器用貧乏とボルタの町
ハルトとクリスがボルタに到着したのは日が暮れる直前だった。門番らしき人達が城門を閉める準備をしているのを見て、慌てて門を潜ろうとする。
しかし門番達に止められてしまった。
「こらこらいくら城門が閉まりそうだからといって手続きをしないで入ってはいかんよ」
ハルト達を止めたのはまわりの門番達よりも歳のとったじいさん門番だった。
「手続きが終わるまで城門は開けておくから先に手続きをしようか」
基本的にこの世界の人間が嫌いなハルトだが、門番の仕事をしようとしたしかも老人をぶっ飛ばすわけにはいかないので大人しくじいさんについていく。
城門の横の掘っ立て小屋に連れてこられたハルト達にじいさん門番は自己紹介を始めた。
「わしはロム。ロムじいとでも呼んでくれ」
いきなりフレンドリーだがさっさと町に入りたいのでハルトも気にせず名乗る。
「俺はハルト、こっちはクリスだ」
「ふむふむ。そっちのお嬢さんは奴隷かね?」
「ああそうだが。なにか問題でも?」
「いやいや、ただの確認だよ。それじゃあ身分証を見せてくれるかね」
ハルトの顔が強張った。身分証なんぞ持っていない。慌てて打開策を考える。
「持ってないのかね?」
「紛失した。実はここに来る途中でクリムゾン・ワイバーンと戦闘になった」
「なんと! クリムゾン・ワイバーンじゃと!?」
クリムゾン・ワイバーンと聞いてロムじいはかなり驚いている。ハルトは内心ほくそ笑む。予想通りクリムゾン・ワイバーンご強力な魔物だったからだ。
「よく逃げ切れたのう」
「いや、倒した」
「なぬ!? その若さで大したもんじゃ」
「別に一人で勝った訳じゃない。俺は商団に途中で乗せてもらったんだが、商団と護衛の冒険者はみんな死んだ。生き残ったのはクリスだけだ」
ハルトはストレージからクリムゾン・ワイバーンがドロップした素材を取り出した。
ロムじいはしばらく唸っていたが、ハルトも内心ドキドキしていた。今話したことは全部本当のことでなければ、全部嘘ということでもないからだ。
「いいじゃろう。仮の身分証を発行してやるから一週間以内に正式な身分証を持ってこい」
「どこで身分証を発行してもらえる?」
「一番簡単なのは冒険者ギルドかのう」
元から冒険者ギルドには行くつもりだったので問題無いなと思っているとロムじいが書類を書いて寄越してきた。
「これが仮の身分証じゃ」
「助かる。それじゃ」
ハルトが立ち去ろうとするとロムじいが後ろから声をかけてきた。
「そうじゃ、そうじゃ。その奴隷はお主のものではなかったのじゃろ? 身分証を発行してもらったら奴隷商に更新手続きをしてもらうといい」
「わかった。また来る」
今度こそ立ち去るとハルトとクリスは町に入った。
「国境の町ボルタにようこそ」
門番のお約束を聞きつつ、辺りを見渡すと町の景観が目に入ってくる。町は中世風といった感じだろうか、ハルトにはいまいちよくわからなかったが。
ハルトは日が暮れてしまったので冒険者ギルドへ行くのは明日にすることにして宿を探すことにした。しかし宿なんてどこにあるのか知るわけがないので門番に聞いてみる。
「宿ってどっちにありますか?」
「東の区画は宿屋が隣接しております」
「ありがとう」
ハルトとクリスは宿を探して移動を始めた。
宿はピンからキリまであり、ハルトは真ん中よりちょっと上くらいの宿にした。相場がわからなかったので少し不安だったがどうしても譲れない理由があった。ちなみに貨幣価値もわからない。
宿代は一人10000G。Gはゴールドと読み、1Gと1円はほとんど同じ価値っぽい。ちなみに奴隷は主人と同じ部屋なら宿代はかからないが食事代等は請求される。
なぜハルトがちょっと高めの宿に固執したかというとお風呂があったからだ。やはり日本人であるがゆえにハルトもお風呂に入りたい。いくら魔法で水を出して汚れを落としていてもお風呂に入らないと綺麗になった気がしない。しかし安い宿にはお風呂が無く、そのためちょっと高めの宿にしたのだ。宿代の支払いの時点で自分の所持金の多さに気づいたハルトだったが、棚上げしてお風呂に直行した。
さっぱりしてから部屋に向かうとクリスが部屋の中で突っ立っていた。ずっとそうしていたらしい。
「どうした? 風呂に入らないのか?」
「奴隷がお風呂に入るとお金がかかります」
どうやらお金がかかるからお風呂に入らなかったようだ。なにも言わずに風呂場に直行したハルトも悪いがこの世界の常識を知らないのでしょうがないところもある
「入ってこいよ」
「しかしお金が……」
「金は気にしなくていいから。それにお前が臭うと俺が嫌だしな」
「わかりました」
どうにか言いくるめるとクリスは風呂場は向かって行った。ハルトはベットに座るとストレージの確認を始めた。
(やっぱりありすぎだろ……)
ハルトの目線は所持金のところに釘づけだ。現在の所持金は1億Gと少々。さらに宝石やら貴金属やらがあるので売ればまだまだ増える。
(苦労してアゲインストを殺した甲斐があったな)
いきなり小金持ちになったハルトではあるが、いまのところお金の使い道は決まっていない。
次にハルトはスキルリストを開いた。
ピコン!
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武器系統
片手剣428・両手剣428・短剣428・細剣428・刀428・槍428・片手斧428・両手斧428・戦槌428・戦棍428・鞭428・鎌428・爪428・杖428・投擲428・弓428・盾428
防具系統
金属防具428・革防具428・布防具428
魔法系統
火魔法428・水魔法428・風魔法428・土魔法428・雷魔法428・光魔法428・闇魔法428・回復魔法428・支援魔法428・生体魔法428・結界魔法428・振動魔法428・刻印魔法428
耐性系統
火耐性428・水耐性428・風耐性428・土耐性428・雷耐性428・光耐性428・闇耐性428・状態異常耐性428・打撃耐性428・斬撃耐性428
身体技能系統
体術428・剛力428・縮地428・金剛428・筋力428・速力428・耐力428・鑑定428・索敵428・隠蔽428・採取428・所持容量拡張428・武器防御428・魔力消費量軽減428・魔力総量増加428・魂力消費量軽減428・魂力総量増加428
生産系統
鍛冶428・調合428・料理428・木工428・裁縫428・釣り428
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「うおっ!?」
また熟練度が大幅に上昇していた。エスタ・エンパイア王国の兵士や冒険者で一流と呼ばれる者の熟練度が一番高いスキルで400超えなので、ハルトは全てのスキルが400超えなので超一流といっても過言ではない。たぶん。
ハルトがこの短期間に大きく熟練度が上昇したのには訳がある。それはただ単にヒュージラプトルやアゲインストが強かっただけではなく称号の器用貧乏に起因している。
器用貧乏は熟練度が上がりやすくやる効果は無い。だが覚醒したことによって全ての熟練度の上がり方が同じになった。つまり片手剣の熟練度が1上がれば、他のスキルの熟練度も1上がるということだ。
例えばアゲインストとの戦闘では片手剣で攻撃しても全てのスキルの熟練度が上がり、雷魔法で攻撃しても全てのスキルの熟練度が上がり、短剣で防御しても全てのスキルの熟練度が上がる。実質鍛えるスキルが一つしかないようなものだ。しかも鍛え方はスキルの数だけあるという始末。これがハルトの急成長の秘密だ。
ああでもない、こうでもないとブツブツ言いながらスキルModを何を取ろうか考えているとクリスが戻ってきた。
クリスはベットに座っているハルトを見ると服を脱ぎ始めた。
(んぶっふぉ!)
「ちょっ! なに脱いでんのっ!?」
突然脱ぎ始めたクリスにハルトは慌てふためく。
「私を抱くためにお風呂に入らせたのではないですか?」
クリスは首を傾げている。服が脱げかけてるからすごく色っぽい。
「いやそうことはしない」
ハルトは別にイチャコラするためにクリスを拾ったわけではなく、似たような体質だったから気になって助けたのだ。スケベ心があったわけではない。たぶん。
「そうなんですか」
クリスは不思議そうな顔すると服を直して、部屋の隅に立ち始めた。
「なんで隅で立ってんの?」
今度はハルトが不思議そうな顔をすると、クリスは隅で床に座り始めた。
「いや、なぜに座る? 隅の、しかも床に」
「ではどうしましょう? 土下座ですか?」
ハルトはクリスの斜め上の発言に唖然となる。斜め上といってもハルトの常識の斜め上なのだが。
「普通に椅子なりベットなりに座ればいいだろ?」
今度はクリスが唖然としている。さっきからお互いに交互に似たような表情をしている。凄まじいカルチャーショックだ。
「普通は奴隷を椅子やベットに座らせませんが……」
「もういいから椅子に座れ」
ハルトが命令するとクリスはやっと椅子に座った。ハルトは軽くため息を吐いた。
「お前には聞きたいことがいくつかある。正直に話してもらうぞ」
「はい」
ハルトの長い夜が始まった。




