器用貧乏と奴隷
大分時間が空いてしまいました。山から帰ってきて燃え尽き症候群にかかっていたので。真っ白になってました。
「試験の結果、お前をEランクとする」
ギルドのおっさんがギルドカードを渡してくる。最後まで愛想笑いの一つもなかった。どうやら異世界ではスマイルはゼロ円ではないらしい。
「ああ」
ハルトは受け取ってしげしげ眺めるがクレジットカードにしか見えない。
「奴隷の嬢ちゃんはGだ」
「ありがとうございます」
ハルトの試験の内容はいたって普通だった。弱すぎず強すぎず、手を抜いて戦っていた。下手をするとバレてしまうが、ハルトはレベルやスキルは高いが戦闘経験自体は少ないので素人感が出ていて上手く誤魔化せたようだ。
二人は依頼書が貼られているボードの前に移動した。
依頼にはランクがあり、自分よりも上のランクの依頼は受けられない。パーティで一人でも適正のランクがいる場合はパーティ全員で依頼を受けることは可能だ。
ハルトがボードを眺める。ハルトが受けられる依頼はゴブリン討伐、コボルト討伐、スライム討伐、薬草採取等がある。他の依頼は町の中での仕事でGランク向けのもので受ける価値のないものやワイバーン討伐等Aランク向けの受けられないものだ。まあハルトは既にワイバーンを倒しているが。
「さてと定番の依頼が並んでるけど何にするかな」
ぶっちゃけお金を稼がなくてもお金には困っていないが、そこはオタクなハルト、冒険者になれば依頼の一つもやってみたくなる。
「ゴブリンはもう殺ったことあるからなー。スライムはまだ見たことないからスライムするか。クリスもスライムでいいか?」
「はい」
ハルトは受付に依頼書を持っていった。また誰も並んでいないおっさんである。そして再び愛想の欠片も無い顔で接客され依頼が受理された。
二人は依頼に出発する前にクリスの奴隷契約を更新するために奴隷商店に向かった。ボルタには奴隷商店が一つしかなかったのでどこにしようか迷う必要はなかった。
「うわぁ……」
ハルトは奴隷商店を見るなり嫌そうな声をだした。たがそれも仕方がないだろう。なぜなら奴隷商店の建物がとても酷かったからだ。とにかく金をかけて高いもの使いました感に溢れる成金趣味全開の建物である。
「しょうがないか」
意を決して入るとすぐに店員に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょうか?」
「奴隷の主従関係の更新だ」
「承りました。お部屋までご案内致します」
ハルトが案内された部屋で出されたお茶を飲んでいると一人の男がやって来た。男はハルトの対面のソファーに座ると話しかけてきた。
「私がこの店の店長のギブソンです。本日は主従関係の更新だそうで」
「ああ。俺はハルト。頼みたいのはこいつの更新だ」
ギブソンに確認されてハルトはクリスを指差した。
「エルフですか」
「こいつは魔物に襲われたキャラバンの生き残りでな。前の主が死んだ後に拾ったのが俺だから奴隷紋には俺が主で登録されているはずだから書類の手続きを頼む」
奴隷紋とは奴隷を奴隷たらしめているもので簡単に言えば制約の刺青である。奴隷紋を刻まれた者は主の命令に絶対服従で、逆らえば激痛が走り最悪は死ぬ。ちなみに奴隷紋を刻むのは魔法の一種である。
「では一応確認しておきましょう。おい背中を見せろ」
ギブソンがクリスに背中を見せさせて手をかざすと背中が一瞬光り、奴隷紋が浮かび上がってきた。奴隷紋は普段は見えず、主か奴隷魔法が使える者のみが奴隷紋を浮かび上がらせることができる。
「ふむ。確かにハルト様が主となっておりますね。では書類の準備をして参ります少々お待ちを」
待つこと十分少々、ギブソンが書類持ってきた。
「お待たせいたしました。まず、こちらの奴隷の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「クリスだ」
「はい。ではハルト様のサインをここに」
ハルトがサインをすると、ギブソンは書類を一通り確かめた後頷いた。
「これで更新の手続きは終了となります。書類についての説明をいたしますか?」
「ああ、頼む」
「この書類は奴隷の所有証明書となります。この証明書には主であるあなたの魔力が含まれた奴隷紋の写しが刻まれているため偽造が不可能です」
「わかった。世話になった」
「またのご来店をお待ちしております」
ハルトは手数料を払うとクリスを連れて店を出た。
「なあクリス、俺が主でいいのか?」
門へと向かう途中、ハルトはクリスに問いかけた。実はクリスの扱いに困っていたのだ。今さら捨てることはしないが、どう接すればいいのかわからないのだ。地球でもこっちでもあまり女の子と親しくしたことがない弊害がここで! 違うか、違うね。
「はい。奴隷は主を選べませんので」
聞きようによってはハルトを批判しているように聞こえるが別に批判しているわけではない。むしろ今までの主に比べたら格段に良い。そもそもハルトほど温かい魔力は感じたことはないのだ。
(あなたはいったい……)
クリスにはハルトがわからなかった。
二人はそのまま門に到着すると、門番にギルドカードを見せて仮の身分証を返却した。ロムじいは非番らしく会えなかったが特に気にする必要も無いのでさっさとスライムの出る草原に向う。
この世界の草原というのはいつ魔物が出現するのかわからない大変危険な場所だ。そもそも町の外はいつなにが起きるかわからないのでどこも危険だったりする。
「この辺りか」
到着したのは何の変哲もない草原だ。ぱっと見は地球と変わらない。しかしギルドで聞いた話ではこの草原にスライムが多数出現するらしい。
「クリスも気をつけてくれ」
現在のハルト達の装備はハルトは武器にエリートゴブリンソード、防具はランク相応の普及品だ。クリスは武器も防具も普及品だ。武器はハルトと同じ片手剣。金は大量にあるのでもっと高性能の装備も揃えられるのだが町のまわりには強力な魔物はいないので今は必要無い。
捜索すること五分、二人はスライムを発見した。
スライムとは不定形でうにょうにょ、ねちょねちょしたファンタジーでお馴染みの奴である。地球でのスライムは作品ごとに強さが大分変わり、某ドラゴンなRPGでは最弱なこともあり弱いイメージがあるが他の作品では物理攻撃が効かない強敵として登場することもある。
こちらの世界では初心者には倒せない中級の魔物らしい。見た目はぱっちりお目めがない某ドラゴンなRPGに出てくるスライムといったところ。ただ大きさがハルトの腰くらいまである。
「あれがスライムか。なんかリアルで見るとキモいな」
ハルトの言う通りうにょうにょ、ねちょねちょした姿は未知の物体Xであり生理的嫌悪を感じる。まあハルトは気にしないで戦うが。
スライムから十メートル離れたところで剣を抜き、構える。スライムは打撃に耐性を持っているが、剣には特に耐性がないのでスパスパ切れる。ゲームでは簡単に倒しているが現実ではひのきの棒ではスライムは倒せないであろう。
スライムはハルトに気づいたようでぷるぷると震えたかと思ったら猛スピードでハルトに向かって来た。転がって。
「うおっ!?」
ハルトは咄嗟に横に跳んでかわす。
「意外と速いな。さて核はどこだ?」
スライムには核があり、そこが弱点である。体は半透明なので場所は一発でわかり、大抵の場合は体の中心にある。
「見つけた!」
ハルトは縮地を発動してスライムの後ろをとると、核目掛けて剣を振るう。
剣系AS『バーチカルスラッシュ』が核を直撃する。スライムはその一撃で弾けとんで消滅した。
「ま、こんなもんか」
スライムのドロップアイテムはスライムの核とスライムゼリー。核はまんまでスライムゼリーはスライムの体のようだ。
今回の依頼はスライムを五匹討伐すること。魔物を倒したことを証明する討伐部位は核となっている。まあハルトからすればスライムなど見敵秒殺なのだが。
「さてお次はと」
目で見える範囲にはスライムは居らず、二人は奥へと移動した。
「ご主人様、発見致しました」
しばらく探索するとクリスがスライムを発見した。クリスが示した方向には二匹のスライムがいる。
「じゃあ二手に別れる。クリスは右の奴を、俺は左の奴を」
「わかりました」
ハルトはクリスと別れるとスライムに向かって移動する。その際に背の高い草むらの陰を移動したのでスライムは気がつかなかったようだ。
背後から強襲して倒して、クリスの方を見るとハルトは吹き出した。
「ブフォッ!!」
なんとクリスがとても人様にお見せできない状態だったからである。スライムにうにょうにょ、ねちょねちょされてえらいことになっている。
「い、嫌っ! 離して!」
クリスは必死に抵抗しているようだがスライムはまったく意に介していない。
そこでハルトはクリスのステータスが封印されているのを思い出した。詳しい数値は見ていないがスライムにまったく抵抗できないところを見るとかなり低いようだ。
「やっべ!」
ハルトは急いで駆けつけるとクリスに夢中なスライムをぶっ殺した。
解放されたクリスは半分服が溶けてエロ同人みたいなっている。ハルトは慌ててストレージからマントを取り出すとクリスに羽織らせる。
「だ、大丈夫か?」
「はい……」
クリスは服が溶けただけで大きな怪我はないようでハルトは安堵する。まあ怪我をしても治るのだが。
「すまん、ステータスが封印されているのを忘れてた。そう言えばステータスはどれくらいなんだ?」
「オール1です。スキルも」
「はあ!?」
ハルトがクリスのステータスを調べると確かにオール1だった。ちなみに奴隷のステータスを主は見ることができる。
「なんで言わなかったんだ!? 絶対に勝てないのはわかってたろ!?」
ステータスオール1では下手したらそこらの子供より低い。そんな状態で魔物に勝てる筈がない。
「ご主人様の命令は絶対ですので。それにどうせ私は死にませんし」
クリスがうつむいて答える。それはこれまでもこうやって使われてきたと無言で語っているようだった。
「とりあえず着替えろ」
その場ではなにも言わず着替えを渡すとハルトは辺りの警戒を始めた。しかし頭の中はクリスのことでいっぱいだった。言葉にならないモヤモヤが渦巻いてイライラしてくる。
クリスの着替えが終わると、近くで見つけたスライム二匹を秒殺して町に戻った。その間ずっとハルトはイライラしていた。
これからは投稿ペースを元に戻したいと思います。ただ就活という悪魔が憑いているのでどうなるかわかりません。できるだけ頑張ります。




