さまよえる異世界人 2
転ぶくらいにおっぱいが重い。いやおっぱいが重いのはそうなのだが、それだけでもないように思える。
体の重心が変わったせいで、歩くのにバランスが取りにくいのだ。なんだろうせっかく女体化したら捕まっていたずらされたいのだが。
男の頃みたいな力が出なくて相手に抵抗できないみたいなシチュエーションがいいのだが。
こういう砂漠みたいなただでさえ足回りが悪い場所で、歩きにくくなるとかそういうタイプのハンデは求めていないのである。
単純に疲れるだけであって、興奮する要素でもない。
とは言いつつもとぼとぼと歩いて行く。
アイスースVの冷気のフィールドが寒すぎるのは、補助魔法のエレメントカットIIIを掛けることで、我慢できるほどには解決したがやはり道は辛い。
こういう時こそ召喚獣が呼べれば、空こそ飛べないものの移動には使えるだろうに。
クラスチェンジはTSO2だとカウンターまで行かないと出来なかったのだが、こちらではどうか。
試してみる・・・と言っても何をどう試せばいいのだろうか。わからない。わからないが、何かやってみるしかない。
というか閻魔とか言う奴が説明不足で不親切すぎるのだ。今度あったらこの魔法の力でシメてやれないものか。
「ク、クラスチェンジ・・・!」
とりあえず叫んでみたが、声が虚しく響くだけだった。
やはりゲーム内でどこか施設だったりが必要なものは、自分だけではできないのだろうか?
そもそもこの世界にクラスチェンジできるような施設はあるのだろうか?全く謎だ。
とにかく歩いていて思うが、空腹になったらどうすればいいのか。
というか街についたところで、言語が通じるのかどうか、そもそも他人にコミュニケーションを取れるのかどうか。
この体は1歩が小さいくせに、靴もヒールがあってやけに歩きづらい。
靴を脱いでもいいがそれはそれで足が冷たくなる。かといってアイスースを解除するわけにもいかない。
考えながら気だるげに歩いていると、正面の影が徐々に大きくなっていることに気付く。
これは・・・向こうから近づいてきているのか?そう考えてアイスースを解除する。
「おー・・・・い・・っ」
大声で叫ぼうとしたのだが、叫ぶ感覚を忘れているのか疲労のせいなのかロクな声量が出なかった。
体が変わってそれに慣れていないせいもあるのかもしれない。いやそもそも自分なんかを助けてくれるのだろうか。
無視されたりしないだろうか。このような時まで卑屈な考えに襲われるのは、今までの人生のせいだろう。
少し惨めな気持ちになりながら、また叫んでも無駄じゃないかと悩んでいると、いつの間にか大きくなった影に声を掛けられた。
「おーい!」
人だ。掛け声だけだからわからないが、もしかするとこの世界で言語は通じるんじゃないか。
というかコミュニケーションを取れる相手がこの世界にいるということが、コミュ障の自分でも安心できた。
ああ、俺は一人じゃない。孤独じゃないんだ。僕たちは分かり合えるんだ!ああ!なんだろう涙が出そうだ。
目頭が暑くなるのを感じながら、こちらへ迫る影へと手を振り返す。
近づいてきた褐色の少女は馬とも鳥とも言いがたい奇妙な生物に乗っていた。
なんとかファンタジーの乗り物の鳥に似ているが、どことなくドラゴンのような雰囲気もある。
奇妙な生物は、砂漠の砂地も平たい足で跳ねながら疾走していく。まさにそれはエジプト神話の太陽の女神かに見えた。
救いの手を差し伸べる、慈悲深き存在――――のはずの少女は手を振りながら自分の横を通り過ぎた。えっ。
「・・・あ・・・のっ・・・!」
必死の思いで呼び止めようとするが、喉からは細く小さな音が出るだけだった。
笑顔で手を振っていた少女はそのまま反対を向き走り去っていく。待って君は最初に出会う異世界人のヒロインとかじゃないの!?
ヒロインも何も自分みたいな人間誰も好きになんかならないか。いや違うそういう卑屈モードじゃなくて助けて貰わないと。
待ってねえ待って!?
「あのっ!」
今度こそ大声が出た、自分でも驚いてしまったが。
「・・・はーい!」
ようやく聞こえたみたいだよかった。奇妙な生物ごと反転して褐色で白髪の少女が戻ってくる。
そのまま奇妙な生物から飛び降りて、不思議そうにこちらへとやってきた。
「どうしたのー?」
「・・・あ・・あの」
近い、近すぎる。こんなに人と近づかれたのは久しぶりだし、何よりも今の自分より身体もかなり大きい。
というか自分が小さすぎるのだろうが、人懐こそうな雰囲気のはずなのに、身長差のせいなのか威圧感を感じてしまう。
何を聞けばいいのかすら自分の中でよくわからなくなって言葉にもがいていると。
「・・・迷ったの?このあたりだと見ないよね?」
褐色の少女の方から話を振られた。ああなにか答えないと、いやどう答えるべきなのか。
異世界で転生とか言ってもただの変な子じゃないか?いやでも迷ったと言ってもそもそも家もないし。
何答えればいいんだわからない。もっとコミュ力というかこういう場で喋れる能力が欲しかった。そう思いつつ答えることができず焦っていると。
「もしかして気分悪い?」
「(・・・コクコク)」
助かった。とにかくこのまま村か街みたいなところまで連れて行ってもらおう
「とりあえず乗って。ドラゴヴォが跳ねるからしんどいかもしれないけど」
手を引いて奇妙な生物の背中まで自分を乗せてくれた。優しさに感動する。
人は案外他人に優しいのかもしれない、引きこもっていたせいか本当にそれが染み渡る。ありがとう優しい少女よ。
「とりあえずクロニタでいいかな?これから私も行く用事あったし」
「(・・・コクコク)」
「じゃあとりあえずいこー!」
異世界へいきなり来てよくわからなかったが、なんとかなるのかもしれない。