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器用貧乏と悪魔

すいません、大分遅れました。

 


 ハルトが目を覚ますと変わらず扉しかなかった。どうやら扉の間は魔物が湧かないらしくハルトは無事だ。


 ハルトはがっつりと十時間くらい睡眠を取ったので体力は回復したようだ。まあハルトはすでに時間の感覚が無くて何時間寝たのか、そもそも今が朝だか昼だか夜だかわからず、ぶっちゃけダンジョンに入ってどのくらい経ったのかすら見当もつかない。


「うーん。けっこう寝たなー。ここは魔物が湧かなくてよかった」


 ハルトが凝り固まった肩をほぐしながら、保存食を出し朝食?の準備をする。

 もしゃもしゃしながら、考えを巡らすが一つしか打開策は思いつかない。


「やっぱり扉を開けるしかないよね……」


 打開策が一つしか思いつかないのに、躊躇するのはただ怖いからではなく。ダンジョンで大きな扉の中にはボスがいるものだ。大抵はその部屋を守護しているので扉の外へは出てこないものだが、扉を潜ったらボスを倒さなければ出られないなんて仕掛けがあることもある。ソースはハルトのオタク知識。


 ハルトは装備の点検をした後、扉に向かい手をかけた。


「ふう。なにが出ることやら」


 一度目を閉じ、絶対に生きて帰ると心に刻んでから目を開けた。


「行くか」


 ギィィー。ハルトが押すと扉を軋みながら開いた。











 扉の中は暗く、明かりがまったく無かった。空気は淀んでおり、まるで闇が空気中にまで滲み出ているかのようだ。


 ハルトが明かりを出すかどうか迷っていると、天井付近からいきなり光が生まれた。


「ッ!!」


 ハルトが咄嗟に目を庇い、光に慣れたところで天井を見ると、そこには光り輝く水晶があった。


「なんだ、久々の客かと思えばガキか」


 突然聞こえた声にハルトははじかれたように前を向く。


 ハルトの視線の先には身の丈が三メートルほどある筋骨隆々の悪魔がいた。

 悪魔は部屋の奥の玉座らしき豪華な椅子に座りハルトを見下ろしている。


「見たところ一人か、トラップに引っ掛かったな。正規の攻略者かと期待して損したな」


 悪魔はハルトを一瞥するとこれ見よがしにため息をついた。


 一方ハルトは悪魔が発する雰囲気にびびり硬直していたが、とりあえず逃げ出すべく扉を開けようとするが開かない。どうやらハルトの最悪の予想が当たったようだ。


「ああ、無駄だぞ。我を倒さんかぎりここから出ることはできん」


 悪魔はつまらなそうなにハルトを見ると憐れそうに告げた。


「せめてもの情けだ。苦しまぬよう一撃で殺してやろう。ではゆくぞっ!」


 悪魔がハルトの身長くらいある剣を構える。ハルトは情けだろうが何だろうが、一撃だろうが何撃だろうが死になくないので必死に止める。


「ちょっ、ちょっと待った!! タンマだ、タンマ!!」


 ダメ元で言ってみたが、悪魔は律儀に止まってくれた。


「? なんだ? 待ったところでどうせ我を倒さなければ出られないのだぞ?」


 悪魔が予想外にも話が通じそうなので、ハルトは勝率を少しでも上げるために恥も外聞も捨てて頼み込む。


「確かにそのとおりなんだけどさ、何の準備も無しだと瞬殺だからさ。戦う準備をする時間をくれ」

「ふむ。まあよかろう。どっちにしろ戦わなければならないのは変わらん。準備できたら呼べ」


 あっさり納得した悪魔は玉座に座り直した。

 ハルトは簡単に了承を貰えた事に首をかしげげながら準備を始める。


 ハルトはどうせ戦闘中は取り出す暇が無いだろうと槍、片手斧、盾を取り出して、槍と片手斧を地面に突き立てる。そして、バスタードソードと盾を構えて、魔法を詠唱する。

 〝豪刻〟〝尢閃〟〝天冑〟をかけて身体能力を底上げをする。また更にもう一つ、ある魔法の下準備をした。


「よしっ。準備出来たぞ!」


 ハルトが声をかけると悪魔はゆっくりと立ち上がった。


「では始めるか。ついでだ、初手を譲ってやろう」

「そりゃどうも!」


 初手を譲られたハルトは遠慮なく魔法を唱えた。


「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に刻印を用いて神秘を再現しろ 〝炎柱えんちゅう〟!」


 本来〝炎柱〟はハルトがまだ使うことの出来ない高レベルの火魔法だ。だが刻印魔法の空中刻印は構築する魔方陣さえわかっていればあらゆる魔法の再現が可能だ。例え適性が無い属性だろうが、まだ習得していない魔法だろうが。


 悪魔の真下から炎の柱が立ち上ぼり、激しい炎で包み込む。〝炎柱〟は火魔法の熟練度が600を越えないと習得出来ない、しかしまだ他にも高い威力の魔法はある。ハルトがそれを使わない、いや使えないのは魔力が足りないからだ。いくら刻印魔法で再現できるといっても再現するには自前の魔力がいるので、一発でハルトの総魔力を上回る魔力消費量の魔法は使えないのだ。実際〝炎柱〟ですら残存魔力の殆どを消費している。使えるんだか、使えないんだかイマイチわからない魔法だ。


 ハルトは悪魔が炎に包まれている間に魔力回復のポーションを飲んで魔力を補充する。


「あえて言おう。やったか?」


 ハルトがわかっていながらフラグを立てると炎の中から悪魔が出てきた。


「フハハハハハハッ! どんな攻撃をしてくるかと思えば刻印魔法か! 刻印魔法は発動するのに時間がかかる、準備の段階で仕込んでおったな?」


 流石に無傷とはいかないようで体の所々が焦げていたが、割りと元気そうである。


「そりゃ準備だもん。打てる手は打っとかなきゃ」

「良い。実に良い! では次はこちらから行くぞ!!」


 悪魔は最初とはうってかわってノリノリで剣を振り下ろしてきた。


 ハルトは大きく飛んで下がり避けるが、立て続けに振るわれた二撃目が避ける間もなく迫る。盾で弾こうと試みるが呆気なく、逆に盾を吹き飛ばされた。

 盾を諦めたハルトは間合いを詰めることで大剣を少しでも封じようとするが、大剣が体を掠める度に寿命が縮む思いだ。


「ハッハッハ! 小癪な!」


 ドン!! という衝撃とともにハルトが吹き飛ばされた。


「ぐぁっ……」


 ハルトが地面を転がり、やっと止まったところで悪魔を見ると前に出した足をゆっくり戻すところだった。


(蹴られたのか……)


 ハルトは立ち上がり治癒のポーションを飲む。

 悪魔は特に邪魔せずに少し驚いた表情でハルトを見ている。


「ほう、驚いたな。今ので終わったと思ったが……。なかなか良い鎧を持っているようだな」


 ハルトもそのことについては同感だった。ハルトが装備しているレザーアーマーは高性能どころか、超が付く一級品のようだ。悪魔の蹴りがまともに当たったのに大した損傷も無い。流石はあのラプトルのドロップアイテムだ。


 ポーションで体力を回復させたハルトは悪魔がなめくさって油断しているうちに勝負をつけるべく、必勝パターンに持ち込もうとする。


「うりゃっ!」


 ハルトと悪魔の剣がぶつかり鍔迫り合いになる。ハルトは待ってましたとばかりに剣に仕込んである〝雷放〟を発動させる。


 しかし悪魔は小揺るぎもしない。そのまま剣を押しきろうとする。

 あっさり必勝パターンを崩されたハルトは慌てて縮地を使い、後ろに下がった。だが悪魔は一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろした。

 ハルトは既に縮地を使っているためクーリングタイムで使えない。


(やべっ、死ぬ!!)


 咄嗟にASを発動させるが、ハルトの貧弱なステータスでは打ち合うのは無理であろう。打ち合うなら。


 ハルトは悪魔の大剣が頭をカチ割る寸前に凄い勢いで前に飛び出した。その勢いはまるでカタパルトか発進するMSの如く。


 五メートル程先で剣を振り抜いた格好のハルトはアワアワしながら悪魔に向き直る。


 ハルトが発動したASは『リープスラッシュ』というもので、助走無しで空中をカッ飛んで剣で切りつけるという技だ。射程は五メートル程である。

 今回は攻撃ではなく、高速で移動するために使われたようだ。これは本来の使い方ではなく裏技みたいなものだ。まあ、はたから見ればいきなり飛び出てなんも無いところを切ったようにしか見えないが。


「なかなかどうしてしぶといではないか」


 悪魔は未だに余裕綽々でのんびり振り返っている。


「だがそろそろギアを一段上げるぞ」


 そう言うと悪魔は先ほどよりも速く、鋭い踏み込みで剣を振り下ろしてきた。

 ハルトは剣で受け止めるが、やはり止められずに紙くずのように軽々吹き飛ばされる。なんとか両足で着地したハルトはガリガリ地面を削りながら止まった。十数メートルほど飛ばされたようだ。


「この馬鹿力め……」


 ハルトは悪態を吐きながら刻印魔法を起動する。右腕の腕当てと右足のブーツに刻印されていた〝豪刻〟〝尢閃〟を発動させた。魔法の重ね掛けによって身体能力が跳ね上がる。しかし、同時にタイムリミットも発生した。生体魔法の重ね掛けは今のハルトには負担が大きいので、効果が切れれば体に深刻なダメージが残る。つまりそれまでに悪魔を倒さなければならないのだ。


 悪魔が再び踏み込んで切りつけてくる。ハルトはもう一度剣で受け止めようとするが、また吹き飛ばされた。今度は三メートルくらいだ。


「くそっ、まだ足りないか」



 〝豪刻〟二つでは悪魔と打ち合うには足りないようだ。しかし、ハルトは〝豪刻〟をさらに重ねることができない。それをしてしまうとただでさえ短いタイムリミットがさらに短くなってしまうからだ。


 だが先ほどと違い、戦えない程では無い。ハルトは僅かな勝機を手繰り寄せるべく絶望的な戦いを続けた。


 終焉が目の前に迫っていることも知らずに。






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