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器用貧乏とカリルカ崩壊

底 での落下中のシーンを一部変更しました。私が無知なばかりに申し訳ないです。大筋は変わってないので読まなくても大丈夫です。

 



 ハルトはクリスが血塗れなのを見ると辺りを見回し、馬車から転がったと思われる樽を見つけると歩み寄る。中身を確認するとお目当ての水だったので、クリスに綺麗なタオルを渡すと血を落とすようにいった。


 クリスはしきりにこんな綺麗な布を使って良いのかと聞いてきたが、ハルトが良いと言うと恐縮しながら血を落とし始めた。


 ハルトはクリスが血を落としている間にクリスの替えの服とまだ使える物を探しに馬車の残骸に向かって歩き始めた。残骸をガサガサして、まだ使えそうなものをいくつか見繕う。

 商人のキャラバンという予想は当たったいたようで商品とおぼしき物がたくさん発見された。クリスと自分の替えの服と地図と食料を失敬して、残りをどうしようかと考えていると後ろから声をかけられた。


「あ、あの終わりました」


 振り向くと一糸纏わぬクリスが突っ立っている。

 ハルト内心ブフゥーー!!と吹き出しながらも、なるべく表情に出さないように気をつけながらクリスに替えの服を渡す。血糊を落としたクリスはとても美人で肌は白く透き通っている。胸は平均的な大きさだがウエストが細いためか大きく見え、背中まで伸びている髪はきれいな青磁色をしている。簡単に言えば破壊力抜群であった。


「とりあえずそれに着替えて」


 クリスは服を受け取ると驚いたような顔をして言った。


「こんな良い服は頂けません」


 ハルトの感覚では普通の服なのだが異世界では違うのかと首を捻ったが、今は他の服は無いので気にしないことにした。そもそも奴隷にはボロ布と変わらないような服しか着させないのが普通なのだがハルトが知っているわけがない。


「今は他の服が無いからそれを着て。裸で連れて歩くわけにもいかないし」

「わ、わかりました」


 クリスがその場で着替え始めたので、ハルトは慌てて後ろを向いた。着替えを待つ間に次になにをするか頭の中でまとめていく。

 とりあえずは地図にある村か町に行くのは必須だ。そこでこの世界についていろいろ調べる必要があるからだ。いろいろな知識を得た後になにか今後の目標などが見つかればなお良い。


「お待たせ致しました」


 ハルトが振り返るとクリスが着替えを終えていた。たいへん綺麗なので褒めればいいのだが、距離感がいまいちまだ掴めていないのでハルトはヘタレて褒めなかった。


「よし、いくつか質問したいことがあるんだがいいか?」

「はい、構いません」

「ここがどこだかわかるか? 俺はここがどこなのかまったくわかっていない」

「ここはエスタ・エンパイア王国の東の端です」

「地図でわかるか?」


 さっき盗ん……、借りた地図を広げつつハルトが問うとクリスは淀みなく地図の一点を指差した。確かに王国の端であり近くに町は一つしかなかった。それも国境近くの町だ。クリスが嘘を言っていればそれまでだがそれを言ったらどうしようもないのでハルトは気にしないようにした。


「じゃあこの近くにある町に移動する。ええっと町の名前はボルタか。クリスもそれでいいか?」

「は、はい。問題ありません」

「それじゃ……」


 それじゃあ出発しようかと言おうとしたところでハルトは口ごもった。辺りは死屍累々であり、このままにしておいても良いのかと思ったからだ。ハルト的にはやる気も義務も無いのだが、後々問題になったら面倒くさい。


「これって放っておいてもいいのか?」


 ハルトが辺りを眺めながら聞くと、クリスは俯きながら答えた。


「彼等は違法な奴隷商人達だったので放っておいて問題無いと思われます」

「ならいい」


 ハルトは町に向かって移動を開始した。









 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










 ハルトがクリスと出会っていた頃、生徒達はまだテーリノートにいた。

 ダンジョンを脱出した時にはもう夜で、生徒達は宿で泥のように寝た。アレクやトウル、晴子や一部の生徒は眠れぬ夜を過ごしていたが。


 翌朝アレク達は王国に連絡を取り、事の顛末を報告した。王国上層部は生徒達に死者が出たことに初めは慌てていたが、死んだのがハルトだとわかると途端に安堵しだした。王国上層部にとって必要なのは優秀な生徒達であって、ハルトのような中途半端な生徒は必要ないからだ。


 王国に報告して一日、生徒達はまだ宿にいる。王国からは二、三日ゆっくり休んでから戻ってくるように言われている。生徒達の心情を思えば納得のいく指示だが、アレクは不満そうな顔をしている。


「なにを怖い顔をしている。生徒達が見たら不安がるぞ」


 トウルの声でアレクはハッとなる。


「そんなに怖い顔をしていたか?」


 アレクが苦笑しながら聞くと、トウルはため息を吐きながら頷いた。


「お前の気持ちがわからんでもない。あいつがいたから俺達は生きている。それなのに上層部の奴等は……」


 今度はトウルが怖い顔をし始めたが、アレクはそれには触れずに話題を変えた。


「生徒達の様子はどうだ?」

「今のところ大半の生徒に大きな問題はない。表面上はな。ただ……」


 トウルの顔が陰る。


「あいつと仲の良かった生徒は芳しくない。かなり情緒不安定だ」

「レイラは?」

「一番不味いな……」


 アレクの顔も陰った。二人とも声をかけたいのは山々なのだが、下手に声をかけられない理由もある。

 それはハルトが死ぬ直接の原因を作ったのが生徒達と一部の騎士や魔術師達ということだ。アレクとトウルはそのことについてなにも言っていない。正確には言えなかった。なんと言えば良いのかわからなかったから。


 二人の気持ちがまた沈んだとき、突如地面が激しく揺れ始めた。


「なんだ地震か?」


 アレクがただの地震かと思っていると、騎士が一人部屋に飛び込んできた。


「た、大変です! ダンジョンが! カリルカが崩壊を始めました!!」 

「な、なんだと!?」


 アレクは窓から飛び出すとカリルカの方に向いた。その瞬間、アレクは自分の目を疑った。なぜならカリルカが崩れていくからだ。アレクが見ているなかカリルカは完全に崩壊した。


 アレクが知るよしもないことだが、カリルカはハルトが転移するのと同時に崩壊を始めたのだ。カリルカの役割はベルの封印の一つを担うこと、封印が解ければ役割も終わる。


「そ、そんなばかな…………」


 アレクにはなにが起きているのかまるで理解出来なかった。








 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~









 レイラは凄まじい振動と轟音で久し振りにベットから起き上がった。


「……なに?」


 レイラの声は嗄れていた。一日中泣いていたのだから当然である。涙も流れなくなったところに先ほどの振動と轟音を感じたため渋々起きたのだ。

 しばらくすると地震は収まったようだが、外は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。


(地震くらいでこんなに大騒ぎになるもの?)


 レイラが疑問に思っていると扉がノックされた。


「レイラ開けて! 大変な事が起きてるの!」


 声の主は凜のようだ。しかし珍しくかなり慌てている。レイラは扉を開けて凜を部屋に入れた。


「どうしたの凜ちゃん? そんなに慌てて」


 凜は呼吸を整えると、真面目な顔で言った。


「カリルカが崩壊したわ。さっきの地震はそのせいよ」

「えっ?」


 レイラは一瞬なにを言われたのかわからなかった。


「嘘だよね!?」


 凜はレイラの手を取ると外に向かって歩き始めた。


「実際に見てみるのが早いわ」


 レイラが外に出てカリルカの方を見るとカリルカは跡形もなく砂煙が立ち上っているだけだった。


「そんな……」


 レイラが立ち尽くしていると大河と達也が気づいて集まってきた。


「蒼井くん、中猪くん……。これどういうこと?」

「わからない。俺と達也は外にいたんだけど、何の前触れもなくカリルカが崩れ始めたんだ」

「そんな……、じゃあ日向くんは……」


 四人の顔が途端に暗くなる。なんだかんだで機転の良い奴だ、底に落ちたくらいならハルトは生きているかもしれないと僅かながら思うこともできた、たとえ気休めだとしても。でもダンジョンの崩壊に巻き込まれて生きているはずがない。


「生徒達は全員宿に戻れー!!」


 アレクが生徒達に声をかけている。


 レイラ達が宿に戻ると既に他の生徒は戻っていた。他の生徒は宿のフロントに集まっている。


 全員揃ったのを確認したのかアレクが話を始めた。


「みんなもう知っていると思うがカリルカが崩壊した。まだ原因はわかっていない」


 生徒達の間にざわめきが広がる。


「詳しいことはなにもわかっていないが、王国から緊急帰還命令が出た」


 ざわめきが大きくなる。


「すぐに支度を始めろ、一時間後に出発する」


 生徒達は慌ただしく準備を始めた。


「凜ちゃん、どうしよう?」


 レイラは凜の服の裾を引っ張るが、凜のほうも混乱が抜けきっておらず言葉を返せないでいる。


「これからどうなるんだ……」


 大河の呟きは生徒達全員の思いを代弁していた。






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