御曹司・月下アキラ① メイドになりました
母は典光寺家という財閥お嬢様、父はその執事だった。
祖父に結婚を反対され両親は駆け落ちし、その後両親は詐欺にあってリストラされ借金を抱えてたが頼るところがない。
とうとう私をおいて夜逃げしてしまった。
家賃も払えないので引き払って実質ホームレスである。
孫の私だけでも典光寺に助けてもらおうとでも考えたのだろう。
けれど、私は頼るなんてしたくない。
たとえ一度も会っていなくても家族に違いない相手に、金銭面で助けを求めるのは違う。
これは自分勝手な意地だとわかっている。
学生の私に大金が稼げるはずもない。だけど、私は最後まであがいてみる。
「なにかいいバイトない?」
友人に頼りなるべく早く貯まる仕事を紹介してもらうと、意外とあっさり見つかった。
月下コンツェルンの一人息子が住むという屋敷。
学生の私は朝から夕方まで働けないが、そこはちょうど夜勤で働いた分だけその場で貰えるという内容。
とても向いている条件だった。
「でっかいおやしきー」
想像以上に豪華な屋敷のたたずまいに、いかにも自分は頭が悪いと主張したかのような独り言が出てしまう。
最近越して来たお金持ちのお屋敷で掃除や簡単な料理をすることだった。
住み込みでメイドさんをやるだけでいいだなんて、とても幸運だろう。
これから起きる苦労を私は知らなかった。
「へぇ…君が新しいメイドかぁ…」
「せいいっぱいご奉仕しますアキラお坊っちゃま!」
私なにかまずいことでもしたのかな。
おぼっちゃまに歓迎されてはいないみたい。
「お坊っちゃまはないでしょ」
たしかに、成人男性には似合わない呼び方だ。
でも名前知らないし。
「…ったく、父さんは何を考えているんだか、君にはわかる?」
どうしてそんなことを聞くのか、わからないけど答えよう。
「どうお金を増やすか…ですかね?」
「ああ、それは的を射ている答えだ。気に入ったよ」
そうは見えないけど、ここは笑おう。
普通にしていればクビにはされないはずだ。
「あれ、この写真」
なんだか私の母親に似ている女性が生まれたばかりの赤子を抱いて微笑んでいる白黒写真。
もしかしたら知り合いなのかとも思ったが、白黒なので母と私では絶対にないのだ。
「どうかした?」
「いえ、この女性が私の母に似ていたので……」
「それはすごい偶然だね」
大して話が弾むわけでもない。私は黙々と掃除を開始する。