には宝箱が置いてあったり魔物がたくさんいたりする。

 レストルームとは文字通り休憩ができる部屋のことで、レストルームには魔物が入ってこない。そのため野営などに用いられる。

 レストルームの入口には特徴的な柱が門のように立っているので間違えることはない。

 生徒達が野営をしていたのもレストルームだ。


 三十分程休憩していると、拓真達のグループも到着した。


「早いなアレク。待たせたか?」


 拓真のパーティの教官をしていたトウルがアレクに話しかける。


「いや、こっちも三十分くらい前に着いたところだ」

「そうか。こちらは特に問題無かった。そっちは?」

「こっちも問題無かったな」

「では三十分休憩して、その後に中ボスという流れでいいか?」

「ああ、それでいこう」


 二人の間で確認が終わると生徒達に指示を出して、拓真のグループも休憩になった。


 そして、三十分が経ちいよいよ中ボスに挑戦することになった。


 守達のパーティが扉を開ける。中ボスを倒すまで階段を登ることは出来ない。


 部屋の中央に獣が蹲っている。

 巨大な体躯をもつ黒色の犬だ。


 犬は生徒達に気づくと、のそりと起き上がった。生徒達の顔が攣る。

 なぜなら頭が二つあったからだ。


「双頭の黒犬……」


 生徒の誰かが呟いた。その声には確かに怯えが含まれていた。


 生徒達は事前に説明されていたのにびびった。トラウマを刺激されたのだろう。余裕余裕と鷹をくくっていた結果がこれだ。


「ウウウゥッ!!」


 双頭の黒犬が生徒達を睨み付ける。

 一部の生徒達が無意識に後ずさった。


「みんな大丈夫だ! ツーヘッドドックはヒュージラプトル程強くない、俺達でも勝てる!」


 みんなの勇者アイドル、守の声で気圧されていた生徒達に闘志が宿る。

 ルビは間違ってないよ。


「陣形を組め! さっさと倒すぞ!」


 もう一人の勇者である拓真の声で生徒達が陣形を組み始める。


「ワオーーーン!!」


 その間にツーヘッドドックが遠吠えをした。すると部屋の横穴から次々と魔物が飛び出して来た。

 黒い大型犬サイズの犬だ。ワラワラと出てくる。ちなみにツーヘッドドックはダンプカーくらいの大きさだ。


「いくぞ!!」


 戦いの火蓋が切って落とされた。


 ツーヘッドドックの遠吠えで眷族であるツーヘッドファミリアが一斉に襲い掛かる。


 眷族はツーヘッドとついているが頭は一つである。なんという名前負け。


 ツーヘッドファミリアはまるで一つの生き物のように連携して迫ってくる。


 生徒達はパーティごとに対応を始める。やや孤立気味ではあるがコモンラプトルより弱いのでなんとか対応出来ている。


 しかし、教官達が手伝わないため若干焦っている。細かなミスが目立つ。


 そんな中でも大河達のパーティは落ち着いている。連携を活かしながら次々に倒していく。

 当然武器は本来の物に戻している。


「またこのパターンかよ!」


 達也は毒づきながら剣を振るう。 


「今度は大丈夫みたいだな」


 大河が守を見ながら言う。


「理を越える力よ、我が内なる魔力を糧に希望溢れる光で敵を切り刻め “輝渦〟」


 光の奔流がツーヘッドファミリアを呑み込んでいく。

 呑まれたツーヘッドファミリアは例外なくズタズタに引き裂かれている。


 守は魔法で作った隙間を通り、ツーヘッドドックに接近する。パーティメンバーも後に続いている。


 離れた所からは炎が渦巻き、ツーヘッドドックへの道を作る。拓真の魔法のようだ。


「みんな派手にやってんな。俺達はどうする?」


 達也が嬉々として聞いてくる。どうやら突撃したいようだ。さすが脳筋。


「うーん。折角の対多数だからなー。俺達は取り巻きの相手な」


 大河の一声で大河達はツーヘッドファミリアだけを相手することになった。達也も文句は無いようだ。


 その後、素晴らしい連携で大河達のパーティはキル数を一番稼いだ。











 ツーヘッドドックに接近した守は駆ける勢いを乗せて斬撃を放つ。

 大上段からの一撃は飛びすさって避けられたため仕切り直す。


 次の瞬間、守の頭に牙が迫る。


「くっ!」


 反射的に避けると、もう一つの頭が時間差で完璧なタイミングで襲い掛かる。


「この!」


 なんとか牙にクラウ・ソラスを当てて逸らす。


「守!」


 凜達が合流したため、ツーヘッドドックは距離を取った。その間に守は体勢を立て直す。


「一人で突っ走り過ぎよ!」


 凜にたしなめられて、守は下がって陣形を組んだ。


「ごめん。ここからは連携でいく」

「来たわよ!」


 陣形を組んだ守達にツーヘッドドックが飛び掛かる。


「ふぬ!」


 振り上げられた猛男の斧とツーヘッドドックの爪がぶつかり合う。

 猛男は体勢を崩しながらも受け止めた。


「おら!」


 すかさず側面に移動した剣崎が槍を突き刺す。

 槍系AS『デュアルスティング』


 二連突きがツーヘッドドックの脇腹を抉る。


「グギャウ!!」


 反撃に二連撃の牙が迫るが剣崎は『縮地』で下がる。

 ツーヘッドドックが追撃しようとした隙に凜が攻撃しようとすると守が勝手に突っ込んだ。


「なっ!?」


 内心あのバカと罵りつつも凜はフォローに走る。


「うおお!!」


 守がASを発動しようとする。

 しかし、その前にツーヘッドドックの口が開いた。


「っ!?」


 口内が赤く光り、中から火の玉が飛び出した。

 守はなんとか避けることに成功したが体勢を崩した。そして、ツーヘッドドックの頭は二つある。

 もう一つの頭から火の玉が放たれた。


「ぐあっ!」


 高いステータスと高性能の防具で大した怪我は負わなかったが守は吹き飛ばされた。


「守!」


 凜が慌てて駆け寄る。


「なにやってやがる!」


 火炎と共に拓真が現れた。

 拓真は一直線にツーヘッドドックに向かうと両手剣のレーヴァテインを叩きつけた。レーヴァテインは橙色に光っている。


 両手剣AS『バーチカルセイバー』


『バーチカルスラッシュ』の両手剣版がツーヘッドドックの右の顔面を捉えた。


「ギャイン!!」


 片目を斬られたツーヘッドドックが怯み、そこを拓真が畳み掛ける。


「オラ! オラ! オラ!」


 全身を滅多斬りにされたツーヘッドドックは最後の足掻きと火の玉を吐き出す。

 しかし、炎の勇者には毛ほども効かず、止めとばかりにASを発動させる。


 両手剣AS『デュアルセイバー』


 右の顔を縱斬りで、左の顔を横斬りでぶった斬られてツーヘッドドックは倒れた。


 ツーヘッドドックが粒子になって消える中、拓真は守に振り向いた。


「こんな雑魚に手こずってんじゃねえよ」

「っ!」


 守が何も言い返せないでいると、拓真はパーティメンバーの元に戻っていった。


(俺だって…………。俺だって!)


 守は拳を握り締めるとうつむいてしまった。


 その後、ツーヘッドファミリアが駆逐されると生徒達は上層へと踏み出した。


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