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「――あそこの穴が塞がってたから、目印がなくて道に迷ったのよ」
「エーコさんが先頭を歩くから迷ったんだよ」
塔の狭い入り口から、後ろを歩くシロクとなにか話しながら出てくるエーコの姿が見えた。
その二人が普通に歩いているのを見て、無事だったんだと安堵していると、
「セレナもそう思うよね?」
シロクが後ろに問いかけると、疲れた顔をしたセレナがフードを被らずに笑っていた。
「二人とも、途中で迷っていたじゃないですか」
「エーコさんほどじゃないよ」
エーコ、むっとするが、
「シロクくんはあそこの倉庫から塔までたどり着くのに何十分もかかってるじゃないですか。私からすれば、二人とも同じぐらいに酷い方向音痴ですよ」
シロクとエーコは互いに見つめあって頷いた。
「いつか勝負だ」
二人が声を揃えて、どちらが方向音痴かを競うことを決めた。
「あの、それに私を巻き込まないでくださいね……」
三叉路があれば、確実に二人は間違った道を選ぶ――セレナはそう判断して、思わず笑ってしまった。
「あ、またセレナが笑った」
シロクがそう指摘すると、セレナは恥ずかしがってフードを引っ張ってきて、顔を隠してしまった。
「もう、シロクくん、女の子をイジメちゃダメよ」
「ん~?」
首を傾げるシロクには、よくわかっていなかったが、セレナの背後にグルリポを見つけた。
「シロク、やったな」
「うん。塔治者をやっつけて、次の塔に入るための宝石も台座に掲げてきた!」
左手の甲を突き出して見せるが、宝石がないためそれが目に見えることはない。
「お前ならやると思っていたよ」
「特別なライスタワーを作ってもらいにいかなきゃ!」
「あのオヤジと約束してたのか……」
塔破者の間では、そこそこ有名なライスタワーの店。
一般人には売れないため、毎日店が開いているわけではないので、なかなかタイミングよく赴くことができない。
「あ、そうだ。ライスタワー、私が預かってたんだ……」
セレナは襷がけにしていた魔法のバッグの中に手を突っ込めば、目に見えず、バッグが膨らむことはないのに、塔治者の素材などがたくさん入っていると思うと、嬉しくなってきた。
(このバッグには色々とお世話になったなぁ……)
顔も知らない、死んだと教えられた父親が、魔法銃と一緒に遺した物。
考えなかったわけではないが、父は塔破者だったのではないだろうか。
しかしセレナの育った魂脈を採掘するような環境では、魔法のバッグがあればたくさんの魂脈を簡単に運ぶことができるし、小銭にしかならないようなモンスターの素材や小さな魂脈を拾い集めて、魔法銃の弾として使って、頑強な岩などを破砕して採掘していた可能性も捨てきれない。
母はなにも教えてくれなかったし、塔破者として踏み出している今、どんな顔をして戻ればいいのかもわからない。
「ところでグルリポ」
今の今まで笑顔で話していたシロクは、再びグルリポを呼び捨てにして険しい顔で睨む。
「ああ、セレナのことだろう? さっきギルドは解散した」
よっ、と声をかけて剣を地面に突き立てたまま、グルリポが寄ってくる。
セレナは無防備なグルリポを前にして、いつもの怯えた様子ではなく、フードを被ったままだが、正面に立った。
「セレナ、すまなかった。謝って許してもらえるとは思っていない」
『新米勇者候補決定戦』でカモにするために優勝させたことも、
ギルドに入るように初めての塔に同行したのも、
ノルマが厳しいギルドで回収率がいいからと酷使させたことも、
それ以外にもずっと酷いことをしてきた。
「いいえ、もういいです」
面と向かって謝ることができないグルリポ。
俯いていたセレナだけでなく、グルリポまで苦虫を噛み潰したような険しい顔をして俯いて、言葉を吐き出していた。




