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器用貧乏は重力の井戸の奥底で

新学期が始まりました。これから忙しくなるので週一くらいで更新できればいいなと思います。

 


(んっ…………)


 ハルトは意外とすぐに目を覚ました。


(うっ、俺死んだのか? 体が動かな……。痛ってえ! 生きてるわ、めっちゃ体痛いし)


 てっきり死んだものかと思っていたが、身体中の刺すような痛みで生きていることを自覚した。無茶な生体魔法の多重展開をしたので当然である。


「とりあえず動けるようにならないとな……」


 ハルトは天言の腕輪とアンダーシャツに刻まれた刻印魔法を起動する。発動したのは回復魔法〝回癒〟。低級の回復魔法だが二つ発動させることで効果の低さを補う。


 十分ほど経って、体が動くようになったのでまわりの様子を確かめると、どうやらハルトは運良く瓦礫と瓦礫の隙間の空間にいるらしい。


 隙間から這い出て辺りを見回すと、穴の底という割には明るかった。所々壁から露出している石がほんのりと光っているからのようだ。

 辺りには瓦礫が散乱しており、まるで災害現場みたいである。


「こんな状況で助かるとか、まだ完全に運が尽きたわけじゃなさそうだな」


 ハルトがキョロキョロしていると、突然瓦礫の一部が崩れた。


「グッ……。グルルッ……」


 瓦礫の中からヒュージラプトルが姿を表した。


「げっ! 生きてたのかよ……」


 ハルトはやっぱ運尽きてたかも。とか思っているが、よくよく見てみればヒュージラプトルは死にかけていて息もたえだえだ。

 ハルトが背中に刀身の半分ほど突き立てたノワール・ディバイダーは背中から落ちたからか刀身が全て埋まっており、さらに瓦礫にやられたのか全身から血を滴られせている。


 しかし、目は死んでおらずハルトを睨みつけている。


(落ち着いて考えろ、俺。ノワールはあいつの背中に刺さってるし、短剣は折れた。刻印魔法はもうろくなの残ってないぞ)


 ハルトがあれこれ考えてるうちにヒュージラプトルが先に動いた。瀕死の体を引きずり、ハルトに噛みつこうとする。

 たが、その速度は今のハルトでも簡単に避けることができるほど遅い。ハルトは避けてから距離をとり、ストレージを開く。


「これでどこまでやれるか……」


 片手斧と盾を取り出して構え、魔法を詠唱する。


「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に肉体を堅牢なる鎧と成せ 〝天冑〟!」


 生体魔法で全身を強化してヒュージラプトルに向かっていく。〝豪刻〟や〝尢閃〟を使わないのは、まだ回復しきっていないからだ。


「うおらっ!」


 力任せに叩きつけるだけだがヒュージラプトルの動きは鈍く避けられない。どうやらろくすっぽ動けないようだ。


 ハルトはもう一度距離をとって、今度は刻印魔法を起動させる。ボロボロになったブレストプレートから〝雷渦〟が放たれ、ヒュージラプトルに直撃する。〝雷渦〟は刺さったままのノワール・ディバイダーを通じて体内に浸透する。


「グッ、グゥゥ……」


 これでハルトの防具で刻印魔法が残っているのはパンツのみ。しかし、ヒュージラプトルはうずくまっており、もう動くだけの力は無いようだ。


「これで、いい加減終わりだ!!」


 斧系AS『シングルクラッシュ』が発動して斧がオレンジ色に光る。ハルトの渾身の一撃が脳天に決まる。


「まだだ!!」


 斧に刻まれた刻印魔法を起動し、〝雷放〟がだめ押しをする。


 そして遂に。ヒュージラプトルは光る粒子になって宙に消えた。ハルトは消えゆく粒子を眺めながら静かに佇み、しばらく時間が経った後に倒れこんだ。


「痛えよ……」


 散らばっている細かい瓦礫がチクチクと背中に当たる。だがそれが今は心地よかった。

 ハルトが仰向けで上を見ていると目の前にアイコンが浮かびあがった。


 ピコン!


 ヒュージラプトルを倒したことによる大量の経験値とドロップアイテムが表示された。


「えーと、なになに? …………はあ!?」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 日向 悠斗 17才 ヒューマン 男 LV29

 STR:600

 AGI:600

 VIT:580

 MP:1500

 SP:1500

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レベルがめちゃくちゃ上がっている。どうやらヒュージラプトルを倒したことで壁を越えるどころか突き抜けたようで、早くも次の壁に取りついているようだ。

 ちなみに経験値は倒した者より一定距離以上離れると得られなくなる。例えばパーティーだけ組んで一人だけ町でくつろいで、パーティーメンバーに魔物を倒してもらっても経験値は手に入らない。つまりハルトはヒュージラプトルの経験値を独り占めしたというわけだ。それによりレベルが急上昇したのだ。


 ドロップアイテムも明らかにレアアイテムらしき物が複数ある。武器や防具やら肉だの皮だのもあるが、ハルトが目を見張ったのはクリスタルというアイテムだ。


 クリスタルというアイテムは種類がたくさんあり、大別するとステータスクリスタルとスキルクリスタルに別れている。

 ステータスクリスタルは使用するとクリスタルに応じてステータスが上昇する。ステータスクリスタル+STR50ならSTRが50上昇する。

 スキルクリスタルは使用するとクリスタルに応じてスキルの熟練度が上昇する。スキルクリスタル+片手剣50なら片手剣の熟練度が50上昇する。

 どちらも滅多に出る物ではなく、稀に魔物からドロップする。その事から魔物のステータスやスキルの一部がクリスタルになったのではないかと考えられているらしい。


 今回ドロップしたクリスタルはステータスクリスタルのSTR、AGI、VITの+50が一つずつ。スキルクリスタルの+筋力50の四つだ。ハルトは知らないが50もステータスや熟練度が上昇するクリスタルは滅多にドロップせず、一つ売るだけでかなりのお金になる。


「よし。とりあえず上げられるだけ上げてから出口でも探しますか」


 ハルトはおもむろにクリスタルに手を伸ばした。










 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 クリスタルを使った後、ハルトは装備に刻印魔法を刻んでから探索を開始した。


 ドロップアイテムの中には武器や防具もあり、ボロボロになったブレストプレートはストレージにしまい、代わりに野性味溢れるレザーアーマーを身につけている。他にも肩当てだの脛当てだのと全身分のレザー装備があったので騎士団の防具と総入れ換えした。

 革なのに鉄より防御力が高くて軽いので高性能のようだ。


 武器は大剣と爪だったので装備は断念した。幸いノワール・ディバイダーは特殊能力が無いかわりに非常に頑丈なので交換の必要は無さそうだ。


「これが出口か? いや入口か?」


 探索を始めて割とすぐに通路は見つかった。穴の縁を一周したが他に通路は見つからなかったので、これが当りだろう。


「どっちでもいいか。絶対に生きてここから出てやる」


 ハルトは装備を新たに、通路に足を踏み入れた。





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