器用貧乏の死亡そして契約
ハルトは白い空間で目を覚ました。そこはまるでラノベでよくある転生する場所に似ていた。不思議と怪我はなく五体満足で体も軽い。
目を覚ますときにアウェイクとか聞こえたような気がしたがハルトはアニメの見すぎということにすることにした。
「やっと起きたのね」
ハルトが声のしたほうに向くと、そこには美女が立っていた。
美女の顔は神々しく非現実的なまでに整っている。どれほど整っているかというと野獣が逃げ帰るくらいだ。また、美女の髪は光の加減で様々な色合いを見せ、ハルトを惹き付ける。
咄嗟にハルトの頭に浮かんだのは女神と転生というワード。
「残念ながらあなたは死んだわ」
ずっと気になっていたことを言われたが、ハルトは特に驚くことは無かった。そうだろうなとは思っていたからだ。言うなれば本能が理解していたとでも言おうか。
「驚かないのね」
「なんとなく、そんな気がしていたからな」
ハルトが答えると美女は面白そうな顔をした。その瞬間、刹那の間だけだがとても人間臭い顔をしていた。しかし、それもすぐに戻り、美女は口を開いた。
「この空間はあなたがいた世界とは時間の流れが違うわ。だからあなたがいた世界ではあなたが死んでからさほど時間は経っていないわ。あなたを殺した悪魔、アゲインストはまだ復活していないようね。どうせもうすぐ復活するだろうけど」
「お前は何なんだ? 女神なのか?」
ハルトが質問すると美女は嬉しそうに答えた。
「あら、嬉しい。女神なんて言ってくれるの? うふふ」
なんか反応が可愛らしい。
「でもちょっと違うわね。正確には今の私は精霊みたいなものよ。まあ昔は女神とか呼ばれていたこともあったのだけれどね」
美女は言葉の最後にウインクをした。意外と茶目っ気があるのかもしれない。
「女神……。精霊……。俺はこれからどうなるんだ?」
「あなたはこれから転生することになるわ。ただあなたは悪魔に殺されてしまった。悪魔に殺されてしまった人の来世は暗いわ……。苦難に満ち溢れている」
ハルトの感覚は間違っていなかったようだ。ただお先は真っ暗のようだが。
「そうか……。なあ、あんたはプークスクスクスとか言って笑わないのか?」
「はい? よくわからないけれど笑わないわ。あなたは立派だった。相討ちとはいえあのアゲインストを一対一で倒した。これはレベル差を考えれば通常はありえない。レベル差がなくても普通は多人数で戦う。それなのにあなたは一人で戦って倒した。それは称えられることはあってもバカにされることではないわ」
ハルトは泣きそうになった。ずっと惨めだと思っていた。けれどこの女神は称賛してくれた。それだけでハルトはすごく嬉しかった。この女神はどこぞの駄女神とは違う。
ハルトは覚悟を決めて転生することにした。たとえ来世が苦難に満ち溢れていたとしても諦めない決意をして。
しかし女神はハルトの予想もしなかった言葉を口にした。
「ものは相談なのだけれど。あなた、人間を辞める覚悟はあるかしら?」
この一言がハルトの運命を大きく変えることになるになることをハルトはまだ知らない。
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ニンゲンヤメマスカ?
(…………あ、違う違う。人間を辞める覚悟はあるかだった)
女神の衝撃の一言の後、ハルトの脳内はプチパニックになっている。
ハルトが理解していないとみた女神は優しく微笑みながら説明を始めた。
「では順序立てて説明するわね。まず私の名前はベル。ぶっちゃけてしまうと私は女神とか精霊とか言っているけど転生には何も関係ないわ。別にあなたを次の人生に送り出したりしないし」
あ、やっと名前わかったと思ったハルトは次の転生関係ない発言で目を剥いた。
「本当は私閉じ込められているの。ここから出るにはアゲインストを誰かが完全に倒してくれるのを待つしかない。でも誰もあいつを倒してくれないばかりかいい勝負にすらならなかった。そんなときあなたが来たのよ、ハルト」
すごく大事な話をされているのだが、ハルトが思ったのは初めて名前呼ばれたなーというもの。もうダメかもしれない。
「あなたはアゲインストを完全に倒すことこそできなかったけれど、あいつを一度殺した。それに称号も覚醒したしね」
「称号の覚醒? なにそれ?」
一応話はちゃんと聞いているようだ。まだ大丈夫そうかもしれない。
「称号の覚醒、もしくはランクアップと言うわ。ごく稀に称号が覚醒する者がいる、覚醒した称号は従来の称号とは隔絶した力をもたらすの。ただし、覚醒させるのは生半可なものではないわ。レベルを上げるときに十レベル毎に壁を越えなければならないでしょう?」
「あ、ああ」
「レベルの場合は強敵と戦ったり、できないことができるようになったりすればいい。でも称号は違う。偉業を成し遂げなければならない」
「偉業……」
「そう。わかりやすいのだと、絶対勝てないほどレベルが離れた敵を殺したりとかね、あなたみたいに」
(確かに死ぬ直前に称号が覚醒したとか表示されてたような)
「実際に見たほうが早いわね。ステータスウィンドウで確認してみなさい」
ハルトは素直にウィンドウを開く。
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日向 悠斗 17歳 ヒューマン 男 LV39
STR:900
AGI:900
VIT:900
MP:2000
SP:2000
称号
器用貧乏(覚醒)
魔法適性
火・水・風・土・雷・光・闇・回復・支援・生体・結界・振動・刻印
アビリティ
異世界言語理解
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確かに器用貧乏に覚醒とついている。ハルトは急いで器用貧乏の詳しい情報を確認する。
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器用貧乏(覚醒)
全ての魔法、スキルに適性あり
能力値がSTR、AGI、VITが同じ数値に、MP、SPが同じ数値になる
全てのスキルの熟練度が同じ数値になる
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(全てのスキルの熟練度が同じ数値に!?)
地味だがなんかすごいことが書いてあったので、ハルトは慌ててスキルウィンドウを開く。
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スキル
武器系統
片手剣364・両手剣364・短剣364・細剣364・刀364・槍364・片手斧364・両手斧364・戦槌364・戦棍364・鞭364・鎌364・爪364・杖364・投擲364・弓364・盾364
防具系統
金属防具364・革防具364・布防具364
魔法系統
火魔法364・水魔法364・風魔法364・土魔法364・雷魔法364・光魔法364・闇魔法364・回復魔法364・支援魔法364・生体魔法364・結界魔法364・振動魔法364・刻印魔法364
耐性系統
火耐性364・水耐性364・風耐性364・土耐性364・雷耐性364・光耐性364・闇耐性364・状態異常耐性364・打撃耐性364・斬撃耐性364
身体技能系統
体術364・剛力364・縮地364・金剛364・筋力364・速力364・耐力364・鑑定364・索敵364・隠蔽364・採取364・所持容量拡張364・武器防御364・魔力消費量軽減364・魔力総量増加364・魂力消費量軽減364・魂力総量増加364
生産系統
鍛冶364・調合364・料理364・木工364・裁縫364・釣り364
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ハルトさんの目が点になった。熟練度がすごい伸びている。それも鍛えたことのないスキルまで。おそらくアゲインストの戦いで熟練度が上がった片手剣の数値が全てのスキルにも適用されている。
(これってかなりチートなんじゃ!?)
ハルトの感覚は正しい。これからハルトはどのスキルを鍛えても他のスキルも自動で数値が上がる。なぜなら器用貧乏なのだから。器用貧乏とはなんでも同じようにできる人のことなのだから
「理解したかしら? あなたはもう弱者では無いのよ」
ベルの言葉にハルトは固まる。
「お、俺が弱者ではない?」
「そうよ。でも今のままでは、まだアゲインストには勝てない。アゲインストはそこらの強者でも勝てないわ。私はあなたにアゲインストを倒してもらいたいの」
ベルはハルトを見つめながら言った。ハルトは怪訝そうな顔をしている。
「俺は死んだんだろ? どうやって倒すんだよ、呪うのか?」
「そこよ! 私はアゲインストを倒してほしい。そのかわりにあなたを生き返らせてあげる。どう?」
「生き返らせる? できるのか?」
「正確にはちょっと違うけどね。あなたの魂を私がこの空間に留めておくかぎり死んだことにはならないの。そして、あなたと特別な契約を結ぶことで、あなたの魂を体に戻す」
生き返るチャンスがあるとわかり、ハルトの脳が高速回転を始めた。
「ただしリスクもあるの。あなたの体はダンジョンの中のままだからアゲインストを倒せなければ、またすぐに死んじゃうわ。それに生き返るときの契約もリスクがあるの」
「仮にも死んだ奴が生き返るんだそれ相応のリスクはあるだろう。で、どんなリスクなんだ?」
「……人間を辞めてもらわなければならないの」
ハルトの脳がフリーズした。さすがにゾンビとか魔物とかの人外は困る。
「さすがにゾンビとか魔物とかはちょっと……」
ハルトが顔をひきつらせているとベルが慌てた。
「あ、違うわよ! 魔物とかじゃなくてね、ベースは人間のままだけど能力がかけ離れてるのよ」
ベルの言葉を聞いて、ハルトはほっとした。
「まず不老不死になるわ。ケガをしてもすぐに治るし。あとは身体能力も跳ね上がり、片目が赤く光るの」
「…………」
ハルトは反応に困った。痛し痒しといった感じだ。アゲインストと戦うには必要な能力が多いが、確かに人間は辞めている。てか身体能力が上がる以外は人間の能力ではない。
「まとめると私はあなたにアゲインストを倒してもらいたい。そのためには契約を結んでもらわなければならない。あなたは生き返れるけど人間を辞めてもらわなければならない。どうする?」
ベルはハルトが反応を示さないので、安心させるように付け足す。
「別に断ったって、あなたをここに閉じ込めたりとか呪ったりとかしないわよ。安心して、あなたの好きにしていいの」
ハルトは一度上を向き、目を閉じて数秒考えた後、前を向いて言った。
「その提案乗った!!」
「本当!?」
ベルは自分で言っといてびっくりしている。
「ああ。俺は死にたくない。こんなところで人生の幕を降ろしたくなんかない。俺はまだ生き足りない!」
「いいの? 他の精霊達の話を聞くかぎり、契約のことを呪いと呼ぶ人もいるそうよ」
ベルは伏し目がちに聞いてくるが、ハルトは即答する。
「かまわない。契約を結ぼう」
「……わかったわ」
ハルトの決意が固いとわかると、ベルはハルトの目を見て頷く。
「ではそこを動かないで」
ベルが目を閉じ、開くとハルトの足下に魔方陣が現れた。
「これからあなたに与える力は人間を大きく超える力。この力はあなたを孤独にするかもしれない。あなたは他の人とは異なる時間を生きることになる。それでも契約を結びますか?」
「ああ! 結ぶぞ、その契約!」
「わかりました。ではいきます!」
ハルトの体が光に包まれる。ハルトは光の中で自分中のなにかが変わっていくのを感じた。それは嫌な感じてはなく、とても暖かく感じた。
「それでは、あなたの魂を体に戻します。無事アゲインストを倒した暁にはお話したいことがあるので、またここに呼んでも良い?」
「ああ、良いぞ」
「じゃあ頑張って勝ってきて」
「ご期待に添えるように努力するよ」
「ではお気をつけて」
ベルの言葉を最後にハルトの意識は白い光に呑まれた。
やっとタイトルっぽくなってきました。
なのに来週は学校の実習で山に籠るので投稿できるかわかりません。




