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「やったね」



 少し離れたところでエーコとセレナはハイタッチをした。



「私のは魔法が主体だけど、アイテム合成士が魔法銃を使えば、モンスターの技もそのまま使えちゃうのね」

「……でも」

「うん、申し訳ないけどね。でも、仇を取ってあげられたんだよ」



 二人がシロクと離れた少し後、正面から引き返してくるギルドのメンバーから隠れるため、セレナとエーコは横道に入ってやり過ごした。


 そこはセレナやシロクなら問題はないが、エーコでは胸が引っかかってしまいそうな細道があったのだが、その中で偶然見つけてしまった。


 今朝、この塔に入った大規模討伐チームの男たちが、黒い糸に巻かれて死んでいる光景を――。


 最初は息を呑んで、すぐに目を逸らそうとしたが、アラクネロイトーの脚が特別な素材になったのだから、黒い糸だってなにかに使えるのではないかとセレナは、アイテム合成士の直感で判断し、少しだけ拝借した。


 それを手の中で丸めて、魔法銃に込めて発射することで想像通り、アラクネロイトー自身すら足止めさせるだけの、強力な糸の網となった。



「それにしても銃口一つで三つの弾が一度に出るだけでなく、素材の持ち主の技を使えるのは正直、すごすぎるわ」



 エーコのサンフラワーは、発射させた魂脈を無理矢理に合成させてしまうが、同じ銃口から発射されるセレナの魔法銃では魂脈だけでなく、売っても二束三文にしかならないような安値の素材が弾になる。それが強力な攻撃となるのだから、どれだけの性能を持っているのか……。



「不思議だね、その銃」

「……はい。私の、宝物です」



 エーコとセレナはシロクと合流をして、嬉しそうに素材を集めているシロクを手伝う。


 どんなに急いでいようとも、塔破者である以上、モンスターを倒せばしっかりと魂脈と素材を回収せねばならない。


 いつ迷宮が変化して消えるかわからないし、他の塔破者に奪われることだって十分にあり得る話だ。



「あ、これ宝石じゃない? 加工とか魔法には使えないし、ほとんど値段もつかないけど、一匹の塔治者から一個しか出ないやつ」



 エーコが透明な石を見つけて手の甲に近づけると、ぼんやりとなにかが浮かぶ。



「おお! 塔に入る時にやるやつだ。それ一個しか出てないけど、エーコ持ってて」

「わかった。ちゃんと預かっておくわね。これが塔破の証になるはずだから」



 エーコも初めてのことなので、詳しい情報を思い出せないでいる。



(まさか、私自身がこの場面に遭遇できるとは……ううん、それどころじゃない。私が倒す手助けをしたんだ。ただ同行していただけじゃない)



 ぐっ、と拳の中に宝石を握ると、実感が込み上げてくる。



「素材と魂脈は私の魔法のバッグで回収します。……いいですか?」



 セレナが不安そうな顔で二人に問う。


 セレナには持ち逃げという前科があるが、エーコやシロクにはこれだけの量の魂脈や素材を入れられるものを持ち合わせていない。


 だからの申し出であるが、セレナはシロクに対してギルドの理由があり、それをシロクが知ってくれているからといっても許されないことをしてきた事実は変わらない。



「うん、お願い」



 シロクがいつもの笑顔で言えば、



「私からもお願いしていいかしら?」



 エーコには頼まれる始末。



「はい……! 私が責任を持って預かりますっ!」



 セレナは涙を浮かべて、襷掛けにしたバッグを開いて、中へと落としていく。魔法のバッグは所有者でなければ、思い通りの物を引き出せない仕組みになっているため、色々な物を詰めれば詰めるほど、貴重品は盗まれにくくなる。



「セレナ、はい」



 シロクが拾い集めていた素材や魂脈をバッグの中へ落とす。



「こっちにもあるわよ。でも、ほんと。こんな散らばるんじゃ、他のモンスターでも出てきたら大変ね」



 エーコが額の汗を手の甲で拭いながら、集めた魂脈をバッグに落とす。


 アラクネロイトーからドロップしたアイテムはどれぐらいあっただろうか。


 あとで確認するのが楽しみなぐらい、大量の収穫物がセレナのバッグに消えて行く。


 魔法のバッグのため、その重みも大して変わらないし、中を覗いてもなにが入っているのか見えないが、それでも確かな重み――仲間と勝ち取った宝の重さを感じられる。



「さて、素材も集め終えたし、塔の動きを止めに行きましょうか。それをやれば外の人にも伝わるし、モンスターの動きも鈍るはず」

「どうやるの?」



 シロクが問えばセレナも同じように疑問の表情を浮かべて見つめる。



「……私も、詳しくは知らないんだけど、この宝石を最上階の天井に向けて掲げると塔の攻略が完了した、って証になるって噂で聞いたけど」

「行ってみればわかるよね」



 二階への階段はすぐ近くだが、二階には嫌な思い出があるため、エーコの足は重くなる。



「うん、行こう!」



 シロクが屈託のない笑顔でエーコの右手を取り、その顔を見上げる。



「行きましょう」



 セレナが、きゅっと唇を結び、シロクを真似てエーコの左手を取る。



「……ありがとう、二人とも」



 エーコの過去のことなど、二人は詳しく知らないはずだ。


 なのに、理由や事情を知らなくても、そうしてくれる二人の心遣いが嬉しかった。


 大切な仲間を失った、アラクネロイトーが根城としていた三階へと続く階段のある二階へと、三人はあがっていく。

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