器用貧乏とクリス
感想で聞かれたのですが山には本当に行ってます。修行ではなく実習ですが。
宿舎には電波が入らないので山の中から投稿してます(笑)
「……私は呪いをかけられています」
のっけからヘビーな告白である。
「エルフは元々長命な種族ですが、私はその範疇に入りません。エルフの寿命は数百年、しかし私は千年以上生きています」
「それが呪いか?」
「はい。正確に言えば私は千年以上死ねていないんです」
クリスの言葉にハルトの表情が陰る。脳裏にクリムゾン・ワイバーンに食べれ続けるクリスが浮かび上がった。確かになにがあっても死ねないのは地獄のような苦しみだろう。
「千年以上なにをしてたんだ? ずっと奴隷なのか?」
「いいえ違います。先ほど千年以上と言いましたが、それは最低が千年と言うことです。おそらくもっと生きているでしょう」
「どういうことだ?」
「昔のことは記憶が曖昧なんです。奴隷になったのは百年前なのか二百年前なのかよく覚えていません。三百年は経っていないと思いますが」
「奴隷の前はなにをしてたんだ?」
「色々なことをしてましたね。覚えている限りでも冒険者になったり、騎士になったり、シスターになったりいろんなことをしてました」
「冒険者か。強いのか?」
「はい、長く生きているだけあって強かったんですよ」
「……それなのになぜ奴隷になったんだ?」
「……親しかった人に裏切られたんですよ。私のステータスは封印されてどうしようもなかったんです。だから今の私は弱いんです」
ハルトは無意識のうちに両手を握り締めていた。裏切り、この言葉はハルトにとっても他人事ではない。しかし今は他に聞くことがある。
「なぜ呪われたんだ?」
「詳しくは覚えていません。ただ誰かから不死の力を渡されました」
「そうか」
握り締めていた両手の力を抜くと、ハルトは思考にふける。クリスに不死の力を授けた存在、それがベルなら話は早いが違う場合は警戒する必要があるかもしれない。だがわからないことだらけなのでハルトは気にしないことにした。現代人の必須スキル問題の先送りを発動させて。
「まあ今はこんなところか。少し休んだら冒険者ギルドに行くからそのつもりで」
「え? あ、はい」
クリスはハルトがわからなかった。普通は不死とか言われたらもっと詳しく質問するものだろう。もしくは忌避するだろう。なのにハルトは特に驚かず、特に気にせずノータッチ。むしろ裏切られたと言った時が一番反応していたようだった。訳がわからない。
(なんなのいったい……)
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三十分後、二人は冒険者ギルドに向けて出発した。特にイベントは発生せず、無事に到着した。別にハルトはトラブル体質という訳ではない。たぶん。
ギルドの中には剣やら鎧やらで武装したゴツい者が大勢いる。ハルトは入り口から堂々と入る。テンプレよろしく冒険者に絡まれることはなかった。これはトラブル体質うんぬんではなく、ハルトの作戦によるものだ。
ハルトとクリスの格好は簡素な革鎧と簡素なマントと簡素な剣と、どこにでもいる冒険者Aと冒険者Bである。ハルトが冒険者ギルドに着く前に買ったものだ。
テンプレでは地球の服装や伝説級の装備でギルドに入って絡まれるパターンが多々ある。ハルトとしてはテンプレもやぶさかではないが、やっぱりめんどくさいので服装を変えたのだ。ちなみに昨日町に近づいた時点でコートは脱いでいる。あのコートは禍々しいからだ。
ハルトは空いている受付に移動した。受付にいたのはゴツいおっさんだった。これもある意味テンプレである。隣のとなりの受付は混みあっており、理由は受付嬢が美人だからである。なぜハルトがそっちに並ばないかというと、ハルトはこの世界の人間などどうでもいいので空いてる所に並んだからだ。
「新規の受付を頼む、二人だ」
おっさんはちらりと見ると書類の準備を始めた。
「これに記入を」
おっさんは二枚の紙を取り出した。
書くべき内容は名前、種族、得意な技能のようだ。ハルトは事前にクリスに聞いていたので迷わず記入する。
名前ハルト、種族ヒューマン、得意な技能片手剣。アビリティに異世界言語理解があるので読み書きには苦労しない。
クリスのも記入する。名前クリス、種族エルフ、得意な技能片手剣。ちなみに奴隷が冒険者ギルドに登録することは可能である。クリスは既に冒険者を除籍扱いになっているので登録し直す必要がある。
「ちょっと待ってろ」
おっさんは書類を受けとると中に引っ込んでいった。
十分程でおっさんは戻ってきた。おっさんの手には二枚のカードが握られている。大きさはクレジットカードくらいだろうか。
「これがギルドカードだ」
ハルトが受け取ろうとするとおっさんから待ったが入った。
「渡す前に試験がある。お前の実力を試してランクを決める。まったくの素人ならやらなくてもいいが一番下のGランクからだぞ」
「やるよ。一応Eランクくらいの実力はあるぞ」
ギルドのランクはA~Gに別れていて、例外でSがある。Gがぺーぺーの素人、Fで半人前、Eで一人前である。ちなみにハルトは既にAクラスの実力を持っている。
「では訓練場に案内しよう」
おっさんは値踏みするような目をハルトに向けると移動を始めた。
訓練場はギルドの中にあり、広さは学校の校庭くらいはあるだろうか。ハルトはそんな訓練場の一部で試験官と対峙していた。
「じゃあ試験を受けるのはお前だけでいいんだな?」
審判役の受付のおっさんがハルトに聞いてくる。
「ああ」
「ではルールの確認だ。得物は木刀で殺しは厳禁だ。相手を降参させるか動けなくしたら終了だ」
「魔法は使っていいのか?」
「試験が始まってからならな」
「わかった」
ルールの確認の終わったハルトは試験官を見る。試験官はAクラスの冒険者だ。名前はダボアといって、この町でトップクラスの冒険者である。
「ルーキー、期待してるぜ?」
「がんばりますよ」
ハルトとダボアが木刀を構える。
実際のところハルトのステータスはAクラスの冒険者と比べても遜色ない。リミットブレイクを使えばまず負けないだろう。だがハルトはそれはしない。そもそも冒険者になったのは身分証が欲しがったからなので、いきなりAクラスを倒すような目立つまでをしてまでランクを上げる必要はないのだ。
「では、始め!」
おっさんの合図で試験が始まった。




