器用貧乏と罠
その後、十層の攻略も順調に進み女子達も虫系の魔物にも慣れた頃十一層に続く階段が見つかった。
「やっと虫ゾーンが終わる…」
ハルトは頭をさすりながら十一層へと繋がる階段を見つめる。
なぜ頭をさすっているのかというと、さっきの鬼ごっこの後にアレクにゲンコツをもらったからだ。ダンジョンでふざけてんじゃねえ! だそうだ。
今まで短い休憩は挟んでいたが、十一層に降りる階段のある部屋が広いので長めの休憩をすることになった。
騎士や魔術師の人達が辺りを警戒してくれているので安心だ。
部屋の中心の辺りに腰を下ろした生徒は思い思いに休憩を始め、ハルト達のパーティーは一塊になって昼食をとることにした。
昼食のメニューはサンドイッチ。ストレージに入れて持ってきたのだが、ストレージの中の物は劣化しないので出来立てホヤホヤのままである。
サンドイッチの具が何の肉だか何の卵だかわからなかったが美味しかった。
「ここまでは順調だったな、大きな怪我もなかったし」
昼食を食べ終え、ハルトが呟いた。
「そうだな」
「余裕だぜ」
「「……」」
大河と達也は返事をしたが女子二人は無言だった。てか若干怯えている。
怯えている二人を見て、ハルトは慌てて弁明する。
「いや、もう怒ってないから。さっきは悪かったって」
「「……」」
「ほんと、ごめんなさい」
女子二人はしばらく無言だったが、ハルトが謝ったのを見てもう怒ってないと思ったのか表情が柔らかくなった。
「元はと言えば私達が悪いかな、だから気にしないで」
「そうよ、本当にごめんなさい」
菜奈と深雪がやっと口をきいてくれたのでハルトもほっとした。
「俺ももう気にしてないから」
そしてハルト達はパーティーからぎくしゃくした感じが無くなったので今までの戦闘の反省会を始めた。
ハルト達が仲直りしたところを見ていたレイラと凜と唯は安心したようでお喋りを再開した。けっこう気にかけていたらしい。
「日向くん達、仲直りしたみたいだねー」
「そうね、ちょっと心配だったから安心したわ」
「でも流山さんと神崎さんの気持ちもわかります。あのムカデ気持ち悪かったですから」
「「確かに」」
唯はレイラと凜とはパーティーが違うが休憩時間を利用して話に来ていた。
唯の称号は槍術師で、錬也がパワータイプの槍使いであるのに対し、唯はスピードタイプの槍使いである。
唯は遥子と同じパーティーであり、パーティーメンバーは全員女子だったりする。単純に得意分野の関係でそうなっただけなのだが。
「それで、唯のパーティーはどうなの? 順調?」
「はい、順調ですよ。遥子先生がリーダーとして引っ張ってくださいますし」
「あー、遥子先生にはびっくりだよね!」
何気なく凜がした質問に答えた唯の回答にレイラが食いついた。
「まあ、確かにね」
「あれには驚きました」
何をそんなに驚いているのかというと。遥子は初め、武器を持つことに抵抗があったのだが、いざ武器を持って戦ってみると結構強かったのである。今では積極的に訓練に取り組み、生徒達全体の中で実力上位の生徒と互角の実力を持っている。
ちなみに称号は鞭術師で鞭のスキルに補正がかかる称号である。普段は優しいが身長が高めでスタイルもいいため、鞭を振るう姿がとても似合ってしまい、男子たちには大人気である。一部の者には遥子女王様と裏で呼ばれており、遥子本人は気にしている。
「私がなんですか?」
訂正、すごく気にしている。
自分の名前が話題に出たのに気づいた遥子がお喋りに参戦してきた。
「あれっ!? 遥子先生いつの間に来たんですか?」
レイラが突然参戦してきた遥子に驚いていると、遥子はさらに食い気味に質問してきた。
「ちょうど今、白井さんを呼びに来たのてすよ。で、私がなんですか?」
遥子は笑顔で聞いてくるが、その笑顔が怖い。
「いや、そのっ。唯にパーティーはどうかと聞いたら遥子先生がリーダーとして引っ張ってくれるから順調だという話をしてました」
とっさに凜が答えた。
「本当ですか? 怪しいですね」
遥子にじーーと見られて、三人はサッと目を逸らす。
「ちょっと! なんで目を逸らすのよ!」
しばらくの間、当初の目的を忘れた遥子の追及が続いた。実は我を忘れるくらい、遥子は気にしていた。
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休憩時間も終わりに近づいた頃、ハルトは自分のステータスを確認していた。
ピコン!
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日向 悠斗 17才 ヒューマン 男 LV13
STR:180
AGI:180
VIT:170
MP:600
SP:600
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この間の森での戦闘でLV10に上がり、今日の戦闘でLV13に上がった。ステータスは表示する項目を設定でき、能力値のみの表示も可能である。
ちなみに守はLV23で、LV20になった時に新しく『リミットブレイク』というアビリティを習得した。能力は発動させると一定時間、能力値が三倍になるというもので、ますます主人公らしさに磨きがかかっている。
守と比べると影が薄いもう一人の勇者である拓真も守と同等の戦闘能力を持ち、『リミットブレイク』も習得している。
ハルトの能力は相変わらず中の中である。
次にハルトはスキルリストを開いた。
ピコン!
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スキル
武器系統
片手剣163・両手剣114・短剣82・細剣0・刀0・槍52・片手斧108・両手斧0・戦槌0・戦棍0・鞭0・鎌0・爪0・杖0・投擲0・弓0・盾101
防具系統
金属防具98・革防具51・布防具60
魔法系統
火魔法33・水魔法29・風魔法30・土魔法28・雷魔法96・光魔法31・闇魔法25・回復魔法41・支援魔法39・生体魔法48・結界魔法38・振動魔法27・刻印魔法45
耐性系統
火耐性0・水耐性0・風耐性0・土耐性0・雷耐性0・光耐性0・闇耐性0・状態異常耐性0・打撃耐性36・斬撃耐性32
身体技能系統
体術36・剛力54・縮地60・金剛53・筋力51・速力58・耐力50・鑑定59・索敵36・隠蔽21・採取0・所持容量拡張24・武器防御28・魔力消費量軽減35・魔力総量増加32・魂力消費量軽減21・魂力総量増加19
生産系統
鍛冶0・調合0・料理0・木工0・裁縫0・釣り0
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順調に熟練度は増えているが、やはり他の生徒と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
生産職の生徒すらなにかしらに特化したステータスを持っているのでハルトのフツーのステータスは地味なのである。
初日にエクトプラズマを口から出していた副担任の小池は生産職の筆頭で、称号は錬金術師である。熟練度の低い状態ですら王国にいる他の錬金術師を圧倒する能力を持つ。そもそも錬金術のスキルを得る条件が難しく成り手が少ないため、あちこちから引っ張りだこで地球にいた頃より生き生きしている。
ハルトはスキルModをたくさん取得している。片手剣では[片手剣ASの威力上昇]、[片手剣ASのクーリングタイム短縮]、[STR上昇]。両手剣では[両手剣ASの威力上昇]、[STR上昇]。短剣では[AGI上昇]。槍では[AGI上昇]。片手斧では[STR上昇]、[AGI上昇]。盾では[VIT上昇]、[物理防御上昇]。こんなに取得してやっと中の中だ。ハルトは自分の限界を感じていた。
そして、休憩時間が終わり、攻略が再開された。
十一層から下の階層も特に問題無く攻略は進み、十五層まで到達した。
「十五層からはマッピングされていない場所もあり、十七層からは誰も到達していない未踏破層だ。十分に注意するように。では行くぞ!」
アレクからの注意を受け、騎士や魔術師達はよりいっそう注意深く進んでいるが、生徒達は今までなまじ余裕だったためどこか気が抜けていた。
生徒達はパーティーごとに距離を空けて進み、騎士と魔術師が数人ずつ同行している。
しばらく進んだ後、達也が不思議そうに呟いた。
「なあ、ハルト。なんで未踏破層なのに三十層まであるってわかるんだ?」
ハルトはため息を吐いてから答える。
「あのな、座学で習ったろ。ダンジョンが発見されたら、まず探査専用の特別な魔法を使用できるか、専用の魔法道具を持った冒険者ギルドの職員が何層あるか調べるって」
「そうだった、そうだった。冒険者ギルドってあれだろ、異世界ファンタジーでお馴染みのやつ」
「まあお馴染みやつだけどさ。お前、今の聞かれてたらアレクさんにぶん殴られるぞ」
幸いにも達也のアホな発言はアレクの耳には届かなかったらしく、殴られることなく攻略は進んで未踏破層の十七層に到達した。
「ここが十七層か。特に他の層と変わらないな」
「でもこのダンジョンって出来てからけっこう経ってんだろ? なんで攻略が進んでないんだ?」
大河と達也がまわりを見回しながら言うとパーティーに同行していた騎士が答えてくれた。
「このダンジョンは確かに出来てから時間が経っておりますが、攻略が始まってしばらく経った頃にテーリノートに原因不明の流行り病が蔓延しまして、一時期町が閉鎖されていたのです。最近になって閉鎖が解かれたので攻略が再開されたので、攻略が進んでいないのです」
二人がへーと納得しているとアレクの声が聞こえた。
「これから斥候の騎士を先頭にして進む、全員気を引き締めるように」
ここからは万全を期すため、斥候を先行させるらしい。
そんな中、達也は大して気にせず辺りをキョロキョロしている。
「なにキョロキョロしてんだ?」
「いや、未踏破層なら宝箱がたくさん見つかるかと思ってよ」
ハルトが気になって声をかけると、達也は子供のようなキラキラした瞳で今回のダンジョン攻略の主旨をぶち壊すようなことを言った。
「あのな、宝箱はランダムで配置されるし、一日ごとに場所も変わるんだから未踏破層とか関係ないから」
ハルトが言って聞かせるが達也は聞いちゃいない。
「よっしゃ、宝箱見つけてやるぜ!」
ハルトは大河とアイコンタクトしながら、達也が暴走しないように二人で気をつけることにした。
そんなハルト達のパーティーを睨みつけている奴がいた。小林だ。
小林はハルトがダンジョンでへまをすると思っていて、今か今かと待ちわびていたのだが、いざ攻略が始まってみればハルトのパーティーに大きなミスはなく、むしろ他のパーティーの方がよっぽどミスがあった。
小林のパーティーも連携が上手くいかずに同行していた騎士達に怒られていた。ハルトのパーティーはムカデの件くらいしか怒られていないのだが、小林から見ればなに女子とイチャついてんだこら! といった心境だ。別にイチャついていないのだが。
なので小林は非情に面白くなかった。ハルトがへまをしていないのはパーティーメンバーの大河と達也が優秀なだけだと思っている。実際はきちんとハルトが指示を出しているからで、騎士や魔術師の人達もそれは認めていて、ハルトの評価は大分改善されている。
それに気がつかない小林はどうしてもハルトのパーティーよりも自分達の方が上だと証明したかった。結果が欲しかった。
だから達也が宝箱を見つけるという発言に対抗意識を燃やして、躍起になって宝箱を探し始めた。
その後、宝箱は見つからず時間だけが過ぎていった。小林はかなり焦れていたが大きな問題は無かった、今までは。
二十層に到達してしばらく経った頃、小林のパーティーの一人が放った魔法が標的から外れてダンジョンの壁に当たった。
ただそれだけなら今まででも散々あったことだが、今回は違った。壁が崩れて隠し部屋が見つかったのだ。部屋の中には宝箱があり、他には何も無かった。
小林は宝箱を見ると一も二も無く駆け出した。
アレクが制止の声をあげたが小林の耳には届かない。小林の頭の中は、これで俺達がハルトのパーティーより上だ、あいつより俺の方が優秀なんだ、という考えでいっぱいだった。
そして、小林が宝箱を開けると辺りに魔方陣が広がった。
「トラップだ! 全員退避ー!」
アレクが声を張り上げるが間に合わない。ハルト達の視界が白く染まった。




