イクスクリート・イン・フィールド
「ついたよー!ここがクロニタ・・・大丈夫?なんかさっきよりも調子悪そうだけど?」
褐色の少女に声を掛けられて気づけば、石造りの高い壁が目の前にあった。全身を何時間揺られ続けたのかわからない。
移転した場所からは見えなかったが、ここがクロニタという街なのか。結構な距離を走ったのかも乗っていたのかもしれない。
「・・・大丈夫。」
「よかったよかったー。このあたりだと見ない雰囲気の人だよね。もしかしてドラコヴォも慣れてなかった?」
「・・・うん。」
死ぬかと思った。いや砂漠で取り残されても死んでたかもしれないけれど。あの上下運動のせいで未だに頭がぐるぐるする。
吐きそうだ。吐いたら、ゲーム内で毎日受けられる金策クエスト14年分に相当する、この全コスチュームで2番目くらいの相場の服が台無しになってしまうが。
でも今は砂漠でこの子を見掛けた時よりも、救われた気持ちになっているかもしれない。心からそう思った。
「ていうかちゃんと喋れるんだね。」
「・・・うん」
自分もこの子にちょっとだけ慣れたのかもしれない。
「怖がられてるのかと思っちゃった。ちょっと笑ってるみたいでよかったな。」
欠片も悪意なんかこもってないのだろうが、なぜか胸が苦くなる台詞だった。
なんだろう。この子がすごくいい子なのはわかっているし、そうじゃなきゃ多分自分もそんなに喋れなかったと思う。
それでも中学のまだ学校に通っていた頃、全然喋らなかった自分が笑ったりすると、菅沼が笑った!とか言われるの。
すげえ馬鹿にしてくるの。俺は笑うのすら許されないのか。そんな暗い記憶が心の卑屈のギアを1段階上げた。
・・・いや異世界へ来たのである。鏡はまだ見てないけどきっと巨乳ロリでアニメ声の美少女なのである
いかにもオタクの性欲が詰まったような象徴的な人間のはずなのだ。自分の性癖だなうん。
とにかく私はかわいい女の子っ。話しかけただけで変な顔されたり、菅沼と喋ってんぞとか言われるようなこともないであるわよ。やばい泣けそうわよ。
とにかくネガティブモードに入った思考を振り払うかのように、ちょっと自分を無理矢理ヤケにして褐色の子に自分から話しかける。
「・・・あの、名前っ。」
「私?ソラノム・ノエラだよー。あ、名前でわかるかもだけどソラノメ族ね。」
「・・・のえら、そらのむ?」
「ノエラでいいよー。ていうかあなたは?」
ソラノメ族とやらは知らないが、名字がソラノムさんなのか。名前どうしよう菅沼直樹でいいのかな。
「スガヌマ、ナオ・・・。」
「ナオちゃんかー。よろしくねー!」
最後を言い淀んでいたら勝手に解釈してもらえた。おまけに無理矢理こっちの手を握って握手までしてくる。
「・・・よろしく。」
ちょっと照れた感じになったしまった。母親(飯炊きババア)以外に他人からなおちゃんと呼ばれたのは多分初めてだ。
すごくくすぐったい。自分も誰かを名前で呼ぶのはすごく久しぶりなような気がする。すごい、今なんかコミュニケーションしてる!
「あの・・・。」
「なになに。」
なんだかノエラが相手だと話せるような気がする。
運良く見つかった相手なのだ、ここでこの世界の情報を聞き出しておかないといつ後で聞けるかわからない。
なんて聞けばいいのだろう。そもそもまず何から聞くべきなのか。とりあえず生理的に必要なことからだな。それは身体が教えてくれていた。
「トイレってどう・・・。」
ちなみに大きい方だ。
「あー・・・ずっとドラコヴォだったもんね。あっ、あそこにあるよ!」
大きな岩を指刺しながら言った。いやまさかそんな。温水洗浄便座がないと俺無理なのに。
水系の魔法でなんとかならないだろうか・・・。それ以前に引きこもり脱出してすぐ野グソってあまりに開けすぎてないか。
ていうか大きい方はいいとして、小さい方はどうすればいいんだ。いや本当に。何も言えず突っ立っていると、
「あ、大きい方かな?はい、どうぞ。」
笑顔で小石を渡された。気遣いは嬉しいが・・・まさか、これで拭くのか?
――――
「・・・ふぅ」
パンツを脱ぎ、ヒラヒラばかりのスカートを持ち上げ排泄できた。小さい方はしてないがする時どうしよう。
ちなみにお尻は水魔法をちゃんと調整できる気がしなかったので結局石で拭いた。砂漠でうんちするとすぐ乾くんですね。
ちょっと水っぽい便だったのに砂の下へと水分はすぐ吸われていって驚いた。
回りにカラカラになった黒い塊がいくつかあるが、きっとこれはそういうことだろう。しかし全く臭いはしなかった。砂漠すごい。
岩陰に隠れて屈んだまま思考を整理する。前の世界でもそういえば考えをまとめる時はトイレに篭ってたな。
自分はこれからどうするべきなのか。知るべき情報は2つに分かれるはずだ。
まずはこの世界についての情報、そして自分が何をできるかということの確認だ。
我を知り、己を知れば百戦危うからずという奴だ。お尻は丸出しだが。
それはともかく、この2つこそが衣食住の確保に繋がる。自分の魔法やスキルを利用して何か収入に結び付けなければならない。
しかしそう都合よく行くものだろうか。そもそも自分で何か売り込めるようなコミュニケーション力があれば、引きこもってないのではないか。
そう考えているとこちらへ近づく気配がする。
「ナオー!大丈夫ー?」
ノエラが心配してか声を掛けてきた。
「・・・うん、大丈夫。」
ぼそっと返事をする。そうだな、とりあえず街を歩きながら話を聞いていこう。
俺はずり降ろしたくまさんパンツ(下着系で一番高い、デイリー金策クエスト4年半毎日こなして買えるくらいのゲーム内相場)を上げながら、立ち上がった。
サブタイトルは野グソを英語風にしてみました