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塔の外では国防軍の面々が塔の動きが止まったのを確認してから慌ただしく動き出した。
「盾持ちの兵は周囲の安全確保を! 修復士は直ちに塔の修復を!」
隊長の指示で各々の仕事に散っていく兵たちの後ろからは、遅れてやってきた国の内側の塔を攻略している塔破者たち。彼らはお零れを目当てに寄ってきているが、塔の静止と軍の動きの早さに、お零れは期待できないと察して戻って行った。
「今回は塔治者の討伐が早かったから、迅速な修復ができているが……」
リーヴ・リリースを起こすほどの塔治者を、国防軍が到着してすぐに倒してしまえる実力を持っている塔破者がたまたまいたのだろうか。
国防軍に籍を置く身としては誰が倒そうが関係のないことだが、ここまで手際がいいのは珍しいため、新米の多い国防軍に余計な被害が出ないことに、多少感謝している。
(とはいえ、修復士は例外として実践を積まない限り、盾持ちを務める連中はいつまで経っても新米のままだ)
「グルリポ……だったよな? 確かお前の名前」
隣で塔の入り口を見て黙っていたグルリポに、壁を修復する修復士を見守っていた隊長が背中を向けたまま話しかける。
「そうだが」
グルリポは瓦礫に腰かけて、ドドンメとの戦闘やギルドメンバーたちとの別れを惜しむかのようにシロクの帰還を待っていた。
「塔を攻略したのが誰か知っているか? いや、別に変な詮索ではない。お前のしてきたことは知っているが、我々は塔破者に対する罪を問い詰めることはできない」
塔破者は国の援助や補助を普通に生活している人たちとは違った扱いがされる。
それは武器を持つことを許されていることや、銀行でローンを組めなかったりと、プラスもマイナスも、どちらもある。
その一端として、塔破者が塔破者になにかをしようとも、塔の外での殺人以外は罪に問えず、塔内部のことは誰にも確認できない。
法治外エリアなのだ。
「だが、このドドンメは別だ。塔破者ではないのに、武器を持っている」
倒れているドドンメを見下ろして隊長が言う。
「無駄だ」
「庇うのか?」
「いいや。そんな義理はない。だが、確かに武器を携帯しているが、リーヴ・リリースという非常事態の時は、その法も適用外のはずだ。住民の安全を第一に考えるためな」
ドドンメのずる賢いところは、しっかりとモンスターが塔の外に出てから武器を酒場から持ち出しているところだ。
「……しかし、このドドンメは色々な嫌疑をかけられている」
「それも無駄だ。ドドンメは逮捕されない」
その理由をグルリポは知っている。
ドドンメは元々は外周区にいくつかある、陽が当たらず人の寄り付かない裏町のチンピラのボスだった。
盗みや暴力は日常茶飯事だったし、裏町で一番有名な、手をつけられないチンピラとして名を馳せていたが、ある時からその悪行の報告が消えた。
「グルリポ、お前がギルドを提案したおかげでな」
商店や弱い女子供が狙われるようなことがなくなり、そういう被害が激減した。
隊長は知らないことだが、グルリポと手を組んだドドンメは『新米勇者候補決定戦』を、開きたい時に開けるように、内通者にワイロを渡して、それを操作した。
それからはセレナのような単身では戦う力を持たない子供を優勝させて塔破者にし、グルリポと接触をさせてギルドに加入させて、ノルマという形で金を集めさせる。
「だが、我々が塔破者に関与できないのを逆手にとって、子供たちをどんどんギルドに入れていったな」
「だから事前に十五歳以下は参加不可のルールを作れと担当者に言ってやった」
それ以前にいた子供の塔破者も、すっかりその年齢を超えているため、この国ではシロクが正真正銘最年少だ。
「いつか、お前たちに罰が下るぞ」
グルリポ自身、そうなることをどこかで望んでいる節がある。
シロクを見て、シロクといるセレナを見て、取り返しのつかないことをしてしまったんだ、という懺悔の気持ちが消えない。
子供たちに闇討ちでもされるかもしれないが、お互いが塔破者であれば、法が守ってくれる。例え、グルリポの身になにかが起こったとしても。
(だから俺は塔破者をやめられない)
自分の諦めた夢をまた追いかけることも、許されるのであれば――。




