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器用貧乏とヒュージラプトル

 



 視界が戻り、ハルトがまわりを見回すと辺りの様子が一変していた。

 入り組んだ迷宮のような通路が消え失せ、大きな部屋の中心に移動していた。ハルト達がいる場所はかなりの広さがあるが円形のステージのようなところだ。ステージのまわりは吹き抜けになっていて底は見えない。


「全員いるか!? 人数の確認を急げ!」


 アレクが団員に指示を出している。ハルトはパーティーメンバーがいるのを確認すると改めてまわりを見回す。ステージには端と端に一本ずつ通路があり、そこを通れば部屋から出られそうだ。

 しかし、ハルトは背筋に寒気を感じていた。転移トラップによってステージのような場所に転移させられた自分達、まるで生け贄のようではないかと。


 ハルトの考えは間違っていなかったことがすぐにわかった。


 一本の通路の前に黒く輝く魔方陣が出現した。魔方陣は瞬く間に輝きを強くし、魔方陣から一体の魔物が出現した。


 その魔物はまるで有名な映画ジュラシッ○パークに出てくるラプトルのような姿をしていた。但しサイズが桁違いで体長十五メートルほどの巨体である。


 皆がその巨体に圧倒されていると、アレクが大声で指示を飛ばす。どうやら人数の確認は終わったようで、全員いるようだ。


「生徒達は速やかに通路を渡って退避しろ! 騎士と魔術師は足止めをするぞ!」


 アレクの指示で全員が動き出そうとした瞬間、まるでダンジョンが逃がすわけないだろうと嘲笑うかのように更に魔方陣が複数出現した。

 今度はもう一本の通路の前と通路のないステージの端に二ヶ所。全ての魔方陣を位置を線で繋ぐと十字の形になる。


 新しく出現した魔方陣からは体長二メートルほどのラプトル似の魔物が多数出現している。


 斥候の騎士が魔物の名前を確認したようで、大声で叫ぶ。


「大型の魔物はヒュージラプトル、小型はコモンラプトルです! コモンラプトルは特殊能力は無し、ヒュージラプトルは名前以外は確認できません!」


 索敵スキルを上げると魔物の名前や能力もある程度わかるらしいが、魔物が自分より強いほどわかる情報が減る。つまり名前しかわからないヒュージラプトルはかなりヤバイということだ。


 アレクは舌打ちをすると、新たな指示を出す。


「生徒達はコモンラプトルを突破して脱出しろ! キース、ロベルト、ジョン、ドニ、デルは俺と一緒にヒュージラプトルの足止めだ! トウルは魔術師団から足止め要員を選出しろ! 残った者は生徒達を援護しつつ共に脱出しろ!」


 アレクの指示を受け、全員が慌ただしく動き出す。トウルもすぐさま人員を選出してアレクと共に迎え撃つ準備をする。

 生徒達はパーティーごとに固まり、互いを援護しながら突破を試みる。


 しかし、アレクの指示を聞けない者がいた。守である。なまじ力が強いため、自分も足止めをすると言い始めたのだ。だが緊急時ほど上の指示を聞けず、行動が遅くなると危険度が跳ね上がる。


「アレクさん! 俺も足止めをします! どう見てもあのヒュージラプトルはヤバイ、俺も手伝います!」

「なにを言っている! 俺達はお前達を死なせるわけにはいかないんだ! 早く脱出しろ!」


 守とアレクが話している間に魔物達は一斉に襲い掛かってきた。







 突進して来るヒュージラプトルに対し、騎士と魔術師合わせて十二名が迎撃する。


 このまま突進されると生徒達に被害が出るので、魔術師達が魔法を使う。

 発動した魔法は結界魔法。結界魔法は防御系の魔法であり、属性ごとのダメージを防ぐ各種結界魔法と、物理ダメージを防ぐ結界魔法などがある。今回使われたのは物理ダメージを防ぐ結界魔法だ。


「「「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に迫り来る敵意を防ぐ障壁となれ 〝断壁〟!!」」」


 アレク達の前に六枚の対物理障壁が展開される。トウルが選んだメンバーは魔術師団の中でもトップクラスの精鋭達だ。彼等が全力で張った障壁は、本来ならどんな攻撃もある程度なら耐えられるはずだった。

 しかし、ヒュージラプトルの突進を受け止めると障壁は軋み、数瞬の拮抗の後に易々と突破された。だが一枚だけ耐え、受け止めた障壁があった。トウルの張った障壁だ。さすがは魔術師団長。


 ヒュージラプトルの動きが止まると、騎士達が接近戦を仕掛けて注意を自分達に集める。

 そして、注意が逸れたところでアレクが接近してASを繰り出す。

『カルテットスラッシュ』が発動して、四連続の斬撃がヒュージラプトルに決まる。

 深手という程ではないが、確かなダメージが与えられた。


 怒り狂ったヒュージラプトルはアレクに向かって跳躍して踏み潰しにかかった。







 一方、生徒達は今まで相手にしたことない数の魔物に苦戦を強いられていた。コモンラプトル自体も今まで戦った魔物より強いことが苦戦に拍車をかける。

 あまりの数にビビった生徒達のほとんどが半ばパニック状態だ。


 その中、ハルトのパーティーはきちんと機能してコモンラプトルを倒している。ただ数が多く、他のパーティーのフォローまではできていない。

 パニック状態に成りかけてる生徒達を見て、大河が焦ってハルトに叫んだ。


「不味いぞハルト! みんなパニックに成りかけてる、このままじゃ死ぬやつも出てくるぞ!」

「わかってる! でも俺達も手一杯だ!」


 ハルトもフォローにまわりたいのは山々だが、いかんせん敵が多くて手がまわらない。


 パニックに成りかけてる生徒達はバラバラに敵を相手取って滅茶苦茶に攻撃している。騎士や魔術師達のフォローのお蔭で死人こそまだ出ていないが時間の問題だろう。


 いよいよ、戦線が崩壊しそうになった時、燃え盛る炎がコモンラプトル達を燃え散らした。

 炎の勇者、拓真だ。拓真は自分のパーティーを率いて、一つの魔方陣から涌き出るコモンラプトルを完全に抑え込んだ。


「落ち着け! この程度の敵は俺達の敵じゃねえ! さっさと態勢を整えろ!」


 拓真の声でいくらか落ち着きを取り戻した生徒達はパーティーごとにコモンラプトルに対抗していく。


 ハルトがこれならいけると思った直後、ヒュージラプトルがアレク達を突破した。


「グルァァァーー!!」


 一度は立ち直りかけた生徒達が再び浮き足立つ。しかし、ヒュージラプトルが生徒達に辿り着く前に光の勇者が立ち塞がった。


 守は注意を自分に向けるため、魔法で牽制する。


「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に希望溢れる光をもって闇を打ち払え 〝輝閃〟!」


 守の称号、光帝により威力が底上げされた魔法、光の奔流がヒュージラプトルに直撃した。


「グルァ!!」


 たが多少ダメージが与えた程度で決定打には程遠い。

 ヒュージラプトルが守を噛み砕こうとする。


「くっ」


 横っ飛びで避けるが、アレク達が十二人で抑えきれなかったのに一人で抑えきれるわけがない。守は防戦一方になる。


「なにやってやがる!」


 そこに拓真が参戦する。


「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に紅蓮の刃をもって敵を切り伏せろ 〝焔刃〟!」


 炎帝の称号によって底上げされた炎の刃は鱗を砕き、肉を切り裂いたが、浅い。


「ちっ! 足りねえか」


 二人の攻撃は火力が足りず、徐々に追い詰められていく。アレク達は傷が深く、すぐには動けない。レイラが治療しているがコモンラプトルが邪魔で思うように進まない。


 もうダメかもしれないと誰もがおもった時、諦めの悪い奴が一人、目をギラギラさせていた。


「大河! 達也!」


 ハルトがまだ終わってないとばかりに声を張り上げる。


「俺達もヒュージラプトルに攻撃するぞ!」


 まわりにいた他の生徒達がこいつなに言ってんの? といった顔をしているが大河と達也はハルトのギラついた目を見て、けしてヤケになっているわけではないと理解した。


「よっしゃ、わかった!」

「おう、任せろ!」


 打てば響くな返事をした二人を見つつ、ハルトは戦術を練る。


「最優先目標はこの部屋からの脱出。でもラプトル達が邪魔で脱出は無理。なら……」


 ハルトは自分の考えをまとめると、パーティーメンバーに指示を出した。


「俺達はこれから勇者二人の援護をする。俺と大河と達也はヒュージラプトルの相手をする。ただし目的は足止めだから無理はするなよ」


 大河と達也が頷くのを見て、女子二人に目を向ける。


「流山さんは俺達三人にかけられるだけ支援魔法を、その後は勇者二人にも支援魔法をかけて。そしたら結界魔法で俺達の援護を、攻撃はしなくていい」

「わ、わかった」

「神崎さんはアレクさん達のところで宮野さんの治療が終わるまで護衛を、ついでにアレクさん達への伝言もお願い」

「わかったわ」


 ハルトは深雪に伝言の内容を伝えると、全員を見回して。


「行くぞ!!」






 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







(間に合わない……)


 レイラは治療をしながら、自分の治療が終わる前に戦線が崩れると感じていた。

 いくら称号が治癒師であっても深手を負った十二人を治療するのは時間がかかる。勇者二人も限界が近く、治療が終わるまでもたないのは明白だった。


「レ、レイラ。今すぐ守と拓真を連れて脱出しろ。あの二人ならコモンラプトルを突破できる。ヒュージラプトルは俺が命を懸けて足止めする」


 治療中のアレクが覚悟を決めた目をして、レイラに指示をだした。


「そ、そんな、だめです。置いては行けませんし、その傷じゃ足止めなんて無理です」


 レイラはアレクを止めるが、頭の隅ではそれしか自分達が助かる道はないとわかっていた。


「ここでお前達を死なせるわけにはいかないんだ。急げ!」


 アレクの指示をどうしようか迷っている間にコモンラプトルが一体、治療中のレイラ達を守るため戦っていた凜達の間を抜けて、レイラに襲い掛かってきた。


「レイラ! 危ない!」


(しまった。魔法は間に合わない……)


 治療に集中していたため気づくのが遅れた。凜の叫びも空しく、コモンラプトルの爪がレイラを引き裂こうとした瞬間、コモンラプトルのこめかみに矢が突き刺さった。


「間に合ったわ!」

「神崎さん……。どうしてここに?」


 いきなり現れた深雪にレイラは茫然としている。


「日向くんからの伝言を伝えに来たわ」

「えっ」

「アレクさんに」

「……」


 一瞬、こんな状況で何を伝えるだろうとドキドキしたレイラだったが勘違いも甚だしかった。


「これから俺達がヒュージラプトルの足止めをするから、アレクさん達は生徒達の指揮をとって欲しい、だそうです」

「えっ、うそ!?」


 レイラかヒュージラプトルの方を見ると、確かにハルト達が足止めをしていた。


「無理だよ、神崎さん! アレクさん達でも無理だったんだよ!?」

「でもこれしか全員が助かる方法はないわ。パニックを起こしている生徒達を正気に戻せるのはアレクさんだけだし」

「で、でも……」

「アレクさん、よろしいですか?」


 深雪はレイラを無視してアレクに問いかける。ここで躓いたら全てがパァなのだ、知らず知らず拳を握りしめる。


「……わかった。ヒュージラプトルはハルト達に任せる。他には指示はあったか?」


 一瞬、ハルトの方を見た後、アレクはハルトの提案に乗ることにした。


「治療中の護衛をしている守のパーティーは治療が終わったらヒュージラプトルにまわしてくれと」

「わかった。ハルトの指示通りに動こう」


 深雪はアレクの了承を得ると、すぐにハルト達にアイコンタクトを送った。そして、まだ暗い顔をしているレイラに発破をかける。


「あなたの治療速度が戦況を左右するのよ、日向くんが心配なら一秒でも速く治療を終えなさい」

「……ありがとう、神崎さん。私、頑張るよ!」


 レイラは少しでも速く治療を終わらせるため、今までで一番集中して魔法を使い始めた。







 その頃ハルトは人生で一番死を身近に感じていた。

 勇者二人は支援魔法をかけてもらうために一旦下がっているので、ハルト達三人だけでヒュージラプトルと戦っている。足止めだけでも勇者二人で押されていたのだから命懸けだ。


 三人は生体魔法の〝豪刻ごうこく〟〝尢閃ゆうせん〟〝天冑てんちゅう〟をかけてから戦っている。生体魔法は魔力で自分の身体を強化する魔法で、今回使った魔法は左から腕力強化、脚力強化、身体能力強化の魔法である。〝天冑〟は他の二つと比べると効果が低いが体全体を強化できる。


 そこに更に支援魔法の〝攻援〟〝速援〟〝防援〟をかけてもらっている。効果は文字通りであり、これだけ強化してやっと足止めをしている状況だ。


「うおおおおーー!!」


 大河が盾でヒュージラプトルの爪を受け止める。称号が鉄壁である大河ですら受け止めきれずに後ろに下がる。


 その隙にハルトが牽制の魔法を放つがあまり効果はない。


「おい、ハルトどうするよ!? 長くはもたねえぞ!」

「わかってる、でも勇者が来るまでは耐えるしかない!」


 チラリと勇者達の方を見るが、まだのようだ。


「ぐわぁっ!」


 達也がヒュージラプトルの尻尾に弾き飛ばされる。もう一度尻尾を振ってハルトも弾き飛ばそうとするが、ハルトはしゃがんでかわす。


「温存してる場合じゃないな……。くらえっ!」


 ハルトは間近にあるヒュージラプトルの顔面目掛けて魔法を発動させる。詠唱無しのノータイムで。

 発動した雷魔法〝雷渦〟がヒュージラプトルの顔面を雷の渦で焼いた。


「グゥギャァァァーー!!」


 顔面を焼かれたのは流石に効いたのかヒュージラプトルは滅茶苦茶に暴れまわる。

 たった今参戦しようとしていた守と拓真は唖然としている。


「……おい、今あいつ詠唱してたか?」

「いや、してない。魔方陣が構築されてから魔法の発動もほぼタイムラグが無かった……」


 二人が何が起きたかわからないでいる中、ハルトはバックステップで距離をとると右肩を見た。

 ハルトが使った魔法は刻印魔法。ハルトはダンジョンの攻略に備えて全身の装備品に刻印魔法を刻んでいた。今回は右の肩当てに刻んでおいた〝雷渦〟を発動した。


(まっ、俺の魔法じゃ威力が足りないけどな)


「おい、勇者二人! 俺じゃ火力が足りないんだ、早く手伝ってくれ!」


 守と拓真はハルトの声を受けて、とりあえず疑問は棚上げすることにしたようだ。


「どうするつもりだ? 普通にやってもあいつは止められねえぞ?」


 近くに寄ってきた拓真がハルトに声をかける。


「アレクさん達の治療が終わり次第、パニクってる生徒達をアレクさん達に率いてもらって突破してもらう。俺達は時間稼ぎをすればいい」

「だが……」


 ハルトの言葉を聞いて、守は苦い顔をする。無理だと思っているのだろう。


「作戦はある。俺と大河と達也があいつの注意を引き付けるから、二人には攻撃に集中してもらう。攻撃力が一番高いのは二人だからね。攻撃に専念できればもっと効果的な攻撃ができるんでしょ?」

「確かに攻撃に専念できればもっと効果的な攻撃ができるが。君達だけでは……」

「大丈夫だよ。引き付けるだけならなんとかなるし、もうすぐ治療が終わる。治療が終わればアレクさん達の護衛をしている人達がこっちの援護に来てくれる」

「それならやれるかもしれねえな!」


 ハルトの作戦に守はまだ難しい顔をしているが、拓真は乗ったようだ。


「援護が到着したら合図を出すからリミットブレイクして全力の攻撃をしてほしい」

「……わかった」

「任せとけ!」


 二人の了承を得たハルトはヒュージラプトル目掛けて走りだした。






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