推定年下のお姉ちゃん
「ナオはこれからどうする?私はとりあえず教会にツリー申請しに行くけど。」
「ツリー・・・?」
「うん。ツリーだよ?」
街に入ろうとした頃、ノエラに尋ねられた。
不思議そうに言われても・・・ツリーって全くわからないぞ。この世界では常識っぽいことだけはわかるが。
どうしよう、訊きたいけど深く尋ねたらなんか不審に思われないだろうか。
いや不審に思われるよりも、まずこの世界のことを知るべきなんだが。ナチュラルに聞き出せるような会話のテクニックもないし。
ここは素直に行くべきなのだろうか。いやというか変に捻くれる必要もないのだ。恥は掻き捨て知らなくて当然なのだ、困ったら聞こう。
「あの・・・ツリーってなに・・・?」
「ツリーはツリーだけど・・・ナオって意外とそういう冗談言うんだね。」
何か凄く困った感じで受け止められた。冗談じゃないのに・・・。
なんだか中学時代テストで答えがわからない欄にネタ回答をしたら、菅沼もこういうの書くのか・・・と
ちょっと科目の教師に困惑されつつ、答案を渡されたのを思い出す。くそう胃が痛いぞ。
しかし逆に言えばツリーというのは知らないとそういう反応をされるレベルの常識なのだろう、現物を知っておくべきではないのか。
「ずっと家で外に出ること無くて・・・・えっと・・・一緒に行っていいかな?」
嘘は言ってない、教会も行ったことないし。親戚の結婚式ですら引きこもってたのに。
「ああ・・・そうなんだ!じゃあ一緒に行っちゃおっか!」
なんか察したような雰囲気を出されたが、一緒に来ると言われてちょっと嬉しそうだ。
ちょっとかわいい。いや結構かわいいぞ。そんなことを考えているとノエラがちょっとこちらをじーっと見て、
「お姉ちゃんに任せなさい!」
なんかちょっと張り切って言ってきた。いつの間にか妹扱いされているんだが。いや確かにこの身体かなり身長低いけどさ。
胸大きいのはいいのか。というかわからないけど実年齢なら多分自分と年齢変わらないか、自分のが年上なんじゃ・・・ノエラこそ19歳に見えないし。
しかしここは黙っておいたほうが親切にしてくれそうなので、あえて言わないでおくことにした。
――――
ノエラ曰くツリーとは、天より与えられし人間そのものの樹にして、天分である技能を枝状に何とかかんとか、と宗教的な教義を含んだ大層なものらしい。
そんな説明をされたが、どうやら平たく言えばゲームのスキルツリーみたいな感じらしい。枝状になったシートでスキルを順に振っていくものであるとか。
教会ではスキルジェムという現在の状態やレベルの上昇を記した小さな玉の取得、更新ができる。握って念じることで中身が見れるらしい。
この玉で取得するスキルを自分で振り、教会にジェムを提出して申請、受理されるとスキルが獲得できる。
ちなみに観るのは無料、スキル振りは自分でしかできないが、他人のスキルポイントもスキルを振った玉さえあればツリー上のスキルの取得を申請できるそうだ。
教会はこの通称ツリー申請の時にお金を取るらしい。いよいよ異世界転生モノみたいな世界である。
まあレベル上がってないのにお金だけ取られても勿体無い感はあるし、何より一文無しだが現状を確認したい自分には都合がいい限りである。
いや言葉が通じたり、親切な女の子に拾って貰えたり今まででも都合がよすぎるのだが。
ツリーについての話を聴きながら、ノエラに貰った、縁日のケバブサンドのようなものを食べていた。この食べ物はチェペとか言うらしい。
美味しいのだが辛くて舌がヒリヒリする。うーん前は飯炊きババア(母親)にデスソース(とっても辛いやつ)のストックは切らさせないよう厳命するほどだったのに。
身体が変わったせいなのか、本当に辛くてちょっと涙が出そうだ。いやちょっと出てるぞこれ。
微妙な部分で喪失感を感じ、悲しくなってる自分がちまちま食べる横で、ノエラは既に2つ目を頬張っていた。
自分も食欲はあるのだが、口が小さいせいか一度に頬張れないのがもどかしい。
教会は町の入り口からわりと近くにあったが、自分たちと同じ目的なのか列が続いている。
どうやらまだまだ待たされそうな雰囲気だ。慣れない靴のヒールのせいで、正直立っているのもいつもより疲れる。
というかノエラは今も喋り続けてるのに、疲れないのだろうか。凄いものだ。