器用貧乏とリミットブレイク
(何故だ……?)
ジェイクはコモンラプトルと戦いながら思った。
(何故なんだっ……?)
一つ目の何故はこの危機的状況についてだ。何故こんな理不尽な目に遭わなければならないのかということだ。
二つ目の何故は自分が絶望している状況でハルトがヒュージラプトルと戦っていることについてだ。何故あんな化け物と戦えるのかと。
ジェイクは優秀な騎士だ。言動に多少問題があるが、同期の騎士達と比べ、実力は頭一つ抜きん出ている。騎士の誇りももっており、愛国心もある。故にジェイクは勇者達が嫌いだ。
国を守るのは騎士である俺達だと、俺達の役目なのだとジェイクは思っている。たまたま異世界から召喚されて、異世界から召喚された者がみんな持っているチートな力で救世主気取りだと、ふざけるなと。
国王達の思惑を知らないのでジェイクはまさか勇者を戦争に使おうとしているとは夢にも思わない。
ジェイクが視線を向けるとちょうどハルトがヒュージラプトルの攻撃をかわしたところだった。
ジェイクはハルトが嫌いだ。召喚されたくせに称号は器用貧乏。明らかに雑魚だ。他の召喚者達が認めたくはないが強いので嫌悪の対象はハルトになった。
そのハルトは他の強いはずの召喚者の大半がパニクってる中、ヒュージラプトルと戦っている。弱い雑魚のはずなのに。
(何故……?)
三つ目の何故はハルトに対してか、それとも自分に対してか。ジェイク自身も理解してはいなかった。
ハルトはヒュージラプトルの攻撃を必死にかわしつつ、まわりに目を向ける。勇者二人が本気の詠唱をしているのが視界に入る。
ハルトの刻印魔法も当てる場所を選べばダメージを与えることができるが、刻印魔法は使える回数に限りがあるし、再度刻印し直す時間など無いのでここぞという時までは使えない。
大河や達也と代わる代わるに攻撃しながらタイミングを計る。
「今だ! 離れろ!」
三人が離れた直後に光と炎がヒュージラプトルを包み込んだ。
「おっし! やったか!?」
思わず叫んだ達也にハルトは「それフラグだから!」とツッコミを入れる暇もなく、光と炎を突破したヒュージラプトルが突っ込んでくる。
ヒュージラプトルは守と拓真に突進するが、二人の前に障壁が展開される。
菜奈だ。ハルトの指示を守り、結界魔法によるサポートを行ったのだ。
〝断壁〟によって数秒の時間が稼がれ、その間に守と拓真はとにかく距離をとる。
ハルト達が注意を引こうと攻撃するが、最早効果は薄く、囮にはなれない。それに直撃こそないが、ガード越しやかすっただけでも少なくないダメージをもらうのでハルト達はボロボロだ。
もうそろそろヤバイなというところで、待望の援軍が到着した。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に鋭き風の刃で敵を切り伏せろ 〝風刃〟!」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に堅き土の槍で敵を穿て 〝土槍〟!」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に燃え盛る炎の槍で敵を穿て 〝炎槍〟!」
凜、猛男、錬也の魔法が次々にヒュージラプトルに炸裂するが、ヒュージラプトルは軽く唸っただけで大して効いてはいない。だが動きは止まった。
凜達三人が駆け出して行き、ヒュージラプトルを引き付ける。ハルト達三人は凜達三人とは別方向からやってきたレイラと深雪に合流した。
「日向くん大丈夫!? 今すぐ治療するから!」
「えっ!? あ、うん。大丈夫だから」
凄まじい形相のレイラに気圧されながら、治療を受けるハルト。大河と達也は眼中に無いらしくちょっと可哀想だ。
ハルトが治療されながら一息ついていると後ろからアレクの怒号が聞こえてきた。
「お前ら何をやっている!! 日頃の訓練を思い出せ!! ここからは俺が指示を出す!!」
アレクの喝が入り、パニックから立ち直った生徒達は連携を取りながらコモンラプトルを倒していく。
それを見たハルトは流石と思いながら、そろそろこっちも勝負に出るかと考えた。
ハルトは治療が終わり、大河と達也の治療が始まると、四人に話しかけた。
「大河と達也の治療が終わり次第、勝負に出るぞ」
四人は一瞬の硬直の後、力強く頷いた。
そして、大河と達也の治療が終わった。
ハルトがヒュージラプトルの方を見ると、守達もアレクのお陰で生徒達が盛り返しているのがわかっているので攻撃にも心無しか力が入っているように見える。
ヒュージラプトルも度重なる攻撃で流石にダメージが蓄積しているようだ。若干動きが鈍くなっているように感じる。
「勝負に出るぞ!!」
ハルトの声に守達がチラリとハルトの方を見る。ハルトは構わずヒュージラプトルに接近する。
「グギャァァーー!!」
吠えるヒュージラプトルを尻目にハルトは刻印魔法を発動する。左の肩当てに刻まれていた刻印魔法が瞬時に魔方陣を構築した。
「くらえっ!」
火魔法〝炎渦〟がヒュージラプトルの顔をこんがりと焼く。
「グルァーー!!」
しかし、それがどうしたと言わんばかりにヒュージラプトルが突っ込んでくる。
ハルトは想定通りと動かない。
「おりゃっ!」
「オラァッ!」
左右に駆けつけた大河と達也が渾身の一撃を叩きつける。
『シングルバッシュ』
『バーチカルスラッシュ』
二人のASが決まりヒュージラプトルが怯む。
「今だ!」
ハルトが守と拓真に視線を向ける。
「「リミットブレイク!!」」
守と拓真から赤い光が立ち上った。アビリティによって守と拓真の能力が通常の三倍まで跳ね上がる。
「ガルルッ!?」
雰囲気が変わった二人にヒュージラプトルが気づいた。
だが、ヒュージラプトルが行動を起こすより速く守と拓真は動き出した。
「はぁぁーっ!」
「うぉぉーっ!」
二人の怒濤の攻撃がヒュージラプトルを襲う。通常の三倍は伊達ではないらしく、ヒュージラプトルは二人の動きについていけない。
守のクラウ・ソラスと拓真のレーヴァテインに滅多切りにされているヒュージラプトルはどんどん弱っていく。
そして、遂に膝をついたヒュージラプトルに守と拓真は追い討ちをかけるため、もう一つのアビリティを発動させる。
『M.V.S』
マナ・バリアブル・ソードの略で、簡単に言えば刀身に魔力を流して魔法剣にするアビリティだ。
魔法剣となって強力になった攻撃がヒュージラプトルを切り刻む。
さらに止めとばかりに魔法の詠唱を始める。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に清浄なる光よ、邪悪なる敵に神威を示したまえ! 光を統べる者の暖かき光よ、禍いを祓い希望となれ! 〝神輝〟!!」
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に激しき炎よ、愚かなる敵に神威を示したまえ! 炎を統べる者の消えることの無い炎よ、罪深き咎人を裁く鉄槌となれ! 〝神焔〟!!」
守の光帝と拓真の炎帝、それぞれの称号がなければ使えない、切り札の魔法が放たれた。
放たれた魔法はステージにひびを入れるほどの威力で、まともにくらったヒュージラプトルはボロボロになっている。あれだけ暴れまわった面影は最早なく、満身創痍のようだ。
魔法を放った守と拓真は『リミットブレイク』が解けたようで肩で息をしている。
『リミットブレイク』は解けると一定時間能力が低下するデメリットがあり、体力も著しく消耗する諸刃の剣なのだ。
また、最後に放った魔法は残存魔力のほとんどを消費したので魔力もすっからかんで倦怠感が凄まじい。立っているだけでも辛いようだ。
「はあ、はあ。これだけやれば……」
「ああ、流石に効いたろ……」
二人が言ったようにだいぶ効いているようなので、今のうちにアレクに合流しようとハルトが指示を出そうとすると、ヒュージラプトルが少しずつ動き出した。
ハルト達は獣は手負いが一番危険ということを忘れていたのだ。
「グゥアアアアアアアーーーーー!!!」
今まで一番大きくヒュージラプトルが吠えた。




