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 国防軍は過去のリーヴ・リリースの話を改めて知り、そうならないことを願いながら、自ずと歩調が速くなっていく。



「あそこだ。すぐに状況の確認と修復士は修復の準備を!」



 隊長の命令に、盾持ちの兵士が陣形を広げるようにして輪を広げてモンスターに警戒しつつ、問題の穴に近づこうとする。



「グルリポ!」



 地獄の底から叫ぶような怒鳴り声が、兵士たちの身を竦めさせる。



「俺は塔破者だ!」



 グルリポが叫び、長剣で逆袈裟に切り上げる。


 ドドンメが剣を受け止めようと構えた隙をつく、必殺の一撃が見事にドドンメの巨体を捉える。



「ぐぅあああぁっ――」



 寸前でドドンメが上体を逸らしたことで、必殺は回避したがバランスを崩したドドンメは仰向けにひっくり返り、切り口から鮮血を散らして、動かなくなった。



「はあ、はあ……」



 呼吸を整え、額の汗を拭うと正面からは国防軍、背後の塔の入り口からはギルドの仲間たちが出てきたところだ。



「これはどういうことだ」

「リーヴ・リリースを先導しようとしていた犯人を止めた」

「そうか……」



 隊長はそれ以上のことは問わず、状況の確認を第一に考えた。



「そこの塔から出てきたお前たち。塔治者はどうなったか知っているか?」

「……シロクとかいうガキが一人で立ち向かっていった。生きてるかどうかは――」



 不満そうに国防軍の隊長の問いに答えていると、塔に異変が起こった。



「塔の動きが止まった……」



 誰もがその言葉を疑いながら、塔を無言で凝視する。


 数分にも感じる数秒間、静寂の中、誰もが瞬きを忘れて塔を見上げていると、普段は気にも留めない、微妙な左右や前後への動きが完全に止まっているのが確認できた。



「塔治者は倒された! すぐに塔の修復を始めろ! 手の空いているものは、塔の外に出たモンスターの確認を頼む。討ち漏らしがあれば討ち、討伐済みのモンスターがいれば死骸の確認をしろ」



 塔の中でモンスターを殺せば魂脈と素材になるが、塔の外で倒されたモンスターは消滅しないため、皮や肉は人間の生活の助けにるので、なんとしても国で確保したいのが本音だ。


 そのためモンスターを引き渡さないと言えば、いくらかの金で交渉をせざるを得ないため、少しでも面倒を減らすためには、早急に回収する必要がある。



「そうか、やったか……」



 グルリポは剣を杖替わりにして、膝をつき、左手の甲を見つめた。



「追いついてくるのか、シロク」



(くっそ……)



 仲間や国防軍の連中が近くにいるため、悪態を口にできないが、悔しくて仕方ない。


 なのに、嬉しくて顔がにやけてしまいそうだ。



「お前みたいに、楽しく塔破者やりてぇよ」



 どこで間違えたのか――その答えがわかるだけに、自分の歩んできた人生が憎くて堪らない。



「もっと、真面目に生きて、素直になって、努力してれば、違ったのか」

「あの、グルリポさん……。ドドンメさんは……」



 ギルドのメンバーが不安そうな顔をそのままに、グルリポを見ている。



「ドドンメは、戦う力を持たない人たちを犠牲にすることで、モンスターの退治を正当化するだけでなく、それの価値を高めようとしていたんだよ」



 ざわつく仲間たちには構わず、グルリポは自分のペースで話し続ける。



「俺たちは塔破者だ。モンスターから人々を守るのが仕事だ。俺が悪かったんだ。あんなチンピラのドドンメをギルドに誘っちまったんだからな……。すまなかった」



 グルリポはギルドの面々に向かった頭を下げた。


 それを聞き、それを見て、どうしていいものか、まだ考えがまとまらない。



「俺たちはどうすれば?」

「ギルドは解散する。確保している子供たちも自由にする」



 驚きの声は多少上がったが、頭ごなしに否定する声は上がらなかった。


 そんな反応を見て、グルリポは嬉しくなると同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



(本当は、こんなことしたくなかったんだよな、お前たちは……)



 金のためにしてきたことはどうやったって許されるべきことではない。


 そんな中で、一番苦しめ、悲しませてしまったのがセレナだろうか。


 シロクと出会って、守ってもらえる本当の仲間を見つけて、少しだけでも救われるのであればグルリポの胸の重みも多少軽くなるというものだ。



(エゴだよな……)



「俺たちは塔破者だ。ギルドがなくても、塔破者であることには変わらない! 解散!」



 群れて生きることしか知らない塔破者たちは、気の合う仲間たちとパーティーを組んでこれからも活動していくか、それとも新たなギルドを作るか、あるいは塔破者をやめてしまうか――無責任なことだが、グルリポには責任の取りようがない。


 せめて、ドドンメという恐怖の象徴から解放されてくれれば……。



「シロク、セレナ、エーコ……」



 グルリポは動きの止まった塔を見上げるしかできなかった。

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