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器用貧乏の初戦闘

 



 ハルトが特訓を始めて一週間が経過した。

 特訓の甲斐あって片手斧と盾の熟練度が100を超えた。


 通常の訓練ではバスタードソードを使い、自主練では他の武器を使うハルトはさんざん奇異の視線を浴びせられ、なかには直接侮蔑の言葉を吐いた奴もいたが、わざわざ手札を明かす気は無かったので無視した。

 流石にアレクに心配されて個人面接された時は正直に話したが。まあ、内容は秘密にして貰ったけど。




 異世界に召喚されて三週間、今日は遂に魔物との戦闘を行う。

 今までは命の危険の無い訓練だけだったが、今度はいくら弱い魔物と戦うといっても絶対は無い。

 だが、生徒達に悲観的な表情は無く、決意に満ちた表情をしていた。


「あと一時間で出発だな。どうする、ハルト?」

「うーん、今さらジタバタしても仕方ないしゆっくりしようぜ」

「お、わかってんなハルト、賛成だぜ」


 ハルトと大河と達也は非常にリラックスしていた。他の生徒達が引き締まった表情をしているなか、三人は緩みきったアホ面を晒していた。


「三人共余裕だよね、なんでなのかな?」


 不思議そうな顔で聞いてきたのは今回の訓練でのパーティーメンバーの流山ながれやま 菜奈なな。称号が結界術師のほんわかメガネっ子だ。


「別に余裕なわけじゃないけど、変に緊張してもしょうがないしな」

「そんなものかしら?」


 はてな? と首をかしげているのは神崎かんざき 深雪みゆき。称号が弓術師のスナイパーだ。ちなみに高校では弓道部に所属していた。


 この五人が今回のパーティーメンバーであり、リーダーはハルトだったりする。

 大河と達也から推薦されて、菜奈と深雪からも特に反対されなかったので、そのままなし崩し的にリーダーになってしまった。


「まあ、ちゃんとフォーメーションも考えたし、やれることはやったし、休めるうちに休んどこうよ」

「そうね、リーダーがそう言うならそうするわ」


 ハルト達の会話を聞いて緊張がほぐれたのか、他の生徒達もおしゃべりを始めた。


「流石ね、日向くん」

「へ? 何が?」

「みんな良い感じに力が抜けてリラックスできてるわ。あなた達の会話を聞いてたからよ」

「別に狙ってやってないよ」


 凜達も緊張が解けたようで、ハルト達のところにやって来た。


「日向くん、パーティーは別々だけどお互い頑張ろうね!!」

「そうだね、宮野さんも頑張ってね」

「ケッ! 精々怪我しないようにコソコソ逃げ回るんだな」


 暴言と共に睨み付けてきたのは、目付きの鋭い少年だった。

 彼の名前は剣崎けんざき 錬也れんやと言って、レイラ達と同じパーティーのメンバーだ。名前に剣とつくが槍使いだ。

 そこにさらに大柄で両手斧を装備した武田たけだ 猛男たけおを加えた五人がレイラ達のパーティーだ。


「そうだぜ、弱えーくせにリーダーとかバカじゃねーの? パーティーメンバーが死んじまうぜ!!」


 ここぞとばかりに小林が便乗してくる。さらに小林の回りにいるハルトを目の敵にしている奴等からも暴言が飛び交う。


 余りの態度に達也がキレかけ、それを大河が抑えたり、凜が暴言を止めようとして剣崎と口論になったところで騎士団の人達が来たので一応騒ぎは収まった。ただし、小林達の目には暗いものが宿っていた。









「それでは、これより魔物の討伐に向かう。初めての実戦だからな油断するなよ、実戦は何が起きるかわからないからな!!」


 アレクの一言によって、全員の表情が引き締まった。いよいよ、魔物との戦闘が始まる。


 ハルト達が向かった森は王都からほど近いところにある森で、危険度はさほど高くない。騎士団を先頭に森に入って行く。

 生徒達が緊張のため、少々動きが硬かったがしばらくしたら硬さもとれた。


 そして、遂に魔物と接敵した。


「ガルルッ!!」


 こちらを威嚇しているのはダークウルフと言って、この世界では割とポピュラーなウルフ系の魔物で、簡単に言えばただの黒い狼である。特に特殊能力も無い。


 ダークウルフの数は五匹、他に魔物はいないようだ。


「よし、守のパーティーで相手をしろ!! 他のパーティーは手を出すなよ」


 守達が前に出て構える。

 ダークウルフは一度吠えると、一斉に襲いかかった。


 日本ではありえない敵意を持った化け物との戦い、しかし異世界チート軍団は伊達ではない。素早く体勢を整えて迎え撃つ。


 守はクラウ・ソラスを振るい、一撃で斬り伏せる。

 他のメンバーも一撃だ。


「大したこと無いな、楽勝だ」


 剣崎が格好つけるが、アレクが怒鳴った。


「油断するな!! まだ終わってないぞ!!」


 剣崎が振り返ると、森の奥からダークウルフが集まって来ていた。その中にひときわ大きい個体がいた。


「あの一番大きい奴がリーダーか。あいつは俺がやる!! みんなはまわりの奴等を頼む」


 守が指示を出し、慌てずに迎え撃つ。


 凜が反りのある長刀を操り、次々とダークウルフを倒していく。凜の称号は刀術師であり、剣道二段の腕前を遺憾なく発揮していた。その動きはまるで舞い踊っているかのようで非常に美しかった。


 剣崎は槍を突きだし、ダークウルフを串刺しにしていく。称号が槍術師であり槍さばきは力強く、大口を叩くだけはあった。


 猛男は斧を振り回し、ダークウルフを吹き飛ばしていく。二メートル越えのムキムキの体は斧術師の称号要らないじゃないかと思えるように軽々しく吹っ飛ばしていく、さすがラグビー部、ゴツい。


 前衛が敵を足止めしている間に、レイラが魔法を唱える。


ことわりを越えし力よ、我が内なる魔力を糧に燃え盛る炎の槍で敵を穿て!!」

「炎槍!!」


 ダークウルフに向けた掌の先の空中に炎の槍が生まれ、ダークウルフに向かって飛び、貫いた。一撃で致命傷だった。


 守は凜達がまわりの奴等と戦っている間にリーダーとの距離を詰めていた。


「ハァッ!!」


 そして剣を横に一閃。

 しかしダークウルフは後ろに飛んで避ける。だが守は関係無いというかのように縮地を発動して接近する。


 身体技能系統スキルの中にはSPを消費しないで発動することができるスキルがあり、大体は直接的な攻撃能力の無いものである。鑑定スキルなどがそれにあたり、縮地スキルは移動系のスキルで発動すると文字の如く一瞬で移動することができるが、熟練度が低いと技後硬直するわ、移動距離が短いわ、移動速度が遅いわで弱点はあるので熟練度を上げるのは必要だ。


 ダークウルフに接近した守は即座にASを発動した。

 片手剣AS『デュアルスラッシュ』

 縱、横と高速で放たれた青白い光を纏った斬撃が十字架のように交わった。


 ズルッ


 一瞬の後、ダークウルフの体が四つに別れた。


 はっきり言って圧倒的だった。オーバーキルにも程があった。

 守達が喜んでいると、アレクが次の指示を出した。


「次は拓真のパーティーに戦ってもらう。どんどん回していくからそのつもりでな。守達が余裕だったからと油断するなよ!!」


 ハルト達は次の獲物を探して移動を始めた。





 全てのパーティーが一回ずつ戦闘をこなした後、パーティーごとに活動することになった。引率の騎士と一緒に各パーティーが思い思いの方向に移動を始めた。



 ハルトのパーティーは比較的開けた場所を移動している。

 一回目の戦闘はダークウルフだったが二匹しかいなかったので前衛だけで終わってしまったので、まだ全員が戦闘を経験したとは言えなかった。


「ハルト、これからどうすんだ?」


 先程、一撃でダークウルフを仕留めた達也がのほほんとした顔で聞いてくる。


「うーん、とりあえずは全員に戦闘を経験させたいから、次の戦闘は前衛がわざと魔物を突破させて後衛にも戦闘させようか」


「そうだな、俺と達也が本気で戦ったら後衛に魔物がまわらないもんな」


 大河達も異論はないようだ。


 ちなみにハルトのパーティーのフォーメーションは前衛に大河と達也。中衛にハルトと菜奈。後衛に深雪だ。バランスの良いパーティーだが、いかんせんオーバーキルなので調節しないとパーティーで連携を取らなくても勝ててしまうのだ。


「おっ!! いたな。あれはゴブリンかな?」


 ハルト達の200メートル先辺りにゴブリンの群れを見つけた。

 この世界のゴブリンはファンタジー系の漫画に出てくるようなボロい布は巻いた、汚い小さいデブな奴である。強さはダークウルフより少し強いくらいだ。


「フォーメーションを維持したまま近付こう」


 ハルトの指示に大河達が頷く。


 距離が残り50メートルくらいでゴブリン達に気づかれた。


「グギャ!!」


 ゴブリン達がハルト達にワラワラと向かって来た。ただし連携もクソもなくバラバラにだが。


「まずは神崎さんが弓で狙撃、その間に大河と達也が接近する。大河と達也は適度にゴブリンを突破させてくれ。俺と流山さんは中衛の位置で迎撃する」

「「「「了解!!」」」」


 早速深雪が矢を放った。

 ヒュン!!

 放たれた矢は吸い込まれるように一匹のゴブリンの眉間に突き刺さった。


 ゴブリン達は倒れた仲間には目もくれずにハルト達に突っ込んで来る。

 そこに前衛の二人が立ち塞がる。


「グギャギャ!!」


 先頭のゴブリンが大河に棍棒を振り下ろす。

 大河は盾で受け止めるが、粗末な木の棍棒はそれだけで砕けた。

 お返しとばかりに戦棍を振るうと、ゴブリンは吹き飛んで動かなくなった。


「あ、あれ!? うーん、訓練になんないな」


 手加減しても一撃なので、なんとも言えない顔をしている。


「うおりゃっ!!」


 達也の一撃を受けたゴブリンは木っ端微塵になった。


「おいおい、手加減してこれかよ」


 達也もつまらなそうな顔をしている。


 一方で中衛の二人は初戦闘なので緊張していた。


「うえー、緊張してきたよー。日向くんは緊張してないのかな?」

「緊張してるよ、でも大河と達也が余裕だったみたいだから大丈夫だよ」

「うん、そうだよね!!」

「来たよ!!」


 二人にゴブリン三匹が近づいて来た。

 ハルトは迎え撃つために前に出た。右手にノワールを持ち、体を前傾させる。


 ゴブリンは真っ正面から突っ込んで来たので、ハルトは縮地を発動させ真横から強襲する。ゴブリンは真横からの攻撃に反応できずにあっさりと二匹が倒された。


「理を越えし力よ、我が魔力を糧に鋭き水の刃をもって敵を切り裂け!!」

「水刃!!」


 菜奈はあっという間に詠唱を完了させ、魔法を放つ。ウォーターカッターのような圧縮された水の刃がゴブリンを切り裂いた。


「ふう、余裕だったな」

「そうだね」

「余裕過ぎるのも問題じゃない?」

「あ、深雪ちゃん。お疲れ様!」

「ありがとう。でも私は一本しか矢を射ってないのよ」

「まあ、しょうがないよな。俺達レベルは駆け出し冒険者だけど装備はラスボス用だしな」

「最初から最強装備ていうのもどうなのかな?」

「装備が悪いよりは良い方がいいんでしょうけど」


 ピコン!


 ハルト達の前に突然空中にアイコンが表示された。


「これはどうにも慣れないな」


 ハルト達の前に表示されたのはいわゆるリザルト画面である。

 リザルト画面とはゲーム等で戦闘終了後に戦闘で得た経験値やドロップアイテムを表示する画面だ。

 この世界では魔物を倒すと経験値やドロップアイテムを得ることができ、わかりやすくそれが表示されるのである。


「え? どうしてかな? 便利だよ?」


 確かに菜奈の言う通り便利である。ファンタジーな小説の中には魔物と戦闘した後に魔物を解体しなければ素材を手に入れられないものもあり、生物の解体などしたこともないハルト達にはキツい。その点この世界は倒した魔物は一定時間経つと消えて勝手に素材はストレージに移動するので楽だ。


 ちなみに経験値はダメージを多く与えた者に多く入り、ドロップアイテムは運だが止めを差した者に確率ボーナスが与えられる。


「便利過ぎる、これじゃあゲーム感覚になるのもわかるな」


 魔物を倒せば勝手に素材になり、経験値が入り、レベルが上がる。ゲームのような世界に現実感が薄れた一部の生徒はゲーム感覚で魔物を倒していた。並外れたステータスと伝説級の装備によってそれが可能になっていた。


「まあ、わかんねえわけじゃねーがな」


 離れて戦っていた前衛の二人も集まって来た。


「こんな簡単に魔物に勝てるんだ。勘違いする奴もでて来んだろ」

「それにこれじゃいざ強敵と戦う時にろくに戦えなくなるな」


 どうやら二人は問題点に気づいているらしく苦い顔をしている。


「まあこの森は駆け出しの冒険者が来るようなとこだしな。騎士団の人達も最初は簡単な場所を選んでくれたんだろう。本格的な実戦は次のダンジョンに期待だな」


 ハルト達は三日後にダンジョンに挑戦することになっていた。


「それまでに連携を強化しておこう。じゃあ、次に行こう!!」


 ハルトのパーティーは次の獲物を探して移動を始めた。


 三日後のダンジョンで懸念が的中するとは誰も思ってもいなかった。



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