器用貧乏とダンジョン
ストック無くなりました。
てかメインヒロインまだ出てない…
春休みの間に出せるかな…
ジェイクにボッコボコにされた後は結構大変だった。大河やレイラ達がやって来て、ケガは治ったけど服装がボッロボロのハルトはソッコーで捕まり事情聴取となった。
正直に言って騒がれるのも面倒だなと思ったハルトは実戦的な訓練をしていたと嘘を言っておいたが、レイラは納得したようだが大河には嘘だと気づかれたみたいだ。
その後は特に大きな事件もなくハルトが絡まれることも無かった。ハルトは無事に槍スキルの熟練度が50に達し、切り札も試行錯誤の末に用意できた。
そしてダンジョン攻略の日を迎えた。
ハルト達はダンジョンの最寄りの町を訪れていた。
町の名前はテーリノートといってダンジョンの収益で成り立つ迷宮都市だ。
ダンジョンはなんの前触れも法則性もなく突如出現し、魔物が大量に生息しているのが特徴で迷宮とも呼ばれている。内部の広さや構造もまちまちで共通しているのは最奥部にボスがいるということ。このボスを倒すと攻略が認められて何かしらの恩恵が受けられる。
他にもトレジャーボックス、俗に宝箱と呼ばれている、なぜかランダムでダンジョン内に配置されて一日毎に場所と中身が変わる不思議箱がある。ちなみに中身を取っても一定期間が経つとまた配置される。
ダンジョンは最奥部のボスを倒しても消滅したりせず、一定期間が経つとボスが復活する。つまり半永久的に資源が得られる素敵スポットである。
もしこれが地球ならダンジョンの資源をめぐって戦争が起きそうなものだが、幸いにもこの世界には大小合わせてけっこうな数のダンジョンがあり、そもそも攻略が完了したダンジョン自体が少ないのでダンジョンが原因で戦争にはいたっていない。
王都からテーリノートまで馬車で一日ほどかかり、お尻を痛めつつ到着したハルト達は早めに就寝して、翌日遅めの朝食を食べた後でダンジョンに挑戦するという流れになった。
ダンジョンは町から五キロの位置にあり、現在ハルト達はダンジョンに向かって徒歩で移動中だ。
「日向くん! なんか緊張してきたね!」
ハルトの隣を歩いていたレイラがあまり緊張していない様子で話し出す。レイラの格好は白を基調とした神官のような格好で法衣に近い服を着て、杖を持っている。レイラの金髪と法衣は相性抜群でファンタジー系のヒロインのようだ。
「そうだね、少し怖いかな」
ハルトは平気そうな顔をしつつも内心ビビりまくりながら答える。ハルトの格好はレイラと違いモブ感に溢れている。騎士と同じブレストプレートを装備して、他は必要最低限のところだけ金属防具を装備している。ぶっちゃけ見た目はちょっと身軽な兵士Aである。
「大丈夫だよ、何かあったら私が日向くんを守るから!」
レイラがニコニコしながら爆弾を落としてくる。
ハルトは苦笑いしつつ、最近のなろうとかだとそれフラグじゃね?とか考える。
「あ、ありがとう」
まあモブの俺には関係無いよねとハルトは深く考えないことにした。
まわりからは視線だけで人を殺せそうな視線が殺到しているが。
ハルト達がテクテク歩いている町からダンジョンまでの道は粗いが舗装はされている。現代人からすれば歩きづらいが発展途上国と大差ないので若いハルト達には大して気にならない。
そんな道の先から冒険者らしきパーティーが歩いて来る。ダンジョンへと続く道なのだから別に珍しくも無いだろう。騎士達は気にも止めないがハルト達は驚愕した。
なぜなら、そのパーティーにはぼろ布を着て首輪を着けた、まるで奴隷のような者がいたからだ。いやハルトやある程度ファンタジーをかじった者にはピンときた。あれはようなではなく本物の奴隷だと。
パーティーが通りすぎた後、恐る恐るといった感じで遥子先生が口を開く。
「さ、先ほどの首輪を着けたかたは何ですか?」
「奴隷ですよ。借金を返せずに身を売った者や犯罪者が奴隷に落ちます」
「そ、そうですか」
地球では廃れた奴隷という立場に遥子先生や一部の生徒が動揺するなか守が食ってかかる。
「なぜ奴隷なんて酷いことをするですか!? 可哀想じゃないですか!」
「奴隷は必要なものだ。みんな奴隷になりたくないからちゃんと借金を返すし、犯罪も起こさない。奴隷という罰が無ければ誰も法を守りたがらないからな」
「だからって、奴隷なんて…」
アレクの説明はこの世界において正しいのだろうが守は納得がいっていないようだ。
しかし、そうこうしている間にダンジョンの入り口に到着した。
ダンジョンの名前はカリルカといって、三十階層からなるダンジョンである。
「これから、ダンジョンの攻略を開始する! 低層は既にマッピング済みだが目標は未踏覇層のマッピングだ。油断したら命取りだ、集中しろよ! それでは出発!」
アレクの号令でダンジョン攻略が開始された。
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ダンジョンで出会いがあればなあとそう思っていた時期がハルトにもありました。
「「「いやっーー!!」」」
女子生徒の悲鳴が迷宮内に木霊する。
「キシッ」
現在十階層まで攻略が進んでおり、十階層で最初にエンカウントしたのがこの巨大ムカデの魔物。
全長約十メートルのムカデはカサカサ、ウゾウゾしていて気持ち悪い。九層までは動物型やゴブリン、コボルトばかりだったので気持ち悪さも倍増だ。
巨大なムカデの魔物、正式名ジャイアントセンチピードはなぜかハルトをロックオンしておりキシ、キシ言いながら襲い掛かってきた。
普通のムカデですら気持ち悪いのに十メートルのムカデが襲い掛かってくる様子はSAN値が下がるなかハルトは思った。
結論、ダンジョンに出会いを求めてはいけない。
現実は金髪美少女剣士どころかミノタウロスにすら出会えず、出会えたのは巨大ムカデである。
ハルトが現実逃避している間に巨大ムカデが五メートル先まで接近してきた。
気持ち悪くてしょうがないが、死にたくないのでハルトは剣を構えて迎え撃つ。
「よし、ジャイアントセンチピードはハルトのパーティーで相手をしろ!」
「ええっ!?」
様子を窺っていたアレクがハルト達に指示を出すが、凄く嫌そうだ。しょうがない、だってキモいんだもん。
「ちっ、しょうがない。俺も前衛に上がるから流山さんと神崎さんは援護をよろしく!」
腹を括ったハルトが女子二人に指示を出すが返事が無い。
不思議に思ったハルトが振り返ると、二人はそっぽ向いていた。あまりの見た目に戦意消失したらしい。しょうがない、だってキモいんだもん。
「あの、ちょっとお二人さん? 援護して欲しいんですけど」
「「……」」
どうやら、二人はハルトを見捨てることにしたようだ。しょうがない、だってキモ…
おい、ちょっと待て! しょうがなくねえよ、見捨てんなよ仲間だろ! と内心は荒れているハルトだが目と鼻の先まで巨大ムカデが迫って来たので諦めた。
「大河、達也! 三人でやるぞ!」
「「お、おう」」
ヤケクソ気味にハルトが叫ぶと、大河と達也は可哀想なものを見るような目でハルトを見た。
「キシャー!」
突進してきたムカデを大河が盾で受け止めた。だが鉄壁の称号は伊達ではないらしく、受け止めた位置からまったく動いていない。
その隙にハルトと達也が左右に展開する。そして、ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。
二人の剣が薄く白色に発光する。二人が繰り出したのは片手剣AS『ホリゾンタルスラッシュ』
二人の斬撃を受けて、ムカデは緑色の体液を吹き出した。脚も何本か切断されている。
二人は同じASを使ったが、明らかに達也の攻撃の方が威力が高かった。いくらステータスに差があるとしてもおかしな程に。
それは達也の称号が原因だ。達也の武器は大剣であり両手剣に分類されていて普通は片手剣のASは使えない。そもそも普通は身の丈程もある大剣を片手で持てないし。
だが達也の称号である怪力は二つの効果があり、一つ目はSTRの大幅な強化。これにより単純な膂力によって片手で大剣を持てるので、片手剣のように使用できるのだ。二つ目は単発のASの威力上昇。そのためさっきの攻撃がバカみたいに威力が高かった訳だ。
ようはただの脳筋ということだ。
達也の攻撃で手痛いダメージをもらったらしいムカデは迂闊にも達也だけに意識を集中してしまった。その結果は。
「うおお!!」
大河の赤く発光したメイスがムカデのくせに硬そうに発達した頭の外殻を叩き割った。
大河の発動した『シングルバッシュ』によって深刻なダメージを負ったムカデは絶叫をあげる。
「ギィシャー!!」
一旦距離をとった三人は突っ込みASを発動させる。色とりどりの光の軌跡が描かれた後、巨大ムカデは光の粒子になって消えた。
「見た目をアレだったけどよ、大したことなかったな」
戦闘終了後、達也が拍子抜けしたように言った。
「いやいや、お前と大河のコンビがハマりすぎなんだよ」
「そんな褒めんなよ、照れるじゃねえか!」
「痛い! 叩くな!」
ハルトの言葉で照れた達也がハルトの背中をバシバシ叩いていると、ハルトを見捨てた女子二人がやって来た。
「お疲れさま~」
「無事でよかったわ」
ハルトは声をかけてきた二人を一瞬ジロッと睨むと、すぐに笑顔になった。
「今さらやって来た二人もお疲れさま!」
「えっと、そのっ」
「……」
ハルトに笑顔でイヤミを言われた二人は無意識のうちに後ずさった。なぜかハルトの笑顔に恐怖を感じたからだ。
「そんな二人にはあのムカデのドロップアイテムのジャイアントセンチピードの脚をあげよう!」
ハルトはストレージからムカデの脚を取り出すと、爽やかな笑顔で二人に迫った。
「「い、いやー!!」」
二人は脱兎の如く逃げ出した。
「待てよこら、逃がさねえぞ!」
脚を持ったまま追いかけるハルト。
結局二人が壁際に追い詰められて半泣きで謝るまで追いかけっこは続いた。




