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器用貧乏とポーション

 



「ご主人様、結局ミスリルの装備買ったのですね」

「まあな」


 ハルトはクリスが正気に戻ると、部屋に戻って話し合いを始めた。別にクリスにダンジョンのことを説明するのを忘れて慌てて話し合いを始めた訳ではない。ないったらない。


「それで私のステータスが封印されたダンジョンとはどういうことでしょうか?」

「ん? そのまんまの意味だが」

「……どうしてご主人様がそんなことを知っているのですか?」

「それはだな」


 クリスが凄まじく胡散臭そうな顔をしているので、ハルトはベルとのことをはしょって伝えた。


「なるほど精霊様と契約を……」


 嘘はついていない。だが異世界から召喚されただとか一回死んだだとかは話していない。


 精霊の話のくだりで一瞬クリスの顔が歪んだが、本当に一瞬だったためハルトは気がつかなかった。


「ダンジョンの話はわかりました。でもなぜ私なんかのためにそこまでしてくださるのですか? 私にそこまでする価値は無いと思いますが」

「それは……」


 クリスの問いにハルトの返答が一瞬詰まった。ごく自然にダンジョンに行くことを決定したがそれはなぜだろう。脳裏に浮かんだのは殺してと頼む絶望に染まったクリスの顔。

 ハルトは結局建前を口にした。


「お前が弱いままだと俺が困るからな。早くステータスを戻して役に立ってもらわないとな」

「そうですか……」


 本当はもっと違う言葉があったんじゃないかと思ったが、それ以上言葉が出てこなかった。


 クリスはとても複雑そうな顔をしている。どれだけの間かはわからないが長い間封印されていたステータスが戻るかもしれないのだから当然だろう。ハルトは勝手にそう思った。


「てな訳で、明日は依頼を受けないでダンジョンに向かう準備をするぞ」

「はい、わかりました」

「明日は忙しくなるからさっさと風呂入って寝るぞ」

「はい」


 その後、二人は一言も話すことなく就寝した。








 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








 次の日、朝早くに起床した二人は手早く朝ごはんを済ますと準備を始めた。


「まずはアイテム類を補充するぞ」

「はい、しかしポーション類は結構手持ちがあるはずでは?」


 ハルトはアイテム類を補充するつもりのようだが、クリスの言う通りポーション類はストレージに沢山入っている。冒険者になった日に金にものを言わせて大量購入したのだ。しかもハルトはEランクの依頼程度ではダメージを受けないので全く減っていない。ボルタの町で一番高級な物も購入しているので補充する必要は無いはずなのである。


「まあな。でも所詮は低ランクの物ばかりだ」


 ポーション類には等級が存在する。等級はⅠからⅩまであり、数字が大きい程効果が高い。ハルトがボルタで購入した物は最高でランクⅣ、王国から支給された物でⅥである。それに数も少ない。


「ボルタではこれ以上の物は手に入りませんよ。王都まで行くのですか?」


 確かに王都ならばボルタよりも品揃えが良いだろう。しかし王都までは遠いし、ハルトは王都なんて近寄りたくもないのでその案は却下だ。


「お店に無ければ自分で作ればいいじゃない」

「はい?」


 クリスの目が点になった。


「ご主人様は薬学の知識がおありなのですか?」

「ないよ? そもそもポーションとか作ったことないし」


 クリスはハルトになに言ってんのこいつと言ってる目を向けた。ハルトは作ったこともないのに店売りよりも等級の高いポーションを作れると言っている。事実なら冒険者辞めて薬師になれよという話だ。現在ランクⅤ以上のポーションを作れる者は非常に限られている。王国お抱えの薬師か、一部の賢者クラスしかいない。そのことがいかにハルトの言っていることが荒唐無稽か証明している。そもそもランクⅦ以上はダンジョンくらいで無ければ手に入らない。Ⅹに至っては伝説上の存在だ。


「でもまあなんとかなるよ」


 ハルトのいい加減な一言でポーション作りが始まった。







 ハルトの目の前にビーカーやらフラスコやら理科っぽい道具と薬草等の素材が置かれている。道具や素材は昨日の闇市で揃えた高級品である。


「よーし、始めるか」

「ほ、本当にやるんですか?」


 やる気満々なハルトと違ってクリスは気が進まないようだ。


「本日のメニューはヒールポーションのランクⅤです」


 まるで料理番組のようなテンションだ。


 ハルトは葉っぱをフラスコで加熱したり、根を磨り潰したりと手際よく作業していく。ちなみにハルトは本当にポーションを作ったことはない。作り方も闇市で買った書物の通りにしているだけだ。


 しばらくすると一本のポーションが完成した。ランクはⅤ。本当に作ってしまったらしい。


 クリスに確認させると口をぽかんと開けて惚けてしまった。


「まあざっと、こんなもんよ」


 ハルトは気取っているが理屈は単純だ。アイテム類を作成するには規定の条件をクリアすることが必要だ。材料を揃え、手順通りに加工し、必要なスキルの熟練度に達していればあとは勝手に出きる。まあハルトはそれを見越してやったのだが。


「さあどんどん作るぞー」


 ハルトの現在の調合スキルは熟練度430。てか他のスキルも430。ヒールポーションはランクⅤまで作成が可能だ。材料と手順さえ間違えなかったら失敗しないのだ。

 なぜハルトがそんなことを知っているかというと、鑑定スキルである程度わかるからだ。ランクⅣのヒールポーションを鑑定スキルで調べた結果、必要スキルに調合300と表示されたのだ。ランクⅥのヒールポーションは500だったので間の400だろうと予想したのだ。大当りである。ちなみにこれは鑑定メガネを使ってわかったことで、ハルトの鑑定スキルではまだこれほど詳しくはわからない。


 ハルトがヒールポーションを量産しているとクリスが再起動した。


「ちょっ、ちょっと待ってください! なんで作れてるんですか!? 調合スキルが400以上あるっていうんですか!?」


 作る条件を知ってるとは長く生きているだけはあるだろう。


「あるよ」


 ハルトの答えはまるでヒーローな検事のドラマに出てくる居酒屋の店主のようである。  


「だ、だってご主人様は武器系統のスキルも高いですし。それに生産系統もなんて……。え、え!?」


 クリスは混乱してしまったようだ。まあ無理もないだろう。スキルを満遍なく上げるなんて土台無理な話で、ハルトの称号が異常なだけだ。


「ま、俺のことは今度教えてやるよ。無事にクリスのステータスが解放されたらな」


 ハルトは話をしながらどんどんポーションを作っていく。魔力を回復するマナポーションや状態異常を回復するキュアポーションも作っている。ただこちらはランクⅣが限界のようだ。


 数十本単位で各ポーションを作ると材料が尽きたのでポーション作りは終了となった。


「さて、あとは食料の調達と野営の準備とー。ああ装備に刻印魔法も刻まないとな」


 そう言うとハルトは装備を取り出して刻印魔法を刻み始めた。刻印魔法を使えることに驚いたクリスと一悶着あったりして作業が終わったのが昼過ぎ、ごはんを食べた後に食料や野営の道具を買いに行って帰って来たのは日が沈んだ後だった。


 夕飯とお風呂を済ませたハルトとクリスはベットで向かい合って座っている。だが、そこに甘い雰囲気は無い。


「準備は終わった。明日ダンジョンへ出発する。なにもなければ日がある内にダンジョンに着くはずだから、ダンジョンの前で一晩明かしてからダンジョンに入る」

「わかりました」

「なにがあるかわからないが、まあなんとかするよ」

「……はい」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 明かりを消すと二人はベットに入った。ベットの端と端にいるので最大限離れているが所詮はベットの上、かなり近い。初めはクリスがなかなかベットで寝ようとしなかったがハルトが強引に寝かせる内にやっとベットで寝るようになったのだ。

 二人は距離こそ取っているが寝れば無意識に二人して抱き合って寝るので離れて寝る意味は皆無である。二人とも人に裏切られた経験があるから無意識に人の温もりを求めているのかもしれない。


「うっ」

「んっ」


 今日も二人は抱き合って寝始めた。二人とも安らかな寝顔だ。そんな二人を余所に決戦の時は刻一刻と迫っていた。



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